第9話
ココノは動き始めた。
これまでも動いてはいたが、自分の意思でというより他人の指示で動かされて来たようなものだし、自分の意思で動いた時は殆ど空振りに終わっていたから、自分が動いて何かしている気がしていなかったのだ。
朝一番、クラスのお嬢様、もといトモコに挨拶をしたところから、動いたのはクラスの雰囲気のほうだった。
トモコお付きの4名は東京から来たトモコの親友とのことであった。
他のクラスメートはトモコに多少なりとも弱味を握られている者も多かったが、そういう者は昨日のフウとの一件を見て、逆にトモコがココノに弱味を握られたことを知り、ココノがトモコに対する牽制になるかもという打算で近寄ってくるようだ。
勿論そんな者ばかりではなく、単にココノに興味を持ち、純粋に友達になりたいと寄ってくる者もいる。
ココノは友達を作るにも自分がその主導権というか、選べる立場に立っていることに戸惑ったが、悪い気はしなかった。
選べるとなっても、相手の申し出を即座に却下するようなことはできない。来るもの拒まず式にしていたら、目の回るような時間を過ごすことになってしまった。
大勢に取り囲まれながら、裏腹に、ココノは初めて自分が解放されて自由を得たような、そんな気分で今日の学院生活を送った。
「それは何ですか」
放課後、ココノは司令部に顔をだし、レイ司令と相談していた。今日は他のメンバーはいない。
「無線通信機だ。周波数がサキに合わせてある」
「通信機?」
「そう。電波に乗せて情報をやりとりする機械だよ。この機械を持つもの同士なら、数キロ離れた場所にいて会話ができる。もっとも、サキは自身が通信機となっているから機械は持っていない」
そう言えば、サキ先輩は自分の能力は通信だと言っていた。
「サキは口で喋らなくても、頭の中で喋るようにすれば、こちらの通信機からサキくんの声が出る。こちらが喋るとその声がサキくんの頭の中に伝わる仕組みだ」
病院で私が頭の中で話したことが伝わったのもこれか。とココノは思い返した。まだドラコンを宿していなかったが、魔物との融合はしていたのだから能力自体はあったのだろう。数キロ先は無理でも至近距離だったから。あの時、レイ司令のほうだけが肉声だった訳がやっと分かった。
「あの、それ私用のもあるんですか」
「いいや、通信機は周波数を変えられるようになっているからね。ココノ用にダイヤルを合わせれば同じ機械でいいんだ。ココノかサキのほうで周波数を変えれば、お互いに念話もできるが、それは練習しないと難しいからまたな」
そうだ。今日は司令に自分の能力のことを聞きに来たわけではない。昨日の自己紹介ではあまりに簡単すぎて、他のメンバーのことをもう少し詳しく知りたいと思い、できれば一人ずつ対話する時間か欲しいと相談に来たのだ。
昨夜トモコと話をして、やはりお互いを知ることが大切だと思っての申し出である。
まずはサキ先輩から順番にとお願いしたところ、司令が通信機でサキに連絡をとってくれたのだった。
「サキは一対一ではなく、フウとミイも合わせて四人で会うと言っている。それでいいか」
「え、何故でしょうか」
「まず、秘密もあるから、話をするなら場所はここかサキの部屋だ。ここは君たちだけ放置もできないし時間の制約もある。従ってサキの部屋でということになる」
部屋に二人きりになるのが何か問題なのだろうか。男と密会する訳じゃ…、あ、そうか!
「サキくんは自分が男だと公言しているからな。フウやミイなら問題ないんだが、見慣れない女性がサキの部屋に入っていったとなると変な噂が立つかも知れない」
「サキ先輩って本当に男の子何ですか」
「サキから色々聞くんだろう?それは本人に確認してくれ」
「はい」
「ココノはフウと同じ体操部で妹分ということになっている。フウと一緒なら問題なくサキの部屋に長居できる」
「ミイ先輩も一緒なのは何故ですか」
「ああ、四人居れば卓が囲めるからだな」
「タク?ですか」
「テーブルだよ、四人掛けの。まあ、それもサキから聞いてくれ」
「はい。そうします」
「サキからミイまでは高二で、レセプターの第一期生トリオだからな。三人は仲間の中でも特に親友だ。サキがフウやミイに言えないことは当然ココノにも言えない。ココノが知りたい話はフウもミイも既に知っている。フウやミイがいなければ聞けるという話はないからな。本人からは言えないような面白い話が聞けるかも知れんが、二人が邪魔になることはないよ」
「分かりました。それで、いつ伺えば良いのでしょうか」
「今夜だ。明日はフウも休養日で練習もないし授業も休みだ。徹マンできるから丁度いいんだろうな」
「テツマン?」何だかヤラシイ響きがするが、テーブルを囲んですることなのだろうから心配はないと思い直した。
「高等部のロビーでフウと合流してからサキの部屋に案内してもらってくれ」
その後、部活に向かった。昨日は見学でストレッチなどは行ったが、練習らしい練習はしなかった。今日は前転や後転などのマット運動から練習を始めた。
ココノは病院でのリハビリでも柔軟はしっかりやっていたし、筋肉の造りが魔素用のものであるせいか、体は非常に柔らかかった。午前中は目が回ったが午後は体が回りに回る。回ることと自由であることとは同じ意味なのかも知れない。そんな感想を持ったココノであった。
次話予告
新章突入 「個々の紹介編」
「ココノ」と「個々の」と掛けてます。
1話一人ずつ、9人のメンバーを紹介していきます。