表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

153/155

第一二六話 《邪神》との戦い ~前戦~


 来る。

 彼等が、やって来る。

 そうした予感を抱いたのは俺だけではなかったらしい。

「……さて。君とのティータイムもそろそろ終わりかな」

 紅茶を飲み干して、カップをテーブルに置く。

 その瞬間――


 漆黒の炎が奴を飲み込んだ。


 ――これは、アルヴァートの一撃だ。

 肉体だけでなく霊体さえも灼き尽くす闇色の獄炎。

 これに触れたなら存在そのものが焼失する。

 だが、それは相手が常人だった場合の話。

 敵方はメフィスト=ユー=フェゴール。たとえそれが絶対的な法則であろうとも、奴にとってはなんら関係がない。

「相も変わらず、挨拶の仕方が過激だねぇ」

 健在であった。

 メフィストは、憎たらしいほどに、健在であった。

 さりとて彼等の中に動揺を見せた者など皆無。

 ただ、こちらを真っ直ぐに捉えて。

 そのとき、皆を代表するように。

 イリーナが口を開いた。

「助けに来たわよ、アード」

 堂々たる宣言と凜々しい顔つき。

 俺は思わず目を細めていた。

 なんと凄烈な面構えであろうか。気負いや怯えなど微塵もなく、その胸中には断固たる意志と無限大の勇気だけがある。

 まるで往年のリディア……いや、ともすれば、彼女さえも超えているかもしれない。

 そんなイリーナに俺は、何事も返すことが出来なかった。

 我が身は今やメフィストの支配下にある。

 だから。

 救出に来てくれたことへの感謝も。

 真正面から挑みにかかるという無謀を止めることも。

 俺には、出来なかった。

「君の出番はもう少し後になる。それまでは傍観してなよ、ハニー」

 腰を上げ、立ち上がるメフィスト。そうして奴は皆の眼前へと歩み寄ると、

「力自慢のわんぱく坊やなら、君達を前にして昂揚感を抱くのだろうけど。僕はそういったタイプの人間じゃあない。むしろ暴力を用いた勝負というのは嫌いなんだ。野蛮だし、品性の欠片もないし、何より……この世界においては、自分の敗北が想像出来ないからね」

 結果がわかりきった遊戯ほどつまらぬものはないと、奴は言った。

 始まってさえいない段階での勝利宣言。

 挑発的なその言動を、イリーナは粛然とした顔のまま受け流し、一言。

「最後にもう一度だけ、言わせてもらうわ」

 そう前置いてから、彼女は次の言葉を口にした。

「……もう、やめましょうよ。こんなこと」

 真っ直ぐな眼差しは果たして、憎むべき悪魔を見据えるようなものではない。

 そこには相手方への慈しみがあった。

「ちょっと前、あんたは言ったわね。あたし達は共存出来ないって。そのときは確かに、想像も出来なかった。……正直に言えば、今でも無理じゃないかって、そう思ってる。でも……やりもせず諦めるなんて、あたしの主義じゃないわ」

