紛れ込んだ異世界は、乙女ゲームのエンディング辺りだった。攻略漏れの方は私の彼氏です。
思い付きで一気に書いたものです。世界観も練りこんでいない適当なゆる~い世界です。
恋愛脳な転生ヒロインと冷めた目で見る異世界迷い込み第三者を書きたかっただけでした!
ちょいちょい加筆修正してます。
気楽に読んでいただけると嬉しいです!
――ここはブリステアン王国。
舞台は王国の『王立ブリス魔術学院』。この学院は7割が貴族の子女、残り3割が商家子女や一般の平民。
一般の平民が通うには厳しい実技試験と筆記試験に合格しなければならない難関学校であるため平民はいない。そんな難関をクリアして学院に合格したのが、頑張る平民出身のエミリア。
エミリアはふわふわの金髪を緩やかに二つに結っていて、瞳はエメラルドのような緑でくっきり二重。
柔らかい丸みを帯びたフェイスラインが愛らしく元気な女の子。
魔法属性は、もちろん光魔法! 平民出身ヒロイン定番の稀少属性魔法に注目の的で、嫉妬や羨望からの
嫌がらせはあったが攻略対象の王道の美形王太子様、インテリ眼鏡の宰相の息子、ちょっと捻くれたイケメン公爵子息、あざとかわいい美少年の神官見習い、腕力に自信アリの騎士団長子息と共に大活躍!
王立ブリス学院に闇の魔法使いが現れて有望な学生たちを次々に闇落ちさせ、いずれはブリステアン王国を
闇魔法使いの国に仕立て上げようとする闇使いをエミリア率いる攻略対象者メンバーで退治する、という
王道のストーリー。最終的にエミリアの光の魔法が覚醒状態になる事で闇を吸収、王立ブリス学院に平和が
戻り闇に呑まれていた生徒たちも正気に戻ったところで討伐完了となり卒業式イベントへ。
このお話の特徴は悪役令嬢不在という事。お邪魔虫はいるが攻略対象者には婚約者などが存在しないみたいで闇使い退治の中でちょいちょい出てくる横やり女を退けて攻略対象と仲良くなっていく。
エミリアの苦悩や頑張る姿や会話などで対象との仲を深めつつ攻略していくゲーム。誰を選ぶかは最後の卒業式イベントまでに決めればいいらしく、最後にダンスをする手を決めてハッピーエンド。
誰の手をとっても両想いになれる簡単な乙女ゲームの世界。
―― らしい。
全ルートを攻略した今は逆ハー状態! みんなイケメンで一人を選ぶなんてできないわー!!
あと少しで学院卒業!卒業したら、誰と結婚しようかしらと悩み中・・・END (エミリア談)
「・・・ふ~ん」
全然興味ない私に饒舌に語る彼女の口は止まらない。いらん情報まで話し出す始末。
私の隣で早口でこの世界の事と今の心情を話しているのは、噂の平民出身美少女エミリアだ。
ここは乙女ゲームの世界なんだって。
「王太子のイーサン様も捨てがたいし、だって次期国王陛下じゃん!? しかもイーサン様ってすっごい
美形で~、あの顔で微笑まれると腰にクるのよね!! ちょっと下品かしらっ♡
でもでも公爵子息のサミュエル様もイケメン・ツンデレで私的にかなりイイの! インテリ眼鏡のヘンリー様も頭良くって色っぽいの。今はまだ神官見習いだけとトーマ様もかわいいのよね・・・、
騎士団長息子は・・・そういえば顔見たことないわね」
なんだよ、乙女ゲームって。恋愛シュミレーションゲームの事だよね。疑似恋愛するゲーム。
そんなのした事ないな。ゲームなんて病院でのなっがい待ち時間にポチポチやる間違い探しとか、上からブロック降ってきて重ねて平らにしてくのとか、ああ上海とか好きだったな。
本当の“時間潰し”だ。
このエミリアは実は転生者らしく、生前ハマった乙女ゲームのヒロイン転生したのに幼少期に気付いたらしく本物のヒロインになるべく努力もしたらしい。
頑張って勉強して入った学院で男を攻略って・・・、何しに学校行ってんのクズ。・・・言い過ぎ?
「瑞希は転生とかじゃなくて、異世界に迷い込んだ系?
