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陽だまりの中の秘密(首都シンラ:301年~)  作者: 梨藍
秘密のおにいさま:テイカ(8歳)・ スイル(6歳)
11/11

鍵が開く音がする


“カチリ”


と、誰にも気付かれることなく


静かに

密やかに


そっと開く


それは、災禍への誘い

それは、永訣への調べ


秘めやかに

静謐の中で


闇がニタリと笑った

「この、ポヤンが!!生き急ぐんじゃないって、何回言えば判るんだよッ!!」


そんな苛立った声と共に突然現れたユギ・エル・ウォーダンは、容赦なくキユウを殴り倒した。

受け身を取る間もなく地面に伏せるキユウに、別の騎士が駆け寄る。


「ユギ、キユウは怪我人だぞ!」


若干責めるような先輩騎士の言葉に、ユギは敵を見据えたまま溜息を零した。


「だから、ですよ。動き回らないように、そこで寝転んどけばいいんです‥‥‥先輩、応急処置は頼みました」


言うなり、ユギはスラリと双剣を鞘から抜くと敵陣へと突き進む。


「全く‥‥‥今回の件はキユウも悪いんだからな」


言いながら、手にした救急箱を置くと、何とか自力で起き上がろうとするキユウの腹部から滴り落ちる赤い雫が目に入り深い溜息を吐き出した。


揺らぐキユウを支えて、なるべく身体に負担が掛からないよう仰向けに寝かせる。


よく見れば貧血によるものだろう、顔色は青白く、額には冷汗が滲んでいる。息も多少荒い。


「す、み‥‥‥ませ、‥‥‥」


言葉を絞り出すようにして届いたのは、そんな謝罪の言葉で。

呆れてしまって思わず嘆息すると、ペチッと額を優しく叩く。


「違うだろ?そこは、謝るとこじゃない」


そんな先輩騎士の言葉に僅かに目を見開いてから、キユウは淡い笑みを浮かべた。


「あ、りが‥‥‥ござい、ます‥‥‥」


それが限界だった。昏睡状態に陥ったキユウの、癖のない黒髪をひと撫でする。本当なら一刻も早く医療部へ運びたいところだが、ここから動かすにしても移動に時間が掛かってしまう。


行きとは違い、皇王の御力による“空間転移”に頼ることが出来ないのだ。


(とにかく、今できることをしないと‥‥‥)


そこに駆け寄ってきたのはテイカとショウ‥‥‥今回の保護対象である皇子殿下と御令孫だ。


2人の無事な姿にホッと安堵の息を零した。そんな騎士に、テイカとショウは頭を下げる。


「すみません‥‥‥俺が付いていながら、殿下を危険な目にッ」


「ショウは悪くないッ!俺が、ちゃんとしていなかったから‥‥‥」


本当に申し訳ないと心の底から思っているのだろう。

沈んだ表情で口を真一文字に引き結んでいる少年達に苦笑すると、そっと安心させるように肩を叩く。


「ご無事で何よりです‥‥‥今からキユウの応急処置をします。お手伝い、お願いできますか?」


周りの喧騒など関係ないと言わんばかりの穏やかな物言いに、テイカとショウは緊張の面持ちでしっかりと頷いた。


そんなやり取りを横目に確かめながらも、フウトの率いる黒曜の騎士団 第三分団の騎士たちは猛攻の手を止めることはない。


「気を抜くんじゃねえぞッ!」


喧騒の中にあっても響くフウトの檄に、騎士たちが応えながら斬り込んでいく。


だがしかし、どんなに斬って捨てても一向に減ることはなくて。


「キユウが苦戦した理由は、これでしゅね」


忌々しそうに吐き捨てるカグの言葉に、フウトは眉間にしわを寄せた。


—— と、その時‥‥‥


不気味な視線を感じて振り返る。そこには、得体のしれない笑顔の男が一人。


「今回は、ここら辺が潮時でしょう‥‥‥あわよくば、一石三鳥くらいになってくれるんじゃないかと思っていたんですけど‥‥‥やはり、二兎を追う者は一兎をも得ず‥‥‥ですね」


涼しい顔でそう言い放つ男を、フウトは思いっきり睨みつける。


「それは、どういうことだ」


だがしかし、そんなフウトの言葉に男は笑みを深めるばかり。


「一番の目的は、既に達している‥‥‥ということです。それでは‥‥‥」


そこまで言うと、徐に自身のこめかみに銃口を向ける。


「しまったッ」


男がすることを止めようとフウトも動いたのだが、一歩遅かった。

乾いた銃声と共に、男はその場に倒れ込んだのだった。


「ちッ」


忌々しそうに舌打ちをしたその時、キユウの応急処置を任せた騎士から通信機越しにフウトへ思わぬ情報がもたらされた。


既にキユウの応急処置を済ませた騎士は、仲間の倒した敵の遺体を調べていた。

この状況を打破するためには、敵と闘う戦力だけではなく、正しく情報をより多く、より早く手にする必要があると判断したためだ。


(これはッ‥‥‥)


幾つかの遺体を確認して、確証を得た騎士は徐に立ち上がった。


「“こちら、ノリト・ラヴェ・シーズニング上級三等騎士より、緊急連絡”」


その情報は、全ての仲間に通信機越しに告げられる。


「“敵は、傀儡兵(カーレイペイ)であることを確認。コアを所持する個体はを三時の方向にいるものと推測されます”」


その情報を聞くや否や、フウトの声が再び戦場に響いた。


「テメエら、しっかり話しは聞いてただろうな!とっとと終わらせるぞッ!!」


言いながら斬り伏せて行くそのフウトの背後から、小さな影が走り抜ける。


「見つけたでしゅ。これで、終わりでしゅッ!!‥‥‥涅槃(ねはん)に沈め」


言うなり、カグはコアを有する傀儡兵が目に見えない早さで切り刻んだ。


その瞬間、まるで絡繰人形の糸が切れたように、全ての傀儡兵がその場に崩れ落ちたのだった。


静寂ののち、勝ち(どき)の声があがる。


こうして、今回の誘拐事件の幕は閉じた‥‥‥筈だというのに、フウトの胸に一抹の不安がよぎった。


『一番の目的は、既に達している‥‥‥ということです』


不気味な男の、愉悦に染まった声音が耳を掠めた気がしたのだった。

【覚書:新情報】

傀儡兵(カーレイペイ)という戦闘用マシンがある。「コア」を有する個体が司令塔。これを倒すと他の傀儡兵も動きを止める


☆ 次回、終幕です!

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