表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

118/155

第九九話 元・《魔王》様と、愛の結末


 ――求むるものを得られぬまま死んだ方が、ずっとマシだった。


 蒼き天空にて。

 世界を見下ろしながら、絶大な力を放つ異形の怪物。

 その圧倒的な暴力はまるで、彼の慟哭を表しているかのようだった。


 憤怒。落胆。悲哀。苦悶。


 己が心の空白を埋めていた、大切な何か。それはもはや永遠に失われ、そうだからこそ、ライザー・ベルフェニックスは激しく悶え苦しんでいる。


 一度それを得て、満ち足るを知った。

 一度それを失って、欠落の苦しみを知った。


 だからこそ。

 もう二度と失いたくないと、そう思っていたのに。


「仕方がないよ。永遠に続く想いなんて、ありえないのだから」


 己の中に響く、悪魔の声。

 以前は酷く不快だったそれが今は実に心地よく、しっくりと馴染んでいた。


「人間がもっとも多く口にする言葉は何か、知ってるかい?」

「それは、殺意と愛情だ」

「いずれも同等に強い感情で、同等に冷め難く……けれどいつか、絶対に消えてしまう」

「殺してやると永遠に叫び続けることは出来ない」

「愛してると永遠に囁き続けることは出来ない」

「いずれの感情も、ふとした切っ掛けで容易く消え失せて……心に穴を開けてしまう」

「とりわけ、愛を失った時の喪失感と来たら」

「こんな感情を作った神様を呪ってやりたくなるぐらい、酷いもんだ」


 悪魔の声には、強い実感が込もっていた。

 きっとこの男もまた愛を知り、そして、失ったのだろう。


 ――自分と同じように。


「苦しいよね。悲しいよね。がっかりだよね。そして何より――憎らしいよね」

「全部、この世界が悪いんだ」

「ライザー君。君にはその苦しみを晴らす権利がある」

「さぁ――何もかも壊してしまおう」

「そうすることでしか、君の心は癒やされない」

「全てを無に帰し、自分の心さえも無へと変えて、ようやく」

「君は、救いを得るんだ」


 悪魔の言葉通り、ライザーは虚無の中に救済を求めた。

 ゆえに、全てを滅ぼす。

 この絶対的な暴力で以て、何もかもを破壊するのだ。


「来タレ、来タレ、滅ビヨ来タレ。来タレ、来タレ、救イヨ来タレ」


 背面から伸びる六本の腕が絶えず蠢き、無数の光線が地表を灼いていく。

 その最中。


「やめよ、ライザーッ!」


 何者かの叫びが、天空に轟いた。

 そして次の瞬間。

 鎖の束が虚空を走り、巨人を拘束せんと迫ってくる。

 これを危険を感じ取ったライザーは、転移によって殺到する鎖を回避。

 そうしてから、飛翔する敵方の姿を捉えた。


 アード・メテオール。


 だがその姿は、村人としてのそれではない。


 勇魔合身、第三形態。


 その姿はかつての《魔王》、そのもの。


 華奢な体を覆う漆黒の装束。

 腰まで伸びた艶やかな銀髪。

 この世全ての美を集めたかのような、絶世の美貌。

 右手に黒剣を握り、天鎖を巻き付け。

 左手に覇剣を握り、鏡盾を備える。


 その姿を視認した瞬間。

 無差別だった光線の軌道に、指向性が生じた。

 無数の熱源、全てが敵へと向かう。

 憎らしい敵方を、討ち滅ぼすために。


「君と彼は似た者同士だ」

「君も彼も、心のどこかが欠落していて、それを埋めるために藻掻いていた」

「でも……」

「君と彼は似た者同士である反面、辿った過程と、現在の有様は、真逆と言える」

「彼は大切なものをたくさん得た。獲得し続けた。それを失った後も、また新たに獲得し続けて……今、とても幸せだ」

「一方で、君はどうだろう? ……失ってばかりだ。何も得られてない。ただただ失うだけの人生だ」

「羨ましいよね? 妬ましいよね? 憎らしいよね?」

「――壊したいよね?」


 あぁ。

 壊したい壊したい壊したい壊したい。

 あの羨ましい男を。あの妬ましい男を。あの憎らしい男を。

 欠片の一つも残すことなく、この世から消し去ってやる。


「オ、オ、オ……オォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」


 苦悶、落胆、悲哀、憤怒。四つの顔が今、一つの意思によって統一された。

 殺意という名の、絶対的な意思。

 今の自分には、それを成すだけの力がある。

 相手が誰であろうとも、討ち滅ぼすことが出来る。

 そのはずなのに。


 ――なぜ、奴はまだ生きているのか。なぜ、殺せないのか。


 光線のことごとくが空転する。殺意のことごとくが実を結ばない。


 ――なぜだ。


 なぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜ――――――


「ナァアアアゼダァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!」


 四つの顔から怒号が放たれた。

 大気が震撼するほどの大絶叫。

 その爆発的な感情の発露に対して、アード・メテオールは粛然と言葉を返した。


「今の貴様には心がない。かつて確かに存在した、信念の煌めきがない」


 向かい来る光線のことごとくを躱しながら、彼は粛々と言葉を積み重ねていく。


「子供達の笑顔と、明るい未来を創る。その覚悟、思想、信念は、俺からすれば間違ったものだったが……しかしそれでも、輝いてはいた。濁り気のない確かな煌めきが、そこにはあった。そうだからこそ俺は、貴様を脅威として認識していたのだ。しかし――」


 白銀の髪を風に靡かせて、彼我の距離を縮めながら、彼は断言する。


「例えどれだけの力を得ようとも、信念なき者が振るわば虚仮威しも同然よ。この俺にはまるで届かぬわ」


 重みなき力など、なんら脅威ではないと、あの男は言う。

 それが無性に腹立たしかった。


「消エロ、消エロ、消エロ、消エロ、消エロ、消エロ……! 消エロォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!」


