第四十二話 白い花と白い蝶
第四十二話 白い花と白い蝶
煙と同時にトーマスや、反乱軍の姿は綺麗さっぱり消えていた。ついでにリリィも元のサイズに戻って鞄に入っていく。
「残念。大金が逃げてしまいましたわ」
そう私はおどけて言いながらシゾーを見る。
「首が斬れなきゃ仕方ねぇさ」
「そうですね。流石の私も手刀で首を切るような修行は積んでいませんしね。それで、サー・シゾーの方はどうだったんです?」
そう聞くとシゾーは、慌てた様子で答えだす。
「あーそうだった。ちっとメンドクセェ事になっててな。すまねぇ。結論から言うと直ぐには団長には会わせられねぇ」
「どうしたのです?」
「それがな、団長は姫の護衛に回ったんだが、どうも今回の事件に過剰に反応されちまった様で城への出入りが出来なくなってる。副長の俺でも入口までしか入れねぇ」
その状態を不服そうにシゾーは言う。
「確か新環騎士団は、女王直轄の組織ですわよね?その副長が城にすら入れないなんておかしな事になっていますね」
「大方、大司教の野郎が聖女候補を使ってそう言う風にしたのだろうさ。そんな分けで、会わせてやるって言ったもののこの体たらくですまねぇ」
言葉は荒いが、本当に申し訳なさそうにシゾーは謝罪する。
「この件に関しては仕方ありません。それに、私も本来の依頼がありますので少しの間、此方に滞在致します。ですのでまだ時間はありますわ」
「そう言ってもらえると助かる。俺達は陛下の直属騎士故に基本的には城の中にいるのだが一応城外活動用の拠点も設けてある。暇が出来たらそっちに来てくれ。何方にしても俺達も当分城の中には入れないだろう」
そういうと、紙と鉛筆の様な物を取りだして、住所と簡単な地図を描き私に渡す。
「ありがと御座います。これで本日の御代を請求しにいけますわ」
冗談混じりに言うと、ハッとするシゾー。
「あー・・・そういえばそうだったなぁ・・・」
どうやらすっかり忘れていたようだ。ここに滞在するにもお金は掛かるし、何より善人になる為にこの世界に来ているわけではないので、取れるものはしっかりと徴収しておく。
「さて、これ以上時間を潰して新環騎士団の財政状況を悪化させるのも悪いのでここらでお暇させてもらいますわ」
「そうだったな。今回は本当に助かったぜ、感謝する。またな!」
「ええ、またお会いしましょう。それでは失礼いたしますわ」
いつもの如く丁寧にお辞儀をする。
「キューーィ」
リリィも機嫌がいいのか、鞄から顔をだしてシゾーに挨拶をする。
その場を離れると私はポシェットから洗濯機能で新品同様になったフード付きのコートを被り髪が目立たない様に街を散策する。
先ほどの騒ぎで街の雰囲気は良くなかった。通路には、土と草が入ったままの割れた植木鉢が散乱している場所があったり、ガラス窓を割られている家もあった。
やはり人はどこも殆ど歩いてはいなく家に閉じこもっているのだろう。明日になれば活気溢れる街に戻るのだろうか?
とりあえず今日の所は大人しく宿屋を探して休もうとするも、実は何の下調べもせずに一気にここまで飛んで来てしまったので何も知らない事に気が付いた。
さて、どこか落ち着ける場所でも探してポシェットの中にある本でも開いて色々調べたい所だが、今日の混乱で店は殆ど開いていない。
店以外だとすると、公園あたりか・・・などと考えていると視界に映ったのは古ぼけた教会だった。
ああ、教会なら落ち着いて本を読む事ができそうだ。そう思い教会の中へ入っていくと入口の庭に大きな花壇が左右に広がっている。
どちらの白い花のみが咲き誇っており不思議と興味をそそられので花壇に近づいてみる。
僅かに甘い匂いが漂ってくる。この花の匂いだろう。
白い花は全て同じ種類で、細い一つの茎に必ずと言っていいほど小さな花を6つ咲かせている。そして、その花には白い蝶が蜜を吸いに来ているのか集まっていた。
(綺麗な花だな。リリィはこの花の名前って知っているのか?)
