第十六話 叫び
第十六話 叫び
とうとう、雨が降り出した露店通りの真ん中で、私は若い騎士からクリスティアを見失った報告を聞く。
撒かれたってことか?
「ギルドの方でも不明になっているそうです」
何?騎士のへっぽこ尾行はいいとして、冒険者ギルドの方はかなり出来る斥候だったはずだ。それが見失った?
「見失ってからどのくらいたったの?」
「一時間はたっているかと」
正確に時間は把握してないが、恐らくクリスティアがここを離れてすぐって事か。
まずいな、あの子は1時間も戦闘を長引かすタイプでないし、そんな長時間の戦闘は性格的にできない。
「なんとかしないと!」
でも、この狭いようで無駄に広い街の中をヒントなしに闇雲に探すのは愚策というものだ。
「騎士団も、冒険者ギルドも総出で捜索をしてます。ミス・プロテノアは一度騎士団にお戻りになってください」
「!」
そうだ、これがあった。あの親父のアクセサリの造る腕次第だけれど。
ペンダントを首から外し飾りに強く魔力を込めてみる。すると、羽の先についた石から赤い光がレーザーの様に一定方向に向かって伸びる。
「今は戻れないわ!あとはよろしく」
「あっちょと!ミス・プロテノア!?」
そう、若い騎士に告げると光の伸びる方向へと全力で走る。
途中、壁や建物が遮るのを、魔法で飛び跳ね屋根から屋根へと直進する光を追って自分も直進する。
雨が土砂降りに変わっていくが傘なんて悠長にさして走る余裕はない。ずぶ濡れになるのを気にせず膨れ上がる不安を振り払うように走る。
5分ほど走った所で、裏路地の袋小路になっている通路に光は指している。
だが、そこは無人で何もなく、光は不思議なことにその途中で途絶えている。
どういう事だろうか?ペンダントを落とした?いや、ペンダントも見当たらない。
だとすれば・・・結界の様な物だろうか?ならば!
「餓喰の黒蝶!」
光の消えてるあたりで黒蝶を開放してみると、空間が虫食いの様になり、そこから血だらけのクリスティアが見えた。
一瞬で感情が爆発する。
「クリスティアァーーー!」
そう叫ぶと 屋根から飛び降りて "光切兼忠" で残りの障壁を切り刻む。するとガラスが砕けるように透明な障壁は完全に砕け散る。
それと同時に黒い細身の男が後ろに下がり姿が消える。消えた!?だが 犯人は今はいい。
そんな事よりクリスティアをどうにかしなければ。
「クリスティア!しっかりして!」
声を掛けて両腕で抱きかかえる。にしても酷い出血だ、腕も足も体も切り刻まれている。そして、左目が・・・奪われていた。
なんて事を!でもまだ息はある!兎に角、ここにいるのはまずい犯人から遠ざからないと。
魔法で飛びながら、足で走りながら、がむしゃらに移動する。
ここからじゃ、診療所は遠すぎる。一番近くてなんとかなりそうなのは・・・冒険者ギルド!あそこなら医療専門の冒険者もいる可能性がある。
それに冒険者用の治療場があったはずだ。
全力で飛んで走る。
そして冒険者ギルドが見えると一直線に走り、ドアが壊れる事なんてお構いなしに足で蹴り飛ばし中に入ると叫ぶ。
「誰か!クリスティアを助けて!!!」
誰もがずぶ濡れで血まみれの私達を見て硬直する。
「ねぇ!黙ってないで!依頼でもなんでも出すから、この子を助けて!」
そう今一度叫ぶと、イーニャが慌てて出てきて指示を出す。
「こっちよ、こっちに運んで。そして誰か回復や医療専門にしている冒険者は手を貸して、報酬は払うわ!」
そう声を張り上げると唖然として動けなくなっていた職員、冒険者達が動き出す。
私は案内されるがままに部屋までクリスティアを連れて行きベッドに寝かす。
こうやって見ると本当に酷い・・・。後からついてきた冒険者や職員達がクリスティアを裸にして処置を始める。
隙間から状況を覗くが傷がない部分を探す方が難しいくらい切り刻まれている。
何人かが詠唱を始めると魔法陣が傷だらけのクリスティアの体に浮かんでいく。
回復や治療は門外漢なので見ているしかない。
ごめん。本当にごめん。私はどうしてあの時、無理にでもついていかなかったんだろうか?
