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3:皇太子の婚約者

皇太子アビエルの婚約者フロレンティアが登場。この公女、レオ推しで‥‥

馬上訓練(ばじょうくんれん)を終えて、二人が馬場を出ようとした時、遠くから淡い金色の髪の令嬢が侍女とともにやってきた。


「レオ様~~今日も鍛錬(たんれん)でいらっしゃいますか?せいが出ますわね。今日はフルーツケーキを持って参りましたの。ローズガーデンに席を(もう)けましたので休憩になさいませんか?」


 頬をバラ色に染めながら、少女はうっとりとレオノーラを見つめた。


「フロレンティア。毎日、ご苦労なことだな。だが、残念なことにこの後、まだ、剣術の鍛錬を控えているのだ 」


 話しかけるアビエルの方を、一切見ることなく、レオノーラをうっとりと見つめ続けているこの少女は、フロレンティア=ロレーヌ=バスケス。帝国の三大公爵家の一つバスケス家の娘で、アビエルの婚約者である。


 アビエルが婚約を公表したのは13歳の時。相手は物心つく前に決まっていた。フロレンティアは、婚約式以降、皇宮内で后妃教育を受けているため、日中のほとんどをこの城内で過ごしている。


「フロレンティア様、私ごときに敬称などおやめください。恐れ多いです 」


 なんども繰り返しお願いしているが、彼女はレオノーラを『私の推し!神!美しきレオ様』と呼んで(はばか)らない。バスケス家当主のグレゴール宰相の耳に入ったら、どんな目に合わされるかわからない。


「レオ様が先日、とてもおいしそうにリンゴを召し上がっていらっしゃったから、リンゴのコンポートを作ってケーキに入れましたのよ。料理番に手伝ってもらって私が作りましたの。うふふ」


 こてんと小首をかしげてレオノーラを見つめている。フロレンティアについてきた侍女も目にハートを浮かべている。その様子をアビエルが生ぬるい顔で眺めていた。


「しかたないな。レオ、少しつきあってやろう 」


 アビエルがため息をついて諦めたようにそう言う。


「アビエル様がお忙しいなら、レオ様だけでも構いませんのよ?」


 フロレンティアが、レオノーラの肘に手をかけて(すが)ってきた。アビエルはその様子を見て怪訝な表情をしたあと、レオノーラに目で合図をしてローズガーデンに足を向けた。


「では、フロレンティア様、ありがたくお茶を頂戴(ちょうだい)いたします 」


 微笑みながら、フロレンティアが肘に置いた手の甲にもう片方の手を添えた。フロレンティアは頬を真っ赤に染めてうつむいた。後ろの侍女たちからは、黄色い悲鳴が上がった。先に進んだアビエルが眉間に皺を寄せている。


 ロースガーデンの小さなテーブルの上に、アフタヌーンティー用のトレイが置かれ、フロレンティアの作ってきたフルーツケーキ以外にも、マスカットやオレンジといったカットフルーツ、ハムの入った小ぶりのサンドイッチが用意されていた。


「よろしければ、私にお茶を入れさせてくださいませんか?」


 レオノーラが言うと、フロレンティアはうっとりとして、呟いた。


「まぁ、えぇ、そんな、嬉しいですわ 」


 美しい陶磁器のティーセットに黄金色(こがねいろ)の紅茶を注ぐ。


「はぁ、素敵ですわね 」


 フロレンティアがため息をつきながら、給仕をするレオノーラの様子を見つめる。


「そうですね。今がちょうどバラの見ごろですね。本当にこのお庭は美しい。このような季節に、ご一緒にお茶をいただけるなど光栄です 」


 そう言ってほほ笑むと、フロレンティアも侍女たちも再びキャーと頬を染める。


 ティーポットを持ってアビエルとフロレンティアの少し後ろに立ち、控えているレオノーラの姿を見て、アビエルが声をかける。


「おい、レオの為の茶席なのだろう?お前も座れ 」


 本来ならば未来の皇帝と皇后が座るテーブルに同席することなどできるはずもないのだが、主君の命とあれば致し方ない。


「ありがたき幸せです 」


 深く礼をして、席についた。侍女たちが争ってお茶を入れ、カットしたケーキを出そうとしている。


「ねぇ、レオ様は、冬に入る前に王宮学院に行ってしまわれるのでしょう?」


「はい。殿下のご入学に合わせて従者として侍ることになっております 」


「寂しくなってしまうわ。3年もいらっしゃらないなんて。皇居にくる楽しみがなくなってしまうわね 」


 そう言って、寂し気に(うつむ)く。


「フロレンティア、君も来年入学すれば良いのではないか?王宮学院は今や広く門戸が開かれている。平民も女性も多く入学しているぞ 」


「お父様が、お許しになるはずがありませんわ。女は、家で刺繍と子育てができればいいと思っている化石のような人だから 」


 俯いて残念そうに声を零す。


 父であるグレゴール宰相は、女は知恵をつけると反発し、社会が不穏(ふおん)になる。だから家で子どもを産み育て、家庭を切り盛りする以外の役割を与えるべきではない、と考えているタイプの人間だ。それが女性を守り、国を守ることになるのだと本気で思っている。


「フロレンティアが、入学したいと本当に思うなら、母上に相談してみよう。何か良い手を考えてくれるかもしれない。未来の皇太子妃であれば、王宮学院で人脈を作ることは国益となるはずだからな 」


 その言葉に、フロレンティアの顔がほころんだ。


「えぇ、えぇ、もし叶うなら、3年とまでは言いません。2年でも1年でも学院で多くの人とともに学んでみたいです。ぜひ、皇后陛下にお口添(くちぞ)えをいただきたいわ 」


 王宮学院は、帝国の山間にある由緒ある貴族子弟の為の学校だった。教会や修道院、孤児院などと同様にその采配(さいはい)が皇后の権限でなされており、13歳~19歳までの入学が許されている。3年間の在学中に社会学や経済学、語学などを学びながら、同世代の子弟が集まることで、人脈を作り、仲を深めあい、将来の政治の中心となる組織の根幹(こんかん)を作るのが目的である。


 現皇后は、教育による国益の増進として、より多くの国民に、社会のありようを学ばせることで、優秀な人材を幅広く得ようとしており、即位後すぐにこの王宮学院の門戸を平民と女子にも開いた。


「フロレンティア様は素晴らしいですね。多くの人の声を聴き、学びを深めたいとは。未来の皇后としての素質にあふれておられます 」


 向学心をにじませるフロレンティアの言葉に、レオノーラが敬意を込めてそう返すと、


「レオ様にそんなに褒めていただくなんて、幸せです。学院でご一緒できたらもっと幸せになりますわ。自由な校風がモットーの学院ですもの、今のように気を遣った形でなく、もっともっと親密になれますわね 」


 扇子で口元を隠しながら、うふふと怪しげにほほ笑んだ。


「本当に‥‥学びを得ることが目的か?」


 アビエルが胡散臭(うさんくさ)げな表情を浮かべて薄目で問いかけた。

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