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第2話:野良は野良でも

翌朝、頼まれた書類を受け渡したアルフレッドが昼間まで眠りこけた少女の遅めの朝食を用意し、何故追われていたのか、追われる間の事を聞いていた。 家で遊んでいた所に突然男達が家に押しかけ、窓から逃げ出して一度警察にも逃げ込んだらしい。 なかなかのバイタリティである。


「でも警官さんの一人に顔を打たれて……腕に噛み付いて逃げ出したんです」


「お前さん意外とやるもんだな……」


「お父さんに教わりました! あ、自己紹介まだでした、私キーラ・ラザレンコと言います! 昨日はありがとうございました!」


「はいはい、どういたしましt…………今なんて言った」


「はい?」


聞きたくない名前が少女、いやキーラの口から飛び出す。


「もう一度聞くぞ、キーラ・ラザレンコって言ったか?」


ラザレンコ、聞き覚えのある苗字をこの少女は名乗るではないか。まさか、同じ苗字程度何処にでもいるだろうと考えるが嫌な予感がピリピリと首筋を焼くように苛む。


「えっと、そうですけど……?」


「お前まさか、親父の名前はラーリャ、いやラヴレンじゃないだろうな?」


「はい、お父さんはラヴレンって言いますけど……あ、悪い仕事してるのは確かですけど普段はすごく優しいんですよ!」


吸っていた煙草を灰皿に乱暴に押し付け、アルフレッドは舌打ちをすると頭をガシガシと掻く。 ラーリャ・ラザレンコ、先日始末した男達の所属しているロシアンマフィアのトップの男の名であった。 齢70に差しかかろうとする年ではあるが今尚精力的に活動しこの街での勢力図を日々塗り替える老獪かつ獰猛な人間だ。


「ラーリャのジジイの娘だと……? あのクソジジイまだ女囲ってやがるのか」


「あの、お父さんの事、ラーリャって呼んでましたよね? お父さんのお友達ですか?」


「友達じゃねえ、仕事仲間というか、腐れ縁って言うか……」


数度の小競り合いや仕事(・・)の依頼などで彼の組織とは多少の因縁もある、だがそれだけでなく少しばかり縁があり、彼個人としても幾らかの付き合いがアルフレッドにはあった。個人資産の帳簿の誤魔化しや税金逃れ、愛人への送金など個人的な資産の管理にある程度携わっていた。


「となると、だ」


アルフレッドは携帯を取り出しラーリャのプライベート用の番号へかける。 きっかり3コール鳴った後に相手は電話にでた。


「アルの坊やか、こちらの番号にかけるとは珍しいな」


老人らしく少し嗄れてはいるが、力のある声がスピーカーから響く。ラヴレン・ラザレンコ本人だ。


「ラーリャさ……いや、クソジジイ、テメェの娘とか言う奴が俺の事務所に昨日お前のところのチンピラに攫われかけていた。 挙句俺に銃を向けるもんだから全員片付ける羽目になった、どういう事だジジイ?」


「……キーラが? アル坊、娘は無事か? 怪我は?」


アルフレッドの知る彼には似つかわしくない、本気の焦りが滲む声がする。


「……マジで娘か。 その様子じゃ何も知らないのかあんた」


「キーラは大事な娘だ、私が何故彼女を攫う。 ……いや、まさか」


暫し考え込むようにラーリャは黙り込む、アルフレッドも彼が思い至った可能性に若干の心当たりがあった。 今回の件の首謀者はおそらくラーリャの息子であり組織のNo.2であるエドガルであるとあたりをつけていた。


「お前のところのドラ息子か? 育て方間違えたんじゃねぇかジジイ?」


「馬鹿を言え、エドは成り上がる為なら私をも殺す気概がある、それだけの野心に追いつけるよう鍛え上げた。 だがまさかキーラに手を出すとは、あやつ本気で私を蹴落としにかかったようだな」


「道理で最近お前んとこの構成員に良い武器回ってると思ったよ、この為か」


「ふむ、その様だな。 しかし面倒なことになった」


「どうするジジイ? あの子は警察も怖がっていた、警察にもそれなりにお前のとこの構成員紛れ込んでるのを知ってたんだろう、あの子は母親に返すか?」


「いや、その子に母親はいない。 体が弱くてな、産んでからすぐに産褥で亡くなった、彼女の遺言で、出来るだけ普通の暮らしをさせてくれと言われたのでな、今は私が用意した家と信頼出来る家政婦兼護衛を一人乳母代わりに置いていたが……彼女が私に経過連絡をしている隙に狙われたのだろう。 おそらく家に戻っても代わりのメイドの死体しかあるまい」


