第三十一話 答え
第三十一話 答え
セバスの格闘能力は、パワー、スキル、技術、経験、全てを総合すれば圧倒的に私を超えていた。
それでも、私がついて行けているのは、覚えた数々の "型" のおかげだ。
"型" とはその流派によって、意味合いが変わる物も多いが実践的な物は全て細かい技の連続で、バラバラに存在する、回避、攻撃、移動、そして次の攻撃や回避、移動を敵の動きに合わせて隙なく連動、連鎖させ一つの流れとし形として残したものだ。
故に一つ目の行動さえ間に合えば、次の行動は一つ目に集約されているので相手が自分より早くてもついて行け、場合によっては次の先手を取れる。
そして、 "型" とは、その流派の人々が戦いという経験の中で生み出した戦場で生き残る為の答えだ。即ち、先人達の戦いの追体験でもある。
それを理解し、身体に覚えさせる事で、戦いの状況に合わせてその無数にある "型" を繋げていき勝ちを目指すのが本来の姿だ。
勿論、中には様式美的な物に成り下がってしまった物もあるが、今は、その "型" こそ私の命を繋いでいる。
だが、それもだんだん厳しくなってきた。何故ならその "型" 故にその一挙手一投足には流派や使う人間の癖がでる。
その癖をセバスはこの戦いの中だけで少しづつだが理解してきているようだ。
向こうの世界では、セバス級の達人とやり合う事は、よくあったが "共有" の能力を使えばどうにかなっていた。
ある意味で、自己の純粋な武術的研鑽をサボっていたとも言える。それが今になって響いているという事か。
「貴方、本当に凄いわね。ここまで追い込まれたのは久しぶりですわ」
なんとか隙を見て声を掛ける。
「私もここまで本気で戦い続けられる相手は久しぶりですな。楽しくて堪りません」
会話は何とかできる状況か、ならば揺さぶってみるか?武と言うのは、心技体。どれかの均衡が崩れれば隙はできる。
「それほどまでの武の高みに居ながら、なぜ貴方は彼女の悪癖に目を瞑り、己自信の武功を汚すのか分りませんわ」
「元々、私の武などそれ程崇高な物ではないのです。生きる為に覚え、望む物を手に入れる為に他者を殺す。そういう物なのです。そして今はお嬢様の願いの為に振うだけなのです」
「お嬢様の為?貴方とそのお嬢様の関係は一体どんな物かは知らないけれど、寧ろ貴方のその行動の結果が今の彼女の状況を作り出しているというに?手に入りもしない永遠の命の為に狂った妄想に捕らわれているだけじゃない」
「だとしても、私は決めたのです。私だけは、お嬢様の願を聞きいれると!」
そういうとセバスは今までとは変わって感情を表すかのように突っ込んで来る。今までに比べて分かりやすい動きだった。
そのまま、突きと蹴りを回避して、相手の動きに合わせて背後に回ると振り向きざまを狙い刀を斜めに振り下ろす。
すると僅かに切っ先がセバスの眉に振れ初めてセバスを皮一枚だが、切ることが出来た。
流れる血がセバスの左目に流れ視界の邪魔をする。それを受けて冷静になったのか間合いを取り直す。
「貴方、あの公爵の事が好きなのね・・・」
「!・・・。そう、初めてお会いした時は、ノア様程の年齢でしたね。ええ、美しかったですとも。だが私はスラムの荒くれ者、その腕を買われて旦那様から拾われた身、この想いは使用人としてただ主に届けるのみ」
そう言い切ると、セバスは、また攻撃に転じる。顔を切られた事で冷静になったのだろう、先ほどの隙のある動きではない。
何とか、攻撃をいなして間合いを取る。
「だからこそ!己の命を呈して貴方は、彼女を止めるべきではなかったの?」
「私は使用人なのだ!主の願いを叶えるまで!」
「このわからずや!!!貴方がそんなんだから彼女はあんなモノに取り憑かれるでしょうが!」
今度はお互いに間合いを詰めて一撃を繰り出す。拳と刀がせめぎ合うも、圧倒的なパワーの前に後ろに飛ばされる。この少女の体では当たり前だった。
熱くなっていたのは、自分だった。
セバスは、ある意味で自分のもう一つの可能性だった。
あの時、あの場所で、偶然にも、自分が決意し意図したつもりは全くなかったが、最悪の方法で狂った最愛の女性を止めることが出来た。
もしあの時、止めることが出来なかったら、私はセバスの様になっていたのだろうか?