 この優しさこそ、イリーナが有する魅力の一つであり、美徳であろう。

 相手が誰であろうとも寄り添う姿勢を見せ、手を差し伸べる。

 そんな彼女に俺は救われたのだ。

 アルヴァートやエルザードだってそうだろう。

 救いようのない者でさえ、地の底から引っ張り上げるような力がイリーナにはある。

 だが。

 此度の相手は。

 かの悪魔は。

 天使の手を取るような存在では、ない。

「感動したよイリーナちゃん。君という奴は本当に――――信じがたいほど、愚かだ」

 嗤う。

 向けられた慈愛を。差し出された手を。

 そうして、奴は。

「僕がこの世界から居なくなるか。あるいは君達がこの世界もろとも消え去るか。それ以外の結末はない。用意するつもりも、受け入れるつもりもない」

 どのような言葉も、どのような想いも、自分には無意味。

 そう断言して、メフィスト=ユー=フェゴールは、己が意を行動で以て示す。

「ご託の並べ合いも終わったことだし。そろそろ始めようか」

 右手を天空へとかざす。

 瞬間、その掌から鈍い煌めきが放たれ――周囲の空間が、創り変えられていく。

「まずは用意しよう。相応しいステージを」

 果たして、形成された舞台は奴の言葉通り、因縁の場所そのものであった。

 地平線の彼方まで続く荒野。

 天に鮮やかな蒼はなく、我等を照らす煌めきもまた、ドス黒い雲によって隠されている。

 ――滅亡の大地。ここはまさに、それだった。

 超古代において、メフィストを始めとした《外なる者達(アウター・ワン)》と《旧き神》とが世界の覇権を巡って争った場所。

 かつて俺とローグが衝突した土地。

 古代世界における、対メフィスト戦の最終舞台。

 そして……この俺が、親友(リディア)を手に掛けた現場でもある。

「これ以上に相応しいステージはないだろう? 何せここは、《魔王》、勇者、《邪神》、三つの存在が因縁を積み重ねてきた場所なのだから」

 滅亡の大地。

 その名の通り、ここでどちらがか滅ぶ。

 世界か。悪魔か。

 それを決めるための大戦を前にして、イリーナは。

「……わかった。あたしはもう、あんたを救わない」

 握り締めた聖剣を。かつてリディアが用いたそれを。

 メフィストへと突きつけながら、宣言する。

「あたしは、あんたを倒す。メフィスト=ユー=フェゴール。皆の未来を守るために……あんたには、居なくなってもらうわ」

 優しさを捨て、成すべきを成す。それは彼女に相応の痛みをもたらすものだが、しかし。

 イリーナ・オールハイドの瞳には、一点の曇りもない。

 皆を守る。皆を救う。不退転の覚悟に満ちたその心は、まさに勇者のそれであった。

 そして……そんな彼女の傍には、もう一人の《魔王》(ディザスター・ローグ)が立っている。

 肩を並べた両雄の姿を、悪魔は交互に見て。

「……真面目な暴力合戦なんて、僕の趣味じゃあない。でも、今回だけは特別だ」

 牙を剥くような笑み。この悪魔がそうした好戦的な顔を見せたのは、初のことだった。

 総身から放たれし圧力が莫大なオーラとなって発露する。

 その立ち姿は、まさに《邪神》のそれ。

 メフィスト=ユー=フェゴールは己が異名を体現しながら、最後の前口上を叩き付けた。


「さぁ、皆――――本気の殴り合いで、ケリを着けようじゃないか」


 最後の戦いが、開幕する。

 初手を取ったのは、メフィストであった。

「潰れろ」

 突き出した人差し指を、クイッと上へ向ける。

 その動作に応じて、皆の背後にある地盤が、めくれ上がった。

 轟然とした音を響かせながら天へと向かうそれは、まるで大山めいた様相を呈しており……次の瞬間、事前の言葉通りに、皆を押し潰すべく落下。

 一手目の段階から途轍もないスケールを見せ付けたメフィスト。

 だが、それに対し。

 我が仲間は誰一人として、怯まなかった。

「……合わせろ、シルフィー」

「合点承知ッ!」

 魔剣・エルミナージュを構えたオリヴィア。

 聖剣・デミス=アルギスを握るシルフィー。

 二人の剣士がそのとき、脚部にあらん限りの力を込めて――跳躍。

 虚空を引き裂くように飛び、山の如き地盤へと接近し、その末に。

「破ァッッ!」

「だわッッ!」

 気合一閃。両者の斬撃が真空波を生み、それが巨大な刃となって、地盤を粉砕する。

 木っ端微塵となったそれが、バラバラと地表へ降り注ぐ中。

 大地へと着地したオリヴィア、シルフィーの両名は、そのままの勢いで地面を蹴った。

「メフィスト=ユー=フェゴールッッ!」

「その命、貰い受けるのだわッッ!」

 剣聖、オリヴィア・ヴェル・ヴァイン。《激動》の勇者、シルフィー・メルヘヴン。

 神話に名を刻む戦士二人が揃い踏んで向かい来る様は、いかな敵方であろうとも、その心胆を寒からしめるようなものだったが……しかし今、相対するは、《邪神》である。

 奴は悠然とした微笑を保ったまま、瞳を冷ややかに細め、

「剣者の頂など既に踏み越えて久しく。だからこそ――この心を揺さぶることは、ない」

 それは普段見せる、ふざけた調子ではない。

 正真正銘、本来のメフィストが、そこに居た。

 総てを極め、それゆえに、総てを無価値と見下す。

 孤独な怪物は果たして次の瞬間、二振りの銀剣を召喚し、その柄を左右の手で握り――

「君達に教えてあげよう。剣術の極意を」

 踏み込む。

 接近するオリヴィアとシルフィーに対し、メフィストは真っ向勝負の構えを見せた。

 刹那、彼我の間合いはゼロとなり、互いが互いを刃圏へと捉え、そして。

「疾ィッ!」

「でりゃあッ!」

 先手を取ったのは、オリヴィアとシルフィーだった。

 息の合った連携。両雄の斬撃が敵方の肉体を斬り裂かんと突き進む。

 これにメフィストは、小さく息を吐いて。

「――――来迎(らいごう)、即ち制戦也(なり)

