1.チュートリアル
目覚まし時計の喧しい音が、俺――佐藤祐樹の意識を叩き起こす。
(また今日も会議か。誰か全自動で俺の代わりに全て上手くやってくれるロボットを作ってくれないもんかな……)
朝食は食べずにスーツに袖を通す。
毎日のルーティーン。満員電車に揺られることも織り込み済みだ。
ブラック企業の営業部で働く俺の一日は、朝から晩までスケジュールでぎっしりだった。
メール、電話、裁判沙汰一歩手前のクレーム対応……。もう何週間、ちゃんと寝ていない。
今日も同じ、はずだった。
デスクで資料をまとめていた俺の手が、ふと止まる。
気付けば目の前がまっ白になり――
「……ここは?」
気がつくと、俺は見知らぬ草原の上に寝転がっていた。
澄み切った青空、なびく風、そして遠くに見える中世ヨーロッパ風の城。
(おいおい、まさかこれ……)
流行りの異世界転生ってやつか?
そこに、ローブ姿の美少女が駆け寄ってきた。
「あなたが、伝説の勇者様ですか!?」
「え、いや俺、ただの社畜なんだけ……」
「だいじょうぶです! これからはすべて我々がお世話いたします!」
……気づけば、銀髪エルフ、活発な猫耳少女、ローブ姿の魔女。
一人また一人と個性的な美少女たちが周りに集い始める。
「……いや、あの、ちょっと待ってくれる?」
俺は思わず、周囲の美少女たちに向かって手を挙げた。
――こういう状況、小説やアニメじゃ何度も見たけど、いざ自分が当事者になると頭の中がまっしろになるもんなんだな。
「勇者様、ご気分が優れないのですか?」
銀髪エルフが心配そうに覗き込む。その美しい翡翠色の瞳にドキリとしたが、そうじゃない。
「いや、そうじゃなくて……俺が勇者って言われても、ここがどこかもわからないんだが。そもそも、俺って本当に勇者?」
「うん! ここは『アストリア王国』、長らく魔王軍の脅威に晒されてるの!」
張り切って説明するのは、猫耳と尻尾が自慢の少女。
俺のそばにぴょんと飛び上がるなり、元気いっぱいに続けた。
「そしてあなたが、伝説の勇者! 魔王軍を撃ち滅ぼす、運命の人なんだよ!」
「運命、ってそんな……」
その時、不意に頭の中にメッセージウィンドウのようなものが表示された。
『勇者ユウキ様 本日のお勤め予定:
09:00 エルフ族姫君の謁見
10:00 魔法学園校長との面談
11:00 獣人族代表との交流会
12:00 ハーレム候補全員集会
……
あなたのお望みをすべて自動でかなえます。※お昼寝推奨』
「……な、なんだこれ?」
読み進めるうちに、気づく。どうやらこの異世界、俺が懇願し続けた「全部自動的にうまくいく生活」を本気で用意してくれているらしい。
「勇者様、今後はすべて我々がサポートします。勇者様はのんびり過ごしていてくだされば!」
魔女は、RPGに登場していたら最終ステージ付近でしか手に入らなそうな杖を自慢げに振りかざした。
「お風呂もマッサージも、食事も、全部私たちが……」
エルフはミニスカートの太ももから色気を漂わせながら、更には裾から谷間の覗く胸を強調してみせた。
「今日のお昼寝場所はどこがいい?」
俺と目が合うと、猫耳少女の顔がぱっと顔を輝いた。
……まじか。
夢じゃないよね。
夢オチとか、やめてくれよな。絶対だぞ。
(続く)
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