 灼熱の感情が心を焼き尽くしていく。

 冷静さなどもはや微塵もない。まさに自棄っぱちの攻勢であった。

 小蠅のように鬱陶しく飛び回る敵方を撃墜せんと、ひたすら光線を撃ちまくる。

 掠ればそれで終わりだ。そういう力なのだ、これは。

 なのに。

 その程度のことさえ、叶わなかった。


「アァアアアアアアアアアアッ! ナゼダァアアアアアアアアアアアアアアッッ!」


 癇癪を起こした幼子も同然だった。

 それゆえに接近を許し、そして――


「あ~あ、捕まっちゃった」


 そのとき、アードの右腕に巻かれた天鎖が躍動し、器用に光線を躱しながら接近。

 これをライザーは、回避することが出来なかった。

 天鎖は無数に分裂し、瞬く間に彼の巨体を縛り付けていく。

 藻掻いても千切れない。むしろ拘束力は強まる一方だった。


「グ、ウゥウウウウウウ……!」


 鎖の効力によるものか、光線を放つことが出来ない。

 戦闘不能。

 もはや、これまでか。

 心の器から無念の情と絶大な怒りを溢れさせながら、ライザーは己の死を覚悟した。

 しかし――


「聞け、ライザー・ベルフェニックス。俺は貴様を消し去るためにここへ来たのではない」


 わけのわからぬ言葉が、敵の口から放たれた。


「真実を伝え、その心を救済する。俺はそのために、ここへ来たのだ」


 その瞬間――

 ライザーの脳裏に、映像が流れた。


「えへへへ、上手に出来たかな?」

「あたし、魔法の才能があるのかも!」


 ……マリアだ。

 これは、マリアの記憶だ。


「ウ、グ、ウゥゥゥゥ……! ヤメ、ロ……! ヤメロォオオオオオオオオオオッ!」


 痛い。ただただ、痛い。

 胸が張り裂けそうだった。

 こんなものを見せて、何がしたいのか。


「貴様の誤解を正すためだ。まず、どこから間違いが生まれたのか、それを知るがいい」


 アード・メテオールの言葉に合わせて、マリアの記憶がさらに流れ込んでくる。

 彼女にとって、ライザーと過ごした日々は、幸福そのものだった。


 最初はおかしな老人という印象だったが……その心に巣くう闇の大きさを知り、放ってはおけなくなった。

 生来の献身さを見せれば、ライザーもそれに応えてくれて。

 いつしか見せるようになった笑顔に、心の温かみを感じるようになった。


 そうして、出会ってから一年も経たぬうちに、ライザーの存在はマリアにとって、とても大きなものへと変わった。

 そうだからこそ、傍に居て欲しいと願う。


 だが、しかし。

 大切に思うからこそ、その意思を尊重せねばと、そんなふうに考えてしまう。


 ……それが、大きな間違いだった。

 あの日の記憶が流れてくる。

 ライザーが全てを失う、その数日前のことだ。

 彼は唐突に、こんな話を切り出した。


「我輩はヴァルヴァトスの軍勢へ参加しようと思う。そしてこの世に楽土を築くのだ」


 ライザーからしてみれば、それはマリアの夢を叶えるための行動だった。