 二刀が(はし)る。

 見えたのは、その初動まで。

 いかなる(わざ)を用いたのか、我が目を以てしても視認出来なかった。

 気付いたときには、もう。

 二人が、斬られた後だった。

 オリヴィアは肩から脇腹にかけて、斜めに断たれ――

 シルフィーはその面を、横一文字に裂かれ――

 しかし。

「ぬ、おぉおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」

「しぃぃいいいいやぁあああああああああああッ!」

 この二人がただの一合で終わるわけもない。

 オリヴィアには数千年の積み重ねが。シルフィーには不世出の天性が備わっている。

 それらが致命傷を防いだのだろう。

 両者共に意気軒昂とした姿を見せ、気迫と共に攻勢を展開する。

 目で追えぬほどの剣舞。

 二人のそれは芸術のように美しく、そして何より、恐ろしいものだった。

 しかし、それでもなお。

 奴は、小揺るぎもしていなかった。

「オリヴィア・ヴェル・ヴァイン。シルフィー・メルヘヴン。君達は――」

 飛び交う刃を最小限の動作で躱しながら。

 奴は言葉で以て、二人のことを斬り捨てた。

「――両者共に、未熟」

 甲高い音が鳴り響くと同時に、天へと舞う二振りの刃。

 魔剣・エルミナージュ。

 聖剣・デミス=アルギス。

 それらが二人の手元から、離れている。

 巻き上げられたのだ。

 それが意味するところは、つまり。

「剣術の極意を教えると言ったけれど、それは撤回しよう。……赤子に何かをしたところで、伝わるはずもないのだから」

 あまりにも差がありすぎる。

 神話に謳われし大剣豪二人。

 されどメフィストにとって彼女等の剣技は、児戯にも劣るものだった。

 斬られる。

 二人はそのように予感したのだろう。両者の蒼白な顔面に諦観が宿った。

 されど第三者としての立ち位置で状況を見る俺の目には、別の未来が映っていた。

 メフィストの二刀が二人を両断する、直前、

「《《空白埋めし殉教者(クローバー・フィールド)》》……!」

「《《無貌へと至りし者の真実(ブラックミラー・バンダースナッチ)》》ッッ!」

 オリヴィア、シルフィー、両名による攻勢の最中、彼等は《固有魔法(オリジナル)》の詠唱を行い、そのときに備えていた。

 そして今、ライザー・ベルフェニックス並びにアルヴァート・エグゼクス、両名もまた闘争の輪へと加わり――

 ライザーが身の丈ほどもある巨大なメイスを。

 アルヴァートが漆黒の獄炎剣(ごくえんけん)を。

 目前の悪魔へと繰り出した。

 そのタイミングはまさに完璧の一言。

 メフィストは現在、二刀の動作途中であり、襲来した新手に意識が向いていない。

 これは確実に命中する。

 ――と、誰もが確信していたがために。

 次の瞬間、訪れた現実を、すぐに受け止めることは出来なかった。

空拳(くうけん)極めし者、万戦(ばんせん)の覇者也」

 柄を握り締めていた手を緩ませ、二刀を手放す。オリヴィアとシルフィーの胴を横薙ぎにせんとしていた動作はそのとき、流麗なる旋転へと変じ――

 撫で付けるような柔らかい所作で以て、向かい来る得物達の軌道を変えた。

「ッッ……!?」

 目を見開くライザーとアルヴァート。

 オリヴィアやシルフィーの顔にもまた動揺の色が浮かぶ。

 その数瞬後――――強烈な打撃が四人の肉体を打った。

 流転による運動エネルギーを十全に宿した、見事に過ぎる連続技。

 もしこれがただの力比べであったなら思わず拍手を送っていただろう。

 それほどに、メフィストの打撃は美しいものだった。

「がッ……!」

 小さな悲鳴を上げながら、四人がそれぞれ別方向へと飛散する。

 全身に走った衝撃が臓腑のことごとくを破裂させ、肉を裂き、骨を断つ。

 宙を舞った四名は受け身を取ることさえ出来ず、地面を転がり回った。

 常人であれば再起不能の重傷。なれど古代の戦士達からすればまだ、軽傷の範疇。

 さりとて戦闘行動の再開には少なくとも二秒の時を要する。

 ――それだけあれば、十分だった。

 メフィストが四人を消し去るのに、十分な時間だった。

詰手前(チェック)

 冷然とした殺気が迸る。

 宣言通り、これは真剣な殴り合いなのだと、場に立つ者全てに示すかのごとく。

 そして奴が動作し、四人の命を――

「させるものですかッッ!」

 ジニーの口から放たれた、砲声めいた叫び。

 その直後、彼女が構えていた紅き槍の穂先から稲光が走った。

 直撃。

 だが、それは不意撃ちの成功を意味するものではない。

 無視されたのだ。

 眼中に入ってさえ、いなかったのだ。

 メフィストにとってジニーは、靴に集るアリに過ぎなかった。

「君のそれは飯事(ままごと)にさえなってない」

 矛先がジニーへと向けられた、そのとき。

 天空にて彼女が吼えた。

「消し飛べッッ! 《エルダー・ブレス》ッッ!」

 エルザードによる大技。

 曇天から地表へと、次の瞬間、蒼き光柱が伸びた。

 それは瞬く間にメフィストを飲み込み、大地を穿つ。

 凄まじい衝撃波が周囲一帯へと広がり、鼓膜が破れんばかりの轟音が鳴り響く中。

「竜族の魔法は実に強力だ。《魔族》や人が扱うそれなど比にならない」

 声が聞こえた。

 悪魔のそれが、まるで狂騒を斬り裂くように。

「竜の王と呼ばれるだけあって、なかなかの力量を有しているようだけど……僕に魔法戦を挑んだのは愚かな選択と言わざるを得ない。たとえ竜の頂点といえども、この分野で僕と競うのはナンセンスだ」

