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第05話 隠居したいアラフィフ

かなり時間が空いてしまって申し訳ないです。

そしてちょっと新しい書き方というかスタイルを試してみたくて文体が少し変わってます。

ご容赦を><

「実に美味しい紅茶だ、淹れ方も温度も素晴らしい。ルーナくんをお嫁さんにする男はさぞ幸せだろうね。そうは思わないかね、ソル?」


 何を言ってるんだ、このアラフィフは。

 まるで久しぶりに孫の顔を見に来た祖父みたいなポジションで、当たり前に紅茶を飲むんじゃないよ。

 ルーナも頬を赤らめてないで追い出していいんだぞ、これでも暗殺稼業一筋の危険人物なんだからな。


「組織のことは全部若者に任せてきたよ。衰えを感じる年齢になってしまったからね。それに年寄りがトップに居続けると下が育たないだろう?教会の力が強い都市で老後を送るなんてまっぴらだったから、とりあえずココを目的地にしたのだけれど、正解だったみたいだね」


 正解ってなんだ?

 そんな玩具を見つけて喜んでる子どもみたいな目をするんじゃない、ぜんぜん衰えてないじゃないか。

 まだギラついてんぞ。


「キミには謝っておきたかったからね。……本当に申し訳ないことをした。聖女を穢す依頼を受けたことを知ったのはキミたちが姿をくらませた後で、どうしようもなかったんだ。どうせキミのことだから彼女のために生きていそうな気はしていたよ。ただもっと心を痛めているかと心配していたけれど、杞憂に終わってよかったよ。これはルーナくんのおかげかな。いい娘に巡り合えたじゃないか」


 いい娘には違いないけどな。

 なんかポラールに言われると微妙だぞ。

 というか、そんなにおしゃべりだったか?キャラがブレてないか?


「もともと私はお喋りが好きだったんだ。あえて口数を少なくしていたのはシゴトのせいだね。これからはもう我慢なんてしなくていいから、実はとてもワクワクしているんだよ。何でもできるなんて素晴らしい。農民としてのんびり田畑を耕すのもいい、ボケ防止に執事として誰かに仕えるのもいい、教える者として教鞭をとるのもいいだろう。実に悩ましいと思わないかい?」


 多芸だと逆に迷うのか、贅沢だぞ。

 俺は戦うことしかできないからな。

 しばらくはおとなしくしてるが、今後どうするか悩みどころだ。


「1人で決めていいのかな?ルーナくんと話し合って決めたほうがいいんじゃないかね?キミのことだから何もかも放って逃げ出すことはしないだろう。どう責任を取るか決めあぐねているといったところかな。……図星だね?図星だろうとも。まぁ、しばらくは動かないほうがいいだろう。ココもそこまで安全というわけではないのだけれどね」


 そうだ、それだよ。

 いったい聖櫃都市バスーラで何があったんだ?

 情報の拡散スピードがあり得ないことになってるぞ。


「あぁ…、それはあえて情報を伝達しているからだよ。今回ソルが巻き込まれた案件はね、それはそれはややこしい裏事情が絡み合っているんだ。ルーナくんが聖女になった頃よりも前、聖櫃都市バスーラに身を隠すことに決まった頃よりも前、もしかしたら生まれた頃からかもしれないね。極論、異世界人が聖櫃都市バスーラの神と崇められた頃まで遡るかもしれない」


 おいおい、随分と素っ頓狂なことを言い始めたぞ、ボケるには早いだろうが。

 聖女としてのルーナが邪魔になったって単純な理由じゃないのか?

 なんで異世界人とか神の話になるんだ?


「ルーナくんのことについては本人から語ったほうがいいとは思うのだけれど……、え、いいのかい?第三者が伝えたほうが客観的でいい?はは、キミはちょっと聡明すぎる。もう少し子どもらしく甘えてもいいと思うがね、あぁ、ソルには遠慮してないのか、それならいいか」


 モノクルの奥の目がニヤついててイラつくな。

 ルーナもなんだよ、俺に言えないことぐらいあって当然だろ。

 そんな申し訳なさそうな顔をするな。


「そうだねぇ、まずはルーナくんが何者なのかを話す必要があるかな。キミもこの()が平々凡々な人物じゃないってことには気が付いていたんだろう?いいかい、ソル。これから言うことはすべて私の情報網で集めた真実だ。疑うような無駄な労力を使うくらいなら、今後について思慮することをオススメするよ」


 随分ともったいぶってくれる。

 あれだろ、たいがいルーナは貴族令嬢とかなんかだろ?

 くだらないプライドやら伝統やらで教会に預けたとかだろ?


「おぉ…、まさか脳筋のキミがそこまで考えていたとは、私は感動で泣いてしまいそうだ」




 ―――ぶっとばすぞ!?