なんだか嫌な予感みたいな物は感じていたはずだ。
なのに・・・私は・・・おねーちゃんなんて言われて調子に乗っていたのだろうか?
お願いだから死なないで。
何も出来ずただうつむいて突っ立ているだけしか出来ない身体に何かが被さる。顔をあげるとイーニャがタオルで勝手に人の頭を拭いている。
「そんなびしょ濡れで突っ立てたら風邪ひくわ」
そう言われて自分の足元を見れば床は水浸しだった。
私はイーニャに誘導されるがままに部屋の外にで別の部屋に移動する。
あそこにいても邪魔になるだけだからだ。気が付けばイーニャに下着の上からタオルでぐるぐる巻きというスタイルに変えられていた。
それからどれくらいたっただろう。
リーミアが服から靴まで一式新しい物を持ってきてくれて着替えさせてくれた。
それからはずっと部屋の外にある長椅子に体育座りして待っていた。
気が付けばいつの間にか雨の音は止んでいた。
少し寝てしまったかもしれないと思うほど記憶がはっきりしない。
すると治療をしていた冒険者や職員が部屋から出てきた。私はすがるように近づいて声をかける。
「クリスティアは、あの子は、大丈夫なのですか?」
「彼女次第でしょう。ジーニィは外傷には強いほうですがこれ程の怪我になると我々も断言はできません」
「・・・そうですか」
「ですが、思った以上に彼女は丈夫なようです。あれほどの怪我をしたら並みの人間なら即死してます。希望はかなりあると思いますよ」
「あ、ありがとうございます」
「では、お大事に。貴方も風邪などひかない様にね」
そう話を切り上げると部屋の中に入る。そこには全身包帯まみれのクリスティアが静かに横たわっている。
包帯の隙間から水晶の様な物がところどころ見えて仄かに光っているのがわかる。
綺麗な白銀の髪の毛もボサボサになってる。犯人に刻まれたようだ。
「ごめんね、クリスティア。お義姉ちゃんがもっとしっかりしてればこんな事にはならなかったのに・・・」
冒険者は命がけの仕事だ。向こうの世界のエージェントだって同じだから、覚悟は出来ていたはずなのに何故だろう。
そういえば幸か不幸か、向こうでは紗彩も隆も美衣奈も誰も死にそうな大けがをせずに成長していったな。
もし、あの3人がこうなったらやはり私はこんなにも取り乱してしまうのだろうか?・・・わからない。
もう何がなんだか分からなかった。ただ、ただ、クリスティアを見つめている事しかできない。
そんな中だった、暗い中ペンダントが光った気がする。先ほど着替えた時に首にリーミアがつけてくれたのだ。
いや、確かに光ってる。私は魔力を込めていないのに・・・どういうことだ?
クリスティアを助けた時には既に身に着けてなかったと思う。だけど犯行現場には光は向いていた。
そして、犯人は被害者の持ち物を持ち去る癖がある。
「!」
まずい!この場所が・・・いや・・・違うな、そうじゃない。
今一度、私がペンダントに魔力を込めると強い光が外に向かって伸びる。
「クリスティア、行ってくるよ。奴に私の大事な義妹を傷だらけにしてくれた報いを与えるために」
そのまま、冒険者ギルドの建物を抜け出すと光に導かれるまま雨の止んだ夜の街を歩いて行く。
次回、第十七話「月夜の逆襲」




