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第五二話 元・《魔王》様、前線にて――

 強い動揺を示す俺に、リディアが怪訝そうな顔で問うてくる。


「どうした?」


 ……その言葉は、場にいる者全員の総意であったらしい。彼女だけでなく、イリーナやジニー、この時代のシルフィーさえも、不思議なものを見るような目を向けている。

 動揺を悟られたか。

 常に泰然としている人間が唐突にそうなったら、確かに不審に思って当然だ。

 俺は一息、小さく呼吸して落ち着きを取り戻すと、普段通りの微笑を浮かべて見せた。


「……大物の名を聞かされ、さすがに緊張が走りました。しかし、もう大丈夫。今は内心、興奮と武者震いが止まりません」

「ふんっ! 今回の大手柄はアタシが貰うのだわっ!」


 腕を組んで荒々しく鼻息を吐くシルフィー。

 やる気十分といった彼女の頭を撫でながら、リディアも好戦的な笑みを作る。


「もうそろそろやべぇのが出てくるとは思ってたがよ……まっさか、いきなり《呪縛王》が来やがるたぁな。相手にとって不足はねぇや」


 闘志溢れるリディアを横目に、イリーナがちょこちょことこちらへやって来て、


「ね、ねぇ、アード……その、《呪縛王》っていうのは、どんな奴なの?」

「……魔導士に一から七までの格付けがあるように、《魔族》にも階級があることは、イリーナさんもご存じですね? 今回争うことになる相手は、彼等の階級上の最上級……《大魔境(アーク・デーモン)》に位置する存在です」

「ア、《大魔境(アーク・デーモン)》……!?」


 現代でもその階級に属する者は絶大な力を持ち、あの時代における大英雄たる我等の両親、《大魔導士》と《英雄男爵》の両名を追い詰めたことでも知られている。

 その戦力は一大地方殲滅級とされるが……それは現代の話。

 古代における《大魔境(アーク・デーモン)》の戦闘能力は、筆舌に尽くしがたい。

 中でもとりわけ、《呪縛王》・メヴィラスは強大な存在である、が……

 俺の記憶が確かなら、奴がリディア/ヴェーダ合同軍を相手取るのは、まだまだ先の話だったはず。おそらくこれは、《魔王》というイレギュラーの存在による影響だろう。

 奴の存在は間違いなく、歴史を歪めているのだ。


 しかしながら……

 これから自分がすることを思えば、俺とて《魔王》と同類になるのではなかろうか。

 俺はリディアの顔をジッと見つめながら、心の中で決意した。

 あの自称・神が文句を言ってくるやもしれぬが、知ったことか。


 今回ばかりは、歴史通りに進ませはせんぞ……!



 それから。

 敵方は既に進軍を開始しているとのことで、我々はすぐさま動くことになった。

 今回の作戦活動について、イリーナとジニーには参加を遠慮してもらう。

 もし万一、いや、そうは絶対にさせぬつもりだが……俺が知る歴史通りになってしまった場合、イリーナとジニーは確実に死ぬ。

 無論のこと、歴史通りに運ばせるつもりはない。だが、リスクはゼロではないのだ。


 ゆえに、あの二人は前線都市・エーテルに残らせることにした.


