第六一話 元・《魔王》様、現代に帰還する
肉を斬り裂く、気持ちの悪い手応え。
ローグの胸へと深く突き刺さった刀身が、我が手元へと実感を運んでくる。
命を刈り取ったという、実感だ。
もはや慣れ親しんでしまったそれに、何かを覚えることもなく……
俺はただ、目前の我が分身を見つめるのみだった。
「ごふっ……!」
吐血し、全身を小刻みに震えさせる。
そうしながら、ローグはこちらを睨み、
「貴様、は……再び、罪を犯したのだ……! 忘れるな……! 貴様は、これで……もう一度……もう一度、その手で、リディアを……殺したのだ……!」
何も言い返すことなく、俺は、死にゆくローグを見つめながら歯噛みする。
そうだとも。こうすることで未来がどうなるか、理解したうえで決行したのだ。
俺はこの手で、リディアの死を確定させたのだ。
……それが、彼女の願いだったから。
「ぐ、はっ」
再び大量の瀉血。もはやローグの命脈は……
と、そう考えた矢先のことだった。
奴の肉体が淡く輝き出し、やがて、粒子状となって消えていく。
これは、いったい……!?
「あぁ、どうやら……奴等はなんとしても、この世界に終焉をもたらしたいようだな……」
消えゆくローグが、何やら得心したように呟く。
「どういう意味だ……!?」
「そんな、ことは……自分で考えろ……ただ……俺が言えることは……」
一拍の間を置いてから、ローグは口元に僅かな笑みを浮かべる。
それは断じて、穏やかなものではなかった。
俺に対する殺意と、目的意識に対する狂気。
おぞましい情念を孕んだ、寒気がするような笑みだった。
「まだ、終わってなどいない……! 奴等が俺に……《魔王》であることを、期待するなら……それを演じきって見せよう……! その果てに……我が贖罪と、リディアの幸福があるのなら……!」
一人、全てに納得した様子で消えていく。
そして。
最後にローグは、ふと思い出したかのように。
面貌へ宿した狂気を僅かに薄めながら、言葉を残す。
「……イリーナとジニーを、死なせるな。俺にとってもまた、彼女等は最後のよすがであった。貴様は俺にとって、最大の敵だが……その一点のみ、失敗せぬことを祈る」
ここまで語ると、奴の姿は完全に消失し……
場には、俺だけが残った。
気になることはいくつもある。
だが、考えが及ばなかった。
これで全てが終わったのだと、そう思うと。
俺は……瞳に涙が浮かぶのを自覚しながら、天を見上げる。
いつの間にか曇天は晴れ渡り、美しい蒼穹色が空一面に広がっていた。
今はそんな蒼が、心の底から憎い。
俺は一筋の涙を零しながら、誰にともなく、言葉を紡いだ。
「これで、よかったのか……?」
◇◆◇
それは本当に、唐突な出来事だった。
リディアが《魔王》の霊体を封じた媒介を破壊してから、少しして。
なんの前触れもなく、イリーナとジニーの全身が淡く輝き始め――
足下からゆっくりと、粒子状になって消えていく。
「えっ……!?」
「こ、これは……!?」
両者の脳内に、全く同じ言葉が浮かぶ。
真っ先に出たのは、アードの勝利。
続いて……現代への帰還。
二人は顔を見合わせ、喜びや安堵が混ざり合った、穏やかな笑みを向け合った。
その横で。
「……どうやら、帰っちまうみてぇだな。ま、お前等にゃあそれが一番か」
リディアの発言に、二人は目を丸くした。
「えっ。リ、リディア様、もしかして……」
「私達が未来人だってこと、知ってたんですかっ!?」
瞠目する二人に、リディアは苦笑しながら、
「まぁ、なんとなくな。オレぁ馬鹿だけどよ、勘だけは鋭いのさ。だからま、今回の一件に関しても色々と想像を膨らませてたわけだが……いやぁ、まっさか、マジだったとはなぁ~。今回ばっかりはさすがにビックリだぜ」
さしものリディアも、少しばかり動揺しているのか。
