第四十三話 孤児院の少女
第四十三話 孤児院の少女
それからロワールは反対側の花壇のベンチに腰を丸めて座ると何か思い更けるように座っている。
やれやれ、どうにも覇気のない老人が項垂れている姿ってのは見て見ぬふりがし辛いな。
「困りましたわ。司祭様なのか、神父様なのか、牧師様なのか、私には分かりませんが人様の悩みを聞いて道を示す方がこの有様では救いがありませんわね」
ロワールの前に立ちそう言う。それを聞いて神父は顔を上げ私の顔を見つめる。
日は傾きかけ、建物影になっているこの場に映る歳を重ねた男の顔は既に色彩を失っていき、それが心の色彩すら失った景色の様だった。
そこにある余りの情景に私はどんな顔をすればいいのか分からず、ただ地球でこんな時にする顔のネタだけがよぎったので、その通りに微笑む事にした。
「嗚呼・・・神よ・・・」
ロワールはただそれだけを小さく声にする。
「袖すり合うも何かの縁と言いますわ。お話を聞くだけなら別に何があるわけでもないでしょう?ただ、もう遅いので代わりにどこかいい宿でも案内してほしいですわ」
それを言うとロワールの目に少しだけ色彩が戻った気がした。
「あ、ありがとうございます。その、大したおもてなしも出来ず、質素な部屋しかありませんが良ければこの教会に泊まって頂けませんか?」
「ええ、ロワール様がそれでよろしければ私は構いませんわ」
「ありがとうございます・・・本当に・・・」
それから、教会に入り夕食の支度を手伝いお互い落ち着いて話せるように夕食を済ませた。
どうやら、この教会に住んでいるのはノワールだけのようだ。食事も質素なパンと、いわゆる地球でいうトマトのスープで豆を煮込んだだけの物だった。
何処の家にもある魔道具の光が柔らかく包む部屋で互いに向かい合うと、ノワールはポツポツと話し出す。
この教会はデア派の教会であり、かつては身寄りのない子供達が住む孤児院だったそうだ。
その当時からこの国ではサンクティフェミナ派が勢力が大きく、教会といえど裕福とはいえず数多い孤児達との生活を少ない寄付だけで支えながら生活をしていた。
だが、信心深く無欲な彼にとっては、そんな生活も修行の一環でもあり、清貧と言う中で見つけた幸せでもあったと言う。
そんな彼と共に生活を支えていたのが、孤児の中でも最も年長で白髪の綺麗なメリーという名の少女であったという。
デア派では聖歌など特に重視はしないのだが、ご時世もあり寄付を頂くのに子供達が歌う聖歌とは大きな意味があり、彼女も又、孤児達の生活を楽にしようと子供達と歌っていた。
何時の頃か、彼女の歌は人を引き寄せる程の美しさを持つようになり、巷でも噂になるほどであった。
そんなある日の事、彼女はサンクティフェミナ派のザーザス司教を連れてきて、そちらの教会にお世話になると言い出したのだった。
ロワールは、突然の話に驚きを隠せなかったらしい。だが、確かにサンクティフェミナ派で暮らせば日々の食事に困る事もなく、彼女の好きな歌も何も気にせずに人前で歌えるのである。
それを思うと彼は強く反対する事も出来ずにメリーがサンクティフェミナ派に行くのをただ見送る事しかできなかった。
それから、彼がメリーの姿を見たのは1年ほど過ぎた時だった。髪は何故か黒くなり、聖女候補と言う立場にいて、あのザーザス司教は大司教という肩書きに変わっていた。
そして彼女の髪が白から黒に変わったのは、サンクティフェミナ派での活躍が神に認められた奇跡であり、聖女の力が宿った姿という話が国中で囁かれるようになっていたのだった。
それからというもの、ロワールの所にいた孤児達は、一人二人と知らぬ間に彼女の教会の方に移って行き、気が付けばこの教会にロワール一人になっていたという。
