第四十八話 演奏会とは・・・?
第四十八話 演奏会とは・・・?
トーマスを退散させてから数日。
イスーの露天商に量産してもらったアクセサリを回収する気も今一つ起きなかったので、のんびりと肉体改造をしながら宿屋で過ごしていた。
時々、ロワールの教会や新環騎士団の詰所に顔を出しダラダラと世間話などをして時間を潰していた。
そんなある日の事、シゾーが何やら演奏会をするからと案内を書かれた紙を渡される。どうやら公園で行う様だ。
そう言えばシゾーは最初に会った時、背中にギターケースの様な物を背負っていたのを思い出した。
この世界の様子ならリュートの様な物だろうか?気になってはいたが、それも演奏会当日になれば分かる事なのでわざわざ今聞いてしまうのは無粋という物だろう。
そんなこんなで演奏会当日、少し早めに来た私を何故かベティが案内してくれたのだが、そのベティの様子がおかしい。
いや、もう、それは文字通りの意味である。謎のダンダラ模様のハッピを来て鉢巻を頭に巻いている。
ベティとは、初めてシゾーに会った時に一緒に水浴びをした仲だが、どのような人物か深くは知らない。
だが少なくともあの時の様子だと、それなりの堅物だったはずだ。だがなんだろうこの浮かれようは。
それにこの世界でハッピに鉢巻なんて、後は光る棒とか持っていたら完全にアウトだろう。
そして極めつけはステージにある機材である。どう見ても地球でいうドラムセットによく似ている。しかも何やら魔道具の様な箱がいくつも並んでいる。
そんなステージを横目にベティの案内と説明を受けたのだが、ベティが何を言っていたかは全く頭に入ってこなかった。
演奏会(?)は野外なので立ち見ではある物のどうやら関係者や身内用の席が最前列にあった。
ベティはそこに案内してくれたのだが、周りを見れば私以外は皆ベティと同じ格好をしている。
(なぁ・・・リリィ・・・。こういうのってこの世界では頻繁にあるのか?)
(う~ん・・・ないと思うわよ?少なくとも私の知る限りでは・・・)
(デスヨネー)
(あ、でも、逆っていうか、まぁ音楽に関してだけは、こっちの歌が地球に移動してる事はあるわね~)
突然のカミングアウトに少し驚きながら聞き直す。
(どういう事だ?)
(まぁ話すとアレなんだけど、私が聞いた歌を向こうで鼻歌で歌っていたらね、なんだっけ、ほらニュクスの灯の芸能部門をまとめてるPっていうの?いるじゃない)
ああ、確かにニュクスの灯には、芸能部門でアイドルや芸人などをしているエージェントがいる。
それは、そういう世界で何か事件が起きても気づかれずに介入できるように潜入していたり、元々芸能人だった人物が覚醒などしてもそのまま仕事を出来るようにしているからだ。
そこのプロデューサーの事を言ってるんだろう。
(ああ、植下とか、マクスウェルとかだろう?)
(そうそう、そのウエシタに聞かれちゃってね、その曲が気に入られてから使われて以来、時々歌を教えてるのよ)
(おいおい、それって・・・まぁ世界も違うし、ああ!そう言えば、稀にアイドルグループ、アオエデーの作曲が聞いたこともない人名になっているのはそれが原因か)
(まぁそんなところね)
そんな思念をやりあっていると、ギュィーーーンと明らかに金属いや、電子的な音が聞こえる。
そこからドラムとベースがリズムを刻み、音楽を奏でていく。ステージには、それぞれ違う獣の顔をしたアニマワイルディが5人いる。
もう、メンドクサイからハッキリ言おう。
どう見ても、聞いても、狼のシゾーが弾いている楽器はエレキギターだし、隣の猫のもエレキだし、狐はベース、馬はキーボード、リスはドラムである。
しかも、曲調は、完全にロックとかメタルとかそういう奴だ。シゾーも時折シャウトしている。
観客席も観客席でリズムに合わせて跳ねるは手を上げるはで、時々曲に関係ない黄色い声も響いている。
"演奏会"って案内の紙に書いてあったよな・・・?翻訳完全に間違えただろ?もうコレは演奏会ではなく完全にライブだ。
まぁ、こういうノリは嫌いではないが、なんていうかファンタジーな世界に来た気分を台無しにされてる感はあるよな?
