第三十二話 Lilith's viewpoint
第三十二話 Lilith's viewpoint
気が付けば、ノアがセバスと打ち合っている。
肝心な時にノビていて、起きた時には戦闘が終わっていたなんて最悪な状況は避けられたみたいね。
にしてもセバスの奴、遠慮も情けもなしに全力で殴ってくれたわね。一瞬で本当に意識を飛ばされたわ。
でも、状況はあまり良くないわね。ノアがじりじりと押され出してる。
力も体格も小さくなったからとはいえ、謙二時代に積み上げてきた技術と経験は本物。
様々な敵対者と戦い、歴戦の達人に教えを請い、学び、そしてまた他者に教える事で自らの血肉としてきた、その積み上げた研鑽は今もあの子の魂に引き継がれている。
なのに、セバスがそれを超えているなんて予想外だったわ。
本当なら今直ぐにでも起き上がって援護したいのだけれど、それはダメ。
あの子が不利になればなるほど、私は耐え忍んで伏兵にならなければいけない。
例えあの子が死に直面しようとも100%倒せるその状況にハマるまで私は、静かにその時を待つ。
それがあの子と取り決めた今回の作戦。
「遅いわ~。何を遊んでいるのセバス?待ちくたびれたわ」
あら、ラスボス登場か。しかしなんでこの女、眷属なんかに取り憑かれてるのかしらね。
いや、待って。まさか1200年前の再来とでも言うの?
まさかね・・・。あちらの世界は "真・世界" だから、神でも輪廻には手を入れられないはず。だから今回に合わせてあの子の分散した魂がまとまるなんて偶然にしては出来すぎよ。
流石に、ナーバスに私もなりすぎかしら。
まぁいいわ。取りあえず私達の目的は公爵を倒すことだからね。いくらアレが眷属に取り憑かれて死ににくいとはいえ概念魔術で肉体を消滅させれば生きていられない。
ノアがソウルアーツで眷属ごと倒してくれれば楽なのだけれどね。
しかしセバスの奴、銃弾を生身で平然と受けるとか、どんだけレベルの高いスキル持ってるのかしら。
それに、アレだけの強さを見せつけながらセバスの奴、完全にあの女の虜なんて情けなくて見てられないわ。
む、二人が距離をとった。この感じ双方、次の一手で決めるつもりなのね。
―――!!
何よ、この殺気。セバスの奴、あれで本気じゃなかったの?
もう、嫌な予感しかしなくなっている。
お願い。ノア、無茶しないで。
祈りを無視して二人が動き出す。
「封魔滅列掌!」
「餓喰の黒・・・」
ノアの魔法が不発!?、それどころか血を吐いている。
嘘・・・ノア。何やってるの!?
今助けに・・・。ダメ、まだ私は動いちゃダメ。
だって・・・それが約束。それにあの子、あんな状況なのに目が負けてない。1200年経っても、輪廻を繰り返して記憶がなくても、そんなところは変わらないのね。
本当に馬鹿な子、貴方がそこまで頑張る義理も義務もないのにどうして背負ってしまうのかな。そうなるようにあの子の魂に刻印したとしたなら本当に神は外道ね。
ノア、銃を取り出して?今更セバスに銃弾を至近距離で撃ったところで・・・いや違うわね。そう、それが貴方の答えなら!
「ギィィヤァァァァァ!!!」
3発の銃声に続き、女の、いや眷属の叫び声が響く。
今よ!レゲメトン!私に力を貸しなさい!
「餓喰の黒蝶」
飢餓の存在よ、神のすら煩わすその眷属の砕けた魂ごと全てを喰らいなさい!
私の意思の元、飢餓と暴食の概念が全てをむさぼり喰い消えていく。
これで、終わりよ。セバスもソウルアーツの込められた銃弾を受けたからもう生きられないわね。
でも、ノア、貴方大丈夫なの!?慌てて彼女に近づく私。
(ねぇ。ノアちゃん?大丈夫なの???)
(・・・だいじょば・・・ないな。内臓もズタズタ。あばら骨が何本か折れただけじゃなく肺に刺さってるみたいだ。吐血も止まらないしな。この世界の医療じゃ無理だろう)
(ちょっと、ふざけてる場合でないわよ!?)
(へへへ・・・そう言えばコッチ来るときも思考で会話して声を出さずに終わってたな)
(縁起でもない事言わないの!貴方こっちで輪廻に帰ったらもう本当に戻る事できないのよ!私が何とかするからしっかりして!)
(輪廻・・・?そんなものがあるの・・・)
私は、ひたすらレゲメトンに使えそうな魔術がないか、或いはこの状況を打破する新たな魔術が構築できないか、リリスの性能をフルに使って演算する。
それでも、見つからない。なぜなの?どうして神々はこんな運命をこの子に与えるの?
視てるんでしょう!?私の魂を通して!この子を助けてよ・・・。貴方たちの無茶で身勝手な使命をこなしてきた結果がこれなの?ふざけないで!!!
どんどん顔が青くなっていくノア!
(ノア?しっかりして!ダメよあきらめちゃ!)
(もう、目が見えないや。流石に・・・)
(ねぇ、お願いよ)
(・・・ねぇ・・・姉さ・・・ま・・・。そこに・・・いる・・・の?)
(え?ノア!?記憶が?しっかりするのよ)
(・・・)
「む、この状況は・・・ノアたん!!!これはまずい」
突然、私の認識の中に割り込んできたオタク侯爵。
「「ここまで来ると私達のユニーク魔法でもどうにもならない」」
声を合わせて喋る双子。
「フ、この左指3本はクリスティアの目玉としてくれてやった。流石に中途半端に邪魔なんだな。そしてノアたんには返せないほどの借りを作ってしまったんだな」
包帯をまかれた左手を差し出す。
「いいのか?テンプレベード卿」
アニマーの伯爵がオタク侯爵の顔を覗いている。
どういう事なの?オタク侯爵がどうにかできるの?
「デュフフ・・・ここが漢の見せどころって奴なんだな。それにしても・・・なるほど。そうか、流石に "胡蝶の歌姫" の身体は僕の腕一本では足りないと言うんだな。まぁかまわないんだな」
ノアにへばりつている私をアニマーの伯爵が剥がし取り、オタク伯爵が反応しなくなったノアの身体を左手で触れる。
「神々に選ばれし "ソールデースペル建国の七皇" が一人、 パ・ランツァー・テンプレーベードの末裔、オ・タクルゥオ・テンプレーベードが受け継ぎし力を以って我が左腕と左目を神に捧げる。それを供物とし、かの聖女と呼ばれし "胡蝶の歌姫" プロテノア・スパングルの御身を癒し給え!」
そう叫ぶと、ノアとオタク侯爵がまばゆく輝きだす。
この光は・・・! "神の瞬き" 。まさか、オタク侯爵が "神の力の執行人" だったとは。
いや、あの詠唱振りからするとパ・ンツの "神の力の執行人" は彼の末裔にしっかり受け継がれてたのね。
"神の力の執行・癒"
オタク侯爵でない声が発せられる。
この世界で、あらゆる頂点に立つ最上級スキル、魔法が発動する時、神の声が響く。人はこれを神の奇跡として崇め称え、神の存在を改めて認識する。
そうして、声が広がり終わると聖なる光は弱まっていく。
そこには、顔色が戻ったノアと左腕と左目を失った侯爵が座っている。
かつて神に選ばれた七皇で、その末裔として認められた者でも神の力は代償なしでは行使できない。その代償が、今回は左腕と左眼だったのね。
随分オリジナルと比べて代償の方が大きくなってしまってるけどアレから1200年か。早いモノね。
するとオタク侯爵は座り込む。
「ふぅ・・・流石にコレはくたびれるんだな。デュフフフ、さぁ、もうノアたんは大丈夫なんだな。好きなだけ、くっついているといいんだな」
そう言うと私を見つめてくる。
恐らく、あの詠唱からも推測できるけれども、神の力を行使した際に対象者の情報を得る為に神の領域にアクセスした様ね。
まぁ、あの様子とオタク侯爵の性格からして情報をばら撒く事はないでしょう。
私は安心してノアの胸へと飛んで行く。口回りも服も体も、吐いた血で汚れているけれど今は穏やかに眠っている。
うん、もう大丈夫。
ねぇノア。
私のかつての大切な双子の妹。
ううん。
今でも、性格も記憶も変わっているけど変わらず大切な私の妹よ。
さて、そろそろこの連続少女殺人事件編も終わりまじか。
今、この書いてる最中に最初から最後まで読んでくださっている方は、私の推測が正しければ一桁台でしょう。
ですが本当にありがとうございます。
立てたフラグを回収しつつ、回収せずに、次の編に回したりと色々やっているのでわかりにくい部分も多いと思いますが、よろしければこれからもどうぞよろしくお願いいたします。