その美貌に浮かぶ笑みはなんとも言えぬものだった。
それから。リディアは頬を掻きながら、僅かに迷うような仕草を見せつつ、
「なぁ、一つだけ聞かせてくれねぇか? ……未来は、どうなってる? 平和になったのか? 皆が笑って生きられるような、そんな世界になってるのか?」
二人は一瞬、言葉を失った。
リディアの問いに対し正確な返答を送るなら……断じて否であると、答えざるを得ない。
彼女が望むのは、人間の笑顔だけではないのだ。
きっと彼女は、人間と《魔族》が良き形で共存し、互いに手を取り合い、笑っていられるような、そんな世界を望んでいるのだろう。
だが……現実は残酷だ。
未来世界において、《魔族》は最大級の差別対象であり、共存などありえぬ存在。
相手方もまた、人類を猿以下の存在として見下している。
両種族はもはや、どちらかが滅亡するまで争い合うだろう。
だが……とてもではないが、そんな悲しい答えなど、口にはできなかった。
「未来は……未来は、リディア様が想像なさっているよりも、素晴らしい世界になっておりますわ!」
「そうそう! 毎日楽しいことばかりで、皆幸せに暮らしてるわ! 誰もが笑って生きていられる世界に、ちゃんとなってると思う!」
二人は嘘を口にした。そうせざるを得なかった。
真実を語ることなど、到底出来なかった。
そんな二人の真意に気付いているのか、それとも、二人を信じたのか。
リディアは嬉しそうに微笑んで。
「そっか。……オレ達(、、、)の犠牲は、無駄じゃなかったんだな」
皆の、でもなく、仲間の、でもなく。
リディアは「オレ達」と、そう口にした。
これは、つまり……
彼女は己の宿命にさえ、勘付いているのだろう。
「リディア、様……リディア様は、その……」
「あぁ。死ぬんだろ? オレも。きっと、悲惨な形で」
こともなげに言ってのける彼女に、イリーナ達は再び瞠目する。
そんな二人の頭を、リディアは微笑しながら撫で回し、
「いいのさ、それで。さっきも言ったろ? オレぁ、平穏無事な死に様なんぞ望んじゃいねぇからよ。だから……お前等が気にするこたぁねぇよ」
優しげにそう語るリディア。彼女はきっと、こちらの苦悩を読み取っているのだろう。
この人のことを知り、最初は戸惑いがあった。あまりにも、伝え聞く人格と違うから。
イリーナからすれば、初印象は失望に近いものだった。
ジニーにしても同じだ。こんな色欲魔のような人間、好きになれないと思っていた。
だが……接していくにつれて、だんだんと、この人のことを可愛いと思う瞬間も増えて。
それと同時に、この人は間違いなく、神話に名を刻みし英雄なのだと、尊敬の念も覚えるようになって……
気付けば二人は、リディアに敬意と憧憬の念を抱いていた。
だからこそ思う。
この人に、死んでほしくないと。
無惨な結末など、迎えてほしくはないと。
だが……自分達に何ができるというのか。
そもそも、リディアの死には謎が多いのだ。その真実さえ知らぬ自分達に、どんな手が打てようか。それに……もし手が打てたとしても、リディアはそれを拒否するだろう。
彼女の信念は、あまりにも固い。
それが理解できるから……
二人はせめて、リディアの姿を最後まで、目に焼き付けておこうと思った。
この人のことを忘れない。
それだけが、自分達にできる唯一のことなのだと、そう思った。
「……もう、マジで時間がねぇみたいだな。ハァ、残念だぜ。ジニーちゃんとはキスすらできやしねぇし……イリーナ、お前にゃあちょっとばかし、稽古をつけてやりたかったんだがな。けどま、しょうがねぇか」
頭を掻きながら、リディアは心底残念そうに息を吐くと、
「本当ならもうちょっと、形として、お前等に何かを残したいんだが……しょうがねぇから、言葉だけ送っとくよ」