「わかったわ。あたし、アードの足を引っ張りたくないもの」

「右に同じです。頑張ってくださいね、アード君」


 両者共に納得した様子を見せていたが、内面では別の感情が渦を巻いていることだろう。

 イリーナは俺に追いつこうと必死になっているし、ジニーも劣等感を解消すべく、日々努力を積み重ねているのだ。

 そんな二人に、俺は遠回しだが、「役に立たないから来るな」と言ったのである。

 表向きは笑顔だが、内側では憤懣やるかたないのではなかろうか。

 ……さりとて、今の俺には彼女等を慮ってやるだけの余裕はない。

 この一件は、俺が抱える最大のトラウマに関連する事柄なのだから。



 さて、現在。

 俺はリディア、シルフィーの二人と共に、山中を静かに進行中である。

 時刻は昼と夕刻の狭間あたりだろうか。まだまだ日中だが、山林の只中は薄暗く、実際の時刻を感じさせない。

 うっそうと生い茂る緑の中を進む最中、シルフィーが退屈げに声を漏らした。


「今頃、皆は戦地で大暴れしてるのだわ。なのにアタシ達ときたら、誰かさんのせいでつまんない山登り……」

「今は面白くないでしょうが、どうか堪えてください。いずれ否応なしに刺激的な一時を過ごすことになりますので」


 この行動は、俺が提言したものである。

 元来の歴史通りであれば、リディアとシルフィーは今頃、共に戦場を駆け巡っているだろう。自軍の主要を務める面々と同じように。

 今回の戦はさしものリディアも楽観視できないのだろう。その証拠に、各地へ散らせていた自軍の主要格を全て呼び寄せ、万全の状態で臨んでいる。

 それが、自分達の壊滅を決定づける最大の要因となったことを知らずに。


「……それにしても、リディア様。此度は私のような若輩者の意見をお聞きくださり、まっこと感謝の念に尽きません」

「まぁ、そうだな。ぶっちゃけ賢しい奇襲戦法なんざ好みじゃねぇんだが……なんとなしに、お前の言うこと聞いといた方がいい気がしてなぁ」


 頭をボリボリと掻きつつ、下生えを踏み散らすリディア。

 こいつは馬鹿だが、勘は誰よりも鋭い。俺の提言を素直に聞き入れたのは、まさにそれが働いたからだろう。


 なんにせよ、僥倖であった。

 これでまず、最悪の状況になる確率は大きく減少したと思われる。


 ……史実において、リディア/ヴェーダ合同軍が《呪縛王》・メヴィラスの軍勢とぶつかった際、両者共に奇策の類いは一切用いなかったという。

 それどころか、まともな戦術さえ皆無の戦だったと伝え聞いた。

 リディア達はともかくとして……相手方、メヴィラスもまたそうした行動をとったのは、ひとえに奴が選民思想に取り憑かれていたからだ。


 奴は典型的な《魔族》至上主義者であり、人間をムシケラとして見下している。

 そんなムシケラ如きに知略など不要。全力を出すなどもってのほか。

 そうした傲慢さゆえ、奴はリディア達に追い込まれ……

 プライドよりも命を優先した結果、奴は切り札を出した。


 そう……《固有魔法(オリジナル)》である。


《呪縛王》の名は、奴が呪詛魔法を得意とすることによるもの。

 そんなメヴィラスが有する《固有魔法(オリジナル)》もまた、極めて強大な呪詛の力であった。

 そのおぞましき力は超広範囲に影響を与え……効力に呑まれた者は瞬く間に発狂。自軍同士で殺し合いを初めてしまった。


 結果として、合同軍は壊滅。

 リディアは自軍のほとんどを失ったうえ……軍創設時から同じ釜の飯を食ってきた仲間達をも失ってしまった。

 メヴィラスとの戦で、リディア軍はその主要を務めた七名の勇者のうち、五名が死亡。

 この結果、リディア軍は消滅の危機を迎えることになる。


 さらに……リディア自身も、シルフィーを庇う形で呪詛を受けてしまった。


 鋼の精神力と、肉体に流れる《邪神》の血が影響したか、どうにか発狂は免れ、その手でメヴィラスを討ち取ったのだが……

 以降、リディアは呪詛の後遺症に悩まされることになる。

 時折襲い来る激しい頭痛と、精神の錯乱症状。

 これは俺ですら癒やすことができぬものだった。

 そんな症状を抱えて戦い続けたことで、リディアは…………!


