第十一話 ソウルアーツと柔術とナンパ野郎
第十一話 ソウルアーツと柔術とナンパ野郎
クリスティアと一緒に侯爵の館を出ると冒険者ギルドに向かった。
どうやらクリスティアは小難しい事を考えたり、街をうろうろするのは飽きてしまったらしく軽く暴れたいのだとか。
個人的にも、クリスティアの以前行っていた、ソウルウェポンとソウルアーツってのが気になるので何か一緒に魔物討伐の依頼を受けることにした。
しかし、というかやっぱりというべきか、ジロジロみられるな。まぁそうりゃそうだろうな。
殺るか殺られるかの魔物討伐が依頼される場所で戦う事を無視したヒラヒラな服の少女が二人ならんで歩いてるんだ、場違いったらありゃしない。
「ね、ね!ノア、これさ依頼ってどうするんだろうね?」
「うん?」
そういうとノアが依頼書を見せてくる。内容は―――
・魔物研究に必要なウインドタイガーを1匹を傷つける事なく健康な死体を持ってきてほしい。
健康な死体・・・??一瞬、健康の意味を辞書で調べたくなった。
「うーん。ウインドタイガーを倒すのは難しくないけど傷つけずに殺すって難しいよね」
「そうですわねぇ・・・毒とかつかえば健康な死体になりそうもありませんし。というか健康な死体ってなんでしょう?」
「ちょっと、受付で聞いてくるよ」
そう言って飛び出していくクリスティア。そんな様子は完全に猪タイプの元気娘だが不思議と嫌に思えなく逆にほっこりしてしまう。
しばらくするとダッシュで帰ってくる。
「ノアー、やっぱ毒殺とかだめだってー。それに以前にデッカイマッチョな人が首を絞め上げて倒したのを納品したけどダメだったみたい。首の骨が折れてたり、痣ができたりするからだってー」
なんだこれめちゃめちゃ難しいな。ん・・・?いや、ワンチャンあるか?
「私、それ受けてみようかしら?」
「え?これ?うん、じゃーボクは別の受けようかなー。あ、このランドボアにしよう」
ボアかぁ、蛇の名前を聞いて懐かしく思う。かつての愛銃もまた蛇の名を冠していた。パフアダー2nd、あれもあの戦いで消し飛んでしまっただろうな。
ただ、そんな感傷は、いざ現場に出てみて吹き飛んだ。
ああ、ボアはボアでも、イノシシのボアでした。私の盛大な勘違いであった。
かなり頑丈そうなランドボア、あれはクリスティアで倒せるのかな?
あれから私達は着替えて魔物討伐に向かった。現在は、先にクリスティアのランドボアを討伐中だが、彼女本人の希望により一人でランドボアと戦っている。
ソウルウェポンで殴ってはいるものの大したダメージを与えている気配がない。
ただクリスティアが素早いので、攻撃を受けている気配はまったくない。なので遊んでいるだけにも見える。
あれからかなりの時間のんびり見ているが本当にどちらもやられる気配がない。逆に、長時間ちっとも疲れている様子がない一人と一匹に脱帽する。
しかし、そろそろ手伝った方がいいのかなぁ?と思って近づこうと思った瞬間クリスティアの全身が少し光ったように見えた。
その瞬間ランドボアがこっちに向かって破竹の勢いで吹っ飛んでくる。
おいおい、マジかですか?これは結構な質量と速度があるのではじき返すのも軌道をずらすのもこの身体では無理だろう。
あわてて高く飛び上がるとランドボアが真下をバウンドしながら転がっていく。
後ろを振り返るとさらに20mくらい先で止まる。
ランドボアはピクピク痙攣しているだけで起き上がる気配がない。
派手に転がったランドボアをよく見るとちょっと無残な状態だった。
骨がいろんなところから飛び出していて、衝撃の凄まじさが見えてとれる。
アレは遠くからで分からなかったが、スキルなのだろうか?
