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3 居直る


 星よお願い力を貸して

 私は空に手を差し伸べた


 私の涙に答えたのは

 生まれたばかりの小さな流れ星だった




 現実は非情だった。

 痣になる位体のあちこちを(つね)っても(ちゃんと痛い)壁に頭を打ち付け続けても(もっと痛い)冷たい水で顔を長時間洗っても(陸で溺れかけた)考えつく限りのあらゆる事をやっても、目が覚めて元の世界に戻れる気配は微塵も無かったのだ。

 流石に屋根の端から下の防火対策用の大きくて深い池に飛び込もうとしたのだけは寸前でメイドさんにタックルで止められたけど。

 散々もがいてリデルの両親や使用人さん達、そして主治医の先生に大層な心配をかけた挙句、最終的に私に残された選択肢は『居直る ←』以外にもう無かった。


 ……これが例え夢だったとして、あの事故の様子じゃ何とか夢から覚めた所で確実に元の健康体は望めないかも知れないけれど、とにかくまずは帰れない事にはどうにもならない。

 それなら最悪の事も考えて、何とかここで生きて行く方法を模索して行くしかないか。

 妹はどうしただろう、最早無事だと信じるしか道は無いか……ただ、責任を感じていつまでも泣いていなければ良いけど。


 それに段々と「私」だった記憶に重なるようにして、リデルとしての知識が私の中にしっかりと息づいて来たのだ。

 耳に聞こえているのとは違って、全然日本語じゃなかった不思議言語の本も読めるし字も書ける、最初はいちいち驚いていた簡単な魔法も自然と使える様になった。

 家族構成も思い出し、ベッドの上に置いてある不細工なぬいぐるみ達の名前や個々のキャラ設定までしっかりと思い出したのだ。


 ただし頭にあるのは、あくまでリデルの『知識』であって彼女としての細かな『意識』はサッパリ分からなかったのだが……。


 リデルは裕福な男爵家の長女で両親と兄一人、それに十数人の使用人さん達が加わった家族の中で幸せに暮らしていた。

 日々の暮らしに困ることも無く、多少の贅沢も許されたし、ちょっとした我儘ならばすぐにハイハイと聞いて貰える立場だった。

 まぁ、その位の生ぬるい生活環境じゃなきゃ、あの元のゲームの甘ったれでウザめな人格は形成されないか。

 両親は貧乏男爵嫡男と成金の商家の娘が、お互いの親の利害の一致での強制的な結婚だったらしいのだが、大変に仲睦まじかった。

 小太りでチョビ髭が可愛い性格温厚な父と、切れ者で如才なく資産を運用し、しっかりと財産を増やしつつ家を切り盛りする美しい母。

 全然性格上の接点が無いからこそ、却って揉め事も無く仲良しで、二人は幸せな家庭を築き上げていた。

 後は顔も頭も母似で優秀でイケメンな兄が一人おり、今は王立魔法学園で学ぶ為に家を離れていた。


そう「学園」。


 私もこれから暫くして行く羽目になる、元の世界の妹が好きだったこの乙女ゲームの舞台となる場所だ。

 十五歳から十八歳までの魔法の素養のある、貴族の子弟の多くが通うハイソで美しい夢の箱庭。

 私はそこで最初の一年間、イケメン共と恋愛バトルを繰り広げてガチンコ勝負を咬まさなくてはならないのだ。


 ……うん、反吐が出そう。

 入学は既に両親の意向で決定しており、来年の春の入学はどう頑張っても覆せなかった。

 頭を打った後、訳ワカメな奇行を繰り返す娘を父は酷く心配したが、母は却って環境を変えて刺激を与えた方が娘の為になると判断したからだ。


 行くしかないなら仕方が無い。

 当然あの胸糞悪い内容を唯なぞるだけの無為な日々を過ごすつもりは毛頭無い、私は今はこの世界で「リデル」として存在してはいるが、確かに「私」でもあるのだ、帰れないのなら自分の望む幸せの為に力一杯行動してやる!

 自分で動かなきゃ、あの線の細いお綺麗なイケメン達の誰かの嫁となるか、誰とも仲良くなれなかったバッドエンドの場合、修道院に入り俗世と縁を切って無私無欲に神様にお仕えする日々を送るかの運命が待っているだけだ。

 どっちにしろ真っ平御免だ! 私はどうせ結婚するのなら心から愛せる美しい髭マッチョの妻となるか、もしくは小説作家となりこの世界の女性達(&一部男性達)にBLの恩恵を(もたら)すのだ。

 この世界にも恋愛小説はあるんだけど、どうしても男女間の話ばかりだし内容も上品でご都合主義で単純すぎた。

 以前から本を読むのも文章を書く事も結構好きだったし、あの程度なら私でも何とか書けるんじゃないかな?

 それにしても現代日本の豊富で潤沢な創作作品群の有難みが、今になって身に染みる。

 最近、筋肉成分が足りなくて力が出ない、ああ、熊やゴリラが組んず解れつする元の世界の楽園(ジャングル)に帰りたい……。

 しかし、無い物強請(ねだ)りをした所で空しいだけだ。

 無いなら自分で書くしか無い、もしファンがついてくれれば、その中からBL作家を目指す他の人が出て来るかも知れない。

 そうしたら新しい作品が読める!やがてBLはこの世界に浸透し、その向こうに私の人生のパラダイスが待っているだろう!

 ……上手くいけばだけどね、随分と気の長い話だし。

 大学の時、友達の同人誌に短編小説を寄稿したら「ガチすぎて怖い」って評価を、読んだ友達全員から貰った事もあるから、最初はあくまでもナチュラルな表現で書かないといけないしなぁ。


 そう言えば、発売延期になったせいで私がここに来る迄にプレイ出来なかった待望のゲームもあったんだよね。

 欲しかったなぁ、あの名作『どすこいカーニバル ~涙の大銀杏~(18禁)』の続編

『ごっつぁんフェスティバル ~恋の寄り切り千秋楽~(18禁)』

 シナリオもイラストも声優陣も豪華で、本当に楽しみにしてたのに。

 前作の最萌えシーン

「先輩、夜のぶつかり稽古! お願いします!」

「明日はお前の目出度(めでた)い初土俵だものな……よし、かかって来い!」

……って思い出すだけで涙が出そう。


 はぁ、帰りたい……。


 しかし妹よ、自力ではどうする事も出来ない今、お姉ちゃんは何とか未来への希望を持って頑張ってここで生きて行くよ。

 当然、帰れる方法が分かったら何としてでも帰るけどね! 私のPCの中にも本棚の奥にも、見られると困る物(ヤバイブツ)が沢山詰まってる事だし!

 ……あ、あれはマジでヤバいわ、どうしよう?


 とにかく、お前もどうか元気でいてくれよ!


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