そう思うのは私だけじゃないはずだ・・・。たぶん。
とはいえ、演奏の完成度は高くそうそう簡単には真似出来ないだろう。それぞれの楽器のテクニックを駆使しながら絶妙なバランスを保ちこの公園を盛り上げていく。
それは素直に凄い物だと思う。時々、地球に輸出された為に私でも知っている曲なんかもあった。もちろんアレンジが全然違うので別の曲と言ってもいいだろう。
気が付けば、私もノリノリになり虜にされていたと言っていいだろう。
そんな楽しい時間はあっという間に過ぎて、シゾーが皆に向かって話だす。
「残念な事に、今日はもうあと一曲となっちまった。だが、そのラストソングの前に!今日は皆にスペシャルゲストを用意したぜぇい!」
そう言うと少しばかり歓声があがり、シゾーはステージから降りて来て、そのまま私の前に来ると手をしっかりと取りステージに引っ張っていく。
「え?ええ?サー・シゾー、これはどういう事!?」
そのまま問答無用にステージに上げられてしまう。
「みんなも知っていると思うが、最近物騒な事件がこの王都で多発している。その中で他の国から来てくれ、しかも何の関係もないのに、命を賭けて巨悪に立ち向かってくれた新たな聖女、ノア嬢だぁー!」
そう叫ぶと被っていたフードをシゾーは取ってしまい黒い眼と黒髪が観客にさらされる。
それなりにハプニングに巻き込まれてきた人生ではあったのでパニックに陥る事はないが、それでもこれは心臓に悪い。
一瞬、沈黙が起きたと思ったが、オオーーと時間差で歓声が上がり、所々でノアちゃーんと声が上がった気がしたが、聞こえなかった事にした。
「それじゃ、ラストソングはノア嬢と一緒にいくぜぇい!」
そうシゾーが言うとマイクらしきものを渡してくる。
「ちょっと、サー・シゾー!?いきなり歌なんて歌えないわよ?」
そう小声で言う。するとシゾーは、心配するなって似合わないウインクをして見せて小声で言う。
「なに、心配ないさ、ノア嬢ならきっと問題なく歌えるさ」
それからシゾーは離れてギターを弾きだす。
さっきまでロック調ではなく、明らかにバラード的な出だしだ。
少し長い前奏は、何処か聞いたことある曲だった。いや寧ろ、まるでその曲を昔から良く知ってるかのように心が動き出し伴奏と混じり合っていく。
そして不思議な事に歌詞が自然と溢れてきて、どこが歌い出しなのかも全てを熟知しているようだった。
蒼い月が照らす 湖畔の細波が
銀の欠片を 絵描いては 消していく
通り過ぎていく 銀色の星空が
あの熱を消す様に 湿らせていく
季節が廻り 花が開く様に この想いは輝いていく
もしこの世界が 夢幻と言うならば
永久に この優しい天使の揺り籠に 身を任せていたい
されど 人は戻らぬ風に吹かれて 旅をして
悠久の 風に誘われて 季節を巡り 始まりへ向かう
遥かに 恋い焦がれるのは 希望の未来
この身を 白銀の蝶にして 青空を舞い踊ろう
やがて出会う 優しいあの人の 詩を口ずさみ
いつの日か 微笑む姿で そんな朝焼けを迎えたい
天の涙の煌めきが 山林を渡り
金の鼓動を 生まれては 返していく
過ぎ去っていく 金色の夕暮れが
その追憶を輝かせる様に 高鳴っていく
季節は廻り 果実がなる様に この想いは紡がれていく
もしこの日々が 幻想だと言うならば
永久に この安らかな聖母の眠り歌に 包まれていたい
されど 今も百代の過客は 後ろを押され
果てない 大地の導きに 軌跡を辿り 終わりに向かう
彼方に 願い想うのは 虹色の朝焼け
この心を 黄金の獅子にして 草原を駆け廻ろう
今も忘れぬ 雄々しき英雄の 運命を語り
いつの日か 凛々しき姿で そんな黄昏を迎えたい
優しい風に抱かれて
雄々しい光に包まれて
天使の賛美を浴びながら
最期われるなら
悲しみには染まらない
遥かに 恋い焦がれるのは 希望の未来
この身を 白銀の蝶にして 青空を舞い踊ろう
やがて出会う 優しいあの人の 詩を口ずさみ
いつの日か 微笑む姿で そんなを迎えたい
彼方に 願い想うのは 虹色の朝焼けを迎えたい
この心を 黄金の獅子にして 草原を駆け廻ろう
今も忘れぬ 雄々しき英雄の 運命を語り
いつの日か 凛々しき姿で そんな黄昏を迎えたい
気が付けば、身体が勝手に歌い全てが終わっていた。
「一緒にいくぜぇい」と言ったシゾーは結局一切歌わなかった。
しっかりギターは演奏していたので、初めからそういうつもりだったのかは良く分からない。
観客席は静まり返っていた。いや、何処からかすすり泣く声も聞こえ、誰かが拍手をしだすと一斉に広がりまさにスタンディングオベイションに変わった。
まぁ、そもそもにして立見席しかないのだが。
それからシゾーも握手を求めてきて握手をすると予想以上に素晴らしかったと感激していた。
今一よくわからずに身体が勝手に動いていた感じだったので自分でどうだったのかよくわからないのだが、シゾーが喜んでいたのならそれでいいだろう。
その後、観客に礼を言うと観客席にも流石に帰れないので舞台裏へと隠れるように向かった。
なんだか疲れた。でもどうしてだろうか?前も馬車の中で突然歌を歌いたくなった時もよくわからない歌を歌っていた気がする。
うーん?なんだか妙な事になっているのだろうか。




