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1話



そう。御都合主義は本当に御都合主義だったのだ。




8月某日都内某所


間宮藍華宅


「あ〜暑いよー····」


藍華が借りている部屋にはエアコンはない。絶賛扇風機フル稼働中である。

既にステータスとスキルの出現から一週間が経っている。世界は徐々に落ち着きを見せているが、多くの国々の政府はダンジョンについて詳細な情報の発表は控えている。


「そろそろバイト辞めよ」


アイスキャンディーをペロペロとはしたなく舐めながらだるそうに呟いた。


そうして眺める先には預金通帳。


「桁、間違えてるよね?」


本来なら十数万しか預金額のない通帳。今ならば軽く億を超えている。


「そもそもどこから振り込まれたんだよって話だよ····ちょっと怖い」


あれから黄金律がどのように作用しているのか気になった藍華は銀行の預金額を調べた。するとたったの一晩で億を超えていたのだ。あの時の驚きと恐怖と言ったらこれまで経験のないベクトルのものだった。


「お金、何に使おうか····」


お金がある以上はなにかに使って経済回さないと····。と、どこかズレた考え方で何を買おうかと通販大手のサイトを開く。


「うーん····取り敢えず新しいパソコンは買って···、後はスマホもか。で、うーん····」


う~んと、う~んと。と唸りながら何を買うか必死に決める。そもそも数十万使ったところで尽きることの無い程の金額が既に銀行にある。


結局、今まで乏しかったオシャレな服、便利な家電を新しく買った。


「あー、でもこの家じゃ手狭かな?」


そうして部屋をキョロキョロと見回す。


このアパートは築50年以上のボロアパートで、その分家賃は劇的に安い。部屋の壁は所々シミになっており、取れそうもない。床はギシギシと音を立てる。外壁も風化していた。


「お金はあるから····引っ越す?」


「でも何か罪悪感······」


藍華は自分で働いて得た訳では無いお金を使って贅沢することに強い忌避感を感じていた。


「でもあるお金は使わないと····」


よく分からない使命感に駆られる。


「やっぱり引っ越そうそうしよう」


決めたが早いか、不動産のサイトを開いて物件漁りを始める。

最終的に都内の1等地に立つタワマンの一室を購入することにした。


「罪悪感····」


藍華はなんだか申し訳無さそうな顔をしている。


「気にしてたら負けかな?」


もうその日は寝た。








翌日。


引っ越しを決めたとはいえそれはまだ一ヶ月以上も先にする予定だ。


「取り敢えずバイト行かなきゃ····」


まだ辞めるという話はしていないので取り敢えず今月の間は行かなければならない。


「おっ、藍華ちゃん久しぶり!」


バイト先の飲食店でオーダーを担当していると、たまたまお客さんの座席に高校時代の友達(女)が座っていた。


「久しぶり。小桃音(ことね)ちゃん。今勤務中だから····」


「ん、ああ。そうだよね!じゃあ注文言うね!」


小桃音はテンション高めで藍華にオーダーを伝えた。


「――――以上のご注文で宜しいでしょうか?」


「うん!」


結局何故か小桃音ちゃんは僕のバイトが終わるまで店内に居た。


「えっと、小桃音ちゃんは僕になにか用事があるの?」


「ううん。何にもないけど久し振りだったからお話したいなって!藍華ちゃんとっても可愛いね!服がオシャレ!似合ってるよ!」


小桃音ちゃんが怒涛の褒め殺しをしてきた。


「えっと····ありがとう?」


「あはは!キョトンとしてる藍華ちゃんも可愛いよ!」


僕のこの容姿だからもう可愛いと言われるのには慣れてしまった。

僕の容姿は控えめに言って女の子にしか見えない。更に低身長というおまけ付き。


「服、どうしたの?」


「新しいのネットで買ったんだ。ちょっとはオシャレしてみたいって思って····丁度臨時収入あったし」


「へぇそうなんだね!とっても似合ってるよ!肌スベスベで羨ましいよ」


「うん、ありがとう····」


「そういえばさ!なんか最近ステータス?とかスキル?とか!そういうの見れるようになったんだって!」


「あーうん。そうだね」


「それでさ!藍華ちゃんはどうだったの?」


「どうって····何か苦労した」


「それは!大変だね!私は何か魔法みたいなスキル?になったよ!」


どうやら小桃音ちゃんは魔法系のスキルを引き当てたようだ。


「へー!魔法かぁ。ロマンあるよね」


「ロマン!そうだよ!ロマンだよ!魔法って聞くだけでなんかワクワクするね!」


「あははは·····」


結局その日一日、ほぼ僕が一方的に小桃音ちゃんの話を聞くだけで終わってしまった。

疲れた。


それから帰宅した僕は簡単にサラダとスープを作って夕食にした。この身体に見合って少食だから、夕食はそんなに食べなくても事足りる。

これでも一応美容には気を遣ってるから寝る前とかの肌や髪のケアも欠かさずしている。

まあ、化粧品にかかっている費用もそれなりのものだ。今となってはお金の問題とは無縁になりつつあるが····


そういえば今日一日で新しくスキルがインストールされた。

それは[疲労回復]というスキルだ。小桃音ちゃんから開放されたときに疲れたーと思ったらインストールされて、すぐに疲れは吹っ飛んだけど、精神的な疲れまでは回復しなかった。


こういうところで融通効かない御都合主義って······はぁ。

何か[御都合主義]を手に入れてから溜め息吐くことが多くなった気がする。いや、確実に多くなった。


「御都合主義って疲れる······はぁ」


ほらまた。


今日はもう寝る。



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