だが、話によればスキルは一つしか使えないと言っていたし、出会った時にゴブリンやオークに使っていたスキルとは明らかに違った。
魔法を使った様子もなかったが。これがソウルアーツって奴なのだろうか?遠くにいるクリスティアをみると女の子座りでへたり込んでる。
カラ元気でなんとか手を振っている様に見えるが、どうやらかなり消耗しているようだ。
「お疲れ様。大丈夫?」
そう近づいて声をかける。
「うん、大丈夫。ソウルアーツ使うとね、反動で少し動けないんだ」
「ソウルアーツ。あれがそうなのですのね」
「うん。ジーニィ族がつかう特殊な技でスキルとはまた違うんだ。練習すれば誰でも使えるって聞いたけど何故か使える雰囲気をもった人は、ジーニィ以外では見ないね。あれ?ノアって多分ソウルアーツ使えるんじゃない?」
「え?」
「うん、そういう雰囲気してるから使えると思う」
雰囲気ってなんだ?雰囲気でソウルアーツが使えるとか使えないとかこの世界はどうなっているのやら。
少しして回復したのかクリスティアが立ち上がる。外傷は特になさそうなので、次は私の依頼に向かいたいことを伝える。
クリスティアは、一緒に連れて来たギルドの馭者に声を掛けランドボアを運んで貰い次の地点で再会する様に話をすると馭者は自分達の作業に向かう。
馬というには余りにゴツいが、牛というには俊敏そうな謎な生き物を自在に操っていくマッチョマン二人。
馭者という自分が持っているイメージとは少しかけ離れて姿であるが、あんな重そうな魔物を二人で荷台に乗せるのでそうなるのだろう。
その作業を横目にみながら、移動を開始する。
それから1時間ほど馬の様な牛、いや牛の様な馬?どちらか分からない生き物をクリスティアに馭してもらい後ろに乗せてもらう。
流石に、馬とか牛に乗るスキルも技術もないので無理はしない。だが後ろに乗ってるだけで腰と尻が痛くなってくる。
飛んだ方が楽だけどあまり人前で飛ぶわけにもいかないし致し方なく我慢する。帰りを考えるとちょっと鬱になりそうだ。
20分くらい走っただろうか、クリスティアが速度をかなり落とす。
「ノア、あれそうじゃない?ウインドタイガー」
クリスティアめちゃめちゃ目がいいな。全然みえないぞ。とりあえずゆっくり近づいてみると、それっぽいのが岩の上で昼寝をしているのがなんと見える。
そこからクリスティアには待っててもらい私はイグノアハイドを使う。クリスティアが少し驚いている。
ゆっくり近づき魔術が届くギリギリの範囲まで近づいて丁度昨日調整した魔術を開放する。
「"アブソリュート・ゼロ"」
静かに唱えると、青白い蝶が5匹舞い静かにお昼寝中のウインドタイガーに近づいていく。
ある程度の距離で一匹を四散させると一気に周辺の温度が下がる。そのままさらに近くに近づいた蝶の一匹をまた四散させると、
大気に含まれる水分が氷結してダイアモンドダストを起こす。
するとウインドタイガーは寒さに目が覚めたのか震えながら起き上がり、その瞬間に3匹目が耳にとまると一瞬で凍結される。
水の膨張でどこまで細胞とか身体の器官が壊れてしまうかは謎であるが上手く解凍すれば大丈夫じゃないか?
これがダメなら酸欠で殺すくらいしか思い浮かばないな。それ以前に解凍したら復活する可能性もあるか?
