第十八話 5.56mmNATO弾
第十八話 5.56mmNATO弾
翌朝、私は一度家に帰り血なまぐさい身体を洗い着替えて冒険者ギルドへ向かった。
カウンターの脇を通り抜け二階に上がってクリスティアの寝ている部屋に入ると彼女は静かに柔らかい朝日に包まれているのが視界に映る。
「クリスティア、おはよう。もう終わりましたわ」
唯一包帯のない右ほほを優しく撫でる。するとギルド職員が様子を見に来て挨拶をすると去っていく。
昨日世話になった冒険者も入れ違いで様子を見ては部屋を出ていく。
それから私は部屋にある椅子に腰をかけ朝日が消えるまで暫くクリスティアを見守っていたが、その間にイーニャも来たし、リーミアもセバスもガルヴァスもサンディバルもバリズディまで何処で情報を聞いたの見舞いに来た。
騎士団や冒険者らしい人、街の人間、名前もしらない連中もきた。どんだけ人気ものなんだよ。
みんなが挨拶に来てるのにいつまでも黙っているのかい?クリスティアらしくないじゃないか。
それからどれくらいクリスティアを眺めていただろうか?ふと声を掛けられる。
「デュフフ、ここにいたんだね」
「侯爵様」
「クリスティア嬢が気になるんだね?」
「ええ」
「かつて神の戦士として作られたジーニィ、それ故に神の許しが出るまで死ぬことは許されず永遠と戦い続ける一族。そう古い文献には書かれたりもするんだな」
「・・・」
「つまり、ジーニィはこれくらいの事では死なないんだな。僕の友人のジーニィも心臓貫かれたのに、今もピンピンしてるんだな」
「なら・・・また直ぐに騒がしくなりますでしょうか?」
「デュフフ、そうなんだな。ジーニィは仲間意識が強いから義姉になった君に彼女はずっとついてまわるんだな。これくらいでヘコんでいたらこれから先、持たないんだな」
「そうですか。そうですね見ていても何も変わらないですし、今できる事をやっておきましょうか」
「情報は騎士団本部にあるんだな。君には情報を渡すように指示は出しておいたんだな。」
「ありがとうございます」
「デュフフ・・・それでは僕は公務があるからこれで失礼するんだな」
そう言って去っていく侯爵。
なんだか侯爵の手の平で踊らされている気もするが・・・
そうだな昨日の狙撃、犯人の能力、まだ事件の全ては終わったわけではないな。
私はクリスティアに挨拶をして騎士団に向かった。
騎士団本部について最初に話しかけてきたのは、サンディバルであった。
「ミス・プロテノア、もう大丈夫なのですか?」
「ごきげんよう、サー・サンディバル。私は何ともありませんわ」
「それは良かった。昨晩、例の犯人と1対1でやり合われたとか?」
「ええ、生きたまま捉える予定でしたが、何処からか横槍が入り殺されてしまいました。残念です。」
「ですが、誰も奴の姿すら捉える事すら出来なかったのに、このサンディバル感服いたしました」
「運が良かったのと、クリスティアに勝って相手が油断してたのがありましたから・・・」
「おや?サンディ、君がこんな処で悠長におしゃべりとは珍しいねぇ」
突然私達二人の会話に声が割り込んでくる。
「ハッ!団長。只今、ミス・プロテノアを客人として対応しておりました」
団長と呼ばれた方をみると、凛々しいアニマーの女性が立っている。身長も高く耳は何ていうかウサギの様に長めだがもっと野性的な耳、そして出る所はでて引っ込むこ所は引っ込むといった肉体美の持ち主であった。
「ほほぅ、彼女が噂の・・・なるほどねぇ、見た目は物静かな美少女であるのに騎士団いや冒険者ギルドも含めて尻尾すらつかめなかった犯人を捕らえるとは恐ろしいねぇ」
「私、プロテノア・スパングルと申します。以後お見知りおきを」
私は何時もの仕草で挨拶をする。
「こちらこそ名乗らず失礼した。私は、クアイトヒル騎士団、団長キャロルル・マークウェイだ。以後よろしく頼む」
「それで侯爵様よりこちらに事件の情報を開示してもらえると聞き来たのですが」
「ああ、話は聞いている。こちらも確認して欲しい事があってな。トウゲンキョウ出身と聞いたので何か分かるのならこちらも教えていただきたい」