(え?ええ、それは白六花草ね。この国の国花で、周りに飛んでいる白いアゲハ蝶がホワイトパピリオって名前でこれもこの国の国蝶よ)
(へぇ。セットで国を代表する動植物か。そういえばルーガス王国の旗に蝶と花をあしらったマークがあったのはこれか)
(そうね。両方ともこの国では今でも大切にされているわ)
ちょっとリリィの言い回しが気になったが、それよりも気になることがあるので質問をする。
(へぇ。ところでこの、ホワイトパピリオだったか、人懐っこい蝶なのか?)
少ししゃがんで見ていただけで、人間に興味があるのか何匹もの蝶が人の周りを飛んだり、止まったりを繰り返している。
(あ~。うん。どちらかというと人間嫌いな蝶だけどね)
「うぇ!ヒャヒャヒャ・・・こらこらやめなさい」
突然蝶がフードの中に入ってきて狭い中を羽ばたいて顔をくすぐるので驚いて声がでてしまった。慌ててフードを取り蝶を自由にする。
すると何を思ったのか、フワフワ飛んでいた蝶達が人の髪に集まって止まりだす。
(フフフ、ホワイトパピリオ、ノアちゃんの髪の毛にご執心ね~)
(なんだ、虫まで私の黒髪が珍しいっていうわけ?)
(さぁ?まぁ害はないんだし気のすむまで遊ばせておけば)
そうだなぁ。まぁ別に悪さするわけでないし、ここ最近殺し合いの真っただ中ばかりだったので、こういうメルヘンチックな事に身を置いて心を落ち着けるのもいだろう。
幸い、花壇の傍には長椅子もあるし、塀や教会の建物自体で今は日陰になっているから、ここで調べものをするのもいいだろう。
そう思い長椅子に座りポシェットから地理関係の本を取り出してこの首都の事を調べて見る。
この街の名は首都オアキー。人口は約1万人。首都ではあるが、イスーの人口の半分しかない。もともとルーガス王国は小国であるので廃れて人口が少ない分けではない事を付け加えておこう。
ルーガス王国の最西は海に面している。その海は海岸線から一気に深くなっていて大型船の出入りが容易に出来る。その為、大きな港が存在し、そこが大陸同士の貿易の要として機能し莫大な国益を生み出していた。
また魔法が使えない事も有利に働いており、貿易品の入ったコンテナが反社会勢力的な者らによって燃やされたり破壊されたりする恐れがない事で他国の信頼を得ていた。
それ故、国は小さくても財源があり、この首都の造りもかなり平らな石造りの道路で、街の建物もしっかりとした品のある物ばかりだ。
そして何より街の何処からでも見えるシャープで高い塔がついたセンスある白い城は来たものを圧倒させている。
街の造りは、イスーと違い平面構造で城から伸びる大通りを中心とし道が垂直に枝分かれし典型的な升目の構造をしている。どうやら宿屋が多い地区は南西側のようだ。
そんな事を確認していると誰かが此方を見ていたので視線を向ける事にした。正確には少し前から気が付いていたが、その気配は何もせず、敵意も見せずにいるので区切りがいい所まで放置していたのだ。
此方を見ていたのは、60歳すぎくらいのヒューマーの男性だ。服装からすると恐らく聖職者だろう。ここの神官かもしれない。
彼は建物の入り口に佇んでいたが、此方が気が付いたのに気が付くと慌てたかのように此方にまでやって来て手を合わせ膝を地面についた。
彼が近づくと私の周りで飛んだり止まったりしていた蝶達は慌てるかのように皆、花壇の白い花の方へ行き姿を消してしまった。
「すみません。少し静かに調べものをしたかったのでこの場所をお借りしていました。どうかお顔をお上げください。私は、只の冒険者ですので」
そう、伝えるが反応が中々返ってこない。暫くしてから漸く彼は声を静かに発した。
「あの・・・いえ、私はここの教会の責任者、ロワールと申します。その、聖女様が此方に来られましたのは、やはりあの子の事でしょうか・・・?」
あの子・・・?何か勘違いしているようだな。
「ロワール様、私、先ほども申した通り聖女なんかではなく、只の冒険者ですわ。たまたま眼と髪が黒いだけです」
そう言うとロワールは私の顔と眼をよく見てから納得いかなそうな顔をする。
「そうで御座いますか・・・」
ロワールは何処か残念そうに言った。
遅くなりましたー。それでは、今回もどうぞよろしく。




