綺麗に育てたかぼちゃをあげましょう
◯ 青森文化会館・外
校門の「三年生を送る会 実質文化祭!?」の文字。
露天で看板娘をしている横須 舞(17)。
せんべい汁の最後尾の看板。
舞 「二日目もたくさん売れています。最後尾はこちらです。まあ売れるのはわかっていたんだけどね。何ちゃて」
雪が積もっている文化会館の外観。
◯ 同・中
今永N「昔もこんなことがあった気がする」
口を開け止まっている観客。
今永昇太(17)の上がった息。
脂汗をかいている今永。
周りの観客を見ている浅高の制服ではない工藤 真希(17)。
今永N「静寂だったそこは敵でそして味方で自分の次の第一声で戦争の勝敗が決まるようなそんな静けさだっ
た。あの時の4台の扇風機の唸りを今もやけに覚えている」
今 永「いけ、いけ、いけ・・・」
舞台袖を見る今永。
舞台袖で見ている柴田 達子(17)の心配そうな表情。
観客席を見ると熊原 健人(17)を見つける。
熊原の心配そ雨な表情。
倒れていく昇太。
観客席で見ている一人だけ嬉しそうな真希、ビデオカメラを構えている。
◯ 同・外
せんべい汁の屋台の間に並んでいる生徒たちや一般の客。
客 A「おい、体育館でなんかあったらしいぞ」
客 B「マジかよ。いってみようぜ」
客 C「俺も、俺も」
並んでいた生徒や客たちはほとんどがいいなくなり会館の中へ向かっていく。
舞 「なんでいなくなるのよ!私よりもすごいスターがあそこに入るっていうの?」
舞の友達「なんか演劇部のが問題をおこしたらしいよ」
舞 「くそ!私だって全裸にでもなってみようかしら」
コスプレの衣装を脱ごうとする舞。
舞の友達「ほらそんなこと言わないで。せんべい汁でも食べてなさい」
せんべい汁をもらい啜る舞。
舞 「うん、美味しい」
◯ 同・廊下
会館のホールへ入ろうとする野次馬の客や生徒たち。
それとは逆に出ようとしている真希。
真 希「決めました。綺麗に育てたかぼちゃをあげましょう。あの人に」
出ていく真希。
◯ 浅虫高校・校門中・3か月後
登校途中の今永、熊原、達子、周りにも登校中の生徒がいる。
熊 原「昇太、本当に今年はやらないの?ほらたっちゃんも説得してるんだしさ」
今 永「ああ、去年の冬の舞台を機に退部する決断をしたと何度も言ったじゃないか。受験だってあるんだし
なあ」
達子の表情。
達 子「またそんなこと言って。あなたは演技の才能があるんだから。本当はやりたいんでしょ。何回だって.
悪魔で演出として口説いてあげる」
今 永「だから、説明したろ?舞台が怖くなったんだ。そんなやつにもう舞台に立つことはできないだろ」
今永の目の前にビデオカメラをもって現れる真希。
真 希「では私の映画に出てください」
驚く今永。
今 永「お前は誰だ(落ちついて)そして勝手に人を撮るな」
真 希「映画には完成するまで観客はいません。観客なんてかぼちゃと一緒です」
今 永「かぼちゃ?」
達 子「あんたね、お客さんを馬鹿にするようなことは絶対許さないわよ」
真 希「はい。かぼちゃです。とても甘くて美味しいあのかぼちゃです」
カメラで撮っていた今永の映像をプレビューで確認する真希。
真 希「やはり、いい表情です」
カメラのモニターを今永に見せる真希。
今 永「やめろって」
真 希「なんですか、見たくないんですか。こんなにいい表情してるのに」
達 子「やめなさいよ。あんた。突然カメラを向けるなんて失礼でしょ」
真 希「そうでしょうか。あなたも撮ってありますよ。ワンカットだけすごくいい表情をしていたので」
達 子「あのね、私は悪魔で演出。表には出ない主義なの。それに・・・」
カメラを奪う達子。