 秒を刻む毎に、奴を飲んだ光柱の威が高まっていく。

 だが、それでも。

「――――魔導の祖たる者が誰か、思い出させてあげよう」

 霧散。

 メフィストが言葉を紡ぎ終わると同時に、エルザードの大技が消し飛んだ。

 超高熱の只中にて放たれた悪魔の一撃。

 指先から伸びる細い光線が、尋常ならざる威を周囲に放つことで、エルザードのそれを掻き消してしまったのだ。

「――――ッッ!?」

 そんな馬鹿な、と言わんばかりに、大きく目を見開く狂龍王。

 半人半竜の姿となっていた彼女は、その翼を撃ち抜かれ……撃墜。

 そこに立っていたジニーに受け止められたことで、地面への衝突は避けられた。

「……ご加勢、感謝いたしますわ」

「……別に君を守ったわけじゃない。勘違いすんな」

 複雑げな顔をしたジニーと、そっぽを向くエルザード。

 彼女等の行動はメフィストに対しなんの損傷も与えることはなかったが……

 しかし、二人が動かねば、オリヴィア達はやられていただろう。彼女等は今、イリーナとローグの手によって治療され、万全の状態で戦線へと復帰している。

「仕切り直しといったところかな」

 敵方四名を一挙に討ち取るという好機が崩れ去ってもなお、メフィストの顔に苛立ちや焦燥など皆無。

 奴にとって勝利とは、花を手折るが如きもの。

 ゆえに目先のそれを逃がそうとも、なんら問題はないと考えているのだろう。

 あくまでも悠然と構える《邪神》。

 その姿を睨み据えながら、ライザーがローグへと問うた。

「……先程の一合にて、其処許は何を見た?」

 ローグは険しい表情となりながら、

「我が策を成すには、手が一つ足りぬ」

 悲観的な言葉を吐いて、額から汗を流す。

 追い込まれていた。

 見た目以上に、彼等は追い込まれていた。

 ……歯痒い。

 仲間の危機を前にして、俺はいったい何をしているのだ。

 早く枷を解いて、皆に助力せねば。

 そう思う一方で。

『あぁ、その通りだよハニー。ただ加勢しただけじゃあ、どうにもならないさ』

 脳内に奴の声が響く。

『君は僕のことを誰よりも理解してる。だからこそ、わかるはずだ。今回の一件を収束へ導くために、何が必要なのか』

 奴の言葉は二者択一の強要、そのものだった。

『そのときは確実にやってくる。それまでに決めておかなかったなら……君達の結末は、バッドエンドにしかならないぜ?』

 悪魔の声が、我が胸中に苦悩をもたらす。

 ……わかっている。すべきことはもう、ハッキリしているのだ。

 おそらくローグが打たんとしている手立ては、それを肯定するものであろう。

『とはいえ』

『真剣に殴り合うという言葉に偽りはない』

『真打ちを務めるのが君であることは確定しているけれど』

『その過程において何が起きるのか。いかなる手段で僕を出し抜くか』

『それはわからない』

『ともすれば……望まぬ結末が訪れるかもしれないねぇ』

 最後の一声が、危機感を煽ってくる。

 早急に決断せよ、と。

 さもなくば。

『一人ぐらい、消してしまった方がいいかな?』

 動く。

 メフィストが、これまでずっと、そうしてきたように。

 俺からまた一つ、奪うため。

 仲間達へと――

 踏み出す直前。

 奴のすぐ傍。虚空の只中に、亀裂が走った。

 次の瞬間、ガラスが砕けたような音が響き、そこから何かが飛来する。


 ――巨大な、握り(ライス・ボール)であった。


 成人男性の体躯よりも巨大な、白米の集積体。

 それが空間の裂け目より飛来し、メフィストを襲う。

 さまざまな意味で想定外だったか。奴は驚いたように目を瞠って、微動だに出来ず。

 直撃。

 メフィストの華奢な体が放物線を描き、遠方へと飛んでいく。

 その先で。

「わ~~~い、しじみだぁ~~~」

 地面から巨大な半裸の中年男性が飛び出し……アッパーカット。

 奴を天高くへと突き上げた。

 曇天のすぐ真下。

 そこで、さらに。

「モノクロォォォォォム」

 猫の首を持つ、巨大な怪鳥が、メフィストに頭突きを叩き込んだ。

 そして落下……した先で。

「ボォォォォルは友達ィィィィィィィィ!」

 半魚人が奴の頭を蹴っ飛ばし、再びその矮躯を宙へと舞わせ――ゴミ箱へとゴールイン。

