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陽だまりの中の秘密(首都シンラ:301年~)  作者: 梨藍
秘密のおにいさま:テイカ(8歳)・ スイル(6歳)
3/11

③※ キユウ視点

昔、誓ったことがある‥‥‥


『俺、がんばって、父上を超える王サマになる!そうしたら、お前は俺と一緒にいてくれるか?』


真剣に向けられた言葉がくすぐったくて


だけど、向けられた真摯な思いに応えたくて‥‥‥


『もちろんだ。義兄上に負けないくらい、立派な王の器となった暁には、俺の全てを以ってお前を守ると誓おう』


そう、最敬礼で応えると、まぶしい笑顔を見せてくれた。


その笑顔を守る為なら、俺は‥‥‥

「全く、大馬鹿にもほどがあるでしゅ」


言いながらため息を付くのは、赤茶色のショートヘアの推定10歳の少女だ。

話し方が特殊ではあるものの、身に纏っているのはまごうことなき、黒曜の騎士団の団服である。


推定10歳というのは、彼女にとって年齢は触れるな危険の代名詞だからで、大抵の場合、彼女と一緒にいるとそのうち不思議と「こういう存在もいるよね」と受け入れてしまうのだから、人間の適応能力とは恐ろしいものである。


「しかも、後輩に心配かけたくなくて、痛いのも我慢して、挙句貧血とは‥‥‥情けない限りでしゅ。恥を知れでしゅ」


言いながら、ベシベシと相手の太もも辺りを叩く。

傷は脇腹とはいえ、地味に響いて叩かれた青年は眉をわずかに顰めた。


「カグさん‥‥‥ちょっと、痛いのですが‥‥‥」


遠慮がちにそうに申し出れば、外見幼女のカグはフンと鼻を鳴らしてふんぞり返る。


「当たり前でしゅ。わざと痛くしてるんでしゅ。阿呆で馬鹿なキユウに、傷は痛いんだと知らしめてやるんでしゅ」


そう言うと、主に貧血が理由で起き上がることが出来ない青年‥‥‥キユウは、諦めたように小さく嘆息を零した。


少し前まで、金髪の相棒がそれは美しい微笑みを湛えたままキレるという恐ろしい技を披露して出て行ったばかりだというのに、入れ替わりで今度はこれである。


(確かに、悪かったとは思うけれども‥‥‥)


北部戦線の状況は苛烈を極めていた。そんな最中、敵に対して攻撃することを躊躇してしまった後輩が標的にされた。その後輩を庇って、脇腹に被弾したのだが、後輩が気に病んではいけないと、平気な顔のままそのまま戦場に立ち続けた。


その結果、もっと早くに戦線離脱していれば傷つけられることのなかった内臓が傷つけられ、流す必要のなかった血を流し、一時特別治療室行き‥‥‥と相成ったのである。


同室のよしみで着替えを取りに帰る相棒と入れ替わりにやって来たカグに、かれこれ10分ほど説教をされながらバシバシと叩かれている。


そろそろ勘弁してほしいと思っても無理はない。


そんなキユウの心情を汲んだかのように、稲光が空を走る。


次の瞬間には、曇天が空を多い尽くし、大雨が降り出した。


(‥‥‥これは‥‥‥)


「普通の雨ではないでしゅ。スイルが、キユウの負傷を知ったでしゅ。いいでしゅか、キユウ‥‥‥お前の命はお前ひとりのものではないのでしゅ。お前を大切に思っているものが、お前が傷を負えば悲しむことを忘れてはダメでしゅ」


キユウは叔父という立場から、またカグは守護する対象であることから、皇族に(あらわ)れる“御力”の存在‥‥‥ひいては、スイルに“始祖の力”の(しるし)である“聖痕(スティグマ)”が首筋にあることを知っている。


だからこそ、この不自然な天候の原因には直ぐに察しがついた。


ゆっくりと、カグが窓辺に寄る。


「キユウ、全ては繋がっているということを忘れないことでしゅ」


言うなり、雰囲気がガラリと一変して空気が張り詰める。


「‥‥‥やはり、動いたか‥‥‥愚か者め」


同じ口から紡がれたとは信じられない、低い声音にキユウは眉を寄せる。

自分に向けられた言葉でないことは理解している。だがしかし、何も安心できない。むしろ、胸騒ぎが広がる。カグがこうなるときは、大抵ろくでもない非常事態に陥る前触れだということ身を持って知っている知っているから‥‥‥。


ふっと、一瞬目を閉じると、そこにあった張り詰めた空気が霧散した。

そして振り返り、まっすぐキユウを見つめると重たい口を開いた。

外は相変わらず窓を打ち付けるような激しい雨が降り注いでいる。


「‥‥‥いいでしゅか。全ては巡るのでしゅ。今から起こることは、お前の無謀な行動が招いた“結果”でしゅ。これ以上事態を悪化させたくなければ、おとなしくベッドの上の住人でいることでしゅ」


口調も声音もいつもの調子なのだが、どうしてだか口を挟むことが出来ない。


何を言っているのか。


どうしてそんなことを言うのか。


何が起ころうとしているのか。


聞きたいことは山ほどあるのに、カグの纏う空気がそれを赦さない。


「‥‥‥お前の役割は、ここでおとなしく、待つことでしゅ。誰が何を言っても、何を聞いても、絶対に動かないことでしゅ」


そう言うや否や、まるで最初からそこに存在していなかったかのように、カグはかき消えたのだった。


この時、キユウは思いも寄らなかった。


まさか、身を以って全ての疑問の応えを知ることになろうとは。


【覚書・出てきた登場人物】

キユウ・・・脇腹にケガ。貧血起こして輸血なう

カグ・・・・見た目は10歳。中身はナイショ。命が惜しくば聞かぬが吉。口ぐせは「~でしゅ」


※ 金髪の相棒は、また、いずれ‥‥‥

 今回は短いのですが、キリが良いのでここまでです。

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