 ……もし、この戦で彼女が呪詛を受けていなかったら。

 ……もし、この戦で、彼女が大切な仲間達を失っていなかったら。


 あんな結末には、ならなかったかもしれない。

 リディアを殺さねばならぬような状況に、陥らなかったかもしれない。


 ……これは明らかな歴史改変だが、それを躊躇うつもりはない。

 そもそも、この時代に飛ばされた時点で、俺は頭に思い描いていたのだ。

 リディアが生存する、そんな未来を。

 そのためならなんだってしてやる。

 誰の邪魔も、許しはしない。

 そう――


「こちらが奇襲を予想しなかったとでも思ったかぁ!? この間抜け共――」


 目前に現れた小物達にさえ、容赦してやるつもりはなかった。


「《ストーム・ブレイド》」


 口にすると同時に、魔法が発動する。

 我が目前に現れた一〇の魔法陣。

 刹那、そこから膨大な竜巻が吹き荒れ、一直線に敵方へと突き進む。


「くぅっ!?」


 各々回避行動をとるが、無駄だ。超広範囲に高速で広がる風の刃から逃げることなど不可能。また、奴等の腕前では防御魔法を用いて防ぐことも不可能。

 ゆえに抵抗虚しく、敵方は周囲の草木同様ズタズタに斬り刻まれ、冥府へと旅だった。

 かような小物を討ち取るは、我が美学に反する。しかし……

 もはや美学など、どうだっていい。

 我が前に立ちはだかるなら、そのことごとくを殲滅しよう。

 リディアを死なせぬために動くこと。これ以上の最優先事項はない。


「……さぁ、先を急ぎましょう」


 粛然と口にする。

 どうやら無意識のうちに、本域の殺意と闘気を出していたらしい。

 それに当てられたか、シルフィーがやや怯えた様子でビクリと震えるが、


「ちょ、ちょっと活躍したからって、調子にのらないでちょうだいっ! 雑魚をいくら倒したって、なんの手柄にもならないのだわっ!」


 すぐさま、負けん気の強さを発露した。

 一方で、リディアは……


「随分と、やる気じゃねぇか」


 言葉だけを見れば、感心した様相をイメージする内容であろう。

 だが実際、リディアの顔にはなんの色もなかった。

 無表情で、澄んだ瞳を真っ直ぐに向けてくる。

 ……コイツのこの目が、昔は嫌いだった。

 俺の全てを見通しているかのようで、どうにも不愉快だったのだ。

 今もおそらく……奴は何かに気付いたのだろう。

 そのうえでリディアは、短く一言、こう述べた。


「つまんねぇことは、すんじゃねぇぞ」


 述べてすぐ、先導するように前へと歩き出す。

 彼女の背を見つめながら、俺は拳を握り締めた。

 ……つまらんことなど、するつもりはないさ。



 奇襲戦術を選択したのは、最初から最後までメヴィラスを慢心させたまま、状況を終結に導くためである。

 なにゆえ、傲慢を極めしメヴィラスが全力を出すに至ったか。

 それはあまりにも順調に、奴を追い詰めてしまったから。この一点に尽きる。


 史実において、リディア達は普段通りの正攻法、正面突撃を敢行し、これが見事に成功したがため……メヴィラスは《固有魔法(オリジナル)》の使用に踏み切ったのだ。