 同時に、大爆発。

「…………なんだコレ」

 エルザードの口から疑問符が放たれた、そのとき。

「シュール・ギャグってやつだよ、エルザードちゃん」

 最初に創り出された亀裂から、声が飛んできた。

 続いて、何者かが姿を現す。

 二叉状(ツインテール)の金髪。小柄な体躯。幼児じみた顔立ち。

 不敵な笑みに歪んだ、口元。

 それは紛れもなく。

「ヴェーダ様っ!?」

 目を瞠りながら、ジニーが彼女の名を呼んだ。

 それに応えるかの如く。

 ヴェーダ・アル・ハザードは叫ぶ。

「天ッ才、学者神のぉおおおおおおおおッ! 復☆活どぅああああああああああああッ!」

 絶叫に合わせて、彼女は己が異能を発動したのだろう。

 世界が組み変わっていく。

 滅亡の大地が、華やぐ楽園へと変わっていく。

 一面に広がる花畑。舞い飛ぶ蝶。さえずる小鳥達。先刻見せた混沌の極みなどない、まっとうな美景はきっと、親に対するヴェーダなりの手向けであろう。

 最後の光景はせめて美しく。そんな想いを前にして、メフィストは穏やかに微笑し、

「どうやら吹っ切れたみたいだね、愛弟子」

 奴が見据える先で、ヴェーダが仲間達のもとへ合流する。

「……よくぞ戻ってきた」

「心配かけちゃってごめんね、オリヴィアちゃん! でも、もう大丈夫だから!」

「はぁ。僕としては落ち込んだままの方がよかったんだけどな。普段の君と違って鬱陶しくないし」

「げひゃひゃひゃひゃひゃ! そんなこと言って、実は嬉しいくせに~! アル君ってばほんっとに素直じゃないよねぇ~!」

「ともあれ。其処許が参じたことで、形勢は大きく傾いたと言えよう」

「まっかせてよ、ライザー君! これまで塞ぎ込んでた分、暴れまくっちゃうからさ!」

 四天王、揃い踏み。その姿にイリーナは昂揚を覚えたか、聖剣を握る手に力が篭もる。

 だが、ローグはそれを諫めるように、彼女の肩へと手を置いて、

「逸るな。お前の出番は次の段階へと移ってからだ」

「……うん、そうね。それまで、力を温存、しないとね」

 滾る心を必死に抑え込むイリーナ。その横で、ローグが皆に指示を出す。

「四天王の面々は各自、好き勝手に動け」

「……了解した」

「平常通り、とはいえ」

「少しばかりは、過去との違いを出せるかな」

「皆、成長したもんねぇ、色々と」

 四人の言葉に頷きを返しながら、ローグは言葉を続けていく。

「エルザード、ジニー、そしてシルフィー。お前達は後方にて遊撃と援護だ」

「チッ、偉そうに指図してんじゃねぇよ」

「はぁ。もう少しばかり、素直さを身に付けたらいかがです? ミス・エルザード」

「空気を読むのだわ、空気を」

「「いや、それは貴女(君)が言えたことじゃないでしょ」」

「だわわっ!?」

 そして最後に。

「イリーナはここで待機せよ。……俺が奴のもとへ到達するまでは、な」

 融合による強化。それが奴の策を支える大柱であろう。

 その道のりを塞ぐように。

 メフィストは、俺と皆の間を結ぶ直線上に立ちながら、両腕を広げてみせた。

「かかってくるがいいよ、四天王の諸君」

 瞬間――――躍動する。

 ローグが走った。メフィストを避け、半円を描くような迂回ルートを行く。

 当然、その進行を奴が許すはずもない。

 なにがしかの手を打たんと、ローグの姿を目で追った、そのとき。

「其処許の視線、こちらに釘付けてくれよう」

 ライザーの口から放たれた、鋭い一声。

 そのとき、メフィストが弾かれたように側面へと跳んだ。

 奴が何を警戒し、そのような行動を取ったのか。

 それは、一匹の蝶であった。

 無論、ただの虫ケラではない。ライザーの異能によって強化されている。

 その飛翔速度は戦場を飛び交う矢のように疾く……しかし、何よりも恐ろしいのは、その身に秘められし力。

 増殖である。

 メフィストを狙い、その末に空転した蝶は一羽の鳥へと衝突。

 その途端、鳥もまた蝶と同じく、瞳を青々と煌めかせ始めた。

「つい先刻まで、この場には我輩の手駒となる存在がどこにもなかった。されど今は」

「ワタシがバンバン創っちゃうよぉ~~~~~ん!」

 黒穴が開く。

 それは一〇〇や二〇〇ではなかった。