そんな事を考えていると耳鳴りと共に頭に浮かんでくる
"概念魔法・絶零白蝶"
質量のエネルギーを0にしてしまおうという向こうの世界で悪友と無茶苦茶な実験を繰り返した挙句にできた魔術 "アブソリュートゼロ" がこの世界で魔法に変わった。
これが出たってことはウインドタイガーは倒したようだ。
あとは残りの2匹の蝶を一気に温度が上がりすぎないように遠くから一匹づつ距離を調整しながら開放してのんびり待つ。
その間にクリスティアは相変わらず興奮気味に凄い魔法だって話かけてくる。
それからタイミングを見計らってやってきたかのような馭者に冒険者ギルドまでウインドタイガーを運んでもらう。
腰と尻が痛いのを我慢して冒険者ギルドに戻って以来の成否を確認すると、あれでOKだとの事。
ずっと依頼が達成される事がなかった為、依頼者はかなり喜んでいた。
ちなみに、牛の様な馬なのか馬の様な牛なのか、まったく別の生き物なのか不明な乗り物の名前は "ホーブル" というそうだ。
それから依頼をこなした私達は、一度解散しまた着替えて合流をし街をぶらぶらする。それは侯爵経由で騎士団に伝わり、私達を守る為に尾行してくれる。
ただ、この尾行が素人すぎて間違いなく犯人にはバレているだろう。
もちろん尾行する騎士は普段着だが、何せ騎士なので尾行というスキルも技術もなく "隠れるぞ!" 感がもろに出ててまったく気配が隠れていない。
しかもこの "俺たち明らかに護衛してまーす" オーラを出しまくりの尾行をしていても過去に犯人はあざ笑うかのように掻い潜って襲ってきているとの事。油断は禁物だ。
あとは、別にもう一つの気配がある。中々いい感じに隠れているが敵意はない。これはおそらくギルドが出した護衛だろう。
案外、騎士達が目立ちすぎてて彼が隠れるのには丁度いいかもしれないな。
「犯人くるかなぁ」
「さぁ、どうでしょう?」
「お昼過ぎから夕方くらいを狙ってくるみたいだよねぇ」
「そういう話ですわね」
「騎士団の尾行も潜り抜けてるみたいだし、騎士の人も一人殺されちゃってるっていうし、やっぱ強いのかな?」
「そうね。元軍の斥候とか、魔法のアイテムかユニークスキルを持ってるのかもしれないわね」
「うーん。だとして何が目的なんだろ?」
「犯人に聞いてみないと分からないけれども、こういう犯行の大半は快楽殺人ですわね。恐らく何かの弾みで子供を殺してしまった時にそういう快楽に芽生えてしまったっていう話は良く聞くわ」
「うーん。よくわからないね、人殺しして快楽を覚えるとか」
「ええ・・・」
いや、よくわからないわけじゃない、向こうの世界では見て来た。特別な力というのは人を時に狂わせてしまう。
本人が望もうが望むまいが、ほんの些細な事で渡ってはいけない向こう側に渡ってしまう。
それは他人事ではなく自分にも当てはまり、時に愛する人にも降りかかる不幸だった。
「・・・ノア?」
「え、あ、はい?」
「どうしたの何か考え事してたの?」
「う、ううん、何でもないわ。折角だからどこかお買い物でもしていきましょう」
「そうだね、侯爵様が経費って言って自由に使えるお金くれたしね」
そんなわけで気分を変えていくつか店を覗いて見る。服を見たり、アクセサリを見たり、下着を見たり、クリスティアがちゃんと女の子しているようで何よりだ。
よくあるだろう?こういう戦闘娘は女子的な何かがいろいろ欠けてるって設定が。
そんなこんなで普通?の女の子を演じながらウロウロしていると、やっぱりというかお約束な展開で変な二人組の若造に絡まれる。
「ねぇねぇ、お嬢ちゃん達、俺たちと一緒に遊ばない?」
なんともまぁ何処の世界でも答えるのがバカバカしくなるくらいの決まり文句が飛んでくる。
「ジーニィのお嬢ちゃんも黒髪のお嬢ちゃんもこの辺の子なの?良ければ案内するよ?この辺は俺らの庭みたいなもんだからさ」
面倒くさいなぁという顔をしているが気にしないで突撃してくるのがこういう輩だ。
しかし、クリスティアは何か値踏みする感じで若造を見ている。そして何かを判断したのか一言。
「あーゴメンね。ボク達、遊ぶならもっと強い人がいいな」
ん?・・・ああ、クリスティアの判断はそういう遊ぶなんだ。なんとなく分かってしまった。
うん、彼女は女子力はあるけど、結局のところ戦闘民族でしたね。
「お嬢ちゃん、見た目で判断してもらっちゃ困るぜ、俺らはイスーの狂犬って言われるほどの強さなんだぜ」
こういう輩は全世界共通なんですかね?まぁあるいは、もしかして、万が一にも私らの目測が間違っていて実は強いなんて展開は・・・あるかもしれない?いやないな。
「え、そうなの?すごいね。じゃーさちょっと遊ぼうよ!ほら、あそこのセントラル公園のステージでやろうよ」
え?クリスティアさん?このイスーのワンちゃん2匹が強いっていうのは、ナシよりのナシですよ?