真 希「やめてください」
達 子「私が消しとくから」
カメラのモニターを見る達子。
映っている今永の表情。
モニターを見る達子の表情。
落ちるカメラ。
真 希「あっ」
落ちたカメラを拾う真希、拾ったあと動作の確認をする。
真 希「壊れ・・・ました」
今 永「おい、達子。ちゃんと謝れよ。どうすんだよ」
達 子「仕方ないでしょ。てか盗撮してる方が悪いのよ」
カメラを真希からとり確認する今永。
今 永「これは・・・どうしたら治る?俺の家、小さいけど部品工場なんだ」
真 希「・・・治りません。中の基盤が多分いってしまってるので・・・」
今 永「(達子の方を見て)おい、達子。謝れよ」
達 子「いやよ。だいたいして悪いのはあっちの方でしょ」
真希を見る今永。
今 永「大丈夫か。いくらくらいするんだ」
真 希「20万です」
今 永「20万!?俺に何か・・・できることとか。金稼ぎ?バイト?最低賃金840円だぜ?って何時かんだ
あ」
開き直り独り言を言っている達子とそれを聞いている熊原。
達 子「何でよ。悪いのはあっちの方じゃないだって・・・」
熊 原「たっちゃん。悪いのはこっちの方だよ。ね?」
達 子「見ず知らずの・・・」
真 希「見ず知らずのではありません」
今永の表情。
真 希「私はあの時のことこの目で覚えています。去年の公演を見て惚れた人間です」
今 永「・・・」
真 希「そんなこと言ったって止められないんです。まるで映画を見たようでした。彼が話せなくなるその瞬
間。あの時の空気。誰かの人生がわかったと思ったあの瞬間」
達 子「ちょっとあんたね」
真 希「そんなこと言ったってあなたもさっき口説いたではないですか。一生懸命」
達 子「それは・・・」
真 希「ほら、やっぱり」
達子の表情。
達 子「・・・。熊原、私ちょっと先に行くわ」
熊 原「どうして」
涙が流れそうなのを隠している達子。
達 子「あなたも野暮ね。女の子の日よ。女の子の日。じゃあね」
走る達子。
熊 原「そうだ。僕たちも宿題見せ合う約束してるから。それじゃ」
真 希「待ってください。視聴覚室です。今永さん」
今永の表情。
真 希「できることはって言いましたよね。心から。いえ本当にお願いします。いわゆる小学生が言う一生の
お願いです」
走る真希。
立ち止まっている今永と熊原。
止まって振り返る真希。
真 希「あなたの青春を私にください。あなたのだけでいいです・・・。そうだ部員が足りません。あと3人
集めてくれると嬉しいです」
走り去る真希。
今永の手をひこうとしている熊原。
今永N「数メートル先の彼女の表情は演技ではなくとても自然な笑顔だった」
真希の笑顔。
◯ 同・3の1教室
ホームルーム中で座っている生徒。
本を読んでいる今永とその後ろに何か原稿用紙に書いている熊原。
先 生「春休みの宿題が終わってない生徒は始業式までまだ3日あるきちんとやるように。タイミングは早い
が今日は転入生が来ている。おい入ってこい」
開く扉。
扉の方を見る熊原。
熊 原「えっ?」
入ってくる熊原 恵(17)。
恵 「恵です。はい」
男子生徒A「可愛いのに愛想わる」
男子生徒B「何言ってんだよ。ああいう女子を口説いて世界を救うから意味があんじゃねえか」
先 生「熊原、(咳払いをして)、苗字が一緒だったな。めぐみさんの席は窓側の空いてる健人の隣の席だ」
熊原の席の隣に向かう恵。
書いているものを消しゴムで消してくしゃくしゃにして机の中に入れる熊原。
恵 「健人くん・・・」
熊 原「はい」
恵 「私はあなたのことが大好きです。付き合ってください」
熊 原「はっはい」
達子の表情。
生徒たち「えーー」
坊ちゃんかぼちゃの話