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星空に落ちる  作者: 白飴
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無事でよかった

「無事で本当に良かった」

「お前もな」

 大喜は着物を着て、木の箱を背負っていた。薬が入っているらしい。大喜と一緒にいた老人は伊吉と名乗った。

「お主らは見たところ、大喜と同郷のようじゃな」

 珍奇なものを見る目で制服をまじまじと見て言う。

「ええ、友人なんです。俺は綾っていいます。それでこっちが――」

「三伏です」


 ここで立ち話をしていては目立つ。伊吉は茶屋に場所を移した。

「お前その着物どうしたんだ?」

「爺さんがくれたんだよ。目立つからって」

 大喜を見つけた時、行き倒れだと思ったそうだ。しかしそれにしては小綺麗で見たことも無い服装をしている。目覚めた大喜に話を聞いたところ、彼はどうも上から落ちてきたようだと語った。


「信じがたい話じゃ。天の使いにしては阿保っぽかったしの」

「酷くない?」

「しかし大喜の言うように、こうして仲間がいるということは真実なのやもしれん」

 伊吉は茶で喉を潤して尋ねる。


「お主らこれからどうするんじゃ」

「引き続き仲間を探して回ろうと思います。あてはないんですけど」

「俺は爺さんを家まで送るよ。綾たちも一緒に来たらどうだ?」

 確かにせっかく再会できたのだから、離れない方がいいだろう。

「えっと、ご一緒してもいいですか、伊吉さん」

「ま、良かろう」


 伊吉は綾と三伏の同行を許可してくれた上に、着物を買ってくれた。曰く、妙な格好で隣を歩かれると恥ずかしいとのこと。綾からすれば着物の方が見慣れないのだが。

「いいじゃん似合ってる!」

 着物と手甲、足には脚絆を身に着けて、ドラマで見るような旅装束姿になった。大喜に褒められて三伏は少し恥ずかしそうだ。それを見て大喜は綾に耳打ちする。


「三伏さんこういう軽いノリ無理なんかな。なんか怒ってない?」

「いやあれは照れてるんだよ」

「え?マジ?」

 綾はここまでの間に三伏の感情をほんのり読み取れるようになっていた。無表情に見えて実は感情豊かなのだ。


「出発するぞー」

「へーい」


 伊吉は薬を売りながら町や村を回って、家に帰る途中なのだという。

「わしの住んでいる町では医者が多くての。とても商売が成り立たんのじゃ。ほれ、お主も声を出しなさい」

 大喜の真似をして大声で薬を売る。

「薬ー、薬だよー。安いよー」

「安い薬なんぞ怪しくて誰も買わんわ」

 呆れた伊吉に頭を小突かれる。結局無言で歩いている三伏の方がよく売れた。


 町から離れて暫く歩いていると、草むらから何か飛び出してきた。青い不定形のゼリーのようなそれを見て、驚きの声をあげる。

「スライム!」

「生き水じゃ。下がってなさい」

 伊吉は懐に手を突っ込んで取り出した袋から、丸薬のようなもの掴んで投げる。それはスライムの体内へぽちゃんと落ちる。一瞬ののち、スライムがはじけ飛んだ。もう動く気配はない。


「え!?何今の!?」

「奴らは物を溶かす性質がある魔物じゃ。あの丸薬はわしの特製でな、外側が溶けると爆発する仕掛けになっているんじゃ」

「薬じゃないですよねそれ......」

 うっかり飲み込んだら胃の中でドカンだ。とんでもない爺さんである。

「ほっほっほ。薬は武器にもなるんじゃよ」


 伊吉の家があるという町が見えてくる。

「あぁくたびれた。お主らも家に着いたら休んでいくといい」

「ありがとうございます。そうさせてもらいます」

「俺のどかわいた」

「まったく図太いやつじゃのう。茶くらいは出してやろう」


 そんなことを話しながら笑い合っていたが、町に入った瞬間から4人は異変を感じ取った。通りを歩いている人が少なすぎる。何かあったのか。表情を硬くしながら伊吉の家へ向かう。

 家の前に子供が一人立っている。その少年は振り返ると泣きそうな顔になった。

「伊吉じい!」

「おおよしよし、わしを待っていたのか。どうしたんじゃいったい」

「みんなが!みんながぁ!」

 泣き出した少年を宥めていると、近隣の家から人が出て来た。


「伊吉先生!お帰りになったんですか!」

「助けてください!主人が目を覚まさないんです!」

「先生!どうかお助けを!」


 続々と人が集まってくる。通りに人が少なかったのは、皆家に閉じこもっていたからだった。彼らが必死に訴えることをまとめると、原因不明の熱病が突如として蔓延し、次々と人が倒れていったということだった。


「たくさんいた医者たちはどうしたんじゃ」

「未知の病にさじを投げていなくなってしまいました。残っているお医者様は一人だけで、とても手が回らないのです!」

 伊吉はすぐに患者の診察を始めた。綾たちも付いて行く。


「どうですか、何か分かりましたか」

「都のお医者様でも突き止められなかったんだぞ......」

 幾人かは既に希望を失っているようだった。伊吉は険しい表情で言う。

「わしの見立てでは......これは病ではない」

「は!?こんなに苦しんでいるんですよ!」


 もしかして、と顔を見合わせた綾たちはその家の裏にある井戸を確認する。

「爺さん!井戸の周りの草だけ枯れてるぞ!」

「そうじゃ。お主らの予想通り、これは毒によるもの。井戸の水を飲んではならん」

「毒!?で、では解毒薬があれば助かるのですね!」

「ああ。しかし毒の正体が分からなければ解毒薬は作れぬ」


 希望から一転、絶望の表情になる町人たちに伊吉は厳しい表情のまま言う。

「方法はまだある。仙桃を使うのじゃ」

 それはとても珍しい桃で、ありとあらゆる病を治し、毒を中和する力があるという。その桃についての噂話を、伊吉は旅の間に耳にした。ある旅人が、黄馬山の山頂に光る実を見たと。噂を信じて山に登った者は、誰一人帰ってこなかったという。


「そんな噂などあてになりますか!」

「しかしこのままじっとしていても打てる手はない。わしはその山に行こうと思う」

 町人たちは全員が全員話を信じた訳ではなかったが、伊吉に一縷の望みを託すことに決めた。


「俺も行くよ。爺さんには世話になったし」

 綾と三伏も頷く。

「お主ら......危険があればすぐに逃げるのじゃぞ」

 帰ってきたばかりだが、すぐに出立の準備をする。伊吉を待つ3人に、男性がおずおずと話しかけて来た。


「あの、お弟子さん方。どうかよろしくお願いします。伊吉先生までいなくなってしまったら、私達はもうどうすることもできません」

「弟子ではないですけど、伊吉さんは俺たちが守ります。信じて待っていてください」

 男性はお願いしますと何度も頭を下げた。

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