第十四話 セバスの手紙 ~ビスケットファイト~
第十四話 セバスの手紙 ~ビスケットファイト~
ご無沙汰しております、お嬢様。セバスで御座います。
日々あまり変わらぬ館の生活の中で、本日は特別に楽しいことがありました。
それは夕食後の夜の事で御座います。
私は使用人達の仕事終わりの後始末がしっかり出来ているかの確認の最中でした。
そんな中、珍しく客人であられるクリスティア様から依頼がありました。
「ビスケットでございますか?もしかして御夕食は足りませんでしたか?」
「ううん、そうじゃないんだ」
何やら御事情がある御様子。何かの役に立てればと思いお話を聞くと納得がいきました。
どうやら、クリスティア様の義姉になられましたプロテノア様の特訓方法が上手く出来ずに悔しい思いをしているとの事でした。
話によれば、それはこういう物に御座いました。
お互いビスケットの端を持ち、片方が先手となりビスケットを自由に動かす。
その際にビスケットが割れたり、ビスケットを手から放したら後手が負けとなる。
一分間ビスケットが割れずに残れば後手の勝ち。
この様な特訓との事。
確かに、これは言葉にするのは簡単ですが非常に難しい事に御座います。完璧に出来ればある種の武の極みともいえましょう。
「なるほど、なるほど。私、若い頃に見聞を広めるため旅をしておりましたが、似たような物を見たことがあります」
「え?そうなの」
「ええ、遥か西の大陸での事です。ただし、使用したのはビスケットではなく "パオズ" で、手と足は自由に相手を攻撃できると言う物でした」
「パオズ?あの蒸しパンみたいなやつ?」
「作用で御座います。確か、"パオズファイト" そんな名前だったと記憶しております」
「それも面白そう!でも、おねーちゃんとやったときは普通にピスケット割れちゃったし、そこに攻撃を入れるなんて物凄く難しそう」
「では僭越ながらこのセバスが少しばかりですが練習のお相手を致しましょう」
「え?セバスってできるの?」
「ええ、私も "パオズファイト" を見て感銘を受けまして、少しばかり教わりました」
「わっ凄い!お願い」
それから私達は屋敷にある武芸等を練習する広間にて練習を行いました。
しかし、こういう鍛錬は一体何年ぶりでしょう。この年になって若き頃の熱い思い出が蘇るなどとは不思議な感じです。
「クリスティア様、もっと力を抜いたほうがいいと思います」
「うーん、おねーちゃんにも言われたけど、力を抜くって難しい。ビスケットを指先で砕きそうになるし」
「そうで御座いますね。でまず、ビスケットを軽く持ちましょう。何も意識せずに普段食べるときの様に」
「むむっ」
やはり、難しい様子。私もそうでした。意識すればするほど力が入るというもの。これは慣れるしかありません。
「では、いきなり色々動かすのは難しいので左右に腕を振るだけにしましょう」
「うん」
そういうと右へ左へと、仲良しの子供が手をつないでいるようにゆっくり同じリズムと幅で振っていく。
最初は直ぐにビスケットが割れてしまいましたが流石はクリスティア様。3枚割れた辺りからコツを掴んだようで割れるまでの時間がぐっと長くなりました。
「それでは、目を瞑ってやってみましょう」
「え?」
「存外、こういう練習は視覚という物に頼りすぎては感じ取れる物も、感じ取れない事が多いのです。見えまいが見えようがやっている事は同じで御座います」
「あ、そういえば、おねーちゃん、最後の方にハンデとか言って目隠しをしてやってたけど、見えない方が有利なの?」
「一定の動きならば、あるいは有利と言えましょうが、自由な動きでの目隠しは相当な修練を積まなければ有利とはなりえません。ですが、そうですか。プロテノア様はコレを目隠しでやられますか」
「うん。じゃーやっぱおねーちゃんは凄いんだねぇ」
そんなことを息抜き代わりに話ながら鍛錬を重ね、クリスティア様の集中力が切れた当たりで本日の鍛錬は終わりと致しました。
しばし、休憩を挟み同じ鍛錬をまた時間がある時にする事を約束して解散しました。
しかし、プロテノア様は不思議なお方に御座います。
話によれば、冒険者ギルドの試験で不思議な魔法を使い、初めてこの館に訪れた時のには聡明さを披露し、そして本日聞かされた武における造詣の深さ。
本当に15歳のお嬢様なのでしょうか?それとも、トウゲンキョウと言う所にはそれだけの環境があるのでしょうか?
あと私が30歳若ければ、間違いなく館を飛び出してお手合わせを願い出ていたでしょう。
淑女であらせられる貴方様にこのような手紙を送ったところで何の面白味もないかもしれませんが、このセバスそれ程までに年甲斐もなく胸が弾んだのでございます。
それでは、貴方様のご清栄を祈らせてもらい、本日はこの辺で失礼させて頂きます。
追伸:使用したビスケットは、料理長になんとか使えないか相談した際には何とも不思議そうな顔をされましたが何とか美味しく調理して貰い皆で頂きました。
次回、「雨」
その雨は平穏な日々の終わりを告げる。




