俺たちはオールラウンダーだ
◯ 高橋家・夜
高橋、高橋純平の弟の公平(16)、洋平(16)、甚平(13)、五平(11)の5人兄弟で住んでいる一軒家の外観。
公 平「お兄ちゃん、宿題わかんないよ」
高 橋「わかった、教えてやろう。私はお兄ちゃんじゃない。オールラウンダーだ」
洋 平「俺もわかんねえよ、お兄ちゃん」
高 橋「全く双子で似たもの同士だな。それと私はお兄ちゃんじゃない。オールラウンダーだ」
甚 平「レーザービームってどうやって投げるの。お兄ちゃん」
高 橋「こうやって投げるんだよ」
投げる音がした後家の一部分が壊れる音がする。
五 平「Can you teach me English ? my bro」
高 橋「Ok.bro But Im not bro,Im all-rounder」
夕ご飯を作っているエプロン姿の高橋。
高 橋「よし、兄弟。ご飯を食べたら録音室集合だ準備はいいか、撮影の時間だ。頑張ったらみんなでコンポタパーティーだ!」
◯ 旧高橋の家・居間・7年前・回想
東京の綺麗な一軒家。表札には「岸田」と書いてある。
高橋に近づいてくる公平と洋平。
公 平「お兄ちゃん、勉強教えてよ」
洋 平「僕も、僕も」
高 橋「わかった。わかった」
× × ×
高 橋「わかったか二人ともこれで来週のテストも100点だ」
公平&洋平「うん!」
部屋に入ってくる父親の央平(40)。
央 平「純平、プロデューサーがまた誉めていたよ、よしよし」
頭を撫でる央平、嫌そうな高橋。
央 平「だけどな(高橋以外の4人の方を見て)お前らはなんなんだ。これじゃあ俺のメンツも丸潰れじゃないか」
央平の近くにいる洋平。
央 平「お前は誰だ?公平か?もっとわかりやすい名前つけとけばよかったな」
洋平を殴る央平。
洋平に近づく甚平と五平。
甚平&五平「お兄ちゃん」
央 平「全くどいつもこいつも本当に俺の息子か?」
高 橋「お父さんやめて」
央 平「なんだ、純平。これもしつけじゃないか」
高 橋「弟たちに音楽を教えてるのは俺だ。殴るなら俺を殴れ」
睨む高橋。
央平のもとに電話が来て出る。
央 平「はい、今ですね。音楽の練習中でして・・・」
奥の部屋に行く央平。
高橋N「父親はプロデューサーだった。父親の子供の時五人組の兄弟のアイドルが流行っていた。父親は俺たちを使って金稼ぎをしようとしていた」
高 橋「よし、公平、洋平、甚平、五平、飲み物でも買いに行こうか」
涙を拭う洋平。
◯ 自販機前・回想
自販機前にいる高橋と弟4人。
高 橋「何飲みたい?」
五 平「コンポタ」
公平&洋平&甚平「僕も僕も」
高橋「わかった、わかった」
お金を入れてボタンを押す高橋。
残りのお金を見る高橋。
高 橋(ちゃんと財布持ってくればよかったな)
雪が降ってくる。
公 平「お兄ちゃん雪だよ」
高 橋「本当だな」
高 橋「よし公園でも行くか」
公平&洋平&甚平&五平「うん」
◯ 公園・回想
雪が降っている。
コンポタを嬉しそうに飲んでいる高橋以外の4人。
少し離れて弟たちを見ている高橋。
◯ 旧高橋の家・風呂場・回想
5人で風呂場にいる兄弟たち。
公平、洋平、甚平は湯船に浸かっていて高橋は五平を洗っている。
◯ 同・央平の部屋・夜・回想
話をしている央平と母親の高橋美沙希。
央平は作詞をしている。
美沙希「もういんじゃない?純平だけ売り込めば」
央 平「全部楽器までこっちでやったほうが金が入るだろ。稼げる時に稼いどかないとな」