 それを防ぎつつ、敵の首級を挙げる方法として、俺は奇襲作戦を提案した。俺とリディア、そしてシルフィーの三名で敵陣を直接襲い、一気に片を付けるという方針である。


 無論のこと、敵方は我々の接近に気付いているだろう。

 そのうえで、メヴィラスは俺達を自陣へと引き入れるに違いない。


 現時点で、奴は慢心しきっているがゆえに。

 おそらく、少し挑発してやれば一騎打ちの相手さえするだろう。


 今、メヴィラスの頭には下等な猿共……要するに、我々を嬲り殺しにするという余興で頭が一杯になっているはずだ。

 その慢心と油断をついて、一瞬のうちに首を獲る。

 さすれば、俺とリディアに起きた最大の悲劇も、回避できる可能性が高まるだろう。


「……見えてきましたね、敵本陣が」


 山を下った先の、やや高低差が目立つ丘陵地帯にて。

 敵方はそこに、拠点を築いていた。


「簡易砦、にしては豪勢だな。メヴィラスの野郎の贅沢趣味が透けて見えるぜ」

「なんていうか、とことん気に食わないのだわ……!」


 両者共に貧民出身だからか、無駄な豪奢さを嫌う傾向にある。

 俺とて元は貧民ゆえ、二人の気持ちはよく理解できた。

 ……まぁ、そんなことはさておいて。


「では、仕掛けますよ。敵の力量などからして、隠匿の魔法は意味を成さないでしょう。真正面から侵入し、ただひたすら敵方を薙ぎ払い……大将首をもぎ取る。それだけです」

「ハッ。いいねぇ、わかりやすくて」

「腕が鳴るのだわっ!」


 両者共に、怯えなど皆無。目前の状況を楽しむ余裕さえ見える。

 士気は十分。力量も十分。

 我が勝利を阻む要素、一切なし。


「一番槍の栄誉はいただきますよ」

「いいや、オレが貰うぜッ!」

「例え姐さんでも、それは譲れないのだわっ!」


 声を掛け合いながら、敵本陣へと突撃を敢行する。

 簡易砦の門は開け放たれており、まるで我等を歓迎するかのような有様であった。

 そんな門構えを通過し、敵本陣真っ只中へと侵入する。

 瞬間。


「……妙、ですね」

「……あぁ。入ると同時に、派手な攻撃魔法でもぶっ放してやろうと思ってたんだが」

「……人気が、なさすぎるのだわ」


 意気軒昂とした精神が、侵入した途端、怪訝に支配された。

 俺としては、足を踏み入れたと同時に、魔法が雨あられと降り注ぐものと予想したのだが……実際は何も起きていない。

 それどころか、迎撃にやってくる者の気配さえ絶無である。


「奴等、一カ所でアタシ達を待ち伏せてるのかしら?」

「かもしれねぇ、が……なんだろうな、どうにも嫌な感じがするぜ」


 あまりにも静かな敵本陣の空気に、俺もリディアと同じく、冷や汗を流した。

 これは、なんだ?

 何か、想定外のことが起きている?

 ……なんにせよ、ここまで来たなら進むしかあるまい。


「とりあえず、中央を目指し移動しましょう」


 リディアとシルフィーが頷くのを確認してから、歩き出した。

 ……やはり、何かがおかしい。

 敵の気配があまりにもなさすぎる。これではまるで、もぬけの殻ではないか。

 よもや、無人?

 まさか、敵方がこちらに対して奇策を?

