9 入学式とクラス
あれから2日程経って、呼び出しを受けてビビりながら職員室に行くと偉い先生から、今回の事は事故として処理するのでお咎め無し、ただし許可があるまでは絶対に召喚魔法は使わない事! と強く言われてすぐに解放された。
案外あっけなかったな。
まぁ、別に黒筋も立ってポージングしてただけで悪いことしてないし、周りが騒いでただけだもんね。
黒筋の他に、赤筋とか白筋とか居るのかな? ちょっと興味あるな。
……いや大分。
この間と同じ手順を踏めば、他の子達も遊びに来てくれるのでは……
「お嬢様」
「何、ルミナ?」
「お分かりですわよね。」
「え?」
「お分かりですわよね。」
「えっと……何が……」
「お 分 か り で す わ よ ね 。」
「…………ハイ。」
「よろしゅうございます、そろそろお茶に致しましょうか。」
「そ……そうですね。」
怖えええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!
何される訳でも無いのに怖えぇ!!!!!!!
背中汗でビッショビショだよ!! 何なのあの迫力!対して年齢に違いは無いだろ、むしろ以前の私の方が年上だろ!!!!!
うっわ心臓バクバク言ってる!!! 何で私が考えている事分かるの?!
……うう、召喚は先生の言う事聞いて、暫く封印しよう。 トホホ。
◇
入学式の日は朝から良く晴れて、今が盛りの花々があちこちで満開だった。
この世界の入学式も春なんだよな、アメリカとかだと9月の秋だけど、そこは日本に合わせてあるんだよね。
入学者全員でホールに集合し、指定された座席に座った。
学園長、相変わらず立派なお髭がサンタみたいでナイスだな、似合ってるぞ。
退屈な挨拶は適当に聞き流してぼんやりしていると、在校生代表の挨拶になった。
お、攻略対象者のイケメン王子だ。
あいつ三年で品行方正成績優秀って設定だからな、この場面もゲームのスチルで見たわ。
周りの女生徒の殆どがウットリとため息吐いてるな。
あんな優男のどこが良いんだ?
私も思わずため息吐いちゃうような、美貌の熊マッチョにどこかで出会えたらなー。
退屈な入学式が終わると、それぞれ指定のクラスに集まる様に指示があった。
ちなみに私はちゃんとゲームの通りの上のクラスだ、主人公補正は便利だな。
黒筋さわぎで下のクラスになるかと思ったけど、召喚の試験は別に失敗って訳では無かったもんね。
◇
……どうしてこうなった?
私の目の前では、エロ教師がニヤニヤといやらしい笑いを浮かべていた。
何で? ゲームではリデルの席は後ろの方の窓際だったのに、私の席はよりにもよって教卓のド真ん前。
この席は視力の弱い人か、もしくは問題児隔離の為の特別席じゃん。
私、目は悪くないよ? 寧ろ良いよ? 主人公補正は? 一体何が起きてこうなったんだ? 責任者出て来い!
右隣の席の子は、男子にしては小柄だから前列にされたのかも知れないけれど。
くそ、後ろの方だと思い込んで書きかけの小説の続きをこっそり書こうと思っていたのに、これじゃあ何にもできないじゃない。
おいエロ教師! 止めろ! 私に向けてウィンクして来るな!
女生徒達! キャーだの素敵だのカッコイイだの言うんじゃ無い、小さな声でもここまで聞こえているぞ!
このクラスの担任は生徒(私)に手を出す(かも知れない)エロ教師だぞ、貞操が大事ならできるだけ近寄るな!
「このクラスの担任のミュール・シグマです、皆さん、一年間仲良くしましょうね。」
ほら、もう女生徒と仲良くしたがっている! 危険だ!
「それでは順番に自己紹介をしていきましょう、皆さん早く仲良くなれると良いですね。」
それに応じて皆が順番に自己紹介をしていった。
これだけの人数、一遍に紹介されたって覚えきれないよ、仲良くなれそうな女の子だけ覚えておこうっと。
長吉は相変わらず可愛いな。
その後ろの席の栗色の髪の勝気そうな子は、確かリデルを虐める意地悪な子だったな。
あ、今自己紹介してるジャラジャラアクセサリーつけてる赤毛のチャラそうな奴、攻略対象者だ。
ん? 隣の席の小柄な男子が自己紹介したら、教室が僅かにざわついたな、名前聞いていなかったけど。
私はテキトーに無難な事を言って終わり、みんなの挨拶は聞き流し、ありきたりの生活指導や注意事項等を言われた後、本日は解散となった。
あー、明日からお勉強か。
ゲームをやってる時は授業風景なんてあんまり出て来なかったけど、現実だとしっかり勉強しなきゃいけないもんね。
ちゃんと授業を聞いて勉強してテストでいい点取らないとリデルの両親に顔向けできないし、まずルミナに精神的に抹殺される。
前の世界で大学卒業した時「もう当分勉強しないぞー!」って思ったのになぁ。
次の日の朝、教室に行って他のクラスメイトに挨拶をしつつ自分の席に行くと、私の右隣の男子はもう既に席に座って本を読んでいた。
……この子、どこかで見た覚えがある様な気がするんだけど、何だったっけ?
モブのスチルにでも出てたか? ……思い出せん。
まぁ、とりあえずは朝の挨拶だ。
「おはようございます。」
「……。」
此方をチラッとは見たが、無言でまた手元の本に目を戻した。
無口君かシャイ君か?
でも朝の挨拶だけはちゃんとしないといけないぞ、そんなんじゃクラスに馴染むまで時間がかかるし、友達ができにくい。
「おはようございます。」
「……。」
反応しろよ。
「お は よ う ご ざ い ま す 。」
男子は本を閉じてガタンと音を立てながら席を立ち、教室から出て行った。
なんだあれ、感じ悪いの! 気を使ってやったのに、あんなんじゃ本当にボッチになっちゃうぞ。
男子は授業が始まる時間ギリギリに帰って来て、一度もこちらを見なかった。
初めての授業を受けたけど、結構ハイレベルで難しそうだった。
前の世界で大学まで卒業したし、問題無くできる教科もあるけれど、魔法理論なんかはリデルの知識があるとは言え、この世界に来てからだしな。
家庭教師の先生の言う事聞いて、もう少し真面目に勉強しておくんだった、ちょっと頑張らないと落ちこぼれるかも。
長吉や他のクラスメイトの女の子達と学校併設の食堂で楽しく昼食を取って戻ってきたが、午後の授業が始まる時間になっても隣の席の男子は帰って来なかった。
……授業初日からバッくれるとは度胸あるな。
午後最初の授業の先生に、
「先生、隣の席の方が帰って来ておられませんが。」
と報告したのだが、
「ああ、後で注意しておこう。」
とだけ言って、そのまま授業を始めてしまった。
え? なにそれ? それだけ?
他の子に一緒だったか聞いたり、他の先生に報告して探して貰ったりしないの?
私は何かの間違いだけれど、あの子は本当の問題児でこの席にされていたのか。
愛想の無い子だったけれど、気になるなぁ。