第7話 猫のあの日は発情日
依頼主の家に近づくとノディールは、積極的に周囲の猫たちと会話を始め、ある程度の情報を集めることに成功していた。
「結論から言うと、子猫は誘拐されたにゃ」
「誰に?」
「人族の二人組……」
「ヒントになってねーけど、まぁ、誘拐されたということがわかっただけでも良いか……。特定の猫を探知というか追跡できる?」
「無理にゃ」
依頼者の家を訪ねて、誘拐された子猫の匂いが染み付いた籠を借りた。
「そんなもん、どうするにゃ?」
「まぁ、見てろ」
ミニチュア・モンスター・メーカーで小さくデフォルメされたケルベロスを創り出す。
二頭身なのに頭が三つもついていて可愛い。まるで子犬のようだ。
『ギリギリ追跡デキルワ』
俺の左手からピョンと地面に飛び降り、ヨチヨチと追跡を始めるケルベロス。
ノディールは、小さいと言えども犬系の魔物を見て、顔面が蒼白していた。
くっ、そういうところだよ!!
可愛いじゃねーか!!
犬も猫も可愛いぞ!!
「なぁ、理解ってると思うが、俺は戦闘力が低いと言うか、まるでない。こんな小さなケルベロスに怯えられると、この先にいるであろう誘拐犯をお前が撃退できるか不安でならない」
「お、お前って言うにゃ。ノディールだ。そ、それに……年下の女の子に戦わせようなんて……い、潔いが……く、クズ野郎だにゃ。相手が犬系じゃなければ問題にゃい……」
冷静にノディールを見ると、青のワンピースに白いロングブーツ。
それに白い外套……。
こいつ武器持ってなじゃないか!!
「おい、武器は!?」
「ふっ、戦闘民族を舐めるにゃ。武器はこの拳にゃ!!」
「し、信じて良いのか? 意地を張らないでくれよ? 死ぬのは構わないが、痛いのは簡便だからな」
「なぁ、ワクワクするにゃ? ドキドキにゃ!! こういうのを探していたのにゃ!!」
「おいおい、人の話聞いていますか?」
ケルベロスよりにも慣れたのか、ケルベロスを追い越そうとしているノディールの腕を掴む。
「あっ。おい、お前、乙女の肌に触れるのは駄目にゃ!! そ、その今日は月に一度の発情期ならぬ発情日なのにゃ。触られると、興奮しちゃうにゃ……。」
赤面した顔を両手で隠しながら赤裸々にスレンダーキャットの性事情を語るノディール。
「お、おう……悪かった。でも、浮かれてケルベロスより前には行かないでくれ」
「うん、悪かったにゃ……」
素直に謝られると調子が狂うな。
そして、ケルベロスが古びた倉庫の前で立ち止まった。
恐らく誘拐犯が身を潜めている建屋に違いない。
「よし、作戦だけど……」
「あぁ、任せろにゃ!!」
ノディールは倉庫のドアを蹴り破り建物内に侵入した!?
「悪党でも出て来いにゃ!! 私はノディール!! 冒険者ギルドに彗星の如く現れた期待の新人にゃ!! 誘拐した子猫を返してもらいにきたにゃ!!」