そう前置いてから、まず、リディアは澄みきった瞳をイリーナへ向けた。
「今後、苦しい思いをするかもしれねぇが……そんときゃ、落ち着いて周りをよく見ろ。お前にとって大事なもんが、必ず見えてくるはずだ。そんでな、これだけは断言しとく。お前は決して、一人なんかじゃねぇ。そのことだけは、絶対に忘れんじゃねぇぞ」
「……はいっ!」
瞳を涙で濡らし、別れを惜しみながら、イリーナは頷いた。
そんな彼女とハグを交わしてから、リディアはジニーを見て、
「どうやら、今回の一件で一皮剥けたみてぇだな。ちょっと前とは面構えが違うぜ。よく成長したな、ジニー」
「全て、リディア様のおかげですわ……! リディア様が、励ましてくれたから……!」
「んなこたねぇさ。結局はお前の力だよ。……いいか、ジニー。今回のことを忘れんじゃねぇぞ。壁なんてのは、お前自身が勝手に決めてるものでしかねぇんだ。もし辛いことがあったら、馬鹿になれ。誰よりも馬鹿になって、突っ走れ。そうすりゃ、お前は誰よりも前に行ける。不可能なことなんざ、どこにもありゃしねぇよ」
「はいっ!」
ジニーもまた、瞳に大粒の涙を浮かばせながら頷いた。
そして、彼女もリディアと最後のハグを交わして……
「最後に、伝言を頼まれちゃくれねぇか? どうしても、アイツに……アードに、言っておきてぇことがあるんだ」
断る理由など、どこにもない。
頷く二人に、リディアは語り出した。
その一言一言を記憶に刻み込むと……遂に、そのときがやってきた。
イリーナとジニー、両者の体が完全に、粒子となって消失する。
最後の最後、リディアは満面に華が咲いたような笑顔を浮かべ、
「あばよ二人とも。帰った先でも元気でな。風邪なんざ引かずに、長生きしろよ。飯は好き嫌いせずに食え。あと、それから…………ハハッ、なんだよオレ、母ちゃんみてぇだな」
たむけの言葉を送りながら、無邪気に笑う。
それが、イリーナとジニーが見た、彼女の最後の姿だった。
願わくば。
せめて、この世界だけでも。
この世界の彼女だけでも。
末期には、自分達が見た平穏な笑顔を浮かべてほしいと。
二人はそう、心の底から願うのだった――
◇◆◇
全ては唐突で、何もかもが、気付けば終わっていた。
現状に至るまでの軌跡を言い表すなら、こんなふうになるのだろう。
非常に慌ただしい時間旅行の末に、我々は始まりの場所へと帰ってきた。
即ち、黒い空間である。
闇のみが一面に広がるこの空間にて、俺はイリーナとジニー、両名に再会し、
「うわぁ~~~~~~ん! ア~ドォ~~~~~~! 会いたかったよぉ~~~~~~!」
俺が居ぬ間に、色々とあったのだろう。イリーナが滝のような涙を放ちながら、こちらの胸元へと飛び込んできた。
「あぁっ! ずるいです、ミス・イリーナっ! せめて私が抱きつく場所を残して…………あぁもうっ! 離れなさいな、この単細胞っ!」
「うっさい馬鹿っ! 今のアードはあたしだけのアードなのっ! あんたなんか、そこのわけわかんない自称・神様にでも抱きついてなさいよっ!」
こちらの胸板に頬ずりしながら、イリーナはビッと指を差した。
その先に立つは、神を自称する性別不明の幼児。
彼または彼女は、無気力を絵に描いたような表情でジニーを見て、
「ぼくで……良ければ……」
ゆったりとした動作で、両腕を開くのだが。
「けっこうですっ! 私が飛び込みたいのは、アード君の胸元だけですのでっ!」
「あ……そう……」
さして気にした風もなく、神を自称する幼児は、自らの髪を弄りだした。
そうしながら。
「今回の一件は……完全なるイレギュラーでは……あったけれど。いつものそれと劣らず……劇的だった。やりきってくれた君達に……万感の思いを抱かずには……いられない」
「それにしては、完全に無表情ですね」