あーっ、こんなとこで日本人見るとか嬉しいわあ!」
「・・・わたし、春から大学生で。買い物行こうとしてうちの玄関のドア開けたら、ココだったんだよね。しかも勝手にドア閉まって無くなってるし」
当時はビックリした。「は?」って。それしか言葉出てこないよ、ほんと。
さっきまでうちの玄関だったのに、靴はいてドア開けたら森の中。ここ、どこだよって。
森の中、歩くしかなくて。樹海みたいって頭の中を霞めて怖くなってきた時に甲高い鳥の鳴き声みたいのが聞こえてきて。もう何年も泣く事なんかなかったのに泣いた。
お母さん!お父さん!お兄ちゃん!って泣き叫んだよ。鳥の鳴き声かと思ったら、黒くて大きい熊みたいな顔して体に目がいっぱいついた化け物が目の前にいた。
人間って、本当に驚いた時って叫び声でないんだなって知った。腰が抜けて、尻もちついて、もう駄目ってなって。それが真っ二つに割れた。何が起こったか、わかんなかった。
しばらくして、誰かが斬ったんだってわかって、血の匂いに吐いた。
私の命の恩人、名前はアーサー。こげ茶色の髪で瞳は碧くて綺麗、私が今まで見てきた男の子の中で一番かっこいいと思った。 ーーしかも優しい、すんごく。
右も左もわからない私をアーサーは手を引いて一緒に馬に乗せてくれて、屋敷に置いてくれた。
出会う人みんな外人っぽかったのに言葉通じてるからよかった、謎だけど。
日本人の私には見たことないくらいでっかい屋敷だった、邸宅というのかアレは。執事っぽい人やメイドさんたちもみんな親切で家主の人柄を感じた。西洋っぽい爵位は伯爵って言ってたな、上の方?
アーサーには私が今までいた世界の事、日本の事をたくさん話した。話している最中、泣いちゃったりしたけど、その度に頭撫でてくれたり背中擦ってくれたり声をかけてくれた。
――うん、好きになっちゃうじゃん・・・。
「死にそうなとこ、助けてもらって。その人のところにお世話になってたの。」
「そうなんだ~、扉開けたら異世界ってラノベも何度か読んだわ!転生があるんだもん、憑依とか異世界紛れ込みとかありえるわよね」
「――超迷惑なんだけど・・・。その人が、今日は学校に用事があるって言ってたから、付いてきただけ。」
「ふーん。それって男??」
にやにやしながら聞いてくるエミリアを見て下品な顔だなって思った。
そりゃ、あんなデカい化け物を真っ二つにするんだもん、女の腕じゃ無理。男の人だよ、しかも同い年の。すごいイケメンなんだから!! 心の中でザワつきながらエミリアの言葉に頷いた。
この子、この世界のヒロインだっけ? もやもやするし、彼を会わせたくないんだけど・・・。
「ミズ」
「アーサー」
私を捜してたっぽいアーサーがこちらに近づいてくる。
私たちは学院の休憩所にいる。誰もが使用できる場所だが一角に貴族しか使用できない場所があって、そこでエミリアと不本意ながらお茶をしていたところだった。
貴族しか使用できないのに、二人の平民は利用してる謎。それはエミリア特権みたい。私はアーサーがここにいてって言ったからここで待ってたのだけど。
「え!? 騎士団長子息じゃない!? やだ!嘘!すっごくかっこいい!!」
小声で私に問い詰めるエミリアはなんだか興奮ぎみだ。そう、あなた全攻略できてないんだよわかってたよね?
騎士団長息子の顔見たことないって言ってたでしょ。逆ハーできてないでしょ。
「ミズ、お待たせ。もう学院での用事済ませちゃったから帰ろっか?」
しかしすごくかっこいいな! 髪もサラサラでこげ茶色なのに陽に透けるときらきらして見える。学院の制服も黒っぽいブレザーで簡素な感じでいてお洒落な感じで高級そう・・・。
めちゃくちゃ似合ってますよ、アーサー君。かっこいいしかない。フィルターかかってんのかしら。
「まだ2時だよ、いいの?」
「いい。次来るときは卒業式だな」
自然と手を繋いでくれる、アーサー好き。もちろん恋人繋ぎだし。前髪に葉っぱついてたみたいでアーサーが指先で私の前髪をちょいちょいとする。頭一つ分背の高いアーサーを見上げると、にこっと笑った。
こんなかっこいい人見たことないっていつも思う、大好き。
「あ、アーサー様!いつも訓練お疲れ様ですわ。・・・アーサー様、お兄様のようにならなくても貴方は
貴方のやり方で・・・」
エミリアが慌ててアーサー様に駆け寄って早口に何かを告げる。アーサーの兄が攻略ワードなんだろうか。しつこくお兄様と貴方は違うとか、同じやり方でなくてもいいとか、私たちの恋人繋ぎした手をガン見しながら早口で言っている。アーサー様は多分、頭の中に疑問符がいっぱい浮かんでるだろうな。
だってお兄さんを気にしたりとか劣等感みないなものなんてないから。
ぶっちゃけ、お兄さんよりアーサーのが強いんだよ?お兄さんは近衛騎士団の副団長を務めてるけど、
近衛って王族の警護なんだよね。対人なの。
アーサーは領地の騎士団の次期団長だよ? 魔物討伐ばーっかりしてるんだから、すんごく強いのよ!