「お?おう」
ほら突発すぎてワンちゃん2匹ついていけてませんよ。そんな感じで半ば強引にクリスティアによって公園のステージに立たされる。
「ステージから落ちても負けね。降参したらそこで終わりでいいでしょ?」
「へぇー。じゃー俺らが勝ったら君たちを自由にしていいって事でいいのかな?」
「うん、ジーニィの女は自分より強い人にしか、なびいちゃいけないんだって、みんなが言ってたよ」
ジーニィの女性は、自分より強い相手としか付き合わないって言うのか。ジーニィの男は大変だな。
「あ、ノアも巻き込んじゃった。いいかな?」
「え?・・・あーうん。それで別に構わないわ」
私の存在って忘れられてたのかー。そうですよねー。まぁ正直これで片が付くなら私も楽だけどね。
「よし、じゃーいくぜ!」
クリスティアの対戦相手はノリノリで始まったが・・・。後の解説は必要だろうか?
簡単に説明すれば、相手の動きを見切って遊んでいたクリスティアが飽きて、一撃入れてよろめいたところを、尻尾で場外ホームランにしたのである。
これを見てこちらの相手が戦意喪失してくれれば楽なのだが、何故か逆上して隠し持っていたナイフをだしやけくそで切りかかってくる。
私は切りかかって来るタイミングを合わせて相手の外側に躱すと、横からナイフを持つ手の手首とその肘の内側を掴む。
すると男はそのまま引き離そうと腕を引くのでそのまま腕と一緒に男の真横までついていくと、肘を中心にして手首をナットをしめるスパナを回す原理で相手側背中方向に大きく回し、一気に腕に体重を掛けて身体を横向きから正面になるように自分の腰を切りながらしゃがむ。
すると腕が横に開いた状態で肘が曲がっているので肩の関節が極められてしまい、男はどうにもならなくなって後ろに頭から地面に激突する。
「旭浅間流柔術・腕がらみ」
別に必要ないがちょっと調子に乗って技名を言ってみたりする。
「え、何々!?。今の技面白い!」
見ていたクリスティアが近づいてくる。男どもはうんともすんとも言わなくなっているが、周りにいつの間にか人だかりが出来ていて歓声を上げている。
ちょっと目立ちすぎじゃない!?これは。慌ててクリスティアの腕を掴んで走る。
「ほら、急いで行くよ!」
「え?え?うん」
そんなこんなで人混みに隠れながら二人で手をつなぎ街をかけていく。どこかアニメか映画の様なシーンを彷彿させる。
どれだけ走ったか覚えていないけれど、屋台が並ぶ広間まで出たので一息つくことにする。どこの屋台も稼ぎ時だとばかりに調理に勤しんでいるのが見れた。
気が付けばもう、空は夕焼けの美しいグラデーションでいっぱいであった。
「ふぅ、結構走ったね」
「あ、突然手をひっぱっちゃってごめんなさい。ちょっと目立ちすぎちゃったものだから」
「ボクの方こそいきなり目立つ感じになってゴメンね。でも、なんか楽しかった」
「そう?」
「うん」
そんな会話をしながら二人で笑う。
ついでに屋台でマンゴーの様な形をした果物の飲み物を買って飲む。味はなぜかバナナに近い味がした。
クリスティアの言葉からこれが、バナンゴーという名前と判明したが、これは翻訳機能がそういう事にしているのか本当にそういう名前なのかは謎だ。
「ねぇねぇ、さっきの男たちに使った技、面白いね。教えてほしいな」
「え?ああ、うん。いいけど・・・そうだ私も、ソウルアーツって使える可能性あるんだよね?それを代わりに教えてくれないかしら?」
「うん、いいよ。技の交換だね!やったー!」
「じゃぁ、今日はもう遅いから明日にしようっか」
「うんうん、明日が楽しみだね」
薄暗くなる中、二つの影が仲良く伸びていくのが見える。これが青春とかいう奴なのかね?
まぁ、お互いそう言う中身の歳ではなかったな。25歳のおねーさんに39歳のおっさんか。
妙な縁というか因果というか。それから今一度、明日帰る事を約束し帰る方向を確認して私達は帰路についた。
ちょっと絵を描くのに時間を割いてしまうので絵の回数を減らそうとおもいます。
文のほうが進まず残りのストックしてある話数も7つほどになってしまいました。
それでは次回、十二話 "義姉" 争奪戦 そんな感じのタイトルです。




