4.ユニーク魔法「オート・フェイバリット」
若干の名残惜しさを感じつつも、俺はエルフの城を後にした。
「昨夜はお楽しみでしたね」
魔女のマーヤが少し拗ねたように言う。
「な、なんのことかな」
すると、メッセージウィンドウが開いた。
『マーヤとの魔法学院イベントフラグが立ちました。すべて自動進行です』
またか。
突如として出てくるこのメッセージウィンドウにも、慣れたものだった。
人間、脅威を感じないモノってすぐに慣れるもんなんだな、なんて。
「勇者様、魔法学院にご招待いたします。勇者様にしか扱えないユニーク魔法がそこにあるのです」
「ほう、ユニークとな」
すべて自動で進行するのにユニーク魔法が必要か否かはこの際置いておく。
たとえ必要がなかったとしても、ユニーク魔法なるものが使えたら、きっと楽しいだろうからだ。
どんな魔法かなぁ、ワクワク。
そんなことを思いつつ、マーヤに連れられるままについていく。
「勇者様、緊張なさらず。学院は、私にとって大切な場所ですから……今日は特別に、案内させていただきます」
魔法学園の門をくぐると、そこには壮麗な魔法塔が並び、空にゆらめく魔法陣や、宙を舞う本たちが幻想的な景色を描き出していた。
学生たちは個性的なローブに身を包み、俺たちに気づくと次々に頭を下げてくれる。
「ここが王立魔法学園……すごいな。本当に空飛ぶ本まである……」
「ふふ、学院の自慢です。さて、まずは勇者様専用の試験の間へまいりましょう」
マーヤに導かれ、学院奥の高塔へと案内される。
薄暗い石畳の階段を上ると、天井の高い広間へと出た。
中央には魔法陣、その周囲にレアな魔導具や大きなクリスタルが並ぶ。
「ここがユニーク魔法の選別の間です。勇者様、こちらにお立ちください」
マーヤの手で中央の魔法陣に立たされると、急にあたりに優しい光が満ちていく。
その光が俺の体を包みこんでいく。
『勇者ユウキ固有魔法 適合判定中――』
メッセージウィンドウがババッと現れ、虹色のエフェクトが舞う。
「この空間と勇者様の魂が共鳴すれば、未知の魔法が選ばれるのです。どんな魔法が現れるのか、私も楽しみで……えっ!?」
突如、床の魔法陣が色を変え、光が俺の手に集まっていく。
その瞬間、俺の手のひらに、不思議な輝きを持つ魔法書が現れた。
『固有魔法【オート・フェイバリット】取得!
内容:すべての魔法がユーザーにとって最適な形で自動発動する』
またしても自動かよ――そんなツッコミは決して口にしない。
費用対効果を重視する現代の社畜にとって、何もせずに成果を出すこと、それ即ち正義なのである。
「おめでとうございます、勇者様。ユニーク魔法……それはどんな困難も、“あなたのためだけ”に力を貸してくれる特別なもの。その使い方、私がきっちり、ご指導しますから……ね?」
マーヤがそっと俺の手を取ってきた。
ほんのりとした指先の温もりと、魔法の光が重なる。
(女を俺に惚れさせる魔法なんてのも、発動できるのかな?)
そんな俗物的な思考が、頭の片隅をよぎった。
『すべてお任せください。
マーヤは既に勇者ユウキ様に惚れております。
もしも”それ以上”をお望みであれば、何なりとお申し付けください』
(それ以上……⁉ い、いや、やめておこう。どことなく犯罪チックな香りがするからな……)
こうして、俺はユニーク魔法「オート・フェイバリット」を習得したのだった。
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