「正直そこまで外れていないことに驚きだよ。そう、そこにいる方は我々とは身分が違う。聖櫃都市バスーラの北に位置するサントゥアーリオ大陸最大の軍事大国、ノルテ・ガナドールの王族の1人だよ。王位継承権の末席、ルーナ・シエロ・ガナドール様だ」


 ………………………マジかー………王族かー………せめて伯爵とか子爵の令嬢ぐらいがよかったな。

 そんなに不安そうな顔をするなよルーナ、お前はお前だ。

 たかが家柄で見捨てたりしねぇよ。


「ふっ、ははははは、いいね。私はキミのそういうところが好きなんだ、ソル。相手が貴族だろうが王族だろうが物怖じしないのは美徳だと思うね。さて、その軍事大国ノルテだが、有名なのは精霊の加護を受ける者が多いことだ。精霊の力を宿すことで強靭な軍隊を維持している。特に王族は1人で軍隊を相手取れるほどの力を持っている。まさに桁違いだ」


 ふぅん、それならルーナも強い加護持ちってことか。

 神様がついてたくらいだもんな。

 ………待て、それ、俺のせいでなくしまったんじゃねぇか?


「その心配はないよ。もともとルーナくんには精霊の加護がなかった。これはノルテ唯一の弱みとして裏世界では常識だったんだよ。加護がなくとも家族から愛されていたルーナくんは人質としては最適だ。キミも知っているだろう?ノルテで国を二分するほどの内戦が3年ほど前に勃発したことを。ちょうどルーナくんが聖櫃都市バスーラに身を寄せた頃だ」


 今までに類を見ないほど長い内戦だ。

 王族に余裕がないほど拮抗しているんだろう。

 それを予期したからこそ、敵対勢力を徹底的に叩くまで安全な国外へ避難させたわけだ。


「いくら内戦が勃発していてもノルテにケンカを売る国は存在しないが、恩を売りたい国はいくらでもある。そんな中で比較的安全だったのが、異世界人が神として君臨している聖櫃都市バスーラだった。予想外だったのは、身分を偽装したルーナくんが聖女として認められてしまったことと、教会がエグイほどに腐っていたこと。『YESロリータNOタッチ』を掟としているペドゥ神の加護がなければ危なかっただろうね」


 本当の身分を言えるワケもねぇし、言わねぇと不埒な輩は後を絶たない……難儀だな。

 で、タッチしちまった俺もそんな人間の1人ってことか。

 ……ルーナ、ジト目で腕をホールドするんじゃないよ。


「本当にキミたちがこれ以上ないタイミングで出逢えた奇跡に感謝するよ。少なくともルーナくんにとっては今の状況のほうが好ましいはずだ。できる限り今の平穏が長く続いてほしいが、もしかしたらそうはいかないかもしれない。なにせノルテの内戦が終わってしまったのだから」


 なに?終わったのか?

 まぁ、王族が勝ったんだろうが、時間が掛かったのは国内のリアルな組織図を改めるためだろうな。

 デカい国なだけに裏の繋がりを辿るのも大変そうだ。


「戦争に関する知識と勘だけはさすがだね、ソル。そう、その通りだ。敵の姿も数も明確ではない戦いがどれほど困難かわかるだろう?王族にとっては他国を滅亡させるよりもよほど骨が折れる作業だ。だが成し遂げた、3年もかかったがね。そして待ちに待った末娘のお迎えに出向いたわけだ」


 で、その娘っ子は聖女の資格を奪われてここにいると。

 その足取りは俺たち以外知らないと。

 もしかして、俺が依頼を受けなければルーナが汚れる必要はなかったんじゃないか?


「………ソル、キミはわかってない。乙女心をまったくわかってない。汚れたなんて表現を使うべきではないね。あとで謝るといい。そしてもう少し自分に自信を持つといい。キミはバカだが、愛されるべきバカなのだから」


 ナチュラルにディスるなよ、ヘコむだろ。

 ルーナも耳をつねらないでくれ……、なんかスマン、言い方が悪かった。

 だから泣きそうな顔をしないでくれ。


「キミがうつけなのは置いておいて、ルーナくんが聖櫃都市にいないことが確認されたわけだ。さらに聖女が世代交代していて、先代は行方不明となっていた。つまり亡くなったか、最悪でも処女を失ったことの証明だね。悲しいことにルーナくんの素性について知っている教会上層部のわずかな人材は、すでに左遷されていたみたいでね。どうも現聖女であるレイール・ディベルティード・デセーオが暗躍していたようだ。いい腕をしていると思うよ、相手が軍事大国でなければ、ね」


 ルーナにも聞いてが、マジでこえーな、そのレイールって聖女。

 子どもが暗躍して他人を貶めて聖なる女になるってか、冗談だろ?

