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  作者: 中村文音
2/7

その三日後のことです。

明け方、うつらうつらしていた馬飼いは、いつのまにかひとりでほとほとと山を登っておりました。


「あれあれ、おら、寝床でぬくぬくしていたはずなのに、どうしただ。

 漆闇も連れず、ひとりで何も持たず、山など登っておるでないか。

 しかも、どうやらここは火の山らしいぞ」

 

 火の山は、今は静かにおとなしくしておりますが、過去に何度もすさまじい火を噴いたことがあって、それで「火の山」と呼ばれていたのです。

 そして、一度火を噴くと、火口から真っ赤に焼けた大岩がぼうんぼうんと投げ出されたり、火の溶けた熱い河が幾筋も火口から流れ出たりするのです。

 けれどそれはいつも突然で、いつ起こるかあらかじめ見当もつかないので、麓の村の者はみな普段から用心しておりましたし、ましてや用事もないのにわざわざ登ったりなどしなかったのです。

 それに、火の山は、危険を冒して登ったところで、面白いものも得になるものもなにもなかったものですから、馬飼いは不審に思いながらも、なにかに魅かれたようにうっとりと山道をあるいていくのでした。

  

 すると、いただきに向かう斜面に、これまで見たこともない真っ赤な穂が一面に生い繁っているではありませんか。

 驚いて眺めていると、その群れなす火のような赤い穂は風になびいて揺れ始め、その揺れが次第次第に大きくなっていって、赤い風が沸き起こりました。

 そしてその風が自在に吹き荒れる中を何かが走っているのが見えてきました。

 目を凝らすまでもなく、馬飼いの目には、それが一匹の若い馬だということがわかりました。

 馬はつむじ風のように渦巻く風を蹴散らしてこちらへ向かって駆けてきながら、おどろいている馬飼いの目をはっきりと見つめました。

 その驚きのまま、馬飼いははっと目を覚ましました。

 

 …そこは見慣れた自分の家でした。

 隣ではおかみさんと坊がすやすやと安らかな寝息を立てています。


「夢か…。こんなにありありと身にも裡にも感覚が残っているのに…。

 …それにしてもおかしな夢を見ただな。

 一体、何の意味があるのだろう…」


 朝餉の席で、熱いお付けをひとすすりすると、馬飼いはおかみさんに今朝見た夢の話をしました。


「…でよ、その馬と目が合ったところで、おら、目が覚めただよ」


 おかみさんは手を止めてじっと亭主の話を聞いていましたが、暫く黙って考えた後、きっぱりと言いました。


「そりゃ、おまえさん、早いとこ火の山に登ってみるだよ。

 そうしたら、きっと夢の意味もわかるだ」

 

馬飼いはちょっと驚いて答えました。


「…そうかもしれねえが…。

 けんど、火の山さ登っても、山は火を吹かねえだか?」


 山は昔から何度も火を吹いたと言い伝えられているのでした。


「大丈夫さ、おまえさまがなにもなく帰ってこられるよう、おらが氏神様でお参りをして待ってるだよ。

 だから、今日の帰りはまっすぐ家へ帰らず、お社に寄ってくれ」

 

 それでその日、馬飼いは火の山へ、おかみさんは氏神様のお社へ行くことになりました。


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