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第六五話 元・《魔王》様と、ロリコンのド変態


 その男は、謎めいていた。

 その男は、老獪であった。

 その男は、文武両道であった。

 そして何より――

 

 その男は、ロリコン(幼児趣味)であった。


 ……我が軍が誇る最強の戦士にして、変態の頂点たる四天王。

 その一翼を担いし者、ライザー・ベルフェニックスが今、目前に立っている。


 闇色のシルクハットで顔の半分が隠れているが……しかし、間違いない。


「そこな者共、我輩の前で幼子に手出ししようとは、良い度胸であるな」


 一声発するだけでその場を完全に支配する、圧倒的な存在感。

 奴が醸し出す、このヒリつくような重圧に、現代生まれが耐えられるわけもない。


「な、なんだよ、てめぇ……!?」

「……! お、おい、ちょっと待て。あいつ……いや、あの御方は……!」


 蛮勇で知られるオーク族でさえ、ライザーを前にしては脂汗を流し、怯えることしか出来なかった。


「早急に去ね。然らばその命、散らさずに済むのである」


 ライザーが発した脅し文句に、オーク達は脊髄反射といった様子で一目散に逃げ出した。


 ……ヴェーダもそうだが、この男もまた、数千年の時を経て変化したのだろうか?


 俺が知るライザー・ベルフェニックスはこういうとき、相手を見逃すことはなかった。

 幼い子供、特に幼女に危害を加えようとする者を見かければ、容赦なく抹殺する。たとえそれが貧民であろうが、神であろうが、関係はない。奴はそういう人間だった。


 そんなライザーが、人さらいの類いを見逃すとは。

 なんとも信じがたい、驚きの変化である。


「……大事ないか、メアリ」

「こ、こわかったよぉ、パパ~!」


 穏やかに微笑むライザーの胸へと飛び込んでいく幼女。


 ……パパ、か。なるほど、やはり根幹の部分は変わっていないようだな。


 まぁ、それはいい。

 そもそも奴の変化など、どうだっていいことなのだ。

 大事なのはそう、奴にこちらの存在を気付かせることなく、迅速にこの場を離脱――


 したかったのだが。


「もし。そこの御仁。貴方はライザー様ではありませぬか?」


 ローザが淑やかな口調で、こんなことを問い尋ねてしまったものだから、離れようにも離れられなくなってしまった。


 彼女の声を受けて、ライザーが幼女の頭を優しく撫でつつ、こちらを見やる。


「いかにも。我輩はライザー・ベルフェニックスであるが……ふむ」


 イリーナ、俺、ローザの順に顔を見回すライザー。

 そうしてから、奴は蓄えた顎髭を撫でつつ、


「……自由奔放な御仁であるな。ラーヴィル魔導帝国の女王陛下は」


 やや呆れたように呟く老将に、ローザは肩を竦めてみせた。


「そのお言葉、そっくりそのまま返させていただこう。貴方様こそ、うかつに出歩きすぎではありませぬか?」


 普段とは違う口調で、言葉を紡ぐローザだが……

 なんだろう? どうにも緊張感が強すぎる。


 ライザーとてヴェーダやオリヴィアと同じく、伝説の使徒として扱われていよう。

 ゆえにローザが慇懃な態度を取るのは当然であるが、しかしそれにしても、畏まり過ぎな気がしてならない。


 ……そんな疑問の答えは、次の瞬間、彼女自身の口から発せられた。


「大聖堂は今、てんやわんやでしょうな。何せ――教皇猊下(、、、、)が、消えたのだから」


 教皇猊下、だと?


