第三十八話 血まみれ聖女と死の輪舞
第三十八話 血まみれ聖女と死の輪舞
取りあえず、勢いを殺す為に地面に叩きつける形で戦闘開始から動き続けた大鎌を止める
「あら、これは失礼いたしましたわ。まさか人が紛れ込んでいるとは思いませんでしたので」
そう言いながらフードを頭から取り地面に刺さった大鎌を片手に挨拶をする。
一瞬、狼男は驚いたと思ったらニヤリと笑った。いや狼の表情を判断する能力はまだないのでそう感じただけだが。
「驚いたな。噂では聖女がこちらに向かっていると聞いていたが本当に黒眼黒髪だったとはな。それにこの国で魔法まで使い、自ら一人で魔物退治をするとは・・・面白!あんな女より此方の方が圧倒的にホンモノじゃないか!ハハハ!」
何が面白いのか分からんが声にして笑っている。妙な事を最後の方に言っていたが、それはいいか。
しかしこの世界では珍しい恰好だな。真黒なレザーのジャケットとパンツに銀色の金具が処何処にアクセントとして付いている。
まるで、ロック系アーティストの様だな。それに後ろの背負ってる鞄、どう見てもギターかベースが入っているかのような形をしている。
腰には刀。しかも一般的な日本で使われる打ち刀よりも長いく、恐らく刃渡りが3尺(99cm)近い。
装いは打ち刀風の黒塗りに銀の装飾ではあるが、その装備の仕方は打ち刀らしく刃方が天を向くように差してはいるのだが、鞘はレザーのベルトと金具で止められているので太刀を佩いているようにも見える。
ん?刀?そう言えばこの国で刀を装備しているのは、女王直属の新環騎士団の騎士のみだったか。ふむ。
「これは、もしや女王様直属の新環騎士団の騎士様でしたか?私、ソールデースペル皇国から気ました、冒険者プロテノア・スパングルと申します。気軽にノアと及び下さいませ」
大鎌から手をはなし血塗れた恰好で何時もの淑女の挨拶をする。
「ハハハ!俺の方こそ失礼した。俺は新環騎士団副長 シゾー・カヒータだ。よろしく頼むぜ」
副長だって?これは仲良くしておく価値はあるな。キャロルルの依頼が思ったより楽に済みそうだ。
「キューーイー」
そう言うとローブの内側に掛けていた鞄からニョッキリと首を伸ばしてリリィが出てくる。
「あ、この子はリリィ。私の相棒です」
そういうと目を丸くして驚いてからシゾーはまた笑う
「ハハハ!コイツはいい。ドラゴンすら仲間にしちまうとはな!過去の伝説すら塗り替えそうだ」
「そういえばサー・シゾーも魔物討伐に来られたのですか?」
「ああ、だが、こっちは俺が来なくてもよかったな。聖女様が浄化してくれたようだしな!ハハハ!」
炭化した肉と血塗れの大地を眺めていう。中々のブラックジョークだ。
「こっちはって事は。まだ他の所でも魔物の群れが残っているんでしょうか?」
「おっと、そうだった。という訳で俺は急いでそっちに向かう。ノア嬢程の戦力ならば手伝って欲しいのだがどうだ?」
「構いませんわ。私の方も倒した数だけお金がもらえる依頼ですので稼ぎ時ですわ」
「コイツは、頼もしいぜ。確かにアレだけ滅殺できるなら変な契約より上限のない方が旨いな!」
「おっと、俺はランドドレイクに乗って行くがどうする?」
シゾーは二足歩行のドラゴンというより恐竜と言った方がイメージが合いそうな生き物を親指で差して言う。
「出来れば乗せて貰えると助かりますわ。魔法が使えるのは内密にしたいので、先ほどの事も他の人には話さないでほしいですわ」
そう言い武器をポシェットにしまうと、お決まりの驚きシーンが訪れる。
「ハハハ!驚く事だらけだな。よし、乗りな!ちぃーっとばかし俺のライドは荒いから振り落とされねぇようにな」
