第四十一話 トーマス・ハイアット
第四十一話 トーマス・ハイアット
「あら、どちら様かしら?」
胡散臭いひょろ長いメガネの男に声をかける。
「これはこれは、初めまして聖女様。私の名はトーマス・ハイアット、以後お見知りおきを」
嘘っぱちの恭しさをまき散らしながら男は名乗る。
「私プロテノア・スパングルと申します。残念ながら聖女ではなく只の冒険者ですわ。ですので首謀者と言われている貴方の首を持って行ったらどれだけお金がもらえるでしょうねっ!!」
そう言いながら大鎌を振り回し男のいた場所に振り下ろす。
なるほど。男のいた地面に大鎌は確かに刺さっているがトーマスの身体はない。
確かに当たる寸前まで、ボサッと突っ立ていたので自ら避けたというよりも何かに避けさせられたと言った感じだ。
「これは、こわいこわい」
一切、恐れる気配はなくおちょくっている感じだ。
「へぇー。もしかして面白いスキルかアイテムを持っているのかしらっ!」
そう言いながら移動したトーマスに苦無を2本投げつける。
すると、また当たる寸前にまるで瞬間移動したかのように1メートルほど横に佇んでいる。
「私に武器は聞きませんよ。ですが流石ですね、レベルの存在しない身体に、戦闘能力が12万ですか。神に造られたというのはあながち嘘ではないのかもしれませんね」
タッシロー支部支部長メイクルと同じ能力のスキルか、アイテム持ちか。
「あら、乙女の秘密を覗き見なんて躾のされてない残念な殿方ですのね」
「いえいえ、挨拶中にそんな大物で切りかかって来る貴方ほどではありませんよ。直々に私が躾てあげましょう」
そう言うと、素手で構えたと思うと一瞬で間合いを詰めてくる。中々早いな。大鎌を牽制で振り回すと前に瞬間移動してきた。
「な!?」
「悪い子にはお仕置きですね!」
その声と同時に低い位置から腹部に向かってのアッパー気味の拳が飛んでくる。一瞬で大鎌をはなして自らアッパーの威力を軽減させる為に飛ぶ。
派手に宙を舞うが受け身とはそういう物なので、相手と距離を取り両足でしっかりと着地する。直撃すれば中々の威力かもしれないが、セバスの一撃に比べれば遠く及ばない。
「へぇ、やるじゃない」
「此方こそ驚きました。まさかアレの直撃を防ぐとは」
「でも貴方より遥かに強い素敵な紳士を知っていますので、あの程度どうという事はないですわ」
その言葉を聞くとトーマスは、ムッとした表情をだす。
「私より強い?面白い冗談ですね、私は誰にも負けませんよ。何せ最強の徒手格闘術、滅殺拳を習いそしてその師すら倒した。そして今や武器への攻撃を自動回避する魔法具を手に入れた私は最強なのです」
自慢げに自分の秘密を暴露してくれる。
「で、それだけ?」
本当にくだらないのでそう答える。
「いいでしょう。どのみち聖女なんて物は要らないのです。ここで私が最強であるという証明すると同時に公開処刑といきましょう」
「そうですか?なら私も証明するとしましょう。この世界にはもっと強い御仁がたくさんいる事を」
そういい半身になり膝を少し曲げ、腕はだらんと脱力し下げたまま。構えあって構えなし。刀での話ではあるが徒手でも同じである。心は一つに集中せず全てを見渡し把握する位置で。
トーマスの心の動きを読み取り、身体の動きを見透かし、次の動き先を捉える。それだけで、トーマスの身体は地面に叩きつけられて地面を跳ね上がり転がっていく。
「ぐぅ・・・馬鹿な」
トーマスは、あり得ないと怒りながら立ち上がる。
「ねえ、それで最強?私の義妹の方が速く強い一撃を放てるわ。最強というなら早く本気をだしてくれないかしら。退屈だわ」
「貴様ぁ、後悔するがいい!コイツでぶっ殺してやる!"破殺滅剛拳"」
そういうと、スキルのせいなのか加速して文字通り飛んでくる。なるほど、確かに速いが・・・直進しかしないとか問題外だろう。
すぐさま一歩で一畳、即ち約1.5メートルを進む歩法でこちらからも接近して間合いを潰す。
トーマスは予想していなかったのか、簡単に拳が飛んでくる前に私の間合いに潜り込める。そこから、真下から顎を掌底で突き上げる。
自らの生み出した力のベクトルと私が生み出した力ベクトルが合成されトーマルの姿勢は崩れる。そこからさらに重心がズレたせいでベクトルが変わってしまい、受け身も取れずにボールの様に地面をバウンドして転がっていく。
しかし、トーマスって頑丈だな。ボロボロだけど立ち上がったよ。