「ごめん、君が何言ってるのかわからない」
「えっ!?」
案の定、アーサーはエミリアを不審そうに見てる。だって初めてあった子にそんな事言われるって気持ち
悪いよねぇ。私だってエミリアと会ったの初めてだよ? 知ったかぶりも甚だしい、美少女だけどもさ。
そっちは私の黒髪黒目で“懐かしい!”って声かけてきて転生者だとカミングアウトしてきて聞いても
いないのに乙女ゲームのシナリオ説明までしてきた。そのゲームに物語性はなく、誰を落として疑似恋愛
するかに全てが注がれている内容だった。だからキャラ設定は細かかったみたいだね。
攻略対象アーサーに関する会話をダーッと言ってみてる感じ?
「この話すると好感度上がって親密になれるのに!」
エミリアの悲鳴のような独り言にアーサーの眉間に皺が寄る。不愉快そうな声にエミリアの顔が幾分か
引きつれるのを見た。
「・・・もしかして、王太子殿下たちが気にかけてる子って君の事かな」
「!! そうです!! 仲良くしていただいて・・・」
アーサーはため息をついて首を横に振る。
「誰にでもいい顔をするのはやめたほうがいい。周囲の評判を落としてしまうと、この先困るのは君だ」
「そんなっ。私は皆さんと仲良くしているだけです!本当に、素敵な方たちばかりだから・・・」
「・・・とにかく。俺には今後話しかけないでくれ。まあ、卒業までは学院に来ることはないが他所であっても声をかけてきたりはしないでくれ」
「そんな! アーサー様、寂しいですわ・・・」
エミリアが伏し目がちにアーサーを見て悲しそうにする。
その態度にますます眉をしかめて私と繋いでる手に力が入る。絡めた指先で私の手の甲をすりすりと
撫でてくる。擽ったい・・・、またエミリアが手をガン見してる。ちょっと面白い、攻略失敗の瞬間を見た! さすが私のアーサー、誘惑に乗らずエライ!!
「アーサー帰ろ。」
私は業を煮やして繋いでいる手を引っ張った。
「馬、見たい」
アーサーは少し目を瞠ってから柔らかく笑った。優しく手を引いて、
「うん、行こうか」
と言いながら歩き出した。歩幅は私に合わせてくれる。うん、だーい好き。それしかない!!
「ちょっと!まだ攻略終わってない!! 瑞希が先に攻略したって事!?」
エミリアが慌ててアーサーの袖を掴む・・・かと思ったらその手を叩かれていた。アーサーの顔が強張っていくのが見ていて怖い。
「触るな」
「待って!アーサー様!! 瑞希、待ってよ!!」
「ごめんねエミリア、ばいばい」
喚くエミリアに小さく手を振って別れを告げるとアーサーがエミリアから私を見えないように体を入れ替えて隠すようにしてくれた。後ろで大声で何かを叫んでるけど、人の心って簡単には掴めないものなんだよ?
上辺だけ取り繕って気持ちのいい言葉を並べ立てたって駄目なんだから。
私は基本的に優しい人が大好きだ。しかもアーサーは“私にだけ“優しいみたい。
ちょっとわからないけど、あのでっかい化け物(魔獣だったらしい)から助けてもらってから私にはアーサーだけ。
知らない世界に放り出されて殺されそうになって、助けてくれたのがイケメン騎士。
小さな子供の様に泣きじゃくって涙でぐしゃぐしゃ、吐いた後だったし服は泥だらけなのに落ち着くまでずっとお世話してくれた。後から聞いたけど、アーサーは私の事13歳位だと思ったんだって!
私18なんですケドって言ったらすっごい驚いてた。同い年らしい・・・。アーサーら年上に見えたよ~、落ち着いてるから!
今まで出会った人の中で包容力もナンバーワンだなんて、しかも超絶イケメンでメチャ強いんだよ。
学校が長期休暇中だったようでひと月くらい一緒に過ごした。
アーサーは休暇中は魔物の間引きに領地の森に入るらしくて、いつも一緒にくっついてった。
だって知らないところに一人で待ってるのなんて無理。魔獣怖いけど、アーサーが全部すぐ処理しちゃうから大丈夫。
野営することもあったけど、アーサーは何でもできちゃうからキャンプしてるみたいで楽しかった!
