とあるネット人間の異変
インターネットの神視点×
インターネット人間の視点◎
「ーー大樹。」
パソコンの光だけが目に入る薄暗い室内。
なかなか開かれることのない扉の外から僕を呼ぶ声が聞こえた。
無視する。
気にしないでパソコンの画面に集中する。
数秒、扉の外の気配は佇んでいたが、やがて諦めたかのように足音をたてて去っていった。
それでいい。いつものようにそれで。
どうせわかっていたことだろう。
これ以上僕に構わないでくれ。
ーー宮本大樹。
それが僕の名だ。
引きこもるようになってからもうすぐ二年だろうか。
壁にかかった一年以上前のカレンダーを見る。
表示されている月は六月で止まっている。
(六月か。)
二年前の自分も高校に通っていたということを思うと、なんだか不思議な気分になってくる。
(まぁ、どうでもいいことだけど。)
すっかり興味をなくした僕は再び目の前の画面に視線を集中させる。
どうやら今日はクリスマスらしい。
ーーリア充爆発しろ。
ーー俺氏今日は彼女とお家デート。画面の中の彼女とな!!
ーークリスマスって必要なくね?爆発してくんねーかな(切実)
目の前に表示される頭の悪いコメントを眺める。
しばらく無心に眺めてから、ふと窓の方を見る。
カーテンの締め切った窓は、外の景色が見えるはずもない。
それにしても。
「クリスマスか。」
きっと世間ではバカ騒ぎだろう。
部屋を飾って、ケーキを焼いて、チキンを食べて。
そんなクリスマスを過ごしているんだろう。
かつて、僕がそうだったように。
(もう、家族で祝うなんてことはないんだろうな。)
僕の家はもう壊れてしまったから。
ーー壊して、しまったから。
時間が戻るなんてことはあり得ないし、戻そうとも思わないけど。
ただ、少し懐かしくなった。
久しぶりに、外に出てみようと思った。
まだまだ続きます。