そう言うと私をランドドレイクに乗るのをエスコートしてくれる。このランドドラゴン以前のホーブルよりさらに乗りにくかった。
ついでに、そこからの目的地到着まで酷い目に遭った。本当に振り落とされそうになるので本気でシゾーにしがみついてた。
それから余りに必死に抱き付いていたのでどのくらい走ったか分からないがランドドラゴンが減速しだすと風の中に血の匂いと喧噪が混じりだす。
かなり大規模な魔物の群れと騎士達が死闘を繰り広げているが物量に押されて不利な状況だ。このまま行くとまずいな。
「っく、思ったよりも戦況はよくねぇな。俺はこのまま騎乗したまま戦う。ノア嬢は好きなタイミングで上手く降りてくれ」
「了解」
シゾーはある程度の減速はするものの止まりはしない。動物系ライディング初心者には中々のスパルタだが、要はバイクから飛び降りる感覚でいいだろう。こっそり魔術でちょっとだけ飛べばいいしな。
そのまま魔物の群れに突撃する手前で私は飛び上がる。もちろん跳躍距離と落下速度と位置は魔術でこっそり操作する。魔術で一掃できれば楽なんだがな。見ている人間が多すぎる。
着地に邪魔なオーク3体の脳天に銃弾をくれてやる。
何が起こったか分からずに倒れるオークを見て周りの魔物は一瞬動きを止める。
その隙に武器を大鎌に入れ替えながら着地前に一匹を切断し、着地後にぶん回しで二匹の首をとばし最後に打撃で一匹の頭蓋骨を砕く。
そして血避けに素早くフードを被り、鎌先は動かさずに自分だけが動いて攻撃を躱して傍にいた別のオークの脳天に石突をお見舞いすると素早く群れの中に飛び込み鎌を引きずるように自分の方に引っ張りあげるとオークの足に引っかかりそのまま切断する。
そこから一気に大鎌を振り回す速度を上げて、殴っては斬り、斬っては突き、斬って斬って殴り殺す。出来るだけ同じ場所にいない様に常に移動してオークの巨体の中を小柄な体でチョロチョロと動き大胆に大鎌を振り回す。
既に地面は血でぬかるんでいるが、オーク達はそんな事に気が付いていない。足元に気をつけずに暴れるオーク達は自らの仲間の血で滑ってすっころんでいく。
一匹が転べばその巨体がドミノ倒しの様に次々と倒していく。戦場って言うのは様々な事に気を使わなければいけないっていういい例だ。
どんなに格闘技が強くても混戦、乱戦、あらゆる自然現象や物理現象が起こる世界ではその強みは半減する。そんな事を徹底的に叩き込まれたあの若き日を思い出しながら隙を見せた魔物共から刈っていく。
しかし、数が多い。こんなこと続けていたら体力が持たないな。そう考えていると、一瞬耳鳴りが始まる。まだ戦闘中だぞ?
"大鎌技・死神輪舞"
"大鎌技・収穫の秋風"
"大鎌技・死天使の迎え"
良く分からないけど、取りあえず使ってみるか。
「さぁ、踊りましょう。最期の舞を・・・。大鎌技・死神輪舞!」
身体が勝手に螺旋に大鎌を大きくぶん回したと思ったら、刃筋も刃の位置もそして距離も無視して約半径3m以内の魔物の頭が吹き飛ぶ。しかも血は流れずに。
恐ろしい技だな。あまりの悲惨さにチョット映像が見せられない状況だ。そんな状況を見ていた魔物は状況判断が出来ずに動きが止まる。その隙を逃さず次のスキルをぶち込む。
「状況判断が遅いですわよ。大鎌技・収穫の秋風」
今度は大鎌を下段で水平にフリ回す動きになると、そこから疾風が起こり魔物の足を切断していく。先ほどスキルとは違い直線上にいる魔物の足を切断する技のようだ。
6m程は疾風の刃が走っただろうか。
「!」
何か来る!上か!