大きい布に二人で包まって寝るのも最初はお互いドキドキしたけど慣れたら安心感が半端なかった。
「アーサー、真っ直ぐ帰る?」
「うーん、領地まで寄り道しながらのんびり帰ろうか。デートも兼ねて」
「うん!」
二人で馬に乗る。さっと馬に跨ると、手を差し出して私をグイッと引き上げる。私を前に跨がせると抱え込むように馬の手綱を持つ。背中にアーサーの頼もしい胸を感じて寄りかかるとアーサーを見上げる。
「卒業式もついてきていい?」
「いいよ」
ぎゅうっと後ろから抱きしめられて見上げている私の唇に軽くキスをしたくれる。みんなに見られてないかドキドキしちゃうよ、急にするんだもん!
でもアーサーはあんまり周りきにしないんだよね。
はあ、大好きすぎる私の初カレ。
「あの女と何話してた?」
「うーん、私の国にあったゲームの事。」
「んん?? あの女にミズの国がわかるのか?」
「わかるのよー、驚いたけど」
「そうか・・・。げえむが何かはわからないが」
チュッとリップ音をさせてキスした。馬に揺られて前を向いて座る私の顎を救い上げる様に上向きにして~っ!!またした!!
恥ずかしいのよね、馬はもう町を抜けてるから誰も見てないけど!
「もう! エミリアは自分を好きになってくれた男の子たちの中で揺れ動いている自分に酔ってるみたいだったわ。ゲーム・・・娯楽感覚で男の子達を攻略しているの、私にはクズゲーだよ」
私は心底エミリアが気持ち悪かった。
ゲームじゃないのに、現実に起こってることで不特定多数との恋愛に酔いしれている女。男もどうかしてると思うが似た者同士なんだろうな、と私は感じた。
この気持ち悪いサークルの中にアーサーが入らなくて本当に良かった。
「アーサーだって攻略対象だったんだよ!でもよかった、あっちに行かなくて」
ぽつりと言うとまじまじと顔を見られた。
「絶対行かないだろ、あんな気持ち悪い女に。」
心底嫌そうに言うアーサーにほっと胸をなでおろす。靡く男もいるのよ、ああいうタイプに。
いつの間に最初の野営ポイントに到着していて夕陽で樹々が赤く染まっている。
手早く簡易テントを張ったアーサーは愛馬に周囲の警戒を頼むとテントの中に私を引きずりこんだ。
甘い口づけを繰り返すアーサーに私はなんだかムズムズしてきてしまった。
くすっと小さな笑い声が聞こえて恥ずかしさにアーサーの胸に額をこすりつける。それが合図となって私たちの甘く長い夜が始まった。
――外は、いやなのに抵抗できない私って・・・。
イチャイチャを繰り返す私たちは実はもうすぐ結婚します!
アーサーは私を保護してから割とすぐに父親である領主兼騎士団長に私と結婚したいと言ってたらしい。
私は異世界人だけどいいのかなって思ったけど、アーサーに「ミズじゃないと駄目だ」と言われて嬉しかった!
騎士団長であるアーサーのお父さんには、卒業=結婚という感じで決定して、私たちは互いを知り合った。
本当に縁のある人とはとんとん拍子に物事は決まるって昔お母さんが言ってた。
それってこういう事なんだなって実感したよ、お母さん。
お父さん、お母さん、お兄ちゃん、私、アーサーと結婚するね。すっごくかっこよくて優しくて強くて私をとても愛してくれる人だよ。
生きているうちに何が起こるかなんて、わからないね。
ここは某乙女ゲームの世界らしく、わたしはイレギュラーな異世界の迷い人だった。
ストーリーと全く関係ない私はストーリーから脱線してた騎士団子息と出会い、恋をしたよ。
もとの世界ではきっと得られない人に私は出会えて幸せだよ。だから心配しないでね、みんな。
◆◇◆◇◆◇◆
ヒロインのエミリアは攻略したイケメンたちを卒業までキープしていたが、徐々に我に返った攻略対象者たちがエミリアを見限り、各々の生活を取り戻していったらしい。
エミリアは今、婚活に必死らしいと風の噂で聞いた。――――乙。
攻略対象のアーサーは領地の魔獣狩りが忙しくて学院は休みがちでした。でも試験はしっかり受けていて優秀だったので通学はある程度、免除されてました。エミリアがやっていたゲーム設定と違ったのは何でなんでしょうね!
最後までお読みいただきありがとうございます!
まだまだ思い付きネタありそうです(⌒∇⌒)