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6 長吉と兄上


 この世界は、どうもゲームの内容と少し異なる点があるようだ。

 さっきの案内役のエロ教師、登場はもう少し後の筈だったのに。

 ルミナにお茶を入れて貰っていると、ドアを静かにノックする音が聞こえて来た。

 ああ、やっぱり来たな、これは予定通り。

 ゲームで見た場面だ。


「こんにちは、初めまして。私は隣の部屋の者でニーナ・ベルカと申します。」

 ルミナが開けたドアの向こうに立っていたのは、ミカン色の髪をお下げにした、ふんわりとした雰囲気の可愛いらしい女の子だった。

「ようこそ初めまして、私はリデル・ポルポンヌと申します、どうぞこれから仲良くして下さいね。」

 思わず「オッス久しぶり!」とか言いそうになったけど、良かった、何とか噛まずにちゃんと挨拶できた。

 失敗してたらルミナの黒い視線が私の後頭部に突き刺さる所だった。

 ニーナとは今が初対面なんだよ初対面、最初の挨拶で好感を持って貰わないとお友達になれないかも知れないじゃない。


 ニーナはゲームの中での、所謂お助けキャラだ。

 複数の攻略ルートを模索してゲームを周回する中で、いわば一番の顔なじみだった。


 彼女はリデルの親友で、リデルが辛い時や苦しい時、または攻略に詰まった時などに的確なアドバイスをしてくれる、心強い味方なのだ。

 実は彼女は攻略対象者の内の一人、『メガネ』に密かに想いを寄せていて、メガネルートの途中でその事が判明した時は流石に心が痛んだ。

 それでも彼女は、メガネエンドのラストで涙目になりながらも笑顔でリデルを祝福するのだ。

 その心優しく健気な様子が、私がかつてやり込んだBLゲーム


『ジュテーム桃尻快速飛脚 ~恋のお届け百万里~(18禁)』


の、一押しだった(とび)長吉(ちょうきち)君にダブって、泣けて仕方が無かったんだよね。

 長吉……あんなに火消しの玉之進(たまのしん)の事を愛していたのに、主人公の源八(げんぱち)に寝取られても祝福するだなんて、何て漢らしいの!

 ああ、思い出しただけで涙が……。


 安心して長吉ニーナ、この現実ではメガネには絶対に手を出さないと誓うから!例え話しかけられてもガン無視するからね!

 私はあんな奴に用は無い、ハッキリ言って要らんから、どうぞ思う存分メガネを愛してやってくれ。

 例え、奴が池で溺れていても、火事の中一人取り残されていても、真冬の雪山で遭難していても存在自体を無き者として絶対に助けないからね! 約束するよ!


 ……何か今、手段の為に目的を忘れる様な発言が頭の中に浮かんだかな? まぁ別に良いか!

 長吉ニーナと一緒に楽しくお茶を飲みながら、私は心の中で決意を固めていた。


 もしこの世界で目覚めたのが、妹だったらどう言う行動を取ったんだろう? お気に入りはメガネだったのかも知れないし。

 でも、アホだけど優しい子だったから、やっぱりメガネは長吉ニーナに譲ってあげていたと思うな。


 無事に長吉ニーナと仲良くなれた数日後、クラス分けの試験が始まった。


 クソ! 何で筆記試験があるんだよ、ゲームの中では魔法試験しか無かった筈なのに。

 家庭教師の先生、勉強を嫌がる私に無理やり知識を叩き込んで下さってありがとう、また会えたらもう二度と教材を魔法で爆破したりしませんから。

 おかげでマスは何とか全部埋められた。

 一部変な事も書いたし、選択問題では鉛筆転がしもしたけれど、とりあえず空欄は無い。

 最後にどうしても埋められなかった解答欄に終了直前で「ハードゲイ」と書いて終了したような気もするけれど気にしない!


 とにかく終わった筆記試験についてグダグダ考えていても仕方がない、男は黙って実技に勝負を賭けるのだ! ……私は女だった!





「リデル。」


 筆記試験のあくる日、今日は実技試験を受ける日だ。

 落ち着かないので試験の集合場所の近辺に、指定時間よりもかなり早めに行って近くのベンチに座って待っていると、私は同じ年頃の少年から声をかけられた。

 あ、忘れてた、ここでも初期のイベントが発生するんだったっけ。


 私に声をかけたのは男爵家の母によく似た面立ちに濃い茶色の髪、リデルと同じ青紫の目をした一つ年上の兄、リルト・ポルポンヌだった。


「おお、『兄上』。」

「あにうえ? ……前はお兄様って呼んでいたよね、どうしたの?」


 しまった! ゲームをやっていた時の心の中の呼び方が出てしまった。


「い、いえ試験前の緊張から少々呂律(ろれつ)が回らなかっただけなのです、お久しぶりです、お兄様。」

「うん、久しぶりだね元気だった? 学園に着いているのは分かっていたのに、すぐに会いに来れなくてごめんね。この休み中に資格試験を一つ受けておきたくて、その準備でずっと慌ただしかったんだよ。」

「いいえ、お気を使って頂かなくても大丈夫です。もうお友達もできましたし、ルミナも傍に付いていてくれますから、何も問題はございません。」


「そう、それなら良かったけど。……もし、リデルが寂しかったり辛かったりしたら、前みたいに甘えてくれても良いんだからね。」

 兄上はそう言って、自分の方が少し寂しそうな顔をした。


 前から思っていたけど本当に良い兄だよなー、持っている知識を探ってみても、リデルが小さい頃からいつでも優しくて、大の仲良しだったみたいだし。

 リデルが『庭で転んで意識不明事件』を起こした時も家に帰れないからって、わざわざプレゼント付きで長いお見舞いの手紙をくれたしね。

 あの仲良し家族の中で育っただけあって本当に良い人だ。



 攻略対象者の一人じゃなければもっと良かったんだけれどね。



 実の兄だよ?どうやったら小さい頃から一緒に育った相手をそんな目で見る事ができるんだろう。

 ……いや、できるか、そう言う設定のBL漫画なら何冊も読んだわ。

 でも、現実ではありえないな。

 兄上は、一度怒ると鬼のように恐ろしい母と顔がそっくりだし線は細いし筋肉無いし。

 うーん、兄上と『仲良しエンド大作戦:ミッションコンプリート』まで持って行ければ一番良いんだけど、もう既に仲良しの場合、私にとって都合の良い進展方法が分からん。


「お兄様、私の事を心配して下さってありがとうございます。でも、私はもうこの学園に入学を待つ身ですわ、いつまでも子供のまま甘えている訳には参りません。」


 確かゲームでの、この場面での好感度アップの選択肢は、一人前ぶってちょっと背伸びしたリデルを見せたら良いんじゃなかったっけ?


「そう、僕ではもう役に立たないのかな?」


 あれ?ますます寂しそうな顔になった。

 ここでは「まだまだお前は子供だよ、泣き虫の癖に」って兄上が笑う筈なのに。

「じゃあ、困った事があったら連絡して、できるだけリデルの助けになるから。」

 そう言って兄上はさっさと去って行ってしまった。

 えー……何か好感度が下がった感じなんですけど。


 やっぱりゲームと実際では異なってる、なんか変!


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