「問題はない。市井を周り、信徒達の様子を見守ることも、我輩の職務である」


 ……いや、ちょっと待て。


「イリーナさん、少し、よろしいでしょうか?」


 ライザーの注目を浴びぬよう、俺は努めて小さな声で、隣に立つイリーナへ問いかけた。


「教皇猊下、ということは即ち……ライザー様こそが統一教の頂点であると、そう解釈してよろしいか?」

「うん、そうだけど……知らなかったの?」


 俺は小さく頷いた。宗教国家・メガトリウムの存在や、統一教の存在は知っていたが、その詳細にはなんの興味もなかったため、これまであえて知ろうとはしなかった。


 それにしてもまさか……あのライザーが、教皇猊下だと?

 俺に対して一切の忠誠心を抱かなかったあのライザーが、《魔王》崇拝の頂点だと?


 いったい、どういうことだ?

 何を思って、奴はそんな立場に就いた?


 ……理解しがたき事実に困惑していると、奴は俺の顔を見て、言った。


「そこな少年は、噂のアード・メテオール、であるか」

「……左様にございます。卑しき平民の私が、まさかまさか教皇猊下のご尊顔を拝見出来るとは。まこと恐悦至極に存じます」

「へりくだらずともよいのである。我輩からすれば、平民も貴族も変わりない。重要なのは……其処許が心身共に優れた人物であるということ、これのみである」


 こちらを真っ直ぐに見据えてくるライザー。

 老将の眼光は鋭く、我が身の上の全てを見抜いているように感じられる。


 ……相も変わらず、不気味な男だ。


 こいつは我が配下の中でも、極めて異質な存在である。

 軍内部で名を馳せた者達は往々にして、俺との出会いから出世に至るまで、数多くのエピソードがあるものだ。ライザー以外の四天王などは特に顕著である。


 姉貴分たるオリヴィアは当然として、ヴェーダやアルヴァートについても、初対面から配下入りに至るまでの流れ、四天王に就任した際の出来事など、エピソードに事欠かない。


 だが、この男だけは。ライザーだけは、そうしたものが何もないのだ。


 まるで突然発生したかの如く、いつの間にか我が軍に在籍しており、気付けば功績を挙げて、四天王の座へと昇り詰めていた。


 その経歴は何もかもが不明。俺が全力で調査したにも関わらず、何も掴めなかった。


 生きてきた足跡が何一つ存在しない男。わかっていることはただ、文武共に優れているということと、幼児趣味の変態であるということ。それだけである。


 ……当時は人材不足ゆえ、仕方なく起用したわけだが、もしそうでなければ野に放っていた男だ。


 才はあれども信用が出来ない。およそ、これまで出会った人間の中で一番気持ちが悪い人物。俺にとってライザーは、そういう存在だ。


 だからこそ、関わり合いになりたくなかった。


「……では教皇猊下。我々はこれにて失礼させていただきたく。我等が女王陛下のお望みを叶えて差し上げるという、重大な任を果たさねばなりませんので」


 半ば強引な調子で言い切ると、俺はイリーナ、ローザを連れてこの場を離れるべく、ライザーに背を向けた。

 ……その瞬間。


「待たれよ。女王の望みとは、いったいどういったものであるか?」


 呼び止められ、問いを投げられる。

 個人的には無視して立ち去りたいところだが……彼我の立場上、それは出来ない。


「メガトリウムの観光。それが、陛下の望みにございます」

「左様であるか。然らば、このライザーが案内役を務めてしんぜよう」

「……は?」


 思わず、声が漏れ出てしまった。


「我輩以上に、このメガトリウムを知り尽くす者はおらぬ。ゆえに街案内など得意中の得意である」


 断りたい。全力で断りたい。


「いや、しかし……猊下に案内役をしていただくというのは……のう?」

「そうね……なんだか、畏れ多いっていうか……」


 そう。その通りだ、二人とも。


「私もお二人に同意――」

「遠慮することはない。今の我輩はほれ、教皇の衣を脱ぎ捨てておる。ゆえに今は、市井を歩くただの老いぼれよ。それに、其処許等は大事な客人。我輩にはもてなしをする義務があると考えるが……いかに?」