美沙希「でも・・・」
央 平「バカは使えるうちに使っとけばいいんだよ」
どなる央平。
◯ 同・居間・夜・回想・一年後
ご飯を食べている高橋、公平、洋平、甚平、五平、テレビを見ている。
帰ってくる美沙希。
美沙希「間に合った」
靴を脱いで急いで部屋に入る。手にはビニール袋を持っている。
テレビには高橋兄弟のアイドルユニット「平成5」が歌っているのが流れている。歌っている五平。
テレビを見ずにご飯を食べている五平。
美沙希「ほら、五平もちゃんと映ってるよ。歌上手じゃん」
高 橋「今回は曲が難しかったけど、五平もちゃんと頑張ったからな」
美沙希「はい、頑張ったご褒美」
袋からコンポタの缶を出す美沙希。
公 平「やった」
開けて飲み始める公平。
美沙希「五平ちゃん、飲まないの?」
帰ってくる酔っ払った央平。前より裕福な格好をしていてアクセサリーもジャラジャラとつけている。
美沙希「おかえり」
五 平「ご馳走様」
洗面台に食器を持って行って洗う五平。
央 平「おい、純平。お前、来年中学生だったよな。知り合いの中学の校長からうちに来てくれないかって話が来ている。お前なら十分入れるところだ。そこを受けろ」
美沙希「その話はまだ待ってって言ったでしょ。純くんにはいきたい中学があるんだから。そのために勉強も頑張ってるの、あなたのために頑張ってきたわけじゃないのよ」
央 平「うるせえ。そこに受かったらまた仕事が入ってくるんだよ。今こんな生活ができてるのも俺の仕事のおかげだろ」
座る央平、少し避ける横に座っている公平。
食器を洗い終わる五平、部屋を出ていく。
央 平「おい、洋平、酒もってこい」
洋 平「うん。わかった」
持っている茶碗を置くと冷蔵庫から酒を取り出し、央平の前に持っていくとコップを出しつぐ。
飲む央平。
央 平「(洋平、公平、甚平の方を見て)お前ら、純平は今年受験でテレビとかも休むから、お前ら頑張れよ」
ご飯を食べ終わる純平、急いで皿を洗い部屋を出ていく。
◯ 同・子供 部屋・夜・回想
五平、テレビを見ている。テレビにはアニメが映っている。
部屋に入ってくる高橋、テレビを見る。
テレビの中のヒーロー「お前ら、そこで何をしている、はっはっは」
高 橋「おい、五平。お兄ちゃんと一緒に風呂入らないか」
五 平「大丈夫だよ。一緒に入れるから」
高 橋「そうか、わかった先はいるからな」
部屋から出ていく高橋。
◯ 同・風呂・夜・回想
風呂に入っている高橋。
◯ 同・子供の部屋・夜・回想
風呂上がりの公平、洋平、甚平、五平。
みんなの中心にいる高橋。
高 橋「今度学校休みの日にさ、5人でご飯食べに行かないか。父さんからもらった金もあるしさ」
公 平「いいよ。それはお兄ちゃんのお金だし」
高 橋「何言ってんだよ。これは5人で稼いだお金じゃないか。受験ももうすぐで次いつ兄弟で遊べるかわからないしさ」
五 平「お兄ちゃんだけずるいよ。お金もらって。みんなも頑張ってるのに」
洋 平「こら、五平。お兄ちゃんが悪いわけじゃないんだから」
五 平「ご飯食べにいくよりだったらお金もらた方が嬉しいよ。友達と遊びたいし」
高 橋「・・・わかった。五平今度友達と遊びに行く時言ってくれ、にいちゃんがお小遣いあげるからな。他3人もだぞ。お前らだって遊び盛りなんだから」
高 橋(それから、俺は受験勉強で自由な時間が多くなった)
◯ 近本小学校・教室
ぼーっとしている高橋。
近づいてくる大山(15)。