 実際、マリアは残酷な世界を憂いていたし、いつか皆が幸せに過ごせるようになればと、心から願ってもいた。


 だが……

 そんな夢は所詮、絵空事であると、マリアだってちゃんと理解していたのだ。


 だから彼女にとって、真の願いは。本当に叶ってほしい願いは。

 孤児院に、自分の隣に、ずっとライザーが居てくれること。

 ただ、それだけだった。


 しかし、マリアはライザーのことを愛していたから。大切に思っていたから。

 涙を呑んで、彼を見送らねばと、そう思った。

 そう思ってしまった。


「……うん。ライザーならきっと、勇者様みたいになれるよ。あたし、応援するね」


 間違えてしまったと、マリアはそう思っている。

 こんなこと言わなきゃよかったと、後悔している。

 きっとここで、自分達は擦れ違ってしまったのだ。

 このボタンの掛け違いさえなければと、マリアは悔やんでいた。


 ――そんな思いを知って、ライザーは愕然とする。


 マリアは自分が間違えたのだと、そう考えているが、違う。それは違う。

 間違えたのは、こちらの方だ。

 後押しをしてくれたのだと思っていた。その選択を喜んでいると、そう思っていた。

 ……そんなふうに間違えてしまった過去の己が、憎らしくて仕方がない。

 かつて、メフィストに言われた通りじゃないか。


“君の愛は一方通行だ”

“相手のことをまるで理解しちゃいない”

“君が愛してるのはマリアちゃんじゃない”

“マリアちゃんを愛する自分自身だ”


 ……本当に、その通りだった。

 彼女のことなど、何も見えてはいなかった。何も理解出来てはいなかった。

 もし、マリアの真意に気付けていたなら。

 何も、失うことはなかった。

 彼女の傍に居続けることを選んでいたなら、そもそも彼女が死ぬことはなかった。

 彼女の友であり、自分にとっても大切な家族となった子供達もまた、焼かれることはなかった。


 全て、自分のせいだ。


 何もかもを、間違えてしまった。


 ――こんな自分を、愛するはずがない。


 当然だろう。

 大切に思っているのに、その心情を察することも出来ず、あまつさえ誤解し……

 誤った考えのもと、多くの人間を血の海に沈めてきた。

 そこに疑問を挟むこともなければ、罪の意識さえ皆無。

 こんな醜悪に過ぎる男を、誰が愛するというのか。


「滅ビル、ベキ、ハ」


 世界ではない。

 この愚かな老爺こそ、真に滅ぶべき存在だった。

 自らの罪を自覚し、ライザーはせめて地獄でそれを償わんと、己の命を――

 断つ、直前。


「そんなだから、貴様は阿呆だというのだ、ライザー・ベルフェニックス」


 呆れたような言葉に、ライザーは怪訝を覚えた。

 己の罪状を知り、それを償えと、そう言いたかったのではないのか。


「誤解を正し、真実を伝える。それが俺の目的だ。……心して聞け。マリアの本心を」


 瞬間。

 再び、記憶と感情が流れ込んでくる。

 それは、つい先刻のもの。

 こちらを拒絶し、涙を流す、マリアの思いだった。


“どうして、酷いことをするんだろう”

