第三十九話 7番隊隊長 ベティ・アーヴィー
第三十九話 7番隊隊長 ベティ・アーヴィー
それから何匹の魔物の首を刎ねただろうか?うっかり頑張りすぎて死んでしまった者もいるが、立っているのは大方人間ばかりとなった。
しかし、これだけの物量、何処から沸いたというのだろうか?それにこれだけの数を維持するエネルギー源は一体?
そもそも、私は魔物が何なのかを知らなかったな。この世界すべてが魔物という訳ではなく動物も存在しているし何が違うのだろうか?
少なくとも魔物の死体を見る限り他の動物と同じように生命活動をしていると思われる。戦いの中で間違いなくそれ相応の臓器をぶちまけている。
うむ、わからないな。ここは妙に静かにしているリリィ先生に聞いてみるか。
(リリィ先生や、聞きたいことがあるんだが大丈夫か?)
(大丈ばないわよ・・・うう・・・)
なんか本格的に苦しそうな声をとばしてくる。
(どうした?)
(酔った・・・ねぇ吐いてもいいかしら・・・?)
(自分のゲロまみれになりたくなかったら我慢した方がいいぞ?しかし、酔った?酒でも飲んでたのか?)
(なんでそうなるのよ!貴方が果てしなく暴れた結果、鞄の中は激しく揺れまくりなのよ・・・うう・・・)
なるほど。確かに派手に暴れてたからそりゃー鞄の中じゃえらいことになってるわな。
(外にでるか?)
(やめておくわ・・・どうせオーク共の屍と血の世界なんて見ても余計に気持ち悪くなるだけよ・・・)
辺りを見回すが、言われた通りでしかない。かつて地球にいた頃に、こういう凄惨な景色を見ても耐えられるよう精神をいじられたり、合戦に巻き込まれて戦った経験がなければ私は立っていられなかっただろう。
ふむ・・・。おっと、そう言う話ではなかったな。
(話がそれてしまった。聞きたいのはそういう事でなく、魔物についてだった)
(魔物?)
(ああ、魔物って一体なんだ?奴らは基本的な部分では他の生物と同じシステムで動いてるだろう?切れば血はでるし内臓もぶちまける。それ相応の臓器が見当たり、それによって致命傷度が違うだろう?)
(なるほどね。いつかは聞かれると思っていたわ。でも、それを正確に説明するにはこの世界の成り立ちの情報が必要になるのだけれど、今の私はソレをノアちゃんに直接教えることは出来ないの)
前も似たような事をがあったな。この世界の創成の根幹に関する事はリリィは私に直接伝える事ができない。必要であれば自ら手に入れなければならないという事か。
(じゃぁ、一つ教えてくれ。魔物って奴は殺しまくっても平気な物なのか?)
(平気という意味にもよるけれど、魔物は殺さなくてはいけない物よ。少なくとも、この世界を守り、地球を守る為にもね。その為にこの世界は魔法、スキルのシステムが存在するのよ)
なるほど。やはり神々は、魔物という存在と人間を戦わせる為に魔法もスキルもレベルとかいうシステムも全て用意してあるって事か。しかし魔物討伐が地球も救う?謎が増えてしまったな。だがここは大人しく引き下がるしかないか。
(分かった。ありがとう)
そんなやり取りをして、思案にふけっているとランドドラゴンに乗った返り血塗れのシゾーがやって来た。
「ノア嬢、ここにいたか。群れの統率をくじいただけでなく、その後怪我人の方へ援護行くとは流石だな」
どちらかというと騎乗したままランドドラゴンにも怪我をさせずにあの戦場を駆け巡りながら戦っていたのだから流石なのはどっちだと此方が問いたい所だ。
「いえ、サー・シゾーも御無事で何よりですわ。その様子だと魔物は全滅したようですね」
「ああ。ノア嬢の御蔭で此方の被害は少なく済んだ。礼を言うぜ。あっちの群れを俺一人で対処して戻ってきた頃には完全に此方が全滅させられていただろうからな」
「いい偶然が重なったようですね。私も相当な小遣いを稼げたようですわ」
「ハハハ、頼もしいねぇ。だが、俺達が助かったのは間違いなくノア嬢の御蔭だ。団の副長として礼を言う。この国で困ったことがあったら何でも言ってくれ、知ってると思うが国の情勢不安定なので限りはあるが力になる」
狼の凛々しい顔を綻ばせて言う。そうだな、ここは一つその言葉に甘えることにしようか。
「勿体ないお言葉有難うございます。では、急ではありますが一つお願いしたいことがありますわ」
「ほぅ。なんだろうな?」
興味深そうに此方の眼を覗いてくる。
「新環騎士団の団長、サー・エインに渡してほしいと依頼された物を預かっているので、団長にお会いしたいのですわ」
それを聞くと少し残念そうな顔をする。一体この男どんな依頼を期待していたんだろうか?