大 山「おい岸田。今日もさ後輩とバスケして遊ぶんだけどさ、来ないか?」
高 橋「いくよ」
◯ 同・体育館・夕
バスケをしている数人の生徒と高橋、大山。
大 山「岸田」
高橋にパスをする大山。
高 橋(今まで部活もしたことのない、友達と遊ぶ時間のない俺にはとても楽しい時間だった)
一人抜き去りシュートを決める高橋。
大 山「お前さ、やっぱスポーツのセンスあるよ」
高 橋「そんなことないさ」
体育館に入ってくる先生。
先 生「こら!」
大 山「みんな逃げるぞ」
逃げていく生徒。
嬉しそうな高橋。
◯ 旧高橋の家・玄関・夕・回想
帰ってくる高橋。
高 橋「母さん、今日も100点だったよ。母さん?」
奥から五平の泣いている声と央平の怒号が聞こえる。
走っていく高橋。
◯ 同・央平の部屋・夕・回想
五平の腹を蹴っている央平。
央 平「お前のせいで、お前のせいで」
央平の足を抑える美沙希、腕が細い。
美沙希「やめて」
央 平「邪魔すんな」
美沙希を蹴り飛ばす央平。
部屋に入ってくる高橋。
央 平「純平、早かったな」
五平の腹をみる高橋。
傷だらけの五平の腹。
高 橋「何やってんだよ」
央 平「五平が言うこと聞かないからさ」
高 橋「何やってんだよ」
泣き出す高橋。
央平を突き飛ばす高橋。
高 橋「なんなんだよ、なんなんだよお前は」
央平、五平をおんぶすると部屋から出ていく。
◯ 病院・回想
ベッドに寝ている五平を見ている高橋。
高 橋「大丈夫か、五平」
五 平「お兄ちゃん、僕もうやだよ。歌いたくないよ」
泣き出す五平。
高 橋「楽器は嫌いか、音楽は」
五 平「音楽は好きだけど、歌は歌いたくない」
泣き出す高橋。
高 橋「ああもう、歌わなくていいから、大丈夫だから」
五平を強く抱きしめる高橋。
◯ 旧高橋の家・央平の部屋・回想
央平の横にいる高橋。
高 橋「俺もう歌わないから」
部屋を出ていく高橋。
◯ 同・居間・回想
テレビでは「平成5」解散の報道がされている。
新聞を読んでいる央平、リモコンでテレビを消す。
央 平「おい美沙希、お前らこの家出てけ」
美沙希「どうして」
央 平「俺の金で建てた家だ。(怒鳴って)いいから出てけ」
高橋、央平の前に立つ。
高 橋「わかったよ」
美沙希「純ちゃん」
高 橋「いいよ出てこうよ、こんな家」
部屋を出ていく高橋。
◯ 東京駅・回想
電車を待っている高橋、公平、洋平、甚平、五平、美沙希。
公 平「お母さん、どこにくの?」
美沙希「青森県よ。青森に親戚の空き家があるの」
雪が降ってくる。
五 平「雪が降ってきたよ」
美沙希「肌寒いしなんかあったかい飲み物買ってくるね。待ってて」
席をたつ美沙希。
× × ×
帰ってくる美沙希。
美沙希「はい」
コンポタを五缶、ベンチに置く美沙希。
高 橋「母さん、一本足りないよ」
美沙希「母さん、腕細いから5本しか持てなかったの。それにお母さんはあったかいからいいのよ」
美沙希の膝に顔を埋める五平。
五 平「ほんとだ、あったかいや」
五平の頭を撫でる美沙希。
美沙希「それから私たちは今日から岸田じゃなくて高橋だからね。高橋家頑張るわよ」
高橋兄弟「うん!」
高橋N「それから青森で6人で暮らした」
◯ 葬儀場・回想・一年後
座っている人たち。
遺影には美沙希の写真。
泣いている人たち。五平や甚平も泣いている。
高橋N「1年もせず母親が死んだ。打撲で内臓がやられていて内臓不全だったらしい」
◯ 高橋家・居間・夜・回想
泣いている高橋以外の兄弟。
