第四十話 ドラゴンロアー
第四十話 ドラゴンロアー
水浴びから戻ってくると先に鞄に戻っていたリリィがやはり何かをしている。
戦闘中も移動中もずっと静かにしているので気にはなっていた。
戦闘中は鞄の中で揺れるのが気持ち悪いと言っていたが水浴びをした時の感じではそんな様子はなかった。
(リリィ、何してるんだ?)
(・・・ちょっと待ってて、あと少しで魔術が完成するから)
なるほど、レゲメトンを弄って何か魔術を作っていたらしい。
リリィの邪魔をしない様に男たちが水浴びから返ってくるまでのんびり休憩していようかと思っているとランドドラゴンが一匹こちらに近づいてくる。
若いアニマーの男が一人。服のスタイルから新環騎士団だと分かる。
「あれは二番隊隊長ヴァリのようですね。彼は首都防衛に回っていたハズですが何かあったのでしょうか?」
そう言って立ち上がるヴァリに向かって手を上げるベティ。
そのままランドドラゴンは滑り込むようにして何とか止まると、かなり慌てた様子でヴァリは下馬しベティに言う。
「ベティ!副長は!?副長は何処ですか!?」
「副長は川で水を浴びてるわ?何かあったのですか?」
周りを見回して、私の存在に気が付くヴァリ。
「あ!、え?・・・ああ・・・目も黒い!?二人目の聖女様・・・!??ええ・・・??」
更に混乱し始めるヴァリ。私がここにいたのはちょっと悪いタイミングだったかもしれないな。
「しっかりしなさい。ヴァリ!何があったのです」
両肩を掴まれ前後に頭を振られて漸く正気に戻ったようだ。
「あ、はい!大変です。トーマス・ハイアットとその一味が都内で反乱を起こしました」
「な、なんですって!?このタイミングで?」
慌てて川に向かおうとするベティの腕を掴んで私は止める。
「落ち着いて、サー・ベティ。貴女、裸の男どもの群れに突入する気?」
「あっ・・・」
顔を少し赤らめて冷静になるベティ。
「サー・ヴァリ、あちらの川にサー・シゾーはいるわ」
そう言って行先を指で示すと、ヴァリは走って行く。
その様子を見ながら落ち着かないベティ。私は彼女の気分を紛らわす為に話しかけることにした。
「サー・ベティ。良ければそのトーマス・ハイアットという人物の事を教えてくれないかしら?」
「え?ええ、構わないわ。トーマス・ハイアット。元々は、王宮の財務を管理する官僚でしたが3年前、先代女王がが亡くなるとサンクティフェミナ派と聖女候補と言われるメリーが幅を利かせるようになりそれと共に退職しました」
「ふむ」
「それからどういう経緯かは不明ですが、一部のデア派を取り入れてサンクティフェミナ派を王宮から排除する運動を起こし現在に至っているようです」
「なるほど。確か、先代も今の女王陛下も、そもそもサンクティフェミナ派と聞いていますが?」
「ええ、王家は長らくサンクティフェミナ派ですが、何時の陛下もどちらも同じラスヴァ教。デア派もサンクティフェミナ派も関係なく平等に取り計らう様にと、行動なさっていました」
「では、今は違うと?」
「ええ、その・・・。今の女王陛下はまだ11歳。メリー聖女候補を制御出来ていないというのが現状です」
ベティはそれでも言葉を選びながら少し考えながら言う。
つまり現女王陛下は、メリーの操り人形にされてしまって、その鬱憤がデア派で暴走を始めていると言ったところか。厄介な話だな。
「よし!皆休憩はそこまでだ。急いで戻るぞ」
そうキレのある声でシゾーが戻ってくる。
「「「イエス・サー」」」
声を合わせて返事をする騎士団。
「しかし、時間が惜しい。この人数を最速で返す事は無理だろう。ベティ、後を頼めるか?俺はランドドラゴンで最速で先に戻ろうと思う」
「承りました」
そのやり取りを聞いていたのかリリィが突然、思念を飛ばしてくる。
(ねぇ、急ぐならいい方法があるわよ~。2~3人なら一気に運べるわ)
(移動魔術でも作っていたのか?)
