目覚め
―――――
――様
(呼ばれてる気がする…)
――夜様
(うーん…)
「輝夜様、お目覚めの時間でございます」
その声で完璧に目が覚めた。
目を開けると、見覚えのある姿が目に入る。
「…喰」
名を呼ぶと、ひどく整った顔はふわりと笑った。
「なんでございましょうか。」
「今は?」
聞く者によっては何を聞かれているかわからないであろう質問をする。
しかし私の従者はしっかりとその質問の答えをくれた。
「輝夜様が眠りについた二百年後の水無月の黎明でございます。」
そうか。そういえば、ちょうど二百年後に起こしてって言っといたんだっけ。
知りたい情報を得た私はようやく布団から身を起こし、あたりの状況を確認する。
二百年間眠っていたのにもかかわらず、敷き詰められた畳の上には埃一つ落ちていない。
私が寝ていた室内は眠った頃から特に違いはない。
むしろ違いがなさすぎる。
――まぁ、特に問題はない。
次に私は目を閉じて屋敷全体を視る。
私が眠っていた寝殿のほかに、いくつか見覚えのない建物が増えている。
屋敷の敷地も幾分か大きくなっているように思える。
私は早速側に控える従者に説明を求める。
「…喰。」
「なんでございましょう。」
「説明して。」
字面だけ見るとなんの説明を求めているかわからないだろうが、そこは私の従者、しっかりと私の質問の意図を汲み取ってくれたらしい。
「はい。輝夜様がお眠りになられる前、屋敷のことは任せると仰せになられましたので僭越ながら私と瞑の二柱で屋敷の拡張と建築をさせていただきました。」
なるほど。そんなことを言った気がしなくもない。
「お気に召さないようでありましたら、輝夜様がお眠りになられる前の状態に戻すことも可能にございますが、いかがなさいましょうか。」
「いい。特に問題はない。」
まぁ、広くなったところで特になんの影響もないしね。
「かしこまりました。では、こちらにお召し物を用意しております。」
そういうと、私の従者は亜空間から私の着替えを取り出した。
それを膝をついて私に渡すと、私にこう告げた。
「私は外に控えておりますので、お召し替えが終わりましたらお声をおかけくださいませ。」
失礼します。そう告げた後、一礼して私の従者は出て行った。
渡された服を眺める。昔から変わることのない私の服装。
白衣、緋袴、襦袢、掛襟、千早、足袋、その他諸々。
ふと思う。
――いつからこれを着ていたんだっけ。
ずっと前から着ている気がするし、つい最近着始めた気もする。なんで着始めたのも覚えていない。
(まぁ、理由に関してはだいたい見当がつくけど)
とりあえず、そんなことを考えていても仕方がない。
着替えを始めなければ。
まずは今着ている寝間着を脱ぐ。
それから、肌着を着用した後、襦袢、白衣を着る。
帯を巻いたら緋袴を手に取る。着用して足袋を履く。
最後に千早を羽織り髪を整える。
(そろそろ髪を切りたいものだな…)
ひざ裏より少し先…
ふくらはぎほどまである髪を見てそう思う。
喰に相談してみるとしよう。
そんなことを考えているうちに全ての用意が終わった。
水無月ーー六月
黎明ーー明け方
柱ーー神の数え方、人柱、二柱と数える