それでも彼は子供たちが幸せならそれでいいと思っていた。いや、正確にはそう思う事で自分を納得させていたのだ。
しかし、時が経つに連れて聞こえてくるメリーの噂には、悪い物が混じりだすようになっていった。
初めは聖女候補として国政にも口を出すようになると言う小さな話話から、次第に民の生死に関する事まで決めるようになったとか、幼い女王を傀儡にして贅を極め国政を歪めているとも、内容はだんだん酷くなっていったのである。
だがロワールにとってはその噂は信じられない物ばかりだった。
何故なら、かつてのメリーは貧してもその心は清らかさを失わず噂で言われるような人物とは遠くかけ離れた存在であったからだ。
ロワールはその真偽を確かめたいと思っていたが、予想以上に彼の立場は弱い物であり、何一つ調べる事は出来なかったし、メリーに会う事すら叶わなかった。
だからこそ、彼はあの時にしっかり止めていればこんな事にはならなかったのではと今も自責の念に駆られるのだった。
そんな迷いの中に、メリーとは違い瞳までしっかりと黒く、人嫌いのホワイトパピリヲをすら纏う黒髪の少女の存在は、デア派の神父のロワールですら罰か救いを与えにきた聖女に見えたとのことだ。
話はそんなところであったが、実に面倒な話を聞いてしまった物だ。聖女の真偽なんてどうでもいいが、どこぞの俗物の所為で一人の少女の生き方が変わり、その御蔭で簡単に終わりそうな依頼の一つが非常に難しくなってまったという事か。
ちょっと、城に強引に忍び込んでザーザスとか言う輩をボコしてきたい気分なんだが、それをするとさらに面倒な事になりそうなんでやめておこう。
何より、城に侵入されるという失態でキャロルルの想い人を無職にするわけにもいかんし、新環騎士団が解散とかシゾーまでお役御免になったら、最悪今回の働きの請求先がなくなってしまう。
やれやれ本当に面倒なことである。だけれども私の感情とは真逆に、ロワールは話すことで少しは心がスッキリしたのかライト一つの部屋というにもかかわらずに顔色が良くなったように見える。
少しは彼が楽になったのならまぁ良しとしよう。
根本的な解決はしてないが、こればっかりは仕方あるまい。ただ成る様にしか成らないのが世の中である。それにロワールは結局、本当の所は何を願っているのかハッキリしないし、よしんばそれが分かってもその願いを叶える様な人物では私はない。
ただ、まぁそうだな。殺るか、殺られるかの世界で私とメリーが出会ったなら、何も聞かずに殺し合いをしなくなったくらいであろう。何故ならメリーよりもザーザスの方に私のヘイトが傾いてるのからだ。
人様の仕事を遠まわしにも邪魔をしているのは、やはり何度考え直しても腹正しいな。
まぁわざわざ国の重要人に手を出してお尋ね者になるつもりもないのは事実ではあるが、邪魔されて「はいそうですか」と放置するのもどこか癪である。
ちょっと嫌がらせをするくらいは、やっておきたい。
ふむ、とりあえず明日は、先にペリノア卿に手紙を届けてから、ギルドに行き魔物討伐の報酬を貰い、新環騎士団の街中にある詰所って奴を探して情報収集をするとしよう。
そんな事を頭の片隅で考えながらロワールとの話を終え、借りた部屋で眠りにつく事にした。
因みにリリィもこの話を聞いてはいたが、この事については余り干渉する気は無い様だ。つまり、「ノアちゃんの好きにすればいいんじゃない?」という返答であった。
遅くなりました。
右手の抜糸もおわり包帯も取れて普通に使えるように漸くなりました。
まだ、腫れが消えないのと指が完全に伸ばせませんがなんとかキーボードを打っていきますのでこれからもよろしくお願いします。
※ 実は前回の首都の名前がおかしかったので直しておきました。