(流石に私でもそれはちょっとリスクが高いわね。もっとイージーな方法よ。試運転なしの実戦投入になるけどプログラム上のデバッグはOKが出てるわ)
(分かった。聞いて見よう)
急いで準備しているシゾーに割り込むように話かける。
「サー・シゾー。お急ぎで在れば、私にいい案がありますわ」
「何?あるならお願いしたい」
「畏まりましたわ。リリィ、お願い」
そういうと、リリィは鞄から飛びだすと宙を舞い。少し離れたところで魔術を展開する。
リリィの身体を中心として魔法陣が360度様々な角度に回転し光り輝く。甲高くリリィが鳴くと一瞬、強い光が瞬くとそこには成竜となった全長5mほどリリィがいる。
「おお!」
シゾーは驚きの声を上げ、ベティは目をまん丸く広げ棒立ちに、そしてヴァリ、以下の騎士達は腰を抜かしている。私も少し驚いた。
だがこれならいけそうだ。リリィの安全に飛ぶという技術的な問題は気になるが・・・。
「鞍などはないですが、2~3人なら楽に運べますわ」
「よし、俺とノア嬢、あと案内でヴァリだ。残りはベティをリーダーとして陸地での帰還だ」
そう叫ぶと、しゃがんだリリィに乗り込む。何とか、座る位置を取り決めるとリリィが飛び上がる。思った以上に安定していてふわりと浮きだす。どうやら魔術も併用して飛んでいるようだ。
「ハッ!ドラゴンに乗って空を飛ぶ日が来るとは思わなかったぜ。ノア嬢といると面白い事だらけだな!よし、このまま、川沿いに西へ進んでくれ!」
「だそうよ、リリィ。頑張ってね」
そう言いながら大きくなったリリィの首を撫でる。
「キュルィーー」
姿は大きくなっても比較的高い声で無くリリィ。
「あ、あの・・・。た、食べられたりしないですよね??」
ビビリながら、半ばシゾーに無理やり乗せられたヴァリが本気で聞いてくる。
「ハハッ!そりゃーおめぇー、そこの聖女様のご機嫌を損ねれば喰われるかもしれんなぁ!」
「エエッ!?やっぱり聖女様なのですか?では、メリー様は・・・?」
「大丈夫ですわ。私、聖女なんて高尚な者ではありません。只の通りすがりの冒険者ですわ」
「ハハハ!そうだったな。ドラゴンを扱い、たった一人で数百の魔物の群れを退治してしまう凄腕の冒険、死神のノア嬢だ。ドラゴンに喰われるかよりも、ウッカリ首を跳ね飛ばされないかどうかを心配した方がいいかもな!」
物凄く嬉しそうに話すシゾー。
「えええ・・・!?」
余計にパニクるヴァリ。
「もう、こんな幼気な少女に向かって死神とは酷いですわ。サー・シゾー」
「ハハッ!さて、ジョークの時間は終わりだな。ヴァリ、もう一度騎士団の様子を聞かせてくれ」
急に真面目なトーンに変わるシゾー。
「はい。僕が出る前の状況。昨日になりますが、都内中心部に突如武装した集団が現れ城に向かって進行を開始。急いで街の兵士達が対応するも数に押され、城壁手前の貴族街で我々新環騎士団が加わり一旦は止めました」
「なるほど。で、俺達の隊はどれだけ合流したんだ?」
「それが、団長と自分の2番隊だけです。1番隊のソータ殿、3番隊のボルス殿、特別隊コドゥー殿、は国の東側の討伐ですので居ませんが、街の護衛をしているはずの4番隊トゥーハ殿、5番隊のラーシン殿に動きが見られない、というか行方が分かりません」
「二人ともそれなりの手練れだから裏でやられている事はないだろう。むしろあの二人は、デア派だったな・・・あるいは・・・」
今までの突貫振りとは思えないほどの深く考えているシゾー。どうやら思い当たる事が幾つかあるようだ。
「それから膠着状態にまで持ち込んだので、団長の指示により副長を呼びにきました」
「現場の最終的な指揮はコイル将軍がしているのか?」
「分かりません。僕も主に外で戦っていましたので、恐らく城の中で指揮をとっているモノかと」
「どちらにしても昨日までの話か。考えたところで戦況は大きく変わっているかもしれないからな。ついてから考えよう」
そうシゾーは言っているものの、未だ深く考えているようだ。
それから少しの間沈黙が訪れたが、進行方向に大きな都市と城が見えて来た。
「ねぇ、お城が見えて来たわ、アレが首都なのかしら?」
「ああ、そうだな。そろそろ少し低く飛んでくれないか?」
「分かったわ。リリィお願い」
そういうとリリィは高度を下げながら進んでいく。次第に距離が縮まり街の様子が少しづつ見えるようになってくる。
特に煙なども上がっている所もなく、街自体の破壊行動はないようだ。
「街に着いたら低めに飛んでドラゴンが来た事を示す。何方も気合の入ってないやつらはそれだけで逃げ出すだろう」
作戦を提案するシゾー。中々いいアイデアだ、猪突猛進だけじゃないっぽいな。
(ねぇ、リリィ。その姿なら火とか吐けるの?)