確かに私の知る限りでは、この世界で銃関連は得体のしれないものでしかないだろうな。そして得体の知れないものはトウゲンキョウという枠組みで処理できるのかもしれないな。
「わかる限りでお話しますわ」
「うん、助かる。ではこちらだ」
そうして2階の部屋に向かう。その部屋では、いくつかの報告書が机の上に四散していた。
ざっと目を通す。もちろんメガネが自動翻訳をしてくれる。昨日話した事が書かれた資料であった。もう一つは何やらマークが書かれている。
どうやら犯人に裏で力を貸していた関係者の事らしい。
「さて、ミス・プロテノアこれを見てもらいたい」
そういって出してきたのは銅色の弾丸2つだった。
私はこの弾丸に酷似している物を見たことが良くある。その名前は、5.56mmNATO弾。日本も含めNATO加盟国にて採用されている、主に自動小銃用の弾丸だ。
価格、実績、使用する小銃の種類の多さから使い勝手が良いのでニュクスの灯でも一般的につかわれている物だ。ただ、弾頭の部分だけなので断定はできないが。
「これは、犯人を死に至らしめた物ですね?」
「ああ、両方とも壁にめり込んでいた。これが何か知っていないか?」
「知っているか知っていないかで聞かれれば。知っていますわ」
弾を手に取って眺めながら素直に答える。
ただしこの弾丸にはいくつかの疑問がのこる。
まずこの弾丸を使う銃の種類あ自動小銃つまりアサルトライフル。そしてそれは単発で撃つ機能はあるが狙撃用の銃ではない。
この弾丸では十分な殺傷能力の射程は銃にもよるが長くても200m前後であることが一つ。つまり相手は遠距離射撃には向いてないのにも関わらず使ってきたことだ。
しかも、私が使ってる弾の様に魔術で命中補正をせずに目標に当てて来たこと。
そして、もう一つはこの銃弾は言うほど頑丈ではないのだ。むしろフラグメンテーション弾と言って当たった衝撃で壊れることによって貫通しようとするエネルギーを
衝撃エネルギーに変えようとする性能がある。なのに、壁に当たって2発とも無傷ってのはあり得ないだろう。
仮にあのBAR穴から出た物とすれば、破壊不可ということでありえはするが、あの店の女性の話が正しければ紛失不可がもれなく付いてくる。
事実、昨日私が放った弾丸は、弾頭だけポシェットに戻ってきていた。
つまり、普通に考えればBAR穴から出た物とは考えずらい。裏でそういうルートがあるのだろうか?
どちらにしても、今推理できる事は銃も弾丸も使用者も全てが純粋な地球のモノではないだろう。
狙撃ができる地球の人間ならば銃の選択がおかしく、地球の銃であるなら地球外の技術が使われている事が高く、弾に置いては謎が多い。
「それで、これはなんであろうか?」
「これは銃というものの弾頭ですわ」
「銃?」
「このような金属の塊を火薬で高速で打ち出す道具ですね、確かこの国にも大砲という物はあるでしょう?アレの個人で持ち運びできる物と思えばいいかと」
「ほほぅ。そのような物があるとはな」
「ただ、少し自分が持っている物と状況が合いませんわ」
「どういうことかね?」
「あくまで推測ですが、これは私がいた純正なトウゲンキョウ製ではないという事ですね」
「つまり、別のトウゲンキョウの様な場所でつくられたか、製法が何処かに伝わっているということか」
「ええ・・・ただ、これを打ち出す銃も弾もかなり高度な技術と加工道具が必要なので製法が伝わったからといって作れるものでもないでしょう」
「ふむ、結局いろいろ謎があるということか」
弾丸を返す前に色々調べるフリをしてポシェットに一瞬いれてステータスを確認する。
(破壊の不可・破棄不可・紛失不可)と本来書かれているであろう場所は文字化けした状態で表記されている。ふーむ。実に興味深い状態だ。
次に弾丸の隣にあった物に質問をする事になった。
「ところで、こちらは何でしょう?」
小さな箱と、小さなツボの様な物を手に取って質問する。
「これは犯人が持っていた魔道具でな、これで結界を作ったり、姿を消していたようだ」
「姿が消えるのは、犯人のユニークスキルとかではなかったという事ですか」
「ああ、しかもこんな物は簡単に手に入る物ではなくかなりのレアアイテムだ」
よく観察すると、ツボにも箱にも、底にマークがついている。散乱している書類に書かれていた物と同じだ。
