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ホットミルクとコーヒー

 

 男は台所で牛乳をミルクパンで温めていた。少年はダイニングテーブルに座っている。会話はなく、時折、ミルクパンに木箆きべらが当たる音が聞こえるだけだ。

 真っ白いマグカップに真っ白い湯気を上げる真っ白いミルクが注がれる。トロリと蜂蜜が垂らされ、銀のスプーンがクルリとかき混ぜた。

 俯いて座る少年の前にコトリと置かれたそれは早く飲んで欲しそうにその水面を揺らした。


「どうぞ」


 男は優しくそう言うと、カップの側に蜂蜜の瓶を置く。それにはハニーディッパーが刺さっている。


「足りなかったら好きなだけ入れな」


 男はそう言うと、自分用にインスタントコーヒーを入れ、ガス台の近くに置かれた丸椅子に腰を下ろした。そこは、少年の座る椅子よりも後ろで、男から少年の顔を見る事はできない。

 男がコーヒーをズッと飲む。少年もホットミルクを口にした。


「……おいしい」


「良かった」


 男は微笑み、またコーヒーを飲む。

 暫く、掛け時計の音だけが空間を満たした。

 静かに流れる時間が、少年の緊張をゆっくりゆっくり解していく。

 時々、ミルクパンに残ったミルクを温め直したり、コーヒーを飲んだり。男が立てるそんな日常の音が心地よく、温かいと感じる空間に少年は溢れそうになる涙をミルクと一緒に飲み込んだ。


 俯く少年のミルクが半分ほど減った頃、ドサリとテーブルに大きめの買い物袋が置かれた。中には食材やら日用品。次いで、十八個入りのトイレットペーパーが二つと五箱セットのティッシュが二つ。乱暴にテーブルに置かれる。

 ビクリと肩を震わせ、袋を置いた人物をそっと見上げた。そこには背が高い青年が少年の背後を睨め付けていた。


「……お、おかえり……」


 少年の背後から男が気まずそうな声を出した。


「何がおかえりだ、てめぇ」


「ご、ごめんて本当に!」


 男はそう言いながら、テーブルに乱雑に置かれた物を確認していく。


「全部持って帰ってきてくれてありがとう。重かっただろ」


 男がヘラリと笑って言った。青年は大きく舌打ちをした後、少年に目を向けた。


「っ」


 息を詰める少年に、青年は何も言わず、離れた椅子に腰掛けて置いてあった新聞を開いた。そして、男に一言。


「コーヒー」


「はいよ」


 男は食材を冷蔵庫にしまい、コーヒー豆が入って瓶を棚から取り出した。

 ポットのお湯をやかんに少し移し、火にかける。ミルに豆を入れコリコリと挽き始めた。


(そ、そこから!?)


 少年の驚きの表情には気付かぬまま、リズムよく豆を挽いていく。

 やかんが悲鳴があげるとケトルに移し、ドリッパーとサーバーにお湯を通し、コーヒーカップにも注ぐ。


(そこまで……)


 少年の顔は驚きを通り越し若干呆れた表情だ。

 男はペーパーフィルターをドリッパーに密着させ、粉をセットする。

 ケトルからゆっくりとお湯を注ぎ始めた。フワリと香り立つコーヒーの香りと共にどこか張り詰めていた空気が溶ける。

 三回に分けて丁寧に淹れられたコーヒーはコーヒーカップに注がれ、新聞を読む青年の前に置かれた。


「お待ちどうさま」


 青年は新聞をテーブルに置くと、無言でドリップコーヒーを一口。すると、鋭かった目が少し和らいだように少年には見えた。


「おい」


 青年が少年の視線に応えるように声をかけた。


「は、はい」


 ビクつきながらも返事をした少年に青年は切れ長のそれをスイッと向けた。


「生きてて、良かったな」


 存外に優しいその声音と視線に、少年はその丸い目をさらに丸めた。青年は再びコーヒーを口にし、小さく口元を緩めた。


(あぁ、いい人なんだ)


 ここにいる二人は、きっと自分を傷付けない。優しい人達なんだ。

 少年はふとそう思い、小さく「はい」と返事をし、その赤らんだ頬に今度は涙を伝せた。


ここまでお読み頂きありがとうございます!

かっぱ太郎です。


あれ?名前出てないうえに新キャラ登場!?

当初はですね、出てたはずなんですよ!

ただ、書き進めたら、こうなってました……

すみません。

次回は出します!


引き続きお付き合い頂けましたら幸いです。

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