「これで……今回の演目は……幕引きとなる。けれど……君達の舞台が、完全に終わったわけじゃ……ない。元居た世界で……再び……己が役を、やり抜いてほしい」
そんなことを奴が口にした矢先。
イリーナとジニーの姿が、忽然と消え去った。
「……お二方は、元の世界へ戻ったと解釈してよろしいか?」
「うん」
小さく頷く自称・神に、俺は新たな問いを投げかける。
「私だけを残した理由を伺っても?」
「君には今回……残酷な役割を……任せてしまった。その点について……本当に、申し訳なく思っている……だから、ほんの少しだけ……話をする機会を設けた。聞きたいことがあれば……なんでも……聞くといい」
無気力な表情で、真っ直ぐとこちらを見つめる自称・神。
そんな彼または彼女の言葉通り、俺は疑問をぶつけることにした。
「貴方達は何者ですか? ディザスター・ローグの発言からして、貴方達は集団であることがわかる。また、ヴェーダは貴方達を高次元存在と称していましたが、結局のところ詳細は何もわからない。貴方達は何者で、何を目的としているのか。そして……我々の味方なのか、それとも敵なのか。お答えいただきたい」
神を自称する幼児は、やはり無表情のまま、淡々と答えた。
「ぼく達を表す言葉は……どこにも……ない。ヴェーダの言う通り……高次元存在と呼びたければ……そうすれば……いい。別の呼び名がよければ……それでも……いい。正体や目的に関して……は……今、それを明かすことは……できない。そもそも……ぼく達がこうして役者に接触すること自体……本来はルール違反。今回は、真に例外的な状況だった」
要領を得ぬとは、まさにこのことか。
「結論から言って、貴方は私の問いに答えるつもりがないと?」
「ある意味では……そうかもしれない。ただ……これだけは……信じてほしい。少なくとも……ぼくは君達の味方。どんなことがあろうとも……それこそ…君達が観測者に見飽きられたとしても……ぼくだけは味方で在り続ける。だってぼくは……君た◇δ○φs■χ…………この程度のことさえ禁則事項だなんて……ちょっと……酷いんじゃないかな」
瞳を細めながら、ぼやくように呟く。
結局のところ、コイツが一体なんなのか、この場ではわかりそうにはなかった。
なんでも聞けと言っておいてこれか。まったく、どうにも腹立たしいわ。
さりとて、幼子の如く地団駄を踏んでも仕方があるまい。
こうなればもはや、思うことは一つである。
「二度とお会いすることはなきよう、心から祈っておりますよ、ミスター・ゴッド」
皮肉を込めながら口にする。が、相手はなんら気にしたそぶりを見せず、ただ頷ずくのみだった。
それから……ようやっと、俺の番が来たらしい。
意識が次第に遠のいていく。
やっと帰れるのか。
しかし、この疲れ果てた状態で修学旅行を乗り切らねばならぬとは。
やれやれと、そう独りごちた、次の瞬間。
「ぼくも……君と同じ。君とは……二度と、会いたくない。だって……次にぼくが……君と顔を合わせる……というのは……つまり……」
神を自称する幼児は、最後の最後で。
「観測者に見捨てられた君達が……筆記者によって滅ぼされるという……ことだから」
あまりにも気になる発言を残して。
俺の目前から、消え失せた。
奴に対し何かを返したかったが……
それよりも前に、我が意識は闇色に染まりきったのだった。
………………
…………
……声が、聞こえる。
聞き慣れた、その声は。
「おい。おい、アード・メテオール。着いたぞ、起きろ」
我が姉貴分、オリヴィアのものであった。
彼女の声に加え、体の揺れを感じたことで、意識が覚醒。
ゆっくりと瞼を開けると……我が瞳に、馬車内部の様子が映った。
元の世界へ戻ったのだという実感が、こみ上げてくる。
いや……待てよ。
そもそもアレは、移動中に見たつまらぬ夢か何かだったのでは?
