第九話
前話のあとがき、予告で全体のネタバレになるようなこと書きましたが、結果的にはココノの話に収まりました。
ココノは思い知らされた。
第一印象でビビビっと感じる人柄というのもあるけれど、やっぱり色々聞いてみないと本当のことは分からない。
勿論この短時間で先輩たちの全部を知ったとは思わないけれど、随分と先輩たちをみる目が変わったように思う。そうして、自分をみる目をも変える必要を感じはじめた。
自分には八種類の魔物が融合しているらしいが、その理由についてはレイ司令は知らないと顔合わせの時に言っていた。もっと上の立場の人に聞けば知っているだろうけれど、今は会わせてもらえないだろう。
しかし、私がと融合している魔物に聞くことができるかも知れない。ナナの魔物しっぽなナと同類が私にもいるんだから、魔物との会話も可能なはずだ。そうココノは確信して自室に戻ってきた。
レイ司令はココノがキュウと呼ぶ話し相手の存在を知っているはずだが、あの場ではそれを話題にはしなかったし、キュウのほうから会話に参加する様子もなかった。しっぽナを知るまでキュウは自作自演の擬似人格だと思っていたし、あの場で自分からキュウの話題を振ったり、キュウを呼び出したりするのは変な感じがしたので、自室に戻ってから話し掛けてみようと考えたのだ。
ココノがキュウと名付けたのは元々熊の縫いぐるみである。勿論縫いぐるみが喋る訳もなく、自問自答であることは分かっていたが、その自答が自答ではないかも知れない。そう思うと少し緊張した。
「キュウ、ちょっと教えてくれる?」
「聞きたいことは分かってる。僕が魔物かという問いに対してはイエス。君の中にいるのかという問いに対してはノーだよ」
「えっ、じゃあどこにいるの?」
「どこって言えばここ。君と同じところにいる。君の中にいる訳ではないが君の外にいる訳でもない」
「融合しているからってこと?」
「いや、君以外の8人ならまだ彼女たちの中にいるって言えるだろうさ。君の場合は彼女たちと事情が大きく異なるってことだよ」
「どういうこと?」
「一番の違いは入れ物としての肉体の管理を誰がしているかだね。他の8人は能力に関係ない部分の動作は基本的に人の力で動いているが」
ココノは理解した。
「この体を動かしているのは実際魔物たちの力によるものだ。僕たちの正体が明らかになったとして、他の8人は魔物がとり憑いた人だと思われるたろうけど、ココノの場合は人間の皮を被った魔物だと思われるだろうね。実際は逆、魔物の体と力を持った人というべきだがね」
人間の皮を被った魔物と言われるのはココノにしてみれば心外だが、魔物の立場としたらその通りだろう。その魔物が「魔物の体を持った人」と言ってくれたことにココノは安心を覚えた。
「ところでキュウはしっぽナと同じ妖狐なの?」
「いいや、僕は魔物たちの代表、もとい、総意としてココノと話をしている。人の言葉を話すのは妖狐だけじゃないからね。基本的に宿主の意識には干渉しない約束になってるから、通常は表に出たりしないよ。しっぽナは性質上特殊なのさ。あと僕たちもね」
「今まで魔物として名乗らなかったのもそのせい?」
「そうさ。教えるにもタイミングは大事だからね。知りたいと思う時に教えるのが一番いいに決まっているよ。興味のない話をしても覚えないし、何も知らない内に突然「魔物の盛り合わせでございます」なんて挨拶しても慌てるだろ。物事には順序ってものがあるからね。君から質問された今が教えるタイミングだということさ」
「私が知りたいことは何でも教えてくれる訳?」
「ああ、こちらが知ってることはね。知識に限らず、何をどうするか決める権利はココノにある。僕たちはその意思に従ってこの体をコントロールする。そういう契約さ。君はサキやフウのように能力の使い方を訓練していなくても、僕たちに任せてくれたら上手くやるよ」
「でもミイ先輩の真似をしても上手くいかなかったのよ」
「それは思考を読み取ろうとしたからさ。ミイだって思考を読めるのはサキやココノのように思考を発信できる能力を持ったものだけだと言っていただろ。サキもそれは知っていて意図的に心を読まれない工夫をしている。ミイにだって難しいんだよ」
「それは私が隠そうとすれば隠せる訳?」
「隠そうとするのは逆に能力の邪魔だね。ココノが自分でやろうと思えば僕たちはココノの邪魔をしないように能力を抑える。君は頑張れば頑張るほど力を出せないんだよ」
「どういうこと?」
「何でも僕に任せてしまえばいいんだよ。リハビリが長引いたのも君が自分で動こうと頑張ったからさ。そういう頑張る意識が取れたから僕が君の思う通りに動かせるようになったんだ。初めて飛んだときのように、飛ぼうとしないで飛びたいと願えば飛べるんだよ」
言葉で聞くと何だか変な話だが、ラジオでスポーツ選手が「力を抜くことで力を出せる」というような話をしていたのを聞いたことがある。実体験として、今体を動かすのも無意識というか考えなしに自然にそうなる。無意識に魔物に指示をしているということなのだろうか。
「話は変わるけど私と融合したのって何故?好き勝手はできない約束なんでしょ」
「それはレイも言ってただろ。生きるためさ。魔素が涸渇して僕が動けなくなってから千年ほど経つ。そのまま消滅するところだったんだよ。人間と融合すれば死なずにすむ。そこはココノと同じだよ。ココノは魂は売らないと言ったが、僕は魂などにこだわらないよ。元より自由などないんだからね」
確かにココノも動けないまま死んでしまうのは嫌だと思った。そういう思いをさせるための計算があったのかも知れない。
「勿論、ココノが自ら死を選ぶ時は反抗させてもらうよ。主導権を奪うのは簡単なんだよ」
ココノは自分の境遇が自由なのか不自由なのか考えた。数多くの能力が使えるのは素晴らしい自由のようでもあるが、実は自分が動いているのではなく、全く動かされているのだと思い知る。
いや、そういうことも考えると動けなくなるだろう。考えるほどに不自由なのだ。感じたままに動こう。否、動こうではない、動くのだと思い直した。
紹介編はこれで終わり。普通ならこういう話は裏設定みたいな感じで、ストーリーを走らせながら出していくんだろうなぁ。
と、次章からやっと物語りが動き出します。
あくまで架空の世界のお話ですが、世界大戦前の情勢が絡んでくる予定です。