「むぅ。そこまでおっしゃられるなら」

「断るのはむしろ、失礼よね」


 いや、断ってくれよ、頼むから……


「よろしい。然らば、参ろうか」


 口元に小さな笑みを浮かべながら、ライザーは先導するように歩き出す。

 ……まったく、どうしてこうなったのか。

 元・配下の背中を見つめつつ、俺は盛大なため息を漏らすのだった。


   ◇◆◇


 メガトリウムはちょっとした都市程度の国土しか持たない、特殊な国家である。けれども面積に反して観光名所は数多く、それらを見ようと日々、世界各国から観光客が押し寄せている。


 一日やそこらでは全てを見回ることは不可能であるため、今回は特に有名な数カ所を巡ることになった。


「まずは、最寄りの時計塔へ赴くことにしようか」


 以降……特にどうといったこともない、平穏な時間が過ぎていく。

 警戒していたなんらかのトラブルもなく、実に穏やかなものであったが……

 それでもやはり、居心地が悪い。


 理由は無論、ライザーである。


 自分でも不思議なほど、この男の近くにいることが気持ち悪くて仕方がなかった。

 なんというか……言葉で表現しようのない、嫌な感じがするのだ。


 しかしそんな俺に反して、ローザやイリーナは、奴の軽妙な名所解説に聞き入っており、実に楽しそうだった。


 ……そして。

 ゴウンゴウンと、鐘の音が街に広がる。


「ふぅむ。もうそろそろ、日暮れ時であるな」


 空を見上げながら呟くと、ライザーは連れ歩いていた幼女に目をやって、


「メアリ。お家へ帰りなさい。すぐ近くゆえ、一人でも大丈夫であろう?」

「は~い! またね、パパ!」


 元気よく挨拶すると、幼女はパタパタと走り去って行った。

 そんな様子を見つめながら、イリーナが小首を傾げる。


「あの、教皇様。あの子を一人で帰らせていいんですか?」

「うむ。正直に言えば、送ってやりたいところであるが……過度に幼子扱いすると、へそを曲げるでな」

「へぇ~。教皇様でも、子育てには苦労なさってるのね」

「……子育て? どういう意味であるか、それは」

「えっ? いや、あのメアリって子、教皇様のお子様でしょ?」


 この問いに、ライザーは「なに言ってんだこいつ?」みたいな顔をして、


「メアリは我輩の娘などではない。八二四万、三六一四人目の妻(、)である」

「……は?」


 今度はイリーナの方が、「なに言ってんだこいつ?」みたいな顔をする。


「いや、妻って……えっ? あの子、どう見ても七才ぐらいよね? 結婚は確か、一五才以上でないと出来ないはずじゃ……」

「それはラーヴィルの法であろう? メガトリウムでは三才から結婚が許されるのである。ゆえに我輩とメアリの婚約は合法である。というかそもそも、なぜ多くの国が一五才以下の婚約を認めていないのか不思議でならぬ。一五才などもう、完全にババァではないか」


