第二十九話 アルファウトル侯爵
第二十九話 アルファウトル侯爵
翌朝、高級宿泊施設達をでた一行は馬車でアルファウトル公爵の館に向かう。
各自必要最低限の荷物だけなので荷台は宿泊施設に待機してある。
馬車の窓から外を覗いて街中を観察してみる。イスーの街と同等規模であるはずだが、活気というか何というか何処かものさびしい気がする。
この違和感が何かを探りながら街を眺めているとある事に気が付く。街中で華やいだ女性達の姿が圧倒的に少ないのだ。
更に言えば子供達も少ない。そういう通りだとか言われると何も言えないが、何か違う様に思える。
セバスも侯爵も一言も話さない。沈黙の中にただ石畳の路面と馬車の輪が紡ぐ音が淡々と公爵の館までのカウントダウンをしているようだった。
(重いなぁ)
(重いわねぇ~)
(この二人よくこんな状況でいれるな)
(そうねぇ~。そうだ!試しに侯爵の前でスカートを捲ってみたらどうかしら、空気変わるかもしれないわよ?)
(・・・子ドラゴンの串焼きにしてやろうか?)
(やぁ~ん。冗談よ、冗談)
暇つぶしにそんなやり取りをしていると、漸く公爵家の門につく。
まぁ、何て言うか侯爵と負けず劣らずのデカイ庭である。ただ、馬車の乗り換えは必要なくこのまま建屋まで行くことが出来た。
そりゃそうだな。計4体の馬車の乗り降りするくらいなら、そのまま通した方がいいだろう。
そうして、ドでかい玄関に全員が揃う。定例会と言うには少し、否、かなりピリピリしすぎだ。これはどうした事か?
イスーの連続少女殺人事件から侯爵がピリピリしているのは分かるが、ここにいる全員がこの状況はおかしすぎる。
侯爵め、定例会と言うのは方便で、何か重要な事を隠しているなコレは。
だが、ここに来て確認するにも周りの目がありすぎる。とりあえず最大限の警戒だけはしておこう。敵も味方も含めて。
玄関には屈強な男達が玄関に立っている。恐らく執事と守衛を兼ね備えているのだろう。姿だけは執事の格好をしている。
男の一人が案内をするのでついて行くと大きな広間にでた。
そこには豪邸を絵にかいたような、吹き抜け状態で左右に階段があり2階に上がれるようになっている。
2階から一人の女が現れると、私達を見下ろす。
「いらっしゃい。遠い所よく来たわね。使用人共々歓迎するわ」
そういうと、全員儀礼的に頭を垂れるので合わせて私もする。
顔を上げると、女はセバスに視線を向けている。
「そうそうセバス、もう宜しくってよ。今、屋敷内が少し忙しくってね、戻ってきてほしいわ。構わないでしょう?テンプレベード卿」
「はい、元よりセバスはアルファウトル卿からお預かりしていた使用人、アルファウトル卿が必要とするのであれば返すつもりです」
何だと・・・?セバスはアルファウトルの使用人だったのかよ。それは少し洒落にならないな。すべてが筒抜けじゃないか。
(ねぇ、ノアちゃん!ねぇってば)
(なんだよ。今、衝撃の事実を知って大変なんだから)
頭の上にへばりついているリリィが思考の邪魔をしてくる。
(それなら、こっちも大変よ!少しでいいから、なるだけばれない様に眼だけにソウルアーツ使ってあの女見てみて)
あん?なんだ眼だけにソウルアーツって?まぁ少しぐらいなら弾丸にソウルアーツを込める練習してきたから多分できるんだろうけど。
うーん?おやおや?ありゃなんだ?なんていうか、表現するなら怨霊の様な顔にも視えなくはないモヤモヤが後ろにくっついている
(あれは、なんだ?怨霊か何かか?)
(視えたのね。アレが "大いなる災い"の眷属よ。幸い人の欲望にとりつくくらいしか出来ない、最下級のザコだけれども)
(アレが・・・)
(だけど気を付けたほうがいいわ、アレに憑かれてる人間は普通の方法では殺せないし歪んだ欲望をぶちまける厄介な存在よ)
そんな思念のやり取りをしている間に、セバスは階段を上りアルファウトルの傍に行く。
「お嬢様、お久しぶりです。それでは今からこのセバスこの館の指揮を執らしていただきます。それとこれを」
そう言うと荷物を差し出す。それにしても "お嬢様" か・・・。見た感じ侯爵よりも年上で四十は過ぎているようだし状況からしても当主で間違いないのだが・・・。。
ふむ、セバスにとっては月日が流れても彼女はセバスにとって永遠に "お嬢様" という事か。
アルファウトルが荷物の中身を取り出すと、それは見た事のある小さな箱と小さな壺である。
おいおい、すんなり魔法具が返されてしまったな。まぁセバスが向こう側の人間なら仕方がないか。
「ご苦労様。知らぬ盗まれていてね、回収してもらえて助かったわ。礼を言うわ」
「だが、それがアルファウトル家の物と確定した以上、このまま大人しく定例会と言うわけにはいきませんな」
侯爵は、この状況下でも強気にでた。
「あら?話は聞いているけど、あの連続殺人事件は、快楽殺人者の暴走よ。私は関係ないわ、大人になれないジーニィ以外はね?」
大人になれないジーニィだと!?
「既に、此方はアルファウトル卿が永遠の若さを得るために、様々な少女を殺し、その生き血をすすり肉をむさぼっていた事は判明している」
ヒューマーのマッスリング伯爵が更に強気に言葉を返す。
「そして、ここには皇王陛下の勅旨もある」
さらに、今まで静かだったエルフのミュート辺境伯が続く。すると、辺境伯の傍にいたエルフの双子が前に出て声をシンクロさせて言葉を紡ぎだす。
「「これは勅旨である。アルファウトル公爵の行為は既に領主の権能を大きく逸脱するモノである。すみやかにアルファウトル公爵を捕縛すること。抵抗するのであれば武力行使を許可する」」
なるほど、あの双子は勅使だったのか。
「フフフ・・・私が貴方たち如きに捕まると思う?そもそもセバスは、テンプレベード卿の元にいたのよ?私が勅旨を知らないわけないじゃない」
「ならば、ここに我々を招き入れたのが間違いだったな」
「あら、勘違いしては困るわ。本当に招き入れたかったのは、双子のエルフに、アルビノアニマーに、黒眼黒髪のヒューマーよ。どれも若返りそうだわ。特に、胡蝶の歌姫の再来なんて素晴らしいわ。大人になれないジーニィがいないのは残念だけど、また今度に取っておくわ」
「貴方の思う様にはさせんよ」
そう言うとレイピアを抜く侯爵。どうやら腰の獲物は飾りではなかったようだ。
「それは此方のセリフね。お・馬・鹿・さ・ん」
そういうとアルファウトル公爵は指をパチンと鳴らす。
すると公爵捕縛メンバー、一人一人の足元に魔法陣が展開される。
「むぅ、これは!!ノアたん、コレを持っていけ!」
折角デュフフ口調はないのに、名前に "たん" 付けてたら台無しだろう。そんな事を頭の隅で考えながら投げられたブローチを受け取る。
その瞬間、目の前が白くなったと思ったら、先ほどとは違う見知らぬ部屋にいた。
これは・・・!?。
それでは次回もお楽しみに―




