エピローグ 修学旅行の終わり/騒乱の始まり
実に。
実に実に。
なんやかんやとあった修学旅行だが、ようやくそれも終了し、我々は帰還の朝を迎えた。
先の一件による死傷者はゼロ。軽傷者は多くいたものの、その全てが回復済みである。
また、崩壊した建物も俺が手ずから修復した。
よってもう、なんのやり残しもない。
「旅行とは普通、心を癒やすもののはず、なのですがね」
「なんだか疲れたわ……」
「帰ってのんびり、休みたいですわね……」
「アタシはなかなか楽しめたのだわっ! ……まぁ、二度目はゴメンだけど」
言い合いながら、馬車へと乗り込んでいくイリーナ達。
俺もまた、籠へ乗ろうとする。
その直前だった。
「お~い! アードく~~~~ん!」
……今、絶対に聞きたくない声が、耳に入った。
思わず舌打ちを零してから、そちらを見る。
……そこには、しばらく見たくない顔があった。
「ふぅ、ふぅ、あ~~~、疲れた! でも、間に合って良かったよ!」
ヴェーダ・アル・ハザード、その人である。
霊体改造の代償として、存在消滅に遭った彼女だが……そんなことはなかったかのように、平然と我が前に立っていた。
とはいえ、驚きなど微塵もない。
こいつがあの程度でくたばるわけがないのだ。
もしそうだったなら、そもそも四天王の座には就いていない。
まったく、どこぞの害虫よりもしぶとい奴だ。
「……伝説の使徒様直々のお見送りとは、恐れ入ります」
「ゲヒャヒャヒャヒャ! 恐れ入ってる顔じゃないね、それは!」
何が可笑しいのか、腹を抱えて笑うヴェーダ。
しかし、彼女はすぐに居住まいを直して、
「ねぇ、アード君。君は運命ってやつを信じるかい?」
「……どうでしょうね。奇縁という概念があることは、認めざるを得ませんが」
「そっか。ワタシはね、運命ってやつを信じてる。だから……君とは近いうちに、また会うことになると思う。どういった形かは、まだわかんないけどね」
幼い美貌に、不気味な笑みを浮かべる。
そうしながら、ヴェーダはこちらへと近づいて、背伸びをすると。
「久しぶりに、君と遊べて楽しかったよ」
俺の耳元で、こう囁いた。
「またね、ヴァル君」
これを最後の言葉として、奴はてくてく走りながら、去って行った。
……やはり、気付いていたか。
やれやれ、悩みのタネが増えてしまったな。
……まぁ、それも俺が背負うべき業というやつか。
認めたくはないが。
此度の一件で友人が一人増えたのだから、プラマイゼロということにしておこう。
ヴェーダの言う運命とやらに思いを馳せながら、俺は馬車へと乗り込んだのだった――
◇◆◇
王都へ帰還して、はや一週間。
旅行の疲れもある程度抜けて、我々はいつもの平穏を謳歌していた。
まぁ、平穏といっても。
「シルフィーの馬鹿はどこだぁああああああああああああッッ!」
「だわわぁあああああああああああああッッ!?」
相変わらず、馬鹿は馬鹿である。
「あの様子だと、シルフィーは一緒に帰れそうにないわね」
「貴女もミス・シルフィーに付き添ってはどうです? 妹分でしょ?」
「そうしたいんだけどね。泥棒猫を放置したくないからね」
バチバチと火花を散らせる、イリーナとジニー。
こちらも相変わらずだった。
放課後。
我々は夕陽の下、いつものように校舎を出て、敷地内にある学園寮へと戻る。
……その、道中のこと。
「もし。貴方達はアード・メテオール氏と、イリーナ男爵令嬢とみて間違いないか?」
校庭の中に、不似合いな者が一人、紛れ込んでいた。
全身を甲冑で覆った彼。
そのフルプレートの胸元には、王家の紋章が刻印されている。
「……女王陛下、直属の騎士様、ですか」
「左様。陛下がお二人を呼んでおられる。ただちに王宮へ来られたし」
この言葉を受けて、俺とイリーナは顔を見合わせた。
「なんていうか。こっちに来てから退屈したことがないわね、あたし達」
「えぇ。たまには暇をもてあましたいものですね」
互いに肩を竦め合うと、
「今から参上いたします。ご案内を頼めますか?」
「承った。それでは共に参ろう」
そして。
俺達はまた、新たなる騒動へと巻き込まれるのだった――
これにて、第四部完結となります。
ここまでのご愛読、まことにありがとうございます。
そして本日、商業版第四巻が発売となります。
こちら、いつもとは少々異なる点がございまして……
他、ある重大情報もまた、本日解禁されます。
詳しくは活動報告にてご確認くださいませ。




