ホタテ・・・
◯ 草原・朝
熊さんに怒られている恵。
熊さん「外には行っては行けないと言っただろ!」
めぐみ「だって行ってみたかったんだもん」
むすっとするめぐみ。
熊さん「外は危ないんだ」
めぐみ「なんでさ、熊さんだけ知っててずるい」
熊さんから離れていくめぐみ。
めぐみを見ている熊さん。
× × ×
夜になっている。
寝たふりをしているめぐみ。
めぐみを見ている熊さん、寝ているのを確認すると離れていく。
熊さんが見えなくなると起き上がり走っていくめぐみ。
× × ×
壁の近く、少年を探しているめぐみ。
少年を見つけるめぐみ。
少年は分厚い本にペンで何か書いている。
めぐみ「あっ」
少年に近づいていくめぐみ。
めぐみ「こんばんは」
気がついて手を振る少年。
少年は文章を書いている。
それを壁の外から見ているめぐみ。
めぐみ「何書いているの」
少年、ページをめくって白紙を探すとそこに文章を書き始め「小説だよ」と書く。
めぐみ(どうやら外には私の声はちょっとは聞こえるらしい)
めぐみ「私も君の声が聞いてみたいな」
少年、キョトンとした顔をしている。
声に出ていたことに驚く少女。
めぐみ「良いから小説の続き書いて!」
壁の外に雨が降っていることに気がつくめぐみ。
めぐみ「それ、何?」
本に「雨っていうんだよ、ずっと降っているんだ」
めぐみ(そこには雨というものが降っているらしい)
めぐみ「私のいるところには降ったことがないよ」
本に「そうなんだ」と書く少年。
めぐみ「あっそろそろ帰らないと熊さんに怒られちゃう、じゃあね」
いなくなるめぐみ。
少年の本の表表紙には熊さんが書いてある。
◯ 熊原家・玄関
学校に行く準備をしている熊原。
熊 原「行ってきます」
恵 「行ってらっしゃい」
熊 原「ちゃんとくる時は連絡してね」
恵 「昨日みたいなことはしません」
外に出る熊原。
◯ 熊原家・外
雨が降っているのを確認する熊原。
ため息をつく熊原。
かばんから原稿用紙を出す熊原。
◯ 道
歩いている今永。
鼻歌を歌っている達子が家から出てきてばったり会う。
今 永「おう、達子」
達 子「あ、おはよう」
今 永「一緒に学校行くか」
達 子「仕方ないわね。ついてってあげる」
歩く今永と達子。
達 子「そうだ、今度うちのホテルおいでよ。ホタテが採れ始めたのよ」
今 永「そうか」
達 子「嫌いになった?ホタテ」
今 永「もう食べ物ひとつではしゃぐ年でもないだろ。お前はまだそんなんではしゃいでるのか」
達 子「そんなことないわよ。良いから今度来なさい」
今 永「そっか・・・。じゃあ今日行くわ」
達 子「えっ?今日」
今 永「ダメだったか?」
達 子「いや、別に」
今 永「今日部活がないんだ。真希が実家に用があるとかでな」
達 子「そういうことね・・・。わかったわ。学校終わったら行くわよ」
今 永「おう、刺身と焼きもいいな」
達 子「意外と楽しみにしてるみたいじゃない」
今 永「まあ、好物だからな」
後ろからやってくる熊原。
熊 原「おはよう、2人とも」
達 子「おはよ」
今 永「おはよう」
並んで歩く3人。
今 永「ああ、そうだ。お前もくるか」
熊 原「何に?」
動揺する達子。
今 永「今日、達子んとこのホテルにホタテを食べに行くんだ」
達子の表情を見る熊原。
熊 原「ああ、僕は恵の面倒を見なきゃないから。2人で食べてよ」
達 子「それなら仕方ないわね」
今 永「もったいないな。今度また食いに行こうぜ」
熊 原「うん、そうするよ」
校門につく3人。
◯ 浅虫高校・教室
ホームルームが終わり席を立つ生徒たち。
今永の元へくる達子。
達 子「行くわよ、昇太」
今 永「おう」
◯ ホテル「凪」・キッチン
エプロン姿の達子、ホタテを剥いた後、切って盛り付ける。
今永の前にホタテを出す達子。
ホタテを食べる今永。
今 永「(大きな声で)うめえ!」
達 子「今、焼いてるのもあるからゆっくり食べなさい」
今 永「うめえ、うめえよ」
達 子「時期じゃないけどマグロモスクしつけたから」
マグロを食べる今永。
今 永「マグロもうまい」
どんどん食べ進める今永。
キッチンへ入ってくる達子の母親の優香(48)。
優 香「あら今永くん。来てたの。ホタテね。達子ちっちゃい頃今永くんに食べさせるために練習したものね」
達 子「お母さん、その話は毎年聞いてるから、もう良いって」
今 永「そうなのか」
達 子「あんたも毎年聞いてるんだから、茶化すな」
優 香「今永くんは今年も夏ちゃんと手伝いに来るの」
今 永「はい、こんな毎日美味しいもの食えるんだったら手伝いにきますよ」
優 香「よかったわね達子」
達 子「お母さんはもう良いから」
優 香「はいはい」
出ていく優香。
達 子「ほら、焼いたのもできたから、こっちも食べなさい」
今 永「おう!(食べた後)こっちもうめえ!」
◯ 今永家・夜
帰ってくる今永。
今 永「母さん、ただいま。達子んとこからホタテももらってきたから」
孝 司「助けてくれ、我が息子よ」
今 永「今日はなんだ」
孝 司「今日はパンの中に味噌汁が」
今 永「それはまだ美味しそうじゃねえか」
孝 司「確かにな。よし飯にするぞ」
リビングに戻る孝司と今永。
京 子「おかえり」
今 永「ただいま、今日達子んとこからホタテもらってきたわ。ギリギリらしいから早めに食べてくれって」
京 子「じゃあ、明日はホタテの味噌汁ね」
孝 司「刺身でいいだろ、なあ昇太」
今 永「俺はたくさん食ってきたから味噌汁でもいいぞ」
孝 司「裏切ったな我が息子よ」
今 永「裏切ってなんかないさ。俺は母さんの味噌汁が好物だからな」
京 子「今日も昇太はお利口さんね」
孝 司「くそ、俺はのけものか。明日こそは味噌の拘束具を、しかし味噌を拘束しても第2第3の味噌が」
今 永「いただきます」
京 子「そうねこういう時は無視をするのが一番ね。いただきます」
孝 司「くそっくそ!」
◯ 熊原家・夜
机に向かっている熊原。
棚にある本の数々と綺麗にファイリングされている原稿用紙。
原稿用紙をビリビリに破く熊原。
ご飯が載ったお盆を持って入ってくる恵、机に置くと原稿用紙を拾う。
恵 「商売道具なんだからこんなことしないの」
熊 原「ごめん」
恵 「ごめんって言われるより一言ありがとうの方が嬉しいのよ」
熊 原「ありがとう」
恵 「先にご飯食べなさい」
熊 原「ありがとう」
ご飯に箸をつけようとする熊原、ホタテを見つける。
熊 原「ホタテ・・・」
恵 「食べたかったんでしょ、本当は」
熊 原「恵にはやっぱり敵わないな」
恵 「そりゃ、私はあなたの理想の女の子ですから」