(え?無理よ、そんな事。あ、でも魔術を使えばまるで吐いたかのように火球は飛ばせると思うわよ)
「ねぇ。じゃぁそこにダメ押しで、火球でも吐いて脅かすってのはどう?」
「ほう、面白いじゃねーか。だけど、延焼したり人間にあてたりしないよう安全な場所に頼むぜ」
ニヤリと笑うのが目に見えるような返答だった。
それから街の中に入ると、下の世界は大騒ぎだった。ただでさえ反乱が起きているのに巨大なドラゴンが街を飛んでいるのである。
状況確認と、ドラゴンがいるという示威行為を兼ねて街を何度か旋回する。
戦線は城の前まで下がっていて、城門前でにらみ合いが続いている。
「にらみ合っている間の地面に火球をおとすわよ?サー・シゾー」
「ああ、ぶちかましたれ」
そういうと、魔術で作った火球を、あたかも口から吐き出した様に見せかけて地面に3発打ち込むと、正規軍と反乱軍の一部は驚いて蜘蛛の子を蹴散らすように逃げていく。
「やはりな。魔法に慣れていない奴らは、火球が降って来ただけでも恐ろしいようだ。おい!ウチの隊員も数人逃げてやがる!アイツら後で懲罰だ」
その火球を落とした場所からは更に人が下がっていき先ほどより広くなったそこにリリィを着地させて降りることとした。
「ノア嬢ここは任せていいか?あいつらを脅して足止めさせてるだけでいい」
「構わないわ。あー、その代わり後でお代請求していいかしら?私ただの冒険者ですのでただ働きは困りますの」
「あ?うえぇー?だが俺は冒険者の相場とか知らないしな、しかもドラゴンってどんだけ経費がかかるのか・・・?」
今までにない驚きの表情を見せる。どうやら金勘定には疎いのかもしれないな。
「あらあら、では時給1万ゴールドでどうかしら」
「あー・・・そうだな。多分経費で払えると思うから、よろしく頼む!できるだけ早く戻ってくる!」
そう言って慌てて城の方へ走っていった。うんシゾーの変顔とか中々面白い物が見れたな。
後ろではしっかり、ヴァリがドラゴンが味方である事を告知している。後は、正面の反乱軍か。
私は前にでて、大鎌を出し大きく構える。
反乱軍は、目の前にいるドラゴンと、それから降りて来た黒眼黒髪の私を見たまま動けないでいる。
さて、どうするか。このままでも依頼通りで問題はないけれど、それではつまらないよなぁ。
"恐殺の魔眼"
「キィエェーーー!」
スキルを使ったのを察知してリリィも反乱軍に向かって叫ぶ。
すると腰を抜かして倒れ這いつくばって逃げる者、、一目散に逃げる者、なんとか踏ん張って耐えている者など色々な様子を見せ更なる混乱に反乱軍は陥っていく。
最早、軍としての体裁はなく、ただ烏合の衆であったことをさらけ出していた。それでも逃げない屈強な男達は多少残ってはいたモノの既に大半が戦意を喪失している。
その中から一人、中年のガタイのいい男がやってくる。
「ふん!小娘一人に、惑わされおって!俺の一撃で目を覚まさせてくれるわ!」
そう叫ぶと此方に向かって突撃してくる。戦斧を持って上段から真っ二つにするつもりなのであろう。それを足運びで回転し相手の周りをするりと抜けて躱す。
「まだまだぁ!」
そう叫ぶと相手は切り上げを仕掛けてくるのでもう一度自らも回転しながら躱す。ついでに遠心力を利用して大鎌の刃のない部分で相手の腹に鎧の上からぶったたく。
激しい音がすると、戦斧をもったオッサンは声も上げる事も出来ず派手な金属音と共に自分の陣営に無残にも転がっていった。
「さぁ。次にこうなりたいのは誰かしら?」
そう告げてやると最早、誰一人として戦おうとする物はいなかった。
「パチパチパチパチ」
すると、コツコツと言う足音と共に敵陣営から拍手する音が聞こえてくる。
メガネを掛けたひょろ長い男だ。
「いやーお見事。感動したよ。まさかホンモノの聖女様が現れるとはね」
何とも嫌味な奴が現れたな。
お待たせしました。今週末、右手の指の手術をするので更新がちょっと不明ですが、次回もどうぞよろしく。




