第1話
読者の皆様ごきげんよう。
小説家になろうで色んな作品を読ませていただきました。
自分も一つ話を作ってみたいと思い、挑戦してみることにしました。今回初投稿です。
仕事の合間に素人作家ですので、更新が不規則となることを予めお詫び申します。
ココノは全く動じなかった。
生まれつき少しずつ筋肉が機能しなくなる難病と言われ、8歳で入院して5年、今では首から下は殆ど動かせない。
口を動かすのも億劫だが、病院スタッフ以外、その個室には見舞いの客も皆無で、それを苦にすることもなかった。
かと言って喋らずに時間を過ごすという訳ではない。むしろ喋くり通しである。入院する前に病院スタッフからもらったクマの縫いぐるみを相手に、ラジオニュースの批評などを語り合うのだ。
と言っても縫いぐるみが本当に喋る訳ではない。縫いぐるみの役もココノが担当し、頭の中でボケとツッコミ、恰も落語のような掛け合いを演じるのである。
因みに、縫いぐるみの名はキュウ、ココノの音読みだ。ココノの気分によりキュウちゃんとかキュウ坊とかキュウ兵衛などと呼ばれている。
「ココノ、僕と契約して魔法少女にならないか」
その日、病院スタッフが点滴を交換し終えて退室した直後、突然キュウがそんなセリフを口にした。否、キュウは口が利かない。しかし、いつもの自分が演じるのと異なり、肉声で話かけられたと感じたのだ。それでもこの部屋に自分以外の何者かがいるかも知れないということにココノは思い至らない。
起き上がって確認することはできないが、病院スタッフの誰とも異なる声で、キュウのイメージそのままの声だと感じた。先程の病院スタッフは他に誰かいるような話はしていなかったし、そのスタッフとスレ違いもせずにコッソリ忍び込める時間はなかったはずだ。キュウが喋ったとしか思えなかった。
縫いぐるみが喋ったとなれば少なからず驚くのが相場というものだろう。しかも魔法少女になれるなんて「ワクワクが止まらないよー」と叫んでもよい話だ。
しかし、ココノはそれがいつもの事のように落ち着いていた。
「私の願いを叶える変わりに魂を渡せって話ならお断りよ。こんなもうすぐ死ぬって時にそんな話されても困るわよ」
ココノはいつもの通り心の中でそう応えた。
「いや、逆だよ逆」
キュウは音声で応える。テレパシーが使えるのか使えないのか、よく分からないがそれは今の問題ではない。
「逆?」
「うん逆。僕が君にもう一つの命を預けるから、君にはその命に移、食、住の3つを与えるっていう、僕のお願いを聞いて欲しいんだ」
なるほど、知識を与える代わりに死後魂をくれという昔話とはまるで逆である。しかしこちらから与えてやれるものなど何もないし、命を預かることと魔法少女になることとが繋がらない。
「衣食住?私は体が動かない病気で自分の衣食住も他人に頼らなきゃならないの、あなたも知ってるでしょう?生き物飼うなんて無理、ペットはキュウどんで間に合ってるよ」
「ペットじゃないよ。桃太郎のお伴って感じかな。キビ団子くれたら鬼退治の手助けするって感じのさ」
「何それ、だからそのキビ団子を私は持ってないんだって。鬼退治にも行けないし」
「いや、契約してくれたら鬼退治にも行けるようになるんだよ。君に預ける命はすごい力を出すんだ。その力で君の体も動くようになるし、君がその力を使うようになるんだ」
「え、この病気が治るの」
「そう。それはもう完璧過ぎるほどに治るよ。魔法も使えるようになる。でも腹が減っていては彼も力を出せないし、安心して休める家も必要だ」
「ふーん。治るのまでの間、とりあえず私のベッドに寝かせて点滴を分けてあげればいいのかしら」
「いや、そういうことはしなくていいんだ。詳しい仕組みはアレだけど、契約してくれさえすれば、あとは勝手にやるから大丈夫。心配しないでいから」
「え、勝手に食べたり住み着いたりするの?それで心配要らないの?」
「ああ、勝手にって言うと確かに人聞き悪いね。自動的にというか、君が世話をする苦労がないってことを言いたいんだよ。ペットじゃなくてお伴だからね。自分のことは自分でやるってことさ」
「世話焼かなくていいの?それはそれでちょっと残念かな」
「いやいや、君が契約してくれないとその命は確実に失われる。契約してくれるってだけで大きなお世話だよ」
「え、それお世話の意味が違うよね」
「ははは」
「うん、いいよ。まだよく分かんないけど契約する。私は彼の命を助け、彼は私の命を助けてくれるってことだよね。お互い様はいいことだよ」
「ありがとう。じゃぁこれで契約成立だね。詳しい説明をしたいとこだけれど、実はその命が定住するまでに3ヶ月ほど時間がかかるんだ」
「え、そうなの。」
「うん。君の体が自由に動くようになるのもその頃なんだ。寝たまま話をするのも何だしね。またその頃に来るから」
「え、3ヶ月後に来るって、あなたキュウちゃんじゃないの?」
「あ、ごめん。キュウが話してるって設定だった。つい忘れてたよ」
「何よそれ、じゃぁあなた誰なのよ」
「ごめん。それも含めて次来たときに説明するよ。とにかく、もう少しで君の病気も治るからね。楽しみに待っててよ」
その時、病室のドアが開く音がして病院スタッフが入ってきた。
病院スタッフにテレパシーは使えない。色々質問するのに口を動かすのも面倒だし、どうせ病院ぐるみでグルなのだ。大人しく春が来るのを待つことにした。
「動けるようになったら先ず何をしようか」
「あんまり無茶なことはしないでくれよ」
と、キュウちゃん相手の妄想会話を再開したココノであった。
この世界の魔法は他の一般的なファンタジー世界の魔法とはちょっと異なります。
あくまで電気や電磁の作用としており、ただ電気を知らない人間からみたら魔法に見える、人間にはできないはずの使い方が魔法に見えるということです。
エルフも実は電磁砲の使い手だが、レールガンを理解できない人類が弓の名手と考えたとか、X型のバーニアを背負って飛んでいた種族を見てもバーニアなんて理解できないから細身の光る羽で飛ぶ妖精だと考えたとか。
ですからファンタジーに分類しましたが、一般的なエルフも妖精も出てきません。
ドラコンは出てきますが、これも一般的なドラゴンとは別物です。