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三題噺 お題:『虫』『翅』『変形機構』

作者: TITAN

頭 いタ い

 ――ある冬の話をしようかしら。

 そう言って、この国では珍しい、暖炉の前の安楽椅子に座った祖母が静かに語り始めた……。


 私の友人がある組織に所属していた頃の話よ。その組織は、虫の研究を主にしていたそうなの。私は……虫が苦手だったから、折角のお誘いだったけど断ったわ。


 祖母は目を細めて、自分の右手で左手をさすっていた。きっと、昔のことを思い出しているのだろう。


 虫が生活の質を上げることには、皆気付いていたわ。蜘蛛の糸の強度の保ち方や、注射の針の痛みを無くすために蚊が用いられたりとか、あなたたちも聞いたことくらいあるでしょう?


 そう言って、祖母は僕たちの頭を撫でてくれた。祖母の話を聞いているのは僕を含めて3人。勇敢な兄と、優しい姉と、この僕だ。

 僕たちはそれぞれ頷いた。


 そう。あとで分かったことなのだけれど、その組織ではね、虫を軍事に用いようと研究していたらしいの。本当に……入らなくて良かったわ。それで、私は友人にすぐやめるよう言ったわ。……でも、でも、私の友人は、お金に困っていて、そこ以上の給料は無いって、遂に辞めることはなかったの……。


 祖母の手が震えていた。きっと……悔しかったのだろう。優しい姉が、祖母に寄り添っていた。余談だけれど、祖母は本当の祖母じゃない。僕たちはみな血が繋がっていないし、祖母との血縁関係もない。

 血といえば、この前祖母が手を怪我したとき赤い液体が出てとても怖かったと、兄と姉が話していたな。僕にはそれが、どう怖いのか分からなくて、適当に話を合わせていたのを覚えている。


 ありがとうね……。本当に優しく育ってくれて嬉しいわ。

 メスの繁殖は不可能だって聞いていたから、不安だったのだけれど……このままなら、上手くいきそうだわ。

 そう、私気付いたのよ。ハンムラビ法典って知っているかしら? 目には目を、歯には歯を。そうそれよ。軍事には軍事を、虫には虫を!

 目覚めなさい! 改造に改造を加えた人造人間たちよ!


 祖母が言い終わるのと同時に、兄が呻き始めた。突然興奮して大声を上げ始めた祖母の言葉は、僕には一体全体意味がわからなかった。


 いいぞぉ……いいぞぉ……! 翅を見せておくれ……お前の綺麗な翅を!


 あぁァっ"ァ"ァああ"あ"ぁァっァっ"っ"っ"っ!!


 兄は両手を顔に当てて、激しく悶えている。何故だか、昔何かで読んだ、変形機構を思い出した。――と。隣の姉も、いつもの様子ではないことに気がついた。


 ヴぁぁぁぁ……あぁぁぁううぐぅぅ……


 兄と姉の背中から何か飛び出しそうになっているのを、祖母は狂気の混じった、嬉々とした表情で見ていた。

 もう、あの優しかった祖母はいない。テストで良い点を取ったとき、褒めてくれた祖母も。苦手な食べ物を食べて一緒に喜んでくれた祖母も。おもちゃの取り合いで喧嘩した兄も、それで泣いて優しくしてくれた姉も。皆――狂ってしまった。じゃあ、僕は?

 僕もあんな風になってしまうのか?


 さァさァさァ!

 お前も早く羽化するんだョ!

 目覚めろ! 目覚めろ! 目覚めろォォ!!


 何故だろうか。今の僕には影響がない。兄の手首は嫌な方向に曲がっているし、姉の腰は捻れている。関節が失われているように見える。


 20年越しの復讐を果たすのさ……。こんなにも時間が経ってしまった。長い冬の幕開けだよ。


 祖母の目は復讐に燃えている。誰か、誰か……止めてくれ。

 兄のようにも、姉のようにもなりたくない。

 誰か助けてくれ!


「そこまでだ!」


 家の扉が勢いよく開かれた。


「まんまと引っ掛かってくれて良かった。もう、復讐は諦めなさい」


 あれが……祖母の言っていた友人だろうか?


「うるさァい! やってしまいなさい!」


 祖母が命じると、兄だった虫と、姉だった虫が飛び掛かった。だが、その攻撃は届いていない様だった……。


「助かったわ……僕」


 また、理解できなかった。だって、彼女を守っていたものは、彼女が自分で出した武器でも防具でもなく――僕が痛みを感じず無意識に出した翅だったのだから!


 「この子はね」


 彼女の芯の通ったよく通る声が響いた。


「私たちが最初に造った、メス型の人造人間なのよ」


「な……!? う、嘘だッ! メス型の人造人間は不可能だって……!」


「嘘よ。だってあなた、そう言わなきゃこの子を拾わなかったでしょう? この子は……血も人間に寄せた赤の血を流し、痛みを感じず翅を出せる、最高の人造人間なのよ!」


「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ! 嘘だッッッッ!」


 何……言ってるんだ?

 何で僕が当たり前かのように人造人間で、彼女を守るためのポジションに着いてるんだ?

 ……僕は、狂った兄と姉の攻撃を難なく防いだ翅を……鋭く振り切った。


 シュッと音がして、祖母の友人の首が落ちた。なんでって声が聞こえたような気がしたけど、空耳だと思う。


「……っ。よ、よくやったわ! 夕飯は好きなものにしましょう! あなたがいれば復讐も」


 翅は自由自在だった。丸めて尖らせると、人間の身体は何て脆いのだろうと思わせてくれた。兄と姉は、すでに戦意喪失していて、哀れで可哀想だったから、なにもしないことにした。


 ばいばい、世界。


 ある冬の日の出来事だった。

僕は男じゃないってのと、人間かと思わせて人造人間エンドが肝

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