14 試験内容
「言ってしまえば、デスゲームだ」
おっと、雲行きが怪しくなってきたぞ……。
先生は生徒たちを安心させようと画策していたみたいだが、この説明じゃもちろんクラスがざわつくだけだった。
「それって難しい、危険ってことじゃないのでしょうか先生!」
「む。いけない。失言」
言っちゃいけないものだったらしい。本音か?
「まあそうだな。変に安心させるのもよくないし、言おう。この学園通学資格維持試験は難しく、とびきり危険なモノだ。ルールを具体的に話そう」
ざわつくクラスを静止させてから、彼女が黒板に何かを書き始める。
「第四区の指定した三十キロ四方の森林を君たちには駆け回ってもらう。森の中にはそれぞれガチャガチャにあるようなカプセル……Pカプセルが無数に配置されており、中にはQRコードが入っている。」
指定された範囲内で、カプセルを集めるゲーム。それだけ聞くと至極単純だが……。
「試験当日に配る専用のスマートウォッチでQRコードを読み取ることでポイントを獲得出来る。極端な話。ゲームで勝つためには単純に、ただポイントを誰よりも多く集めればいいだけのことだ」
だが、と氷室が補足する。
まあそうだろうと思ってはいたよ。
だって試験だし。……当然、一筋縄ではいかないモノに仕上がっているはず。
「しかしこの試験の肝はそこじゃない。この試験において、参加生徒はみな三つの内一つの役職を選択してもらう。当然のことだが、三つの役職には違いがあり────」
役職の能力差で差別化を図ることによって、単純構造を複雑な仕組みに変えていく……ポイント集めの試験。中々にやりごたえがありそうだな。
氷室先生が黒板に書いた、その内容を見る。
「このようになっている」
『平凡者』────平凡者同士でのポイントの受け渡しが、それぞれ一ターンに一回ずつ可能。一ターン・二十分。
『研究者』────Pカプセルが自身の半径二十五メートル以内に入ったら、試験時に使用するスマートウォッチが振動する。一ターン・十五分・
『略奪者』────この試験において一回限り、触れた相手のポイント二分の一を自分のポイントにすることが出来る。一ターン・十五分。
「……ポイント集め。役職。更にこの試験でもう一つ大事なのが、ターン制による行動時間制限だ」
黒板に書かれた【ターン】という文字にいち早く反応し、ソワソワしている男子生徒たちを氷室先生は一瞥し、薄く笑ってから説明を再開した。
にしても、時間制限か……。これらでバランス調整をしているのだろう。
「基本的にこの試験は二十分一ターンで、合計六ターン行う」
つまりは百二十分、二時間の試験。
「平凡者は一ターンの行動出来る時間が二十分用意されており、常に試験会場内を動くことが可能だ。逆に十五分しか行動出来ない研究者・略奪者は一ターンにつき五分その場に待機することが必要になる」
補足。
「因みにだが、カプセルにはGPSが付いているため、QRコードを読み込んだ後持っていく必要はない。試験後、業者が回収するのでその場に放置で構わなからな」
「先生、聞きたいことがあるのですが……」
そこで、手を挙げた生徒が一人。
「なんだ、石山流」
「もし研究者や略奪者がその場にとどまっている必要がある五分間で動いてしまった場合、何か処罰などは存在するのでしょうか?」
「ああ、もちろん存在する」
少し考える素振りでも見せるかと思ったが、案外彼女は即答した。
「試験中は参加生徒全員に専用のスマートウォッチを着けて貰うと先程説明したが、そのスマートウォッチには位置情報を正確に測定する機能も付いている。だからどう行動したかは学校側に常に筒抜けであり、更に試験のルールに違反した時の罰則となれば、それも当然────島からの退去処分だ。また試験会場に電子機器の持ち込みは禁止だから、注意するようにな」
スマートウォッチを外してどこかに固定しておいても、肝心のスキャンさせる機会がないとポイントを得られない。だから付けておく必要がある。
「そうですか……。ありがとうございます」
「ついでに説明するが生徒が手に入れたポイントやら、生徒間での受け渡したポイントや略奪したポイントの流れについても集計しそれぞれ生徒個人のポイントの流れをまとめたプリントを、後日配布する」
なるほど。それなら、その情報を利用してまた別の勝負も出来たりしそうだ。ポイント受け渡しの総数で勝負とか、な。
「じゃあ、話を戻すが……」
僕は先生と石山流の会話を聞いて、一つ疑問が湧いた。
一ターンの行動時間制限があるのは分かった。
だが、明確に先生が説明したルール的なモノはそれぐらいしかない。
そう。……他にルールはないのだろうか。僕が抱いた疑問はソレである。
言ってしまえば、この試験は行動時間以外ナンデモアリだ。本当にそんな試験ならば、それは危険な試験なんてどころの話じゃない。
「大事なのはポイント集め。役職。ターンの行動時間を気にすることだ。試験は一週間後の木曜日。役職決めの猶予は来週月曜日だ」
「ねえ、北ちゃん」
「……なにさ?」
しっかりと先生の話を聞いていた真面目な僕に、ゆっくりと椅子を近付けてくる蒼い悪魔さん。
「北ちゃんは何の役職にするつもり?」
「どうだろうな……。それは迷っている。でもなんで、僕なんかに聞くのさ」
「いやあ先生がこの試験をデスゲームなんて比喩っていたからね。ワチは北ちゃんにアドバイスを貰おうと、ワチの役職決めの参考にしようと思ったまでダニョ、ね──さつじ」
そこで彼女の口を無理やり手で塞ぐ。
「むぐぅー」
「はあ」
このラブコメ作家め。
「じゃあ逆に聞くけど、アンタがどういうラブコメを書いているのか。僕はあまり詳しくないから教えてくれよ」
「はにゃ?」
「いやさ、僕だって仮にも作家を目指している人間だから。僕は冬樹原にアドバイスを貰おうと、僕の、えーっと、ラブコメ作りの参考にしようと思って……」
「もういいよ」
そこまで言うと、冬樹原が珍しく怒りの籠った声で、とびきりの狭間北ギャグをぴしゃりと一蹴してきやがった。
「……先にいじってきたのはそっちだろ」
しかも彼女はそっぽ向いてしまうという始末。
おい。アンタはとびきりの子供かよ。
「勘弁してくれ、……こんなフザケた展開あるかって」
気が付けば氷室先生による試験の説明は終わっており、更にもうすぐで一限目の数学が始まろうとしていた。