 さまざまな可能性が脳裏をよぎるが……いずれも、この状況に納得できるようなものではないように感じられた。


 そして。

 敵本陣の中央へと近づくにつれ、不可解さがさらに増していく。


「この匂い……」

「あぁ、嗅ぎ慣れすぎて、日常的になっちまった匂いだな」

「鉄錆びみたいな、気持ちの悪さ……これって……」


 そう、血の匂いだ。

 ……人気のない敵本陣。その中央に近づくにつれて強くなる、鮮血の気配。

 俺もまたリディア同様、嫌な感覚を味わいつつ、足を動かす。

 その末に――


 敵陣中央、おそらくは集会場として機能していたのであろう広場にて。


 その光景を目にした途端、俺もリディアもシルフィーも、瞠目せざるを得なかった。


 瞳にまず飛び込んでくるのは、ドス黒い紅。

 大地の土色を一面塗り替えているそれは……

 地面に転がる、おびただしい《魔族》達の死体であった。

 皆、原型を留めていない。いずれも無惨な末路を晒しており、その鮮血と臓物、肉片が周囲に山となって積まれている。


 そんな凄惨過ぎる現場の中心にて。

 今まさに、一人の男の首が、宙へと舞った。


 カイゼル髭が特徴的な、いかにも貴族然とした優男。

 奴こそが、我々の最大目標。

《呪縛王》・メヴィラスであった。


 されど、その首を両断した剣の持ち主は、我々のいずれでもない。

 それどころか……

 おそらく友軍でさえないだろう。


「少しだけ、遅かったな」


 腹に響くような重低音が放たれる。

 その発生源たる男へ、俺達は一様に鋭い視線を向けた。

 年齢、人種、面構え、全てが不明。奴はその全身を、漆黒の鎧で覆い尽くしていた。

 その禍々しきシルエットは、まるで奴の正体を表しているかのようで……


「貴方は、何者ですか?」


 あえて問うた内容に、黒き鎧の戦士は鼻を鳴らして笑う。


「当たりはついているのだろう? 貴様が連想した通りの存在で間違いはない。即ち――」


 刺々しい兜の向こうから、決定的な答えが放たれた。


「我は《魔王》。暴虐非道の怪物にして、世界の敵である」


 威風堂々とした佇まいに、俺は緊張感を強めた。

 この男、紛れもない強者だ。

 それも、我が記憶に刻まれし数多の好敵手達でさえ、比較にならぬほどの。

 ……久方ぶりに、血が騒いでくる。けれども、下手な突貫は禁物だ。

 油断なく相手方を睨みつつ、出方を伺う。

 と――


「ふぅん、てめぇが《魔王》かい。予想通り、随分と強ぇみたいだな」

「然り。貴様等が束になったとて敵うものではない」

「へぇ。言ってくれるじゃねぇか。オレは《勇者》で、てめぇは《魔王》だぜ?」

「現実は物語の通りにはならぬ。貴様の力量が、この《魔王》に通ずる道理はない」

「そいつぁ……試してみねぇとわかんねぇだろう?」


 刹那。

 リディアの全身から、凄絶な闘志が放たれた。

 並大抵の戦士であれば、その気迫だけで失神へと追い込まれていただろう。

 味方であるシルフィーでさえ、微動だにできなくなるほどの桁外れな覇気。

 されど、対面の《魔王》はそれを受けてなお、小揺るぎもしなかった。


「ハハッ! いいね、久しぶりに、全力の喧嘩ができそうだ!」


 牙を剥くように笑うと、リディアは愛剣たるヴァルト=ガリギュラスを手元へ召喚。

 その柄を右手で力強く握り締めると、


「《アルステラ(煌めけ魂)》《フォトブリス(我、聖なる光となって)》――《テネブリック(闇を打ち払わん)》ッッ!」


 超古代言語による詠唱が、大気を震撼させる。

 前後して、リディアの総身が眩いエネルギーの塊に覆われ……

 やがてそれが、白銀の輝きを放つ鎧へと変化した。

 完全なる本気状態。

 リディアは今、全身全霊をかけてことに臨もうとしている。

 そして、彼女が踏み込もうと足に力を込めた、その瞬間。


「まさしく猪武者であるな、貴様は。個人的には好ましく思うが……されど今、貴様の相手をしてやるつもりはない」

「……あぁん?」


 こちらの意気をひらりと躱すような言葉を放ってみせると、《魔王》は我々に背中を向けて、


「貴様等の頭領へ伝えるといい。狙いの土地は我がいただく。取り戻したくば力づくで奪い取れ、とな」

「……そいつぁ、オレ等に対する宣戦布告ってことかい?」


 リディアの問いかけを、《魔王》は鼻で笑った。


「宣戦布告など、とうの昔にしているだろうが。我は《魔王》。即ち、その存在そのものが、生きとし生けるもの全てに対する宣戦布告である」


 なぜだろう。奴の言葉はどこか、自嘲を孕んでいるように思えた。


「さらばだ、《勇者》達。そして……愚劣なる少年よ」


 一瞬、俺に対して怒気を放ったように感じられたが。

 結局、奴はこちらに一切の手出しをすることなく、転移魔法を発動。

 その姿を瞬く間に消失させた。

 三人、凄惨なる現場に取り残され、無言のまま時を過ごす。

 リディアが何を考えているのか。

 シルフィーが、何を考えているのか。

 おそらく、俺と同じだろう。

 皆、頭の中は一つの単語で埋め尽くされているに違いない。

 即ち――


「《魔王》……!」


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