“……どうして、それを止めてあげられなかったんだろう”


 彼女が責めていたのは、ライザーだけではなかった。


“あたしが最初に、間違えたからだ”

“傍に居て欲しいって、本当のことを言っておけば”

“きっとライザーは、こんなことをしなかった”

“……全部、あたしが悪い”


 彼女がもっとも責めていたのは、彼女自身だった。

 その心はずっと変わることなく、まっすぐに、ライザーのことを捉えていた。

 例えどれだけ罪を重ねようとも。

 例えどれだけ失望しようとも。

 例えどれだけ醜く変わろうとも。


“ライザーは、あたしの勇者様”

“ずっと、傍に居てくれた”

“辛いときに、力を与えてくれた”

“悲しいときに、笑わせてくれた”

“あたしに、初めて、幸せな気持ちをくれた人”

“だから”

“ライザーのことを嫌いになんか、なれないよ”


 ……あぁ。

 自分は本当に、愚か者だ。

 最後の最後まで、間違えていた。

 マリアの思いを、まるで理解していなかった。


 失ってなどいなかったのだ。

 空白を埋めてくれたそれは、確かにまだ、そこにあった。

 それが見えなくなっていた自分を、今はただ恥ずかしく――


「いやいや。何を絆されてるのさ」


 そのとき、悪魔の声が響いた。


「今だけだよ。所詮、今だけだ。これからはわからない。ここから先、君達の愛が壊れないという保証なんか、どこにもないんだ。逆に、消えてなくなるという保証ならあるけれどね。何せどう足掻いたって、人間には――」


 悪魔の言葉を、そのとき。

 アード・メテオールが毅然とした声で以て、斬り裂いた。


「そうだ。人間の心に永遠などない。どのような感情も、いずれは消えてなくなるだろう。だが……例え愛が不滅ではないとして、それがどうしたというのだ。いつか消え去るから無価値だと、そのようなニヒリズムに傾倒するような人間は、総じて愚か者だ」


 心を惑わせんとする悪魔の意思を、彼は完膚なきまでに粉砕する。


「例え破滅的な未来が確定していたとしても、愛という概念が放つ煌めきは、依然として美しいままだ。むしろ愛というものは、いつか消えてしまうがゆえに。そんな儚いものであるがゆえに。何よりも大切で、何よりも尊いものとして、扱われるのではないか」


 そして、アード・メテオールは巨人の奥に潜む悪魔を指差しながら、断言する。


「相も変わらず、貴様は人の本質を見抜くのが上手い。そうして心の間隙を突き、操作する手管は見事なものだったが……所詮、貴様の言葉は詭弁に過ぎん。精神的な隙を持つ者であれば簡単に騙せようが、しかし、もはや左様な愚者は皆無と知れ」


 アードの瞳が、別のものを見据えた。

 巨人の中に在るもう一つの心。

 白痴の領域から救い出された彼を見つめながら、アード・メテオールは言葉を紡ぐ。


「もはや貴様の心に暗黒はない」


 だから、もう。


「――これ以上、間違いを重ねるな。ライザー・ベルフェニックス」


◇◆◇


 我が目前にて。

 異形の巨人が今、完全に沈黙する。

 天鎖に縛られたその全身は脱力しきっていて、威圧感など微塵もなかった。

 大詰め。

 現状をそのように理解した、次の瞬間。


「まだ、足りない」


 異形の巨人から、奴の声が飛んだ。

 おそらく、全身の主導権をメフィストが握ったのだろう。

 天鎖を引き千切らんと、その巨躯に力が込もる。


「……らしくないではないか。もはや物語は結末を迎えたというのに。それでもなお、状況を続行するのか」

「あぁ、わかっているよ。僕らしくないということはね。本当は、君の言葉がライザ-君の心に届いた時点で、無様な敗北を受け入れようと思ったんだ。君にやられるなら、それは十分に愉悦というものさ。……けれどね」