そう考えた矢先。
ふと横を見やったことで、その考えが否定されることになった。
「お~き~る~の~だ~わ~! 起きるのだわっ! まったくもう、二人ともぐっすりと眠りすぎよっ!」
シルフィーに起こされる、イリーナとジニー。
その頭には、リディアから贈られた髪飾りが、眩い光を放っていた。
それと、もう一つ。
「シルフィーさん。不躾な問いを投げてもよろしいでしょうか?」
「あによ!? アタシは今、二人を起こすのに忙しい――」
「胸部を肥大化するための体操、未だ続けてらっしゃるのですか?」
「はぁ!? そんなの当たり前だわっ! ……って、なんでアンタがそれ知ってんの!?」
ほんの僅か。まさに超微細の領域だが。
シルフィーの胸が、大きくなっている……ように見えなくもない。
「な、何よ! ジロジロ見てんじゃないのだわっ! この変態っ! で、でも、そんなに見たいって言うなら……と、特別に、見せてやっても……」
「あぁ、いえ。けっこうです。もう確認は終わりましたので。そもそも私は貴女の胸部にさしたる興味もございませんので、どうかご安心を」
「だわわっ!?」
なぜだかショックを受けたような顔をするシルフィー。
……なんだろうな。帰ってきたって感じだ。
やがて、イリーナやジニーも意識を覚醒させ、
「さぁ、早く降りろ。他の者達は既に移動を開始している」
やれやれといった調子で、オリヴィアが下車を促した。
それに従って、我々は馬車籠から降りて――
少し前に、歩き回った場所。
かつては王都と呼ばれし、古き都……
現代における、キングスグレイヴの土を踏むのだった。
「こういう意味でも、帰ってくるとは……」
独りごちた声は誰の耳にも入らず、虚空へと溶け消えた。
「なっつかしいのだわ! ここはあんま変わってないわねっ! 子分のジョニーがやってたお店はまだ残ってるかしら!?」
「おい、勝手に動くな。団体行動を守れ」
はしゃぐシルフィーと、それを諫めるオリヴィア。
二人がゆっくりと離れていく中……
「では、我々も参りましょうか」
俺はイリーナとジニーへ声をかける。
二人は明るい表情で頷く、が……
ふと、何かを思いだしたような顔となって。
「あ、そうだ。別れ際に、リディア様から伝言を頼まれたんだけど」
「……伝言、ですか」
「うん。えっとね――」
イリーナの口から、それが紡ぎ出される。
アイツによく似た彼女が語ると、まるで本人から直接言われたようで。
俺は、涙を堪えるのに、必死だった。
『ありがとな、色々と』
『オレのことは、まぁ、なんつ~か。忘れてくれって、言うべきなんだろうけどよ』
『悪ぃな。ダメだわ。お前に忘れられちまうなんて、寂しくて仕方ねぇや』
『だから、オレのこと、忘れないでくれ。でも……』
『後ろは振り向くなよ。難しいかもしんねぇけど、それでも、前向いて生きてくれ』
『何があっても。どんなことになっても』
『オレ達は、親友だ』
………………
…………まったく、あの馬鹿め。
いつまで俺の心を、かき乱すつもりだ。
「お~~~いっ! なにしてるのだわ~~~~! 置いてっちゃうわよ~~~~~!」
「はいはい! 今行くから待ってなさい!」
「無駄に元気ですねぇ。この時代のミス・シルフィーも」
イリーナもジニーも苦笑しながら、並び立つシルフィーとオリヴィアのもとへと向かう。
一方で……俺は、リディアの言葉を噛みしめていた。
「前を向いて生きろ、か。アイツらしいな」
思わず微笑が零れる。
が……
“貴様、は……再び、罪を犯したのだ……!”
“忘れるな……!”
“貴様は……もう一度、その手で、リディアを……殺したのだ……!”
ディザスター・ローグの呪詛が、蘇る。
……あぁ、そうだ。俺はまた、罪を犯した。
二度も、リディアを殺してしまった。
それは許されることじゃない。例え本人が許しても、俺自身が許さない。
しかし、それでも。
「お~~~~い、ア~~~ドォ~~~!」
「行きますよぉ~~~~~~~~!」
俺は、生きている。
生き続ける。
この世界で、彼女達と共に――