 数えきれぬほどの穴から、そのとき、怪物の群れが一斉に飛び出てくる。

 ライザーは手近な一体をメイスで打ち、異能を発動。

 強化された怪物が別の個体に触れた途端、その対象もまた異能の影響下へと置かれ――

 尽き果てぬ妨害能力者達の群れが、完成した。

「……やっぱり相性抜群だねぇ、君達は」

 メフィストの顔に僅かばかりの緊張が浮かぶと同時に。

 殺到。

 怪物の群れが。蝶が。鳥が。存在の大小を問わず、次々とメフィストへ向かっていく。

 触れられたなら、《邪神》といえども動作を停止させてしまう、絶大な妨害能力を秘めた軍勢。これに対しメフィストは真っ向から打って出た。

「膨大な敵を圧倒的な力で以て殲滅する。その作業は退屈ではあるけれど、ストレスの解消にはなるかな」

 最接近した怪物達を一瞬にして斬り刻み、遠方に立つ者は遠隔起動の魔法を用いて消し飛ばす。

 生半可な物量では、この悪魔を止められない。

 そうだからこそ。奴の足がその場で止まっているという事実が、ライザー、ヴェーダ、両名による連携技の凄まじさを物語っていた。

「二人のハニーが合流するまで残り一五秒ってところか。さてさて、どうしようかな」

 あのメフィストが、自らの意を通せずにいる。

 消しても消しても尽きぬ青眼の軍勢。

 これをいかに突破するか、奴が思索を巡らせようとした、そのとき。

「その脳髄」

「働く前に、灼き斬ってやる」

 蒼い瞳の怪物達に紛れて、背後より、オリヴィアとアルヴァートが急襲。

 互いに必殺の刃を携え、メフィストの背中へと迫った。

「なるほど。息つく間もないとは、このことか」

 閃く斬撃。

 両者のそれは、バラバラな攻撃の集積……ではない。

 連携である。

 攻撃後、オリヴィアの身に生じた僅かな隙をカバーする形で、アルヴァートが動く。

 逆に、アルヴァートの隙をカバーする形で、オリヴィアが動く。

 実に見事な形で、二人は息の合った攻勢を組み立てていた。

「……これは、想定外だなぁ」

 先刻、シルフィーとオリヴィアを剣術で以て圧倒したメフィストだが、今は防戦一方となっていた。

 それも無理からぬことだ。

 あの四天王が手を取り合うような姿勢を見せているのだから。

 メフィストにとっても、そして俺にとっても、信じがたい光景であった。

 古代における最終決戦でさえ、この四人は気ままに動き続け、最後の最後まで連携を見せるようなことはしなかったのだ。

 ゆえに彼等は歴代でもっとも屈強な四天王であると同時に、もっとも協調性が欠けた四天王であると、そのように決めつけていた。

 オリヴィア、ヴェーダ、ライザー、アルヴァート。

 この四人が協同することなど、決してありえないと、そう思っていた。

『貴様等にとっては意外だろうが。俺からしてみれば、なんら驚くことではない』

 脳内にて、ローグの思念が響く。奴はこちらへと駆けながら、その思いをぶつけてきた。

『成長。変化。躍進』

『誰もが時と共に、前へと進んでいくものだ』

『俺達の存在があろうと、なかろうと、皆その足を止めることはない』

 そして奴は言った。

『心に刻め、アード・メテオール』

『彼等にはもはや、保護者など不要であると』

 ローグとの距離が縮まっていく。それでもまだ、メフィストは奴に手出し出来ずにいた。

「アタシ達もッ!」

「忘れてもらっちゃ困るな、っと!」

 シルフィーとエルザードが、抜群のタイミングで横やりを入れる。

 彼女等の遊撃がメフィストから好機を奪い、形勢の逆転を許さない。

「うん。これは。あぁ。そうか」

 状況に対応するだけで精一杯。メフィストは完全に、抑え込まれていた。

 このまま進めば、全てが俺とローグの思惑通りに――

「堪能させてもらったよ。君達の力を。可能性を。そして、成長を」

 刹那、天使の美貌に、穏やかな微笑が浮かぶ。

「このまま何もしなかったなら、膠着した状況を変えることは出来ない」

 悲観的な言葉とは裏腹に、その唇は悠然と笑んだまま、

「君達がここまで出来るとは思ってなかった。実に素晴らしい。その成長ぶりは、僕の考えを大きく上回るものだ。皮肉でもなんでもなく、本当に感動しているよ。だから――君達に、敬意を払うことにしよう」

