入学式ってそれコンポタの缶より美味しいですか
◯ 幼稚園前の道・夕
通る今永と真希、幼稚園の砂場を見ている佐々木 ひろ子(16)を見る。
今永に気がついてひろ子が振り返り目が合う。
今 永「工藤、ちょっとこのバッグ持っててくれ。今警察に電話する」
真 希「わかりました」
ひろ子「ちょっと待って。ただ見てるだけで何かしてるわけじゃないから」
今 永「犯罪者というものは計画的に進めるものだからな。あっもしもし」
真 希「これはサスペンスの匂いがしますね。(自分のバッグを漁り)ああっカメラが今あれば」
ひろ子「ちょっと待ってって」
今永の電話を取ろうとする浩子。
砂場から浩子を見つける幼稚園児の高橋 宏人(4)と入江 浩子(4)。
浩 子「(指を刺して)見てみて宏人、ひろ子お姉ちゃんだよ」
ひろ子を見る宏人、顔を赤らめる。
宏 人「何だよ、あのババアかよ」
ひろ子「ババアって何よ、まだピッチピチの16歳よ。肌のケアも欠かしてないし、いや最近ちょっと太った
から?どうして?」
宏 人「そういうとこがババアなんだよ」
ひろ子「さっきからババア、ババアって私がババアなら宏人はジジイよ」
宏 人「ふっ」
宏人、絆創膏をしているほっぺをかくと砂で遊び始める。
ひろ子「まあこういうことだし、私は変な人ではありません。知り合いです」
真 希「なんでこの人は幼稚園児の名前を知っているんでしょうか。やはりサスペンスの匂いがします。今永
さん」
今 永「やっぱり通報しよう」
ひろ子「だから私は怪しいもんじゃないから」
真 希「なので警察に通報されたくなかったら」
バッグから入部届を出す真希。
ひろ子「何よ、あなたまで私をどうする気?どっかに売ろうとしたってそうはいかないんだから。やるわよ、ひ
ろ子やるわよ、私」
真 希「(入部届を渡しながら)映画部です。入部してください。あなた、その制服は浅高ですよね」
今 永「おい、工藤。そんな簡単に」
紙を見ているひろ子。
ひろ子「ええ、いいじゃん。入るわよ。まさか私がこんな年でスターになるチャンスが来るなんてね」
今 永「お前まじかよ」
真 希「言ったじゃないですか。彼女からはヒッチさんの匂いがします」
ひろ子「私は浅高2年3組佐々木ひろ子、よろしくね。でっヒッチさんって?」
真 希「アルフレッド・ヒッチコックです。だいたい有名ですが名作と言ったらサイコとか鳥とかですかね」
ひろ子「ああなんか10年前、いや数年前に見たことがある気がするわ。アルミ缶をヒッチハイクね」
真 希「アルフレッドヒッチコックです」
今 永「多分こいつもばかだ。やめとけ真希。高橋よりも馬鹿だぞ。こいつ」
真 希「いいえ決めました。殺人鬼役はこの人にします」
今 永「お前、そんな物騒なものを作ろうとしてたのか」
真 希「はい、今永さんは殺される方です」
今 永「やだよ、そんな役やりたく・・・」
ひろ子「私は殺してないわ」
今 永「えっ」
真 希「やはり、サスペンスの話ですか」
楽しそうな真希の表情。
ひろ子「ごめんなさい。何でもないわ。私は今日は帰ります。(紙にペンで書いて)入部届とこっちが私のメー
ルです。部活がある日は連絡してください」
走り去るひろ子。
× × ×
二人で歩いている今永と真希。
真 希「それでは私はこっちなので」
今 永「あっわかった。それじゃあ」
数メートル歩いて止まり振り返る真希。
真 希「明日は13時に学校で、では」
手を振ると振り返り歩き出す真希。
後ろ姿を見ている今永、振り返り歩き出す。
◯ 今永家・外観・夜
ドアを開ける音。
今永の声「ただいま」
京子の声「おかえり」
◯ 今永家・リビング・夜
夕ご飯を食べている今永の父親の今永 孝司(50)。作業着姿。
キッチンにいる今永の母親の今永 京子(50)。