「なんだ、そんな事か。このまま俺と一緒に王都まで帰えれば問題はないぜ」
そんな話をしていると、女騎士が近づいていて来る。騎士といっても金属製の鎧甲冑姿ではなく丈夫で柔軟性の高そうな服の延長上にある防具を身に着けている。
「お話の途中失礼します、副長。団員の確認及び遺体の回収完了しました」
「ん?早かったな。ああ、こっちが自らの命を危険に晒してまで俺達の命を救ってくれたノア嬢だ。返り血塗れでドロドロだが俺達にとっては正しく聖女様だろうさ」
すると女騎士は此方を見て目を合わすと、少し驚いたのか目を大きくした。
「申し遅れました。私ソールデースペル皇国からきました、プロテノア・スパングルと申します。気軽にノアとお呼びくださいませ」
いつもの礼をすると、女騎士は惚けていた事に気が付いたのか慌てて姿勢を正す。
「失礼しました。私は新環騎士団7番隊隊長 ベティ・アーヴィーです。この度のご助力7番隊代表としてお礼申し上げます」
副長とは違い中々の堅物感が漂っている。種族はヒューマーで返り血の度合からして自ら突撃して魔物を倒すタイプではなさそうだ。まぁ、ぶっちゃけるとおかしいのは副長と私のほうなんだがな。
しかし、こんなクールな美人に叱咤されれば一部の男達は喜んで士気を上げるかもしれないな。
「よし、では準備が整い次第この先の川で血を流すとしよう」
「副長、それではまた戦いがあるかのようです」
「あ?ああ、汚れた体を清めることにしよう。これでいいか?ベティ」
「それでよろしいかと」
そんなやり取りを聞くと、この二人は面白いコンビかもしれないなとふと思ってしまった。
騎士達と入れ替わりに兵士達が現場に集まり、魔物の死体処理をする。処理と言っても集めて燃やすだけだが、延焼して火事にならない様に火の管理をする必要があるので重要な仕事だ。
人手がかかってでも魔物の死体を燃やすのは、魔物死体から素材を集めようとしたり、魔物を餌にしようとする人間や動物達が集まり死体から発生する病原体などを広げない為だ。
魔物は倒したが、魔物から発生した病気で村が一つ滅びました。では全くをもって意味がないからな。正しい処置だろう。
現場の指揮権を騎士団から兵士団に切り替えると私達は西に向かいハーマー川で休息をとる予定となった。
この討伐隊は、どうやら副長と7番隊と特別隊の数人で編成されていて総員25人という少なさだった。そのうち3人は物言わぬ姿での帰路となった。
戦場でもっと数がいたように思えたのは、冒険者や兵士だったらしい。あの混戦で騎士団の死者3名と言うのは、この騎士団が中々の精鋭である事が伺える。
そんなこんなでハーマー川につくと、レディファーストという事で先に水浴びをさせて貰えた。
この討伐隊には、女性は私を含めベティ、そしての名前の知らない二人の計4人がいた。男共は遠くに待機させ女性4人が先に川に入る。
川の水はかなりの透明度で腰までの深さでもしっかりと底が見える。御蔭で魔物がいないかどうかを確認しやすかったが、何故か地球でのレディファーストの語源を思い出してしまう。
レディファーストって言うのは、かつて戦争で城に攻めこんだ際に攻めた城にいる侍女等を捕まえては、先に進ませ扉や壁の裏に潜んでいる敵の攻撃の楯にするのが始まりなんだとか。
事の始まりは紳士の欠片もない行為である。まぁ、そんな事は考えすぎで素直に有り難く思っておくべき所なんだろうけど。
折角なので鞄にいれておいたリリィを解放させて水浴びさせる。鞄から飛竜が出てくる様子を見ていた女騎士たちは、えっ!って顔をやはりした。
だが、お互いどこまで関わっていいのか悪いのかラインが見えず、また血を洗い流すのに一所懸命だったので無言で時間は過ぎていったが、ポシェットに入れて置いたシャンプーやリンスの類をだして貸すと一気に会話がすすんだ。
やはり、荷物の持ち込める量を考えると持ってくることが出来なかったようだ。4次元ポシェット様様だな。
服はポシェットで一瞬にして新品のように洗えるのだが、これ以上のポシェットの神能力は隠しておきたいので別の服に着替えることにする。
ゴスロリちっくな服装は討伐隊の中にいるにはミスマッチだったが、周りの女性達にはカワイイと好評だった。まぁ神が作った少女ボディだしな!仕方ないよね!
そんな感じで服を着替えている最中、ベティが話しかけてきた。
「私は、サンクティフェミナ派ではないので聖女伝説を妄信はしておりませんが、今回の参戦は本当に感謝しています。もし聖女伝説が本当であればノア様の様な方を聖女と言うのかもしれませんね」
急なベティの会話の内容に驚かされたが、首を振ってこう答える。
「まさか。血まみれの殺戮の中に喜んで飛び込むような女を聖なる女などありえません。それに今回も冒険者ギルドを通した小遣い稼ぎにすぎないただの守銭奴行為ですわ」
「そうですか?それでも、そんな行為でも私達には救いの一手でした。少なくとも"神に祈りを"と言って、それ以外の行動を起こさない聖女よりも・・・」
何やら聖女についてシゾーも意味ありげな事を言っていたが、どうやらこの国で聖女に関する何かが起きているようだな。
ふぅむ、なんだか少し面倒な事に巻き込まれそうな予感がする。
それでは次回もどうぞよろしく。