「馬鹿な!この私の最速の技が!!!」
「真っ直ぐにしか飛んでこない時速100kmの野球ボールですら練習しだいで誰でも当てられる様になるのだから、どんなに早くても意味ないのよ」
「何言ってんだかわかりませんね・・・。ならば、これでどうだ!」
トーマスは一気に間合いを詰めると両手、両足を使った連続攻撃を始める。威力を落としリーチの長さを武器に数で勝負してきたのだが、一向に有効な一撃は当たらない。
私が奴の腕が伸びきる前に、外側、内側、上、下から腕を当てて殴る方向をずらしているのだ。
電車がどんなに真っ直ぐに進もうとレールが曲がっている限り自然と曲がってしまう様に突然現れた私の腕がレールになり制御されてしまうのだ。
蹴りを出してみるも、蹴る前に此方の足が構えを変えるだけで足元に入り込み蹴るにもバランスを崩すので蹴りたくても蹴れない。。
御蔭でトーマスの身体の軸は本人が気づかず間にブレていき、とうとう、バランスを崩してしまう。そう、大切なのはこの"崩し"だ。完全に崩れた時、人は初めて防御不能、回避不能になる。
そこに私は右手に呼吸力を込めて全力で拳を放つ。日本に遥か昔から伝わる古武術の技術の一つ"呼吸力"の強化系能力。別に摩訶不思議なファンタジー技ではない。科学で証明される技術だ。
人の手の質量なんて普通の人間はだいたい0.5kgしかない。通常殴ると言うのはその手の質量が飛んでくるだけである。だが、そこに重心移動を一瞬でさせて0.5gの拳に自ら全身の質量を疑似的に何割か乗せる。
0.5kgが40kmの速さで飛んでくるのと30kgが40kmの速さで飛んでくるの、どっちが威力あるかなんて分かるだろう?そういう技術だ。
そいつを体勢の崩れた、防御不能、回避不能のどてっぱらに打ち込んでやる。後はご想像通り、相手は吹き飛んだ挙句、腹を抱えて悶えてるしかない。
あーあー、食ってたもの吐き出しちゃたよ。
「あらあら、その様子では次はなさそうですね。しかし私の知っている強い紳士には遠く及びませんわ。私にすら勝てないのですから」
「ぅうう・・・馬鹿な。俺の総戦闘能力は15万だぞ・・・。武器をもって12万の奴が・・・馬・・・馬鹿な!!??武器を持ってないのに戦闘能力が23万だと!??増えるなんてありえない!」
やれやれ戦いに数字など当てにならないというのに。
「私には数字が見えないのでどうでもいい事ですが、戦いとは数値でするものではないのですよ。常に戦いの勝敗は揺蕩うもの。油断をすればすぐ死でしょう?」
「なんなんだよ!お前は!!!」
もうただ、奴は感情的になって叫んでいるだけで小物臭しかしない。
「なんでもありませんわ。ただの冒険者、たまたま目と髪が黒いだけのね。なので、お金稼ぎをしませんと。ああ、魔法具をどうにかしないと武器では首が取れないんでしたか」
少し厄介だな。そう思ってると、後ろから声をかけられる。
「すまねぇ、少し時間がかかっちまったぜ!」
シゾーが返って来たようだ。
「いいところに来ましたわ。アソコにいるのがトーマスらしいですわよ」
シゾーがトーマスをよく観察して言う。
「なんだかボロボロだなぁ。ノア嬢の仕業かい?」
「変な魔法具をもっていましてね。ついでに自分が最強とか言っていたので少し現実というのを教えてあげただけですわ。まぁあの首とれればお金になるかなーと思ってはいますが」
そういうとシゾーはトーマスを見てから私を見る。
「首刈るのならノア嬢の十八番だろ。何かあるのか?」
シゾーは不思議そうに言う。
「別に首を刈るのが得意ではないのですが・・・、それは置いといて、彼は武器で攻撃すると瞬間移動して回避する魔法具を持ってるようなのです」
シゾーは目線をトーマス向け観察すると目を細める。
「メンドクセェやつだな!」
そして本気で嫌そうに一言放つ。
「ええ、メンドクサイこと極まりないですね」
そんなやり取りをしているとトーマスが会話に割り込んでくる。
「新環騎士団副長 シゾー・カヒータか、これはもう、分が悪いな。ここらで失礼さしてもらう」
そういうといきなり煙玉の様な物で煙幕を張る。
「あっ!おい!」
どうやら逃げる為だけに放ったらしい。
「あの様子では俺が来なくても分が悪かったろうに・・・」
シゾーは、そうつぶやくと煙の中を追っても無駄だと理解していて私と煙が消えるのを待っていた。
次回もよろしくお願いします。