孝 司「帰ってきた、帰ってきた。息子よ一杯といこうじゃないか。ビール、京子もってこい」
京 子「私は京子じゃありません。それに昇太はまだ未成年です」
孝 司「チッ」
味噌汁から何かを持ち上げる孝司。不思議そうに見た後口の中に入れて咀嚼する。
京 子「おかえり。今日遅かったわね」
今 永「ああ、なんか色々あってさ、大変だったわ」
京 子「そういうことね。サンドイッチの年って言ってね・・・」
孝 司「(箸で味噌汁からパンを取り出しながら)おい京子、これお麩か?美味しいな」
今 永「ああっ、その話今日聞いた。ご飯は朝食うわ。今日はもう寝ることにするよ」
部屋を出ていく今永。
京 子「あら食べないの、今日は自信作の食パンの味噌汁だったのに」
孝 司「げっ」
急いで食べる孝司。
孝 司「ご馳走様」
京 子「あらまだ味噌汁たくさんあるわよ」
孝 司「いや、今日は早く寝ないと明日早いからな」
急いで部屋から出ていく孝司。
鍋を持って追いかける京子。
京子部屋から出る。
◯ 同・階段・夜
階段を登る今永。
急いで部屋へ行く孝司の足音。
京子の声「昇太、ちゃんとお風呂入るのよ」
今 永「わかってるよ」
孝司の後ろをおう京子の足音。
孝司の声「ぎゃー」
京子の声「あなた・・・ちゃんと食べなさい」
孝司の声「助けてくれ、昇太」
2階の廊下に出て自分の部屋に入る。
◯ 同・今永の部屋・夜
電気をつける今永。ベッドに横になりスマホを見る。
◯ 幼稚園前の道・夕・回想
ひろ子の表情。
ひろ子「私は殺してないわ」
真 希「やはりサスペンスの話ですか」
楽しそうな真希の表情。
◯ 今永の家・今永の部屋・夜
ため息をつく今永。
今 永(あいつ、俺が気をつけてやらないとな)
◯旅館「月見荘」前・道
走っている今永。
今 永(やべ、寝坊しちまった。入学式の終わりとバッティングしなければいいが)
ホテルの前でホテルの制服で一息をついている達子。走っている今永に気がつく。
達 子「ああ、昇太。今からご飯なんだけど一緒に食べない?ホタテたくさん剥いちゃって」
今 永「おう、ごめん俺急いでるんだ。また今度」
達 子「(悲しそうに)わかった」
◯ 浅虫高校・玄関
下駄箱へ行く今永。
急いで靴を脱ぐ今永。
玄関で座って缶のお汁粉を飲んでいる井納 ソラ(15)。
ソラの胸元のリボンを見る今永。
ソ ラ「これもまた美味」
今 永(新入生か)
今 永「入学おめでとう。もう入学式は終わったのか」
ソ ラ「入学式ですか?」
今 永「そうだ。恥ずかしいだろ。今日入学生でもない生徒がいると」
ソ ラ「入学式ってそれコンポタの缶より美味しいですか?」
今 永「はっ?わかんないけど一生に一回の入学式だ。それはいい思い出になるんじゃないか」
ソ ラ「そうなのか。わかった。行ってみる」
玄関を後にするソラ。
今 永(変な奴がいるもんだな。お汁粉飲みながら入学式なんて前代未聞だぞ)
ソラの走る後ろ姿を見た後廊下を別方向に歩く今永。
◯ 同・廊下
廊下を走っている今永。
息が上がっている。
今 永(これは工藤に怒られるかな)
横で走っているソラお汁粉を飲んでいる。
ソ ラ「すみません、入学式という缶はどこの自販機で売られていますか」
今 永「おっお前いつから」
ソ ラ「さっきです。瞬間移動してきました」
今 永「ああ、ああ。そうか、そうか」
ソ ラ「信じていないんですね。まあいいでしょう。ですが入学式を教えてくれたお礼として教えておきます。
私は地球を滅ぼしにきた宇宙人です」
今 永「わかった、わかった。(指を刺して)入学式はこの廊下をあっちに行ったところだ。近くにいる人に遅
れましたと静かに伝えてこっそり入ればいい」
ソ ラ「わかった。ありがとう」
今永の指差した方向に行くソラ。
ソラの後ろ姿を見ている今永。
今 永「やっべ。工藤に怒られる。早くいかないと」
廊下を走る今永。