泣くのを堪えている高橋。
高 橋「・・・お前たち、そんなに泣くな、はっは」
高橋N(母親がいない今、父親づらしたかったがどうやってすればいいかわからなかった)
部屋を出ていく高橋。
◯ 道・夜・回想
雪が降っている道。
走っている高橋。
柵の上にイヤホンをして座り星を見ているソラ(11)星を掴もうとする。
コンポタの缶を5本持って走っている高橋がソラに気づく。
高 橋「お前そこで何している」
ソ ラ「なんだ、人間」
高 橋「寂しいのか。故郷でも思い出しているのだろう」
高橋の方を見るソラ。
高 橋「ほらやるよ」
高橋、ソラにコンポタの缶を渡す。
高 橋「大丈夫だ。弟たちの分は確保してある。それは俺のぶんだ。誰も喧嘩しない」
ソ ラ「そんなことをしても私はねがえったりしないぞ人間」
高 橋「違うんだ、困っている人が見過ごせないだけだ」
開けて渡すある男。
コンポタを飲むソラ。
ソ ラ「お前こんなにおいしいものをどうして知っている。さてはお前も宇宙人だな。勝負しろ」
高 橋「勝負か・・・そうだな勝負したかったらそん時はコンポタでも返しにこい。お前身長小さいから最上段のコンポタを買うのは無理だとは思うけどな。お前が晴れるならそれでいい。だからそんな寂しそうな顔すんな。それから私は宇宙人ではない。(泣くのを堪え声を小さくして)俺は・・・いや」
高 橋(あいつらを生かして守ってたくさん遊ばせて、母親代わりも父親代わりもしてなんでもやるんだ)
高 橋「私は、オールラウンダーだからな」
走り去る高橋。
泣きながら走る高橋。
高 橋(絶対守るんだ。泣くのは今日だけで明日からは)
声を出して泣いている高橋、止まると膝から崩れ落ちる。
◯ 高橋家・居間・夜・回想
帰ってくる高橋。
居間で簡素なご飯を食べている洋平、公平、甚平、五平。五平は母親のスマホを見ている。
洋 平「明日からどうやって暮らそう」
公 平「とりあえずお金を稼がないとね」
甚 平「おい、五平お前もなにか考えろよ」
高 橋「ご飯食べてる時携帯見るのは良くないぞ。五平」
五平からスマホを取り上げる高橋。
高 橋「これだ・・・はっはっは・・・はっはっは」
洋 平「どうしたのお兄ちゃん」
高 橋「私はお兄ちゃんではない。私たちにはあるじゃないか。金を稼げる手段が、俺は(俺たち)は自由じゃないか。ついてこい弟たちよ。俺は(俺たちは)オールラウンダーだ」
◯ 高橋家・録音室・夜
紙袋をかぶっている高橋兄弟。楽器を持っている。
高 橋「ばれそうなものないな」
甚 平「ないよ」
高 橋(素性がバレてはいけない)
高 橋「カメラは回ってるな」
高 橋(誰にも特に東京の人間には)
五 平「回したよ」
高 橋(絶対にこいつらを守って見せる)
◯ 道・夜
歩いている真希と今永、今永はイヤホンをしてスマホを見ている。
真 希「今永さん、明日の野球頑張りましょうね」
今 永「・・・」
真 希「ニヤニヤして気持ち悪いですよ」
今 永「・・・」
真 希「今永さん、歩きスマホは良くありませんよ」
イヤホンをスマホから無理やり抜く真希。
音が漏れる。
真 希「ああ」
今 永「うるせえな、なんだよ」
真 希「これ」
今 永「これがどうした、みんな知ってるだろ。ユーチューバーのARTだよ」
◯ 高橋家・録音室・夜
紙袋をかぶっている高橋兄弟。演奏の前の静けさ。
甚 平「ワン、ツー、ワン、ツー、スリーフォー」
バチで音頭を取る甚平。
高 橋(俺たちはオールラウンダーだ)