「このマークに何か意味があるのですか?」
「それがかなりの曲者でな、これはアルファウトル公爵家の紋章なのだよ」
確かに、公爵家がこの殺人鬼と絡んでいるとなると大問題だな。
公爵と言えば大公を除けば爵位で一番上の貴族となる。場合によっては今回の事件を権力で握りつぶされる事もあるし、何よりこちらからこれを持って事のあらましを問う事も出来ないだろう。
まぁ、一番頭を悩ませてるのはオタク侯爵なんだろうけど。
「それで犯人の身元は判明したのですか?」
「ああ、彼はジャルック・リッルパー。元ソールデースペル皇国軍の斥候兵だ」
「やはり、元軍人でしたか」
「彼の家を既に抑えてあるが、どうやらだいぶ前から家には戻ってなくここ最近の足取りはまったくついていない」
「あるいは、アルファウトル家が彼の隠れ家を用意していたとか?」
「その線も追ってはいるが、流石にアルファウトル公爵家の周りをそうそう調べる訳にもいかんのでな」
なるほど、だいぶ情報は集まって来た。あとは不明な所と分かっている点がつながれる推理をして、それを下に今一度調べるといった感じか。
「仮にアルファウトル家が関係した場合、この街で連続殺人事件を起こす理由に何か心当たりがありますでしょうか?」
「いいや、あまり思いつかないな。あるとすれば、この街の産業とタクルティオ卿への嫌がらせぐらいだが、それも考えずらいな」
「そうですか・・・では、こう考えてみたらどうでしょう。連続殺人はアルファウトル家に取っては予想外の事であったと」
「何?そうか、つまり本来は別の事か、あるいは連続殺人の中の一人だけを狙っただけのハズであったがジャルックの暴走で連続殺人の変わってしまったという事か」
「ええ、弾丸の理由を大体の説明はつくかもしれませんわ」
「なるほど。奴は、魔法具を所持して使っていたからアルファウトル公爵家の刺客も発見するのが難しく暗殺が困難であった。だが昨晩の戦闘でヤツは魔法具を使用する前にプロノテア嬢に会い戦闘になった。それでその銃という奴で殺すことが出来たと」
「ついでに、2発目は私を完全に狙っていたので恐らく私も亡き者にして、魔法具を回収する予定だったのかもしれません」
「なんと・・・。」
「そうすれば、銃も弾丸もアルファウトル家の庇護の下にあるならば或いはどうにかできるかもしれませんわ」
「なるほど、それならばすべては繋がるか・・・」
しかし、どちらにしても弾丸の謎は残るばかりか。
ん?待てよ。私がこの世界で冒険者になった時に登録可能なジョブにたしか、瞬銃士、魔銃士とあったはずだ。
あの時は、自分の能力がこの世界のジョブに影響を与えたと思っていたが、そうではなく既にこの世界にはこのジョブを持つ物がいて、その人物がアルファウトル家にいるとすれば可能性はあるな。
無傷の弾頭は、弾丸を強化する魔法かスキルが存在するとすれば説明がつく。そしてスキルが在ればあの距離からも正確に当てる事は可能かもしれない。
さて、なればそのスナイパーの次の行動はなんであろうか?おとなしくアルファウトル家に帰っていればいいが、
私を狙撃しようとしてた事を考えると魔法具の回収だが、既に時間が経ってしまっているのでこれ以上の口封じの殺人はあまり有益ではないだろう。
「可能性を考えるとするならば魔法具を回収しに来た時に犯人を捕まえるくらいしか今の所なさそうですわね」
「うーむ・・・」
どちらにしても、アルファウトル家に手が出せないなら向こうの出方を待つしかないだろう。
魔法具に関しても奪還行為がなければ政治的取引でやることになるだろうし。
この領地の騎士団が何処まで権限を持っているか知らないが出来る事はかなり少ないようだ。
「あい、わかった。致し方あるまい。ここはタクルティオ卿に骨を折ってもらう事にしよう」
「そうですね。侯爵様なら、私達にはないアルファウトル家の情報もあるでしょうし、それが妥当かと思いますわ」
そう結論を出すと、キャロルルは侯爵に会いに行く支度をする為に部屋を出ていった。
私もここにはもう用事がないのでとある場所に向かう事にする。
次回 第十九話 リリィちゃん登場!の巻




