5話
D−dayから今日で2週間が経った。
D−dayとはダンジョンが出現した日の俗称で、既にネット上では広く使われている。誰が言い出したのかは不明だが、使いやすいこともあり、今やネット上でD−dayと言えばダンジョンが出現した日のことを指す。
尚、そのワードで検索した際はかの有名なノルマンディー上陸作戦についても検索結果が表示されるので悪しからず。
元々D−dayといえばノルマンディー上陸作戦のことを指すのだから当然だ。
しかし、そのD−dayと今回のD−dayとでは全く意味が異なる。
前者のD−dayはアメリカの軍事用語で、戦略上重要な攻撃、もしくは作戦開始日時を表す際にしばしば用いられたものであり、後者はダンジョンの頭文字であるDから取って名付けられたものである。軍事用語でも何でもない。ただの俗称だ。
で、2週間も経てばあの日の騒ぎもそろそろ落ち着き、日常を取り戻しつつある。とはいえ、ダンジョンの発生で侵食された建物の被害のこともあるし、ダンジョン付近には警察が自衛隊が駐留しているので物々しい雰囲気が無くなったわけではない。
それでも人々は日常のように通勤通学を行っている。
斯く言う僕は未だ非日常を味わっている。誰よりも先にダンジョンへ突入し、様々なスキルやダンジョン由来のアイテムや資源を手に入れた。もちろんこれらの行為は見つかれば即逮捕案件であるが、転移やほか様々なスキルを有する僕を警察が捕まえるのは難しい。それ以前に見つからないだろう。
だが、いつまでもこうして法律違反をしている訳にはいかないのでなるべく早く民間に向けて開放してもらいたいところではある。
「せい!」
ロングソードを華麗に振り回しながらオオカミを屠る。オオカミが落とすのはウサギのよりも一回り大きいサイズの魔核である。他にはたまに毛皮や牙を残すこともある。
だが正直、毛皮は兎も角として、牙は小さ過ぎて武器には出来ない。精々が鏃として使うか、ネックレス、ブレスレットなどのアクセサリーにするかぐらいの用途しかない。
それと[経験値効率化]のスキルのおかげでどんどんレベルが上がっていく。
[経験値効率化]:レベルアップに必要な経験値量の劇的な改善及び魔物からの経験値取得量の大幅上昇。
というような効果を持っているため、僕よりも遥かに弱いオオカミであっても数匹倒せばレベルアップできる。
そうそう。ダンジョンでの生活環境向上のために色々持ってきたら荷物がかなり膨れ上がったけど、それでも背中には何も負荷がかかっていないように思えるくらいだ。
ここにもレベルアップの恩恵が感じられる。
少なくともD−day以前の僕の力では一寸も持ち上がらなかっただろう。
そんな重量物を背負って鋼鉄のロングソードを振り回せるのだから、本当にレベルアップの恩恵は計り知れない。
第二層でも宝部屋を見つけることができた。第一層と比べても何ら遜色はないが、もちろん中身は違っていた。
[ポーション(低級)]:骨折や打撲程度までなら治すことができる。部位欠損や生来の身体的欠陥の治療は不可。
入手したのはポーションだった。まあ、定番のアイテムではある。
しかし、低級でこの程度の効力を持っているのだから、これ以上のランクのものとなればどれ程の効力を持つのか····
少なくとも欠損部位は治せそうではある。
しかもこのポーション、無限に使えるのがまたチートを加速させている。というのも、このポーションには8時間というクールタイムが設定されており、たとえ一度使用してもそれから8時間後には中身が復活しているという寸法だ。
そういえば、いい加減血などの汚れが鬱陶しいと思っていたら、案の定スキルがインストールされて、
[浄化]
というものが追加されていた。
[浄化]:身体から物質、汚染されたものまであらゆるものを浄化する。浄化されたものは聖の属性を帯びやすい。
試しにこの[浄化]を使用してみれば、風呂で身体を洗うのでは比ではないぐらい綺麗な身体になった。ついでとばかりに服まで綺麗になっていた。
とはいえ、風呂上がりの気分になれるとかそういったものではないので、やはり気分もさっぱりしたいならばお風呂には入るべきだろう。
「うーん、この狼肉意外とイケるかも?」
今はダンジョンで昼食中。先程までのオオカミ狩りでいくつかドロップした肉を焼いていた。勿論、持参したカセットコンロと調味料でだ。
オオカミではあるが、魔物でもあるそれは、犬系であるのにどこか牛のような食感で、それも臭みや繊維の硬さは感じられない。
恐らくこれを何の肉か知らないで食べたら十中八九牛肉と答えるだろう。それも割と高めのやつ。
「野菜も持ってこれば良かったかなぁ」
とはいえ、野菜は持ってきても冷やせないため意味がない。
アイテムボックス的なあれが欲しいなぁ····
とか思ってたら
『スキル異空間収納をインストールしました』
やっぱり。ていうか遅すぎるくらいだ。物欲センサーに反応する[御都合主義]さんは一体何をしていたのやら。
[異空間収納]:容量無制限のアイテムボックス。内部の時間は完全に停止しており、無生物ならば何でも収納可能。生物であっても生命活動を停止していれば収納可能。
滅茶苦茶優秀だった。時間が止まってるって事は生物や消費期限が短いものも保存方法を考えずに持ち歩けるということだ。
しかも容量無限だから今まで以上にダンジョンに長期滞在することができる。これでよりダンジョン探索も捗ることだろう。
さて、昼食も食べ終えたし、今度は第二層のボスに挑戦だ!
恐らく大きなオオカミだろう。