 言い終わるや否や。

 奴の全身から放たれていた圧力が、さらなる高まりを見せ、そして。


「――今までの力は、六%(、、)。ここからは、二〇%(、、、)だ」


 あまりにも。

 あまりにも、残酷な現実を、言葉で以て叩き付けてから。

 奴は、悪夢を創り出した。

 六%から二〇%への引き上げ。

 その宣言通り、メフィストの戦力は三倍の状態へと跳ね上がったのだろう。

 気付いた頃には、全てが終わっていた。

 それは本当に、一瞬の出来事で。

 だから。

 いかなる経緯で以て、皆が地面に倒れ伏したのか、まったく理解出来なかった。

 時間が消し飛ばされ、結果だけが残ったような状況。

 周囲を埋め尽くしていた無限の軍勢も、何処かへと消え失せて。

 場に立っているのは、もはや五人のみ。

 俺、メフィスト、ローグ、イリーナ、そして――

 ジニー。

 彼女だけは、見逃されていた。

 慈悲によるものではない。メフィストはジニーに対し、なんの関心も抱いていなかったのだ。ゆえに敵として認識しておらず、ともすれば、存在を忘れていてもおかしくはない。

 それを証するように、メフィストは彼女を一瞥すらせず、ローグへと目をやって。

「さぁ、次はどんな手を打つのかな?」

 プレゼントを期待する幼子のような目。これをローグは鼻で笑いながら。

「次手など打たずとも、この疾走が止まることはない。メフィスト=ユー=フェゴール。我が友を侮ったその時点で、貴様の敗北は決定したのだ」

 メフィストには理解が及ばぬ言動であったのだろう。奴が首を傾げる一方で、俺は……ローグの意図を知りつつも、信じ切るというところまでは、いかなかった。

 それを否定するかのように。

「舐めないで、くださいましッ……!」

 紅き稲妻が虚空の只中を奔り、メフィストの体を貫いた。

 されど《邪神》の総身にダメージの気配はない。

 それでも、ジニーは諦めることなく、雷撃を放ち続けた。

「……わからないなぁ、ハニーの考えが」

 依然として、メフィストは彼女のことを一瞥もせず、

「虫の羽音を聞かせて気を引くって作戦かな? ……確かにそれは不快だけれど」

 指をパチリと鳴らすと同時に、ジニーの紅槍(こうそう)が流砂となって消えた。

「これでもう何も出来やしない。所詮、場違いな子供でしかないのだから」

 言いつつ、こちらへと接近するローグへと掌を向けて、攻撃を――

「こ、のぉッ!」

 魔法による火球が一直線に飛翔し、メフィストを襲う。

 だが、これもまた、なんの効果もなく……

 それでもなおジニーの心は折れなかった。

 属性魔法を次々と撃ち込んで、敵の行動を阻害せんとする。

 されど彼女の行動は、気を引くためのものではない。

 ジニーは本気で立ち向かっているのだ。

 ジニーは本気で、メフィストを倒そうとしているのだ。

 その気概に奴は何を思ったのか。肩を竦め、深々と嘆息し――

「涓滴岩を穿つ。このことわざは努力を肯定する際にしばしば使われるもので、ポジティブな意味合いとして受け止められるものだけれど……僕の考えは違う。涓滴岩を穿つとは、努力の虚しさを説いたものだと、僕はそのように捉えている」

 やはりメフィストは見向きもせず、淡々と言葉を紡ぎ続けた。

「確かに、時間を掛ければ水滴が岩を穿つこともあるだろう。でもね、岩より硬度が高いものはどうしようもない。たとえ幾千、幾万の月日を重ねようとも、その対象が鋼だったなら、それはまさに骨折り損というものだよ」