「じゃあどうする、まさか俺がベビーシッターの真似事か?」


「うむ、そうだな」


即答された返事にアルフレッドは暫し固まる。口元の煙草から灰が落ちる程の時間が無言のまま流れる。


「は?」


「いいだろう別に、女の扱いは慣れてるだろうよ」


「いやいやいやいやいやいや、そういう問題じゃねぇだろジジイ!?」


「あ、なんなら貰っても構わんぞ?」


「巫山戯んな絶対テメェをお義父さんなんて呼びたくねぇ」


「ほう、キーラ自体に問題はないと」


「あるわ!? まだ子供だろうが! あとまだ俺は身は固めねえからな!」


遂にボケたかと息も切れ切れに携帯に叫ぶアルフレッド、次あったら一番のお気に入りのブランデーかっぱらってやると密かに決意する。


「……で、どうすんだ。 息子と全面戦争か?」


「避けられないだろうな、向こうもキーラの誘拐失敗はわかっているだろう、お前のことも」


「おーおーやだね、巻き込まれてるだけじゃねぇか。 割りに合わねえぞクソジジイ」


「そこでだ、決着までキーラの護衛を頼みたい。生活の諸問題については今日中に家政婦もそちらに送ろう、報酬は前金で10万、満額で50万ドルだ、あ、キーラもつけてやる」


「今最後聞き捨てならない事が聞こえたがまぁいい、+5万だそれで受けてやる」


「いいだろう、何か出費でもあったか?」


「昨日のイザコザで車に弾が当たったとこの修理の分だ、高いんだぞあれ」


「私の車の方が高いぞ?」


「殺されてえか? というか、払えるんだろうな?」


金銭的な意味での質問ではない、今回の案件はラーリャがこの親子間の血で血を洗う事になるであろう抗争で生き残る必要がある、もし彼が死ねば完全に丸損な上自分の命も危うい。


「残念だが今回ばかりは保証できん、あれは手前味噌だが才能がある、私とて危うい」


「+50万だ」


「……ほう?」


「+50万で息子の始末を手伝ってやる」


「珍しいな、お前がこの手の仕事に乗り気なのは」


「どうせ巻き込まれるなら金は巻き上げるだけ巻き上げてやるだけよ、こっちはこっちで勝手にやる、何かあればこの電話によこせ。 ああ、待て切るな。 今キーラに変わる、声聞かせて安心させてやれ」


「キーラ」


アルフレッドは食べ終えた朝食の皿をシンクに積んでいるキーラに声をかけ携帯電話を手渡し、お前のお父さんと今は電話していると伝えた。キーラはそれを聞くと嬉しそうな顔をして電話を受け取り父親と話し始める。最初は声が聞けた事に喜んでいたが、次第にキーラの目から涙が溢れ始める。無理もない、急に連れ去られ、人死にを目撃し知らない男に保護されているのだ、精神的負担は大きいのだろう。


「グスッ……ゔん……うん……わかった……お父さん、待ってるからね」


そう言って彼女は電話を切るとアルフレッドに渡す。


「もういいのか」


「……はい、大丈夫です。 お父さんはアルフレッドさんに頼れって言ってました、ゾーイ、あ、私のお母さん代わりみたいな人なんですけど、その人もここに来るって」


「そうか、聞いていたと思うが暫くは俺がお前の護衛をする」


「はい」


キーラはダイニングの椅子に姿勢を正して座りなおし、はっきりと返事をした。


「というわけでだ、実は言ってなかった事がある」


一呼吸置いてアルフレッドはカーテンの閉まった窓の外を指差す。


「今俺たちは外にスナイパーが二人、その他雑多な火器を持った構成員10人程度に囲まれている、有り体に言うと四面楚歌という奴だ」


キーラは聞こえてる言葉を処理しきれず思考が停止する、暫しの無言、キーラは再び動き出すと、ゆっくりと口を開けた。


「ええええええええええええええええ!?」


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