 暗にババァ扱いされたイリーナとローザは一言も発することなく、虚空を見つめるのみであった。

 両者共、考えが顔に出ている。


 即ち――

 こんな奴が教皇で大丈夫なのだろうか、と。


 ……いや本当、なんでこいつが教皇なんぞやっとるんだ。一番なってはならぬ人間だろうに。


「さて。観光案内も大詰めといったところであるな」


 少々くたびれたように呟くライザー。

 その様子はまるで、孫との遊びに疲れた老人のようだった。


 ……よし。これでやっと、こいつと別れられる。

 と、そう思ったのだが。


「最後に歴史博へ行って、観光案内を終わりにするとしよう」


 ……どうやらもう少し、この居心地の悪さは続くようだ。



 そういうわけで、我々は最後の観光地へと足を運ぶ。


 博物館といえば少し前、修学旅行の際にも訪れた場所だ。

 奇遇なことに、そのときも四天王案内のもとであったが……それはさておいて。


 ここメガトリウムの歴史博物館は、修学旅行にて訪れた古都・キングスレイヴのそれとは趣が異なっている。


 キングスグレイヴの博物館は、《魔王》とその配下達ゆかりの品を展示したもので……別の見方をするならば、古代世界の文化などを紹介することを目的にした施設だった。


 それに対して、このメガトリウムの博物館は《魔王》転生後の歴史を物語っている。


 出入り口にて、係員に極めて安価な入場料を支払った後、我々は通路へと足を向けた。

 時刻は夕暮れ前であるが、それでもまだ、施設の中には多くの客が歩き回っている。


 彼等と同様、俺達もまた、展示物を眺めながら、ゆっくりと通路を進んで行く。

 どうやらこの博物館は指定されたコースを進んで行くことにより、《魔王》転生から現在に至るまでの歴史を、時系列順に学ぶことが出来るよう設計されているらしい。


「ふぅむ……なんというか、いまさらじゃのう……」


 退屈げな様子で展示物を見やりながら、ローザがそう呟いた。


 影武者とはいえ、彼女は表向き立派な女王である。となれば当然のこと、物心つく前から徹底的な英才教育を受けていよう。彼女の学問知識は間違いなく、学生たる我々よりもずっと上に違いない。歴史学に至っては言うまでもなかろう。


「うむ。其処許からすれば、この博物館は実につまらん施設であろうな。然れども……学生二人には、まだ知らぬ知識を与えてくれる場であろう」


 ライザーの言う通りだった。

 一応、学園でも歴史学の授業はある。そこらの一般的な学園に比べ、かなり深いところまで学んでいるとは思うが……しかしそれでも、一から一〇までというわけではない。


「へぇ~.第二次メギド戦役って、スルツ王国の皇太子暗殺が原因じゃなかったのね」

「教本にはそう記されていましたが、どうやら諸説あるようですね」


 なかなか、興味深い施設だった。

 通路を進むにつれて、古代から現代に至るまでの経緯が、詳細に把握出来る。


 知らなかったことを知るという体験は、実に刺激的なことだ。けれども、その一方で。

 この施設は、知りたくなかったことをも、教えてくる。


「……アード・メテオール。其処許はどう思う?」


 唐突に放たれた問いかけに、俺は眉をひそめた。


「どう、とは?」

「古代から現代に至るまでの歴史。その詳細を知るにつれて……其処許はどう思った?」


 何かを試すような視線に、俺は自然と警戒心を高めた。

 どう答えたものか、少々悩むが……適当な嘘を述べたところで、見抜かれよう。

 ならば本音を語るほかあるまい。


「……人の醜さ、そして愚かさの証明。古代から現代に至るまでの道のりはまさに、その一言に尽きるかと。ゆえに……傲慢と思いつつも、このアード・メテオール、人という種に対して少々の苛立ちを感じざるを得ません」

「うむ。我輩も同感である」


 小さく首肯すると、ライザーは目前の展示物……

 過去の戦争に用いられた魔導兵器を見つめながら、言葉を紡ぎ始めた。


「差別もなく、争いもなく、貧富の差や病もない。そんな世界が実現出来るだろうか?」

「……まともに考えれば、不可能でしょうね」

「左様。この歴史博がそれを証明しておる。人は争い、憎しみ合うことを好む、おぞましい生き物である。ゆえに完全平和はおろか、差別の根絶さえ出来はしない。されど……かつて、古代の末期には、その理想郷が確かにあったのだ」


 重苦しい声を出すライザーに、イリーナがおずおずと口を開いた。


「古代の末期ってことは……《魔王》様が世界を統治していた頃、だっけ」

「然り。《邪神》の殲滅後、《魔王》陛下は人類社会の統一に努められた。そして、それは見事に成ったのである。以降、かの御方は完璧な政を行い……理想郷を創りあげた」

「……理想郷、ですか」


 無意識のうちに漏らした声は、実に乾いたものだった。

 我が声音に宿る自己嫌悪に、しかし、ライザーは何の反応もしない。

 奴は淡々と、言葉を続けていく。


「あの頃、人類は間違いなく一つに纏まっていた。誰もが《魔王》という共通のシンボルを崇め、イデオロギーの多様性などなく、全てが完璧に調和し……誰もが幸福であった。現代生まれには信じがたいことであろうが……あの時代では、《魔族》さえも問題を起こすことはなく、人類と共存していたのである」