 巨人の支配権を得たメフィストが、声を放ち続ける。

 それはまるで、駄々をこねる子供のようだった。


「ダメなんだよ。全然、足りないんだ。まだ遊びたい。もっと遊びたい。大好きな君と、永遠に遊び続けていたい。数千年の封印期間は、どうやら思った以上に、僕を蝕んでいたようだよ。あぁ、本当に、あの牢獄は退屈だった」


 さらなる想定外を。さらなる愉悦を。

 この手によって、生み出さん。

 と――そのように思っているのだろうが。

 俺は肩を竦めながら、言葉を投げた。


「貴様に一つ、教えてやろう。想定外とは自分で創るものじゃない。それは常に、突然やってくるものだ。そう……今、このときのように」


 俺が言葉を吐き終えてからすぐ。

 メフィストが、その動きを止めた。


「お、お、お? これ、は」


 怪訝と動揺。

 悪魔が初めて見せたそれは――


「我輩は、猛烈に、反省している」


 ライザー・ベルフェニックス。

 奴の強い意思が、邪悪なる神から、主導権を引き戻さんとしている。


「間違いを、積み重ねた。だが、もう、二度と。間違えるつもりは、ない……!」


 これならば。

 ライザーの心が、悪魔を完全に寄せ付けなくなった、この状態ならば。


「やれい……! アード・メテオール……!」


 その意思のままに。

 俺は左腕に装着した鏡盾を構え――――効果を発動。


 刹那。

 ライザーの心に張り付いていた、邪悪なる魂が。

 メフィスト=ユー=フェゴールの霊体が。


 勢いよく、分離した。

 途端、巨人の総身が土塊となって崩れ出し、地表へと降り注ぐ。

 その只中に在る、奴の存在を、この目は決して見逃さない。

 落ち行く土塊の間を縫うように飛翔し、俺は――

 宿敵の目前へと、肉薄した。


「あぁ、これは想定外だ」


 嬉しそうに。楽しそうに。そして、幸せそうに。

 メフィスト=ユー=フェゴールは、天使のような満面に、明るい笑顔を宿した。

 その瞬間――――刺突する。

 俺は左手に握った覇剣を執り、一切の躊躇いなく、目前の宿敵を突き刺した。


「これで終いだ」


 短く、決定的な一言を告げる。

 覇剣によって断たれたものは、例えそれがいかなる存在であろうとも、消滅の未来から逃れることは出来ない。


 メフィストとて例外ではない、はずだ。

 実際、奴の総身は足下から粒子状となって、崩れ始めた。


 消え去る。

 完全に。この世から。

 だが、それでも。

 悪魔は穏やかに、微笑んでいた。

 奴はその白い手で、こちらの頬に触れると、


「終わりじゃあないさ。少なくとも、君が存在し続ける限り、僕は不滅だよ」


 そして。


「また遊ぼうね、ハニー」

「二度とごめんだ」


 突き刺した刀身を、そのまま上方へと振り上げる。

 悪魔の半身が斬り裂かれ、一瞬にして、全てが粒子となって霧散した。

 不快なほどキラキラと輝いては、我が全身に触れ合う、奴の残滓。

 それを手で払い、息を唸らせながら。


「不滅、か。そのようなもの、どこにも在りはしない」


 俺は奴の布告に対し、真っ向から言葉を返した。


「――終わらせてやるさ。いずれ、必ずな」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