 再び指を鳴らす。

 途端、ジニーの体から幾筋の白光が放たれた。

「魔力の回路を断たせてもらったよ。これでもう、君は魔法が使えない体になったというわけだ」

 鬱陶しい羽虫を手で払うようにして、ジニーを完全な戦力外へと追い込んでから。

 今一度ローグを――

「まだまだぁッ!」

 大地を蹴る。魔法が使えずとも、まだ二つの拳が残っているのだと言わんばかりに。

 その力強い歩調には諦観の情など微塵もなかった。

「……諦めの悪い子は嫌いじゃあないのだけど。でも今はそういうの、要らないかな」

 三度、指を鳴らすメフィスト。

 風の刃で以て、奴はジニーの足首を切った。

 瞬間、彼女が地面へと倒れ込む。

「う、あっ……!」

 漏れ出た苦悶を決着の合図としたか。メフィストは完全に、ジニーの存在を――

「舐めるなと、言ったでしょう、がッッ!」

 気合でどうにかなるものではない。

 根性で出来るようなものではない。

 だが、しかし。

 ジニーはやってみせた。

 地面に手を突き、力を込め……弾く。

 それは、二本の腕による跳躍であった。

 果たしてジニーは宙空を征き、その末に。

「うぉあああああああああああああああああああああッッ!」

 燃ゆる魂が絶叫を生む。

 ここに至り、メフィストはようやっと彼女を見て。

「……この一撃は、謝罪の証として貰っておこう」

 数瞬後。

 悪魔の美貌に、ジニーの拳がめり込んだ。

 全身全霊。乾坤一擲。 

 それを受けて、メフィストの華奢な体が宙を舞い、錐揉み回転の末に地面へと衝突。

 ジニーもまた立ってはいられず、両膝を土で汚し……

「意地ってものが、ありますのよ。女の子にも、ね」

 ざまぁみろと笑う。その姿に俺は、目を細めて一言。

「……成長されましたね、ジニーさん」

 初めて出会ったときのことを思い出す。

 あの卑屈な少女が。弱々しかった保護対象が。

 今やメフィストの意を阻むような、一角の戦士となった。

 その事実はまさに。

「そう。貴様もまた、彼女のことを侮っていたのだ。アード・メテオール」

 すぐ傍で。我が目前で。

 もう一人の俺が言った。

 地面に頽れた友を、誇らしげに見つめながら。

「彼女の姿に希望を抱かなかったなら。彼女の姿に可能性を感じなかったなら。それこそ、友人失格というものだろう」

 俺は首肯を返した。

「……貴様の言葉こそが、正しかったのだろうな」

 ローグを残し、俺だけがメフィストと共に消える。

 それが最善策と考えていた。愛ゆえの憂慮が、そうした結論へと俺を導いたのだ。

 皆を守らねばならない。皆を保護せねばならない。

 その想いは友愛であると同時に……ローグの言う通り、仲間への侮辱であった。

「己が愚にもっと早く気付いていたなら、このような回り道をせずに済んだものを」

「恥じることはない。俺とて気付くのに長い年月を要したのだからな」

 ジニーから目を離し……俺達は、向き合った。

「もはや迷いはない」

「仲間達の背を、未来へと押し出すために」

「己が全てを」

「燃やし尽くす」

 俺は。

 ローグは。

 拳を、突き合わせた。

 そうすることで互いの指輪が結合し――


 二人の元・《魔王》が、統合を果たす。


 俺達は煌めく粒子となり、溶け合うように絡まって、一つの存在へと昇華された。

 もはや村人ではない。魂がその器を、再構築したのだ。

 そう……今の俺は、アード・メテオールではなく。

 古代世界の《魔王》・ヴァルヴァトスだった。

「あぁ、戻ってきたんだね、ハニー」

 倒れ込んでいたメフィストが起き上がり、そして。

「けれど。まだ確信には至ってない。君が真の形を取り戻したかどうか。それを試すには」

 掌を向ける。

 横たわった、ジニーへと。

「さぁ、僕に君の力を――」

 奴の言葉は、最後まで紡がれぬまま終わった。

 ジニーと同じように、俺が、メフィストを殴り飛ばしたのだ。

 目前へと移った我が身に、奴は反応出来なかった。

 ただ笑みを浮かべて、受け入れる。

 そんな憎らしい貌を全力で殴打し、遙か彼方に突き飛ばしてから。

 俺はジニーの傍へと歩み寄った。

「……ご勇姿、拝見させていただきましたよ」

 声もまた、アードのそれではない。

 もはや完全に別人。だがそれでも。

 ジニーは普段とまったく変わらぬ目で、俺を見て。

「あぁ……やっぱり、アード君は……私の……」

 ここで、限界を受け入れたのだろう。

 ジニーは意識を手放した。後のことを、己が親友に託して。

「……ちょっとだけ悩んでることがあるんだけど」

 そのとき。

 傍へと歩み寄っていたイリーナが、問いを投げてきた。

「どっちの名前で呼ぶべきかしら? 個人的にはアードのままがいいんだけど、本名で呼んでほしいって言うのなら、そっちの方に合わせるわ」

 今の俺に驚きもせず。畏れることも、せず。

 ただただ受け入れてくれているイリーナに、俺は感謝の気持ちを抱きながら。

「貴女のご随意に。今の私はアード・メテオールではありませんが、しかし……それでも貴女のお友達であることに、変わりはないのだから」

 笑みを返してくるイリーナに、俺もまた微笑を浮かべてみせた。

 そして――

「ほんっとうに仲がいいよねぇぇぇぇ、君達は」

 いつの間にか近くへと戻ってきた悪魔を、二人並んで見据えながら。

「行くわよ、アード」

 隣から伝わってくる気配は、親友のそれだった。

 二人の親友の、それだった。

 イリーナ、そして……リディア。

 過去と今の交錯が、我が心を奮わせる。

「えぇ。参りましょう、イリーナさん」

 滾る想いを胸に秘めながら、俺は臨む。


 正真正銘、最後の戦いへと――



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