素早く今いる場所から移動して、降ってくる巨体をから距離を取る。
着地するタイミングに合わせて周りの魔物を巻き込みながら死神輪舞を放つ。
だが、上から振って来たオークの頭は吹き飛ばなかった。なるほど、一定以下の弱さか何かでないと効かないのか。
確かに、今空から降って来たオークは、大きさもあるが、かなり立派な角があり動きも判断も速い。
だが言うほどの敵ではない。試しにもう一つのスキルを使ってみる。
「コイツはどうかしら?大鎌技・死天使の迎え」
すると、一瞬で相手の後ろに回って宙に浮いていて、大鎌の刃がオークの首にかかっている。背中には魔法で飛んだ時の翼の生えた感触がある。
そのまま大鎌を振り回し、何の抵抗もなく首が斬れる。斬り終わるとスキルが切れるのかそのまま自由落下して着地する羽目になる。
「よっと」
私が着地するタイミングと同じくらいにオークの身体は大きな音を立てて倒れた。
それに反応した魔物達は同様したかの様に狼狽えだし、その波は一気に軍団に広がりパニックが起こる。
その隙を逃さない様に、騎士団達が一気に攻め入る。私も無防備なオーク共の首を一気に刈っていく。
魔物の群れの統率が無くなり、まばらに広がり始めて群れの外が見えだしてくる。その方向に収穫の秋風を連発し道を作って群れの外に出る。
まだまだ魔物は残っているが少し離れて休ませてもらう。流石にノンストップすぎて疲れた。ここまでやれば騎士団が押し返して撲滅するだろう。
騎士団の怪我人も随分出ているのか後ろに下がって倒れたり休んでいる者も多く一か所に集まっている。
む!魔物の群れの統率が無くなったのか、群れからはぐれた魔物が怪我人の方に何匹か行きだしたな。仕方ないもう少し戦うか。
大鎌をしまってから、怪我人の方へ走る。思った以上に騎士達は苦戦している。
素早く銃を抜き撃つも、先ほどの戦いで4発も使っているので2発しか届かない。そこから素早く銃と苦無を入れ替えて魔物に投げつける。
苦無は刺さると小爆発を起こす。中々面白い隠しギミックじゃないか。
銃弾と投擲で3匹は倒せた後2匹、一気に走って距離を詰めて大鎌を再度呼び出して一気に切り上げ、もう一匹に切り上げた鎌を斜めに振り下ろす。
残りの二匹も大きな音を立てて地面に倒れる。今更だが、吹き出す血を浴び無い様に移動して怪我人の集まりを見回すなんとか間に合ったようだな。
「ふぅ・・・疲れた。騎士の皆様、大丈夫かしら?」
そう言うと風吹きがフードを捲り私の顔を晒して髪をなびかせる。
私の顔を見た騎士達は一様にして時が止まったように見つめてくる。
「・・・聖女様だ・・・。眼も髪も黒い・・・この方こそ本物の聖女様だ・・・」
誰が先に言い出したか分からないが、一人が言い出すとそれにつられて周りの人間も言い出し、手を合わせて拝みだす。
ちょっと待て、こんな返り血塗れな奴が聖女ってヤバいだろう。殺戮の聖女とかもう聖女じゃないから!
そんな事をしていると、また、次の魔物がやって来る。ここは、ここで怪我人を守りながらぬるく戦って休憩とするか。
そんなこんなで戦闘を開始すると、聖女様が我々の為に戦っているのに休んでいる分けには行かない!と戦意喪失してた者達が立ち上がり戦いだした。
まぁ自分達の身は自分達で守ってくれるなら楽なんだけど、また怪我しないか怖いんだよな・・・。
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