ホシガメのスープ
「ホシガメのスープのゲームしよう。」
「何それ? ウミガメのスープ? 大昔の遊びだよね、それ。」
「違う。ホシガメのスープ。行くよ。
ある男が、とあるレストランで、ホシガメのスープを食べた。
『これは本当にホシガメのスープか?』と確認した後、男は自殺した。
なぜでしょう?
私に好きなだけ質問していいよ。その代わり、『はい』か『いいえ』で答えれる質問だけね。」
「やっぱりウミガメのスープそのままじゃん!
それ答え知ってるよ。
男は昔、海で遭難した。仲間が、死んだ他の仲間の肉を、ウミガメのスープだと嘘ついて食べさせてくれた。それで生き延びた。けど、本当のウミガメのスープを食べた時に味が違ったので、あれは仲間の肉だったと気づいてしまった。罪の意識から、男は自殺した。
でしょ?」
「はい。はずれー。ウミガメのスープじゃなくてホシガメのスープだから。」
「そもそもホシガメって何なの。」
「辺境の宇宙空間に漂ってる亀の甲羅みたいな物体だよ。実際は植物の種らしい。星に到着すると発芽する。珍味らしいよ。」
「ふーん。宇宙は広いねー。」
「さて、ホシガメのスープ食べた男が自殺したのはなぜでしょう?
『はい』か『いいえ』で答えれる質問をしてください。」
「えーと、男はホシガメのスープを食べるのは、それが初めてでしたか?」
「はい。」
「男は昔、人肉を食べたことありますか?」
「いいえ。
それはウミガメのスープの答えだね。」
「んーと。男は昔遭難してましたか?」
「質問が、ウミガメのスープにひっぱられすぎだよ!」
「思いつかないんだもん。」
「答えは、はい。」
「合ってるのかよ。えーと、じゃあ……」
私は、すごい時間をかけたが、全然答えにたどり着けなかった。
わかったことは、こうだ。
どうやら男は昔、宇宙船が壊れて、宇宙空間で遭難したこと。
また、宇宙船のAIシステム以外には、自分1人だったこと。
自殺の理由は、罪悪感や金銭的理由でもなく、人生に対する絶望とのこと。
それくらいだ。
「もー無理。答え教えて。」
「しょうがないな。じゃあ答え教えるよ。」
彼女は語りだした。
遭難した男は、食糧が半年分しかない問題にぶち当たった。エネルギーは太陽光発電でなんとかなる。しかし、食糧が切れたら死んでしまう。救助が来るかわからないが、来るとしても、半年では辿り着けないだろう。
そこで、AIの提案で、毎日必要な食糧を減らすことにした。男は首から下を捨て、頭だけ生態維持装置に接続するのだ。そうすれば、全身の頃ほど日々の食糧はいらない。救助されたら、首から下はサイボーグにすればいい。
男は頭だけになったことで、半年分だった食糧で、3年ほど生存できる計算となった。3年あれば、救助の可能性が見込める。
こうして、男は頭だけの状態で、3年間救助を待った。
しかし、来なかった。
食糧が切れて絶望していると、AIは、幸運にもホシガメを捕まえたと言った。宇宙空間を旅する珍しい種子だ。
その時食べたホシガメのスープは、今まで食べた物で一番おいしい食べ物だった。これを食べるために生まれてきたんだ。これが人生の意味だ。男は本気でそう思った。
もっと食べたい。助かったら、ホシガメレストランを開こう。男は、それだけを希望に、救助を待った。
しばらくして、ついに救助が来た。
母星に生還し、サイボーグの体をくっつけた男は、さっそくレストランに向かいホシガメのスープを注文した。
しかし、知っている味じゃなかった。
男は悟ってしまった。
あれは、ホシガメのスープなんかじゃなかった。自分の首から下で作ったスープだったのだと。
AIが冷凍しておいてくれたのだ。そして、男のストレス値を正常に保つために、ホシガメのスープだと嘘をついたのだ。
男はいまや首から下はサイボーグ。
もうあの料理は、あの人生の意味を発見するほど美味しかった料理は、この世に存在しないのだ。
首から下が残っていたら、男はすぐにでも、自分の体を切り落としただろう。
しかし、もうあれを食べることは、二度とできないのだ。
男は絶望して、自殺した。
「―ってわけ。」
「なんだよそれ! わかるかよ! しかもやっぱりウミガメのスープに影響受けてるし。」
「残念でした。私の勝ちー。」
「ん、ちょっと待ってよ。私最初に、男が人肉食べたことあるか聞いたよね? 食べたことないって言ってたじゃん。」
「うん。食べたことないよ。」
「食べてるじゃん。嘘じゃん。」
「男が人型宇宙人かどうか、質問で確認するべきだったね。」
「ずるい!」