「ま、《魔族》も……!?」

「確かに、信じがたいことじゃな」


 ……イリーナやローザが驚くのも、無理はない。現代生まれの彼女等からしてみれば、《魔族》は忌むべき怪物であり、最大の差別対象である。


 しかしライザーが言った通り、あの時代、人類と《魔族》は共存していた。


 ……いや、共存させていた(、、、、、)と言うべきか。


「夢物語の再現。《魔王》陛下は見事、それをやってのけたのである。しかし……かの御方は皆も知っての通り、ある日、命を断たれた。……その後は、この歴史博で学んだ通りである」


 ライザーの瞳に、憤懣が宿った。

 その感情を体現するかのように、奴の語調が強くなる。


「《魔王》陛下の消失が知れ渡ってすぐ、人間はその愚かな本質を露わにした。統一されていた世界は瞬く間に分裂し、争い、憎み、差別し合うようになった。……我輩はどうにか、それを防ごうとしたが、無駄であったよ。人々が生み出す民意とは、まさに荒れ狂う奔流である。その流れを変えることが、我輩には出来なかった」


 拳を強く握り締めながら、ライザーは呻くように言葉を絞り出す。


「あの頃にあった……完璧な理想郷は、どこへ行ったのか……我輩が創りたかった社会は夢幻の如く消え失せ……今や世界は、おぞましい人間共に支配された、地獄である……!」


 この言葉に、ローザは複雑そうな顔をして俯いた。


 おぞましい支配者の一人だと、そう言われたように思ったのだろう。

 だが、ライザーはそんな彼女に、なんら弁明することはなかった。


 むしろ、ローザには一瞥もくれることはせず……

 俺の顔を見て、言った。


「人間の本質は悪であり、ただひたすらにおぞましいだけの生き物である。それを支配し、理想郷を創り上げるためには……絶対的な支配者が、必要不可欠であろう」


 奴の瞳に、新たな思いが宿る。

 けれども。

 俺はあえて、その感情から目を逸らした。


 しばし、我々の間に重苦しい沈黙が降りたが……

 やがて、イリーナの明るい声が、それを打ち破った。


「理想の世界を創ることは難しいかもしれないけれどっ! でも、努力する価値はあるわっ! 今回の会議だって、その一環なんでしょっ!?」


 彼女の反応は予想外だったのか、ライザーは面食らったように瞳を見開く。


「色々と問題はあるけれど、まずは人類を一つにまとめるっ! そのために、五大国の皆を呼んだ! そうでしょ、教皇様!?」

「……その通りである」

「やっぱり! 教皇様は本当に、優しい人なのねっ!」

「…………ふむ」


 ジッとイリーナを見据えるライザー。彼女の瞳を覗き込みながら、奴はボソリと呟く。


「……なるほど。古いとはいえ、血縁は血縁、か。この人間性、奴(、)にそっくりであるな」


 どういった意図のもと吐かれた言葉か、判然とはしないが……

 ともあれ、イリーナに毒を抜かれたことは間違いなさそうだ。

 先程まで纏っていた剣呑な空気が、すっかりと消えている。


「イリーナ・リッツ・ド・オールハイド。其処許はきっと、理想郷を創るための鍵となろう。今後もアード・メテオール共々、大いに励め」

「はいっ!」


 元気いっぱいに返事をして、太陽のように笑うイリーナ。

 ……気のせい、だろうか。


 そんな彼女を見つめるライザーの瞳が一瞬、邪悪な煌めきを放ったように思えたのは。




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