第3話 俺だけが感動するイベント
俺達がこっそりと近づくと、気が付いたのかスリの少女は振り返った。
ソフィアを見て気まずそうな表情をした後、股間を押さえている俺を見て蔑むような視線を送ってきた。
「わ、悪いと思っている!! だ、だけど……こ、こいつらに罪はない。暴力を振るわないで!! 大人しく捕まるから!!」
少女は自分が逃げれば、ストリート・チルドレンが八つ当たりされると思っているのだ。
まぁ、当たり前だ。
知らないと言っても盗んだ金で買ったパンを喰ってるんだから。
暴力を振るわれても仕方ないよね。
この世界に来て二ヶ月程度だが、この世界の厳しさも薄情さも、ご主人様に叩き込まれていた。
「大人しく捕まるって? お前、捕まったらどうなるか知ってるのか?」
「し、知らない……。だ、だけど……」
力のない少女であるがため鉱山で重労働はない。
しかし、少女であっても女性は女性だ。
奴隷商人に売られたあげく、性奴隷にされ一生娼婦として生きるんだろう。
「そうそう、私、お金落としちゃったから探しに行かないと」
ソフィアさんは踵を返すと歩き始めた。
「えっ? いいの?」
俺はソフィアさんの配慮に感激するも、小さな女の子に……何を言えば良いのか……考えたが、結局何も答えが出ずに、ソフィアさんのあとを追いかけた。
ふと、後ろを振り返ると、少女は泣き崩れていて、その周囲にストリート・チルドレンが心配そうな顔で少女を見守っていた。
ソフィアさんの横に並ぶと、「へへっ。小さな幸せ見つけちゃった」と嬉しそうに笑っていた。
くそっ! こんなコテコテのイベントなのに、涙が止まんねーじゃねーかよ!!
この世界は、元の世界に比べて、非常に残酷なのだ。
しかし、この世界に住んでいる人たちからは、それが当たり前だからなのか悲壮感は感じない。
だけど、こんな小さな子どもが飢えて、こんな善人がいて、よく理解らないが下手な映画を見るよりリアリティがあり、感動しちまったんだ。
『感動ニ浸ッテイルトコロ申シ訳ナイケド、モウ帰ッテ良イカシラ?』
「あぁ、ありがとうな」
雰囲気をぶち壊してくれて、ありがとう。
うん、俺には俺のやるべきことがあるんだ!!
気持ちを切り替えなくては!!
さて、おじいちゃんの家の草むしりに行くか!!
草むしりは、特筆するようなイベントも発生せず、ソフィアさんも手伝ってくれたため、無事に終了した。
おじいちゃんからすると、ソフィアさんのような若い女の人と話せたのが嬉しかったのか、作業評価を二重丸にしてくれた。
クソエロジジイめ!! ずっと胸元を凝視してやがった。
冒険者ギルドに帰り、ご主人様にクエストの報告と、ソフィアの事情を説明した。
「災難だったわね。いいわ、しばらく落ち着くまで、遠慮なく家に泊まりなさい」
ご主人様は、低賃金の冒険者ギルドの受付嬢では購入できないような小金持ちが住む屋敷に住んでいるのだ。
アンナ・ハーリンというだけあって、貴族の出身ではないかと思う。
そりゃ、そうだよね。
ポンコツな性奴隷だけど、俺をその場で即決して購入しちゃうんだもん。
「ありがとうございます」
重ね重ねソフィアさんは、ご主人様にお礼を言った。
「それではケージ。二階の日当たりの良い部屋をソフィアさんにあてがってあげて」
「はい。畏まりました」
「ケージ? 変わった名前ね」
「あぁ、ソフィアさんに名乗ってなかったね。俺は慶次という名前だけど、この国の人達には発音が難しいみたいだからケージでいいよ」
ちなみにソフィアさんも冒険者ギルドに登録済みで、なんと中級冒険者だった。