 というか、もう1人の問題じゃねぇな。


「そうだね、もはや個人の問題では収まらない。家族として、王族として、国として、教会がルーナくんに対してどのようなことをしていたか、しっかり調べ上げた。結果として聖櫃都市は制圧され、聖女は拘束され、ルーナくんは捜索されているらしい。私が持つ最新情報はこんなところかな」


 聖櫃都市バスーラに戻る選択肢は最初から薄かったが、完全になくなったな。

 精霊の加護を持つ王族を相手に1つの都市が太刀打ちできるわけがないし、逆らえないはずだ。

 神の加護があろうが聖女がいようが、教会が腐ってるうえに、正体を隠匿していたとはいえルーナが虐待未遂を受け続けていた事実まであるからな。

 普通はトラウマになるぞ、こんなもん。

 笑顔で過ごせてることが不思議なくらいだ。

 このまま大人になってほしいってガチで思うね。

 できれば俺のことなんて忘れ……いや、何でもない、何でもないぞ?

 だから膝に跨るな、無精髭を抜くな、唇を近づけるな。


「ははは、いやいや、本当にキミたちはいいね、すごくいいよ。2人とも聖櫃都市にいた頃よりもずっとイキイキした表情をしている。私もここに腰を据えてその姿を見守ろうとするかね、うん、いい老後になりそうだ。……おっと、誰か来たようだね」


 相変わらずキレた気配探知だな、まだまだ現役でいけるじゃねぇか。

 ルーナは座ってろ、俺が出る。

 只者じゃないっぽいからな……ん?お前……、何でここにいるんだ?

 暗殺組織のナンバー2が何の用だ。

 ってか、お前も俺たちがここにいるの知ってたんだな。

 これさ、ノルテの情報網があればスグに見つけられるんじゃね?


「いやいやいや、ソル。私の愛弟子を舐めてもらっちゃあ困るよ。軍事大国の諜報部隊ごときが敵うとでも?それよりも組織を任せたはずなんだが、何故ここにいるのかね、ドス?」


 そういえばドスって名前だったな。

 なんかいつも以上に影が薄い感じがするんだが、またなんか心労溜まるようなことしたのか。

 本当にコイツは苦労人だよな、ルーナ、紅茶淹れてやってくれ、砂糖多めで頼む。

 で、どうしたんだ、組織を継いだんだろ?

 ……なに?瓦解した?ちょっと待て、ウソだろ?

 どんだけポラールに依存してたんだよ、お前ら。

 ほら見ろ、ポラールが見たこともないくらい肩を落としてるぞ。

 いや、うん、お前も頑張ったんだよな、わかった、悪かったよ、仕方なかったんだろ、だから落ち込むな、茶でも飲め。

 お前の見込みが正しかったから俺は生きてるし、ルーナも……まぁ、無事ってか、その、笑ってられるんだ。

 これでも感謝してるんだぞ。

 ……おいやめろ、3人ともこっち見んな。

 三者三様で違う目で見つめるんじゃない。

 それよりも他に言うことあんだろ、ほら、聖櫃都市の近況とか。

 今さらどうしようもないのは知ってるけどな。

 組織の他のメンバーは……半分が逃げて、半分が懲罰を与えるためにそれを追ってると、ご愁傷様なドロドロっぷりだな。

 追ってるうちに聖櫃都市が滅んだと、ふぅん………………は!?

 何があったんだよ!!

 神が逃げた?そんなバカげたことあるか?

 加護を失った聖女が狂いながらそう言ってる?しかも笑いながら?……すげぇ怖ぇな、マジかー……


「私はまだ平和な老後を送れそうにないね。組織のしがらみに囚われているらしいよ、ソル。敵前逃亡した情けない子たちにお仕置きをしてこなければ。ふふ、自分が創った組織の後始末なんてさせられるとはね、ちょっと血圧が上がりそうだ」


 久しぶりに見たな、ポラールのその眼。

 今でも勝てる気がしねぇな。

 ドスがビビってるから無茶するんじゃないぞ。


「私がキミたちのフォローをしようと思ったんだけど仕方ない。魔女に助けを乞いたまえ、ソル。自由都市とはいえ無策では平穏に届かない。気は進まないかもしれないがルーナくんのためだからね」


 なんかとんでもないことになって来たな。

 ルーナが王族だとか、暗殺組織が解散したとか、神が逃げたとか、ただの傭兵の俺には荷が重いと思うんだ。

 誰だってそう思うだろ?

 あと、あの魔女に会わないといけないってのが、一番気が重いんだ。

 下手したらあいつが都市の1つや2つ滅ぼしちまうからな。

 ドンドン面倒な方向に話が進んで、大金貨50枚の依頼が安く見えるぐらいだぞ。

 はぁ……、憂鬱だ。

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