だが、今のセバスを見れば分かる。それが、意図した事でなくても、あの時の最悪の結果が自分にとって、あの時の最善であったという事が。
私はずっと悩んでいた。だからこそ忘れるようにしていたし、忘れたフリをしていた。
だけど、クリスティアの一件で思い出され、そして、今この瞬間に言葉にしきれない "答え" を見つけた。
だからこそ、そう、だからこそだ。私はこの二人を何としてでも止めなきゃいけない。それが最悪の方法だとしても。
「ねぇ。負けて貰えないかしら。負ける事こそが最善への最短の道よ」
「それは出来ませんな。お嬢様の願いは貴方の血肉。生きたまま献上させてもらいます」
それを最後に言葉は消え、間合いを取った状態からにらみ合いが続く。
だか、突如その緊張の糸をぶち切る様に声が響く。
「遅いわ~。何を遊んでいるのセバス?待ちくたびれたわ」
そう言いながら二階からアルファウトル公爵が姿を現し見下ろしている。
一瞬、その声に気を取られたセバスの隙を見て、太ももに括りつけられているポシェットから素早く銃を右手に転送して装填されている弾丸全発をアルファウトル公爵に向かって撃つ。
「お嬢様!」
セバスが私が銃口を向けた瞬間に反応し前にでて自ら受ける。弾丸は破壊不能、魔術弾の為、素でもセバスの身体ぐらいなら貫通するくらいの威力はあるはずなのだが相変わらず平然と受け止められている。
「あら、私をかばってくれたの?偉いわ、セバス。だけれどね、そんな事より私はあの娘の生き血が早くほしいわ」
「はい。かしこまりました」
そう言って構え直すセバス。コイツはちょっとヤバいな、殺気が先ほどの比ではない。この二人を止めると心に決めた物のこの状況を打破するには・・・。
「最愛のお嬢様が出てきて、カッコイイ所を見せたいのかしら?殺気がだだ漏れよ」
「ノア様程の武芸者を、しかもその若さで失うのは惜しいですが、我が主の願いの為。終わらせて頂きます」
お互い最期の一撃を求めてにらみ合う。
僅かな時間が一気に伸びていき長い長い静寂が訪れる。
何が決め手になったのかはお互いが不明だったであろう。
だが、まるで示し合わせたかのように、全く同時にお互いが間合いを詰める。
勝敗は一瞬。
「封魔滅列掌!」
「餓喰の黒・・・」
その一瞬の読み間違いが勝敗を分けた。まさか、この期に及んで攻撃スキルを隠し持っていたとは・・・。
本来だったら、一撃を敢えて受けてからの魔法のハズだった。
セバスは、必殺の一撃を狙うときだけは次の攻撃まで時間が掛かる。だからこそ骨の1,2本は捨てての魔法狙いだったのだが、そんな甘い攻撃ではなかった。
あのスキルを受けた瞬間、魔力が一瞬で拡散しただけでなく激しい吐血により魔法の名前すら言えなくされた。
「ブッハ・・・ちょっと・・・女の子にはもっと、ケハッ・・・丁寧にあつかわなきゃ・・・」
余りの苦しさに刀を落とし、ガシャンという音が静寂に響く。
「私の勝ちのようですね。スキル "封魔滅列掌" を受ければ例外なく暫くは魔法はつかえません。そしてその小さな体では、私の放った衝撃は耐えられないでしょう」
流石にもう立っていられなくなって倒れこむ。吐血に苦しむ私を運びだそうとセバスは近づいてくる。
「ケッハ、もっと、紳士的に・・・」
恨み言を言いたいがそれすらも出来ない。だけど、あと少し、あと少し、身体よ持って。願いながら、苦しみに耐えながら指先で眼鏡に映るポシェットの操作画面を弄る。
そして、その瞬間が来た。セバスが無防備に私に近づき、なおかつあの、公爵とセバスそして私が一直線上にいる瞬間。
ハッキリいってギャンブルでしかないが、本当にこれが最後の騙し合い。
セバスに銃口を向ける。
苦しむ中こっそり取り出した、先ほど全弾打ち切ったパファダー2nd
「そのようなもの今さら何になりましょう」
その言葉が終わる前に、取り出した際に転送し変えた、取って置きの3発が破裂音と共に走り出す。
銃弾は、貫く事の出来ないセバスの身体を貫き、そのまま、直線上の背後にいる公爵をも3発とも貫いた。
「ギィィヤァァァァァ!!!」
広間中に、公爵の叫びが響き渡る。
「なっ・・・そんな馬鹿な・・・!」
セバスは振り向き、自分の穴の開いた身体と同じく穴の開いた公爵を見つめるが、何が起きたか理解できていない。
「言ったでしょ・・・ケッフ・・・負けるのが、ゲッホ・・・最善への最短の道・・・ケッホ・・・だって」
「まさか?今のはソウルアーツだとでも・・・!?」
その刹那、子竜の雄たけびが響く。
「キュルルルゥー!」
すると、一瞬にして、黒蝶が舞い踊り公爵にまとわりつく。
それを振り払う様に暴れるが黒蝶は一瞬で破裂するように球体に変わり公爵の肉体を全て喰らい尽くして消える。
「そ・・・んな・・・」
膝をつくセバス。
ソウルアーツで肉体も魂も撃ち抜かれ、さらに心の支えすら無くなり精魂尽きたのか、そのまま倒れる。
何方にしても、もう死を待つだけだろう。
それは、私も同じだが・・・。
(ねぇ。ノアちゃん?大丈夫なの???)
(・・・だいじょばないな。内臓もズタズタ。あばら骨が何本か折れただけじゃなく肺に刺さってるみたいだ。吐血も止まらないしな。この世界の医療じゃ無理だろう)
(ちょっと、ふざけてる場合でないわよ!?)
さて、とうとう決着がつきましたが・・